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二百七十八話 大豆、潰れる

 醤油蔵と味噌蔵をノモスに建ててもらい、ついに大豆を使った醤油と味噌の調味料の作成に着手した。まずは簡単そうな味噌からだな。大豆を三つの大鍋に入れて、担当を決めて弱火でコトコト灰汁を取りつつ煮込んでもらった。


 煮込み途中に少しハラハラする事もあったが、ルビー達のサポートのお陰で無事に大豆を煮込む事ができた。途中でルビーのアドバイスがなかったら失敗してたかもな。知識って大切だ。俺もうっすらと記憶にはあったが、アドバイスをもらうまでほとんど忘れてたから悲しい。


「裕太の兄貴、豆を煮るのに途中で水を入れなくていいのか?」


「水? なんで水を入れるの?」


「豆は煮ている途中で水を入れると一度温度が下がって、中までしっかり火が通るんだぞ!」


 あー……たしかびっくり水って言ったよな。ルビーとのこの会話がなかったら、半煮えの大豆になってたかもしれない。危なかったな。


「裕太の兄貴、そろそろ大豆が煮えるんだぞ! 次はどうするんだぞ?」


 心の中でルビーに感謝していると、そのルビーが大豆が煮上がると教えにきてくれた。次の工程に進むか。


「次は大豆が温かい内に潰す作業だね。それと大豆がこれだけだと足りないから、もう一回大豆を鍋で煮ようか」


「分かった、準備するんだぞ!」


 俺が取り出した大豆を潰すための鍋を持って、ルビーが元気にかまどに向かい準備に取り掛かる。みんな積極的に働いてくれるから、俺がやる事ってほとんどないんだよな。なんかサボっているみたいで気まずい。


 本来ならここで豆腐作りも並行したいところだが、豆腐には醤油だからな。醤油が完成するまでは豆腐は封印しておこう。ついでに生姜も必要だな。ドリーに聞いてみるか。


 冷奴に生姜とネギに醤油をチョロリと回しかけて、ちびちびとつまみながらお酒を飲みたい。あっ、揚げ出し豆腐もいいな、揚げ出し豆腐を天つゆに浮かべて、大根おろしと海苔とネギ……出汁が難しいな、醤油が完成しても鰹節がない。コンブだけでなんとかなるんだろうか?


 ……煮干しやアゴ出汁なら何とかなるかもしれないな。イワシやトビウオみたいな魚が存在すれば作れる可能性は上がる。これはディーネに聞いてみよう。発見できればイワシはカラカラになるまで干せば良さそうだし、トビウオは確か焼きアゴって言ってたから焼けば何とかなるかも。


 そのどちらかが上手くいけば、風味は鰹出汁とは違うものの、ウドンやソバにも手が出せる。夢が広がるな。揚げ物はすでにあるんだし、天ぷらを作って天ぷらソバや天ぷらウドンも捨て難い。


「裕太の兄貴、準備ができたんだぞ!」


 連想ゲームのように次々と食べたい物が思いついてしまったので、考え事に集中していると準備が終わったルビーに声を掛けられてしまった。今は味噌作りに集中しないとダメだな、美味しいお味噌汁を食べる為にも頑張ろう。


「うん、ありがとう」


 ルビーにお礼を言って大豆に近づくと、しっかりと準備が整えられている。大豆は潰しやすいように大きくて底の浅い桶に移され、焼き台には新たに新しい大豆がすでに煮始められていた。結構長い間、考え事をしていたらしい。


 改めて気を引き締め直して大豆を一粒手に取る。まだかなり熱々で、慌てて息を吹きかけて大豆を冷ます。大豆を冷ましたあと、親指と人差し指で潰してみる。うん、まだ熱かったが簡単に潰れた。大豆の中心までしっかりと火が通ったようだな。


 潰した大豆はもったいないので食べてみると、大豆の風味とわずかな甘みがあって意外と美味しい。茹でただけの大豆って初めて食べたけど、悪くないかも。


「ゆーた、おいしい?」


 大豆を食べるのをしっかりと見ていたベルが、味を聞いてくる。俺的には悪くないんだが、味覚が子供なベル達にはたぶん向かないだろうな。とはいえ、不味い訳でもないし味見をさせておくか。


「味が付いている訳ではないから、美味しいとは言えないけど不味くはないよ。みんなも味見をしてごらん。あっ、熱いから気を付けてね」


 俺が言うと、興味があったのかちびっ子軍団+ジーナとルビー達が、大豆に手を伸ばす。そして食べた後に、ほとんどが微妙な顔をしている。俺はちゃんと美味しいとは言えないけど、不味くはないって伝えたよね。そんなにガッカリした目で見られても困る。


 味見をして悪くないって表情をしているのはルビー達だけで、ちびっ子軍団はもちろんジーナも微妙な顔をしている。ジーナにもまだ煮ただけの大豆の味は早かったか。ちびっ子軍団からの視線が痛いので次の作業に移ろう。


 この大豆を全部潰すんだが今の熱さでは大変だな。ある程度冷まさないと潰し辛いが、冷まし過ぎてもダメだから微妙な匙加減が必要だ。保護者席に座って、のんびりとこちらの様子をみているシルフィに頼むか。


「……ようするに、手で触って少し熱く感じるぐらいまで、大豆を冷ませばいいのよね?」


 保護者席に行ってお願いをすると、シルフィはあっさりと頼みごとの内容を理解してくれた。


「うん、冷まし過ぎるとダメだから難しいんだ。シルフィお願い」


「分かったわ……これぐらいで良さそうね。裕太、もう大丈夫よ」


「もう?」


 早くね?


「ええ、もう大豆を冷ましたから大丈夫よ。ゆっくりしているとドンドン温度が下がっちゃうから、急いだ方がいいと思うわ」


「あっ、そうなんだ。ありがとうシルフィ」


 お礼を言ってすぐに大豆のところに戻るが、なんか釈然としない。シルフィが簡単に遠隔で風を操れる事は知ってるけど、今までだったら大豆の側にきて分かりやすく冷ましてくれたよな?


 ……シルフィの様子から、なんだかくだらない理由が隠されているような気がする。保護者席から離れて大豆に近づくと、手伝わされそうだからとかそんな理由のような……。まあ大豆を冷ましてくれただけで十分か。次の作業からは泥遊びみたいな感じになるから、ちびっ子軍団は喜ぶだろう。


ん? そういえば直接大豆を手でつぶす事になるんだが、動物型の子達は抜け毛とか大丈夫なのか? さすがにビニール製の手袋とか持ってないし、あっても形が合わないよな。


 ……大丈夫か、よく考えたら部屋に抜け毛が落ちてた事なんかないんだ。家には沢山の動物型の精霊が居るから、抜け毛が落ちるならもっと掃除が大変だっただろう。理由は精霊だからって事しか分からないが、味噌に抜け毛が混入しないのであれば問題ない。それなら大豆が冷める前にさっさと始めるか。


「じゃあ次の作業を始めるね。みんなで鍋に入った大豆を手で潰すんだけど、できるだけ細かくペースト状になるように潰してほしい。こんな風にね」


 見本として鍋の中の大豆を掌で豪快に押し潰す。ちょっと熱いけど、まあこのぐらいの温度ならジーナ達でも大丈夫だろう。ちびっ子軍団はなんか面白そうって顔をしてるし、この作業も問題なさそうだな。


「あと大豆はまだ少し熱いから注意してね。組み分けは大豆を煮た時と同じ組み分けでお願い。分かった?」


 ちびっ子軍団+ジーナ+ルビー達が元気に返事をしてくれる。やる気満々のいい返事だね。開始を告げるとそれぞれの持ち場の大豆に群がり、大豆を潰し始める。大豆が潰れる感覚が面白いのか楽しそうな声がそこかしこに響く。


 豆の潰し方にも性格が出るようで、ベルはちっちゃな掌を楽しそうに大豆に押し付け、潰れた豆をみて「むふー」っと満足そうだ。レインはキューキューと鳴きながら両ヒレで拝むように大豆を潰している。やっている本人達は一生懸命だが、見ている分にはとてつもなく可愛らしい。


 トゥルは……タマモのサポートだな。こんなところでもブレない、素晴らしいモフラー魂だ。クークー鳴きながら両前足で楽しそうに大豆を踏みしめるタマモ。その隣でそっと大豆を移動させて潰しムラができないように調整するトゥル、いいコンビのようだ。


 フレアとムーンは……まああれだ、フレアは「おらおらおらだぜ!」っとどこかの漫画で見た事があるようなセリフをぶちかましながら、両手で大豆にラッシュをかましている。確実にイフの影響だな。ムーンは……大豆の上にポヨンと乗っかり、高速振動をしている。大豆は潰れているから問題はないんだろう。


 大豆を煮ている鍋で灰汁を取りながら、他のグループも観察してみる。ジーナ達は問題なさそうだな。泥遊び感覚で楽しそうにはしゃぐマルコとキッカを、ジーナとサラが上手にサポートしながら大豆を潰している。


 サラ……ジーナもいるし補助にルビー達もついてるんだから、こんな時まで甲斐甲斐しくマルコとキッカのお世話をしないで、一緒にはしゃいでもいいんだけどな。性格なのかどうしてもお世話の方に気が取られるらしい。ジーナはそんな三人を優しく見守るお父さん的な表情だ……あれ? あそこに家族が形成されている気がする。俺も混ぜてほしい。


 フクちゃん達は……なんか混沌としているな。小さな体を生かしておけの中に飛び込み、一心不乱に大豆を潰している。


 フクちゃん、マメちゃん、プルちゃんは楽しそうで問題はなさそうだが、ウリは大豆を潰す感触が気に入ったのか四本の足を交互に踏みしめ、黙々と大豆を潰している。ウリの表情がトリップしているように見えるが、大丈夫だろうか?


 そしてその黙々と大豆を潰すウリに触発されたのか、シバは大興奮でワフワフ言いながら大豆の上で暴れている。そしてその桶の周りではサフィ、シトリン、オニキスの三人がしっかりとフォローしている。ベル達とジーナ達は、ルビーとエメの一人ずつだから、かなりの厳戒態勢だ。


 今日はルビー達に補助をお願いしておいて良かった。たぶん俺だけだと手が回らなかったと思う。っていうか、確実に手が回らなかったな。フクちゃん達のところから目が離せずにハラハラしっぱなしの自分の姿が目に浮かぶ。


 本当ならルビー達にも作業に参加してもらって、作り方を完璧に覚えてもらった方がその後の増産には有利なんだが、補助しながらでも大体の事は分かるだろう。一応あとで紙に作り方を書いて渡せばなんとかしてくれるはずだ。


 ちびっ子軍団+ジーナの奮闘で、大豆を潰す作業は思いのほか早く終わった。大豆を潰していた面々はそこはかとなく満足そうな表情をしているので、楽しかったんだろう。味噌の仕込みの工程は残り少ないし、なんとか無事に味噌の仕込みが成功しそうだな。醤油の前に味噌で失敗してたら洒落にならん。

本日6/22日、デンシバーズ様にてコミカライズ第三話が公開中です。ベルがとてつもなく可愛らしかったので、楽しんで頂けましたら幸いです。


話の展開が遅いと言うご指摘を頂いております。味噌も作り始めてしまいましたし、身に覚えがあり過ぎるくらいにありますが、あと数話で精霊の村の村開きも始まりますので、ご容赦頂けましたら幸いです。


読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 煮干しは、煮て干すから煮干しなんだよ? 干すだけじゃ煮干しにならないよ
[気になる点] 出汁をとるのに干し椎茸等のきのこ類使うことを思い出して欲しいな。
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