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二百七十七話 醤油蔵と味噌蔵

 醤油と味噌の事でルビー達に相談に行くと、ヴィータが菌のコントロールができる事が発覚した。醤油や味噌、果てはマヨネーズまで作る目途が立ち最高の気分だ。やっぱり自分では難しい事が出てきたら、一人で悩まないで誰かに相談してみるって大切なんだな。


 しかもヴィータは菌を活性化させる事まで可能で、熟成期間を半分まで早めることも可能だそうだ。嬉し過ぎる。ルビー達に状況を説明した後、大豆を綺麗に洗いたっぷりの水に浸す。


「裕太の兄貴、次は何をするんだぞ?」


「ん? 俺はやる事があるけど、ルビー達の協力が必要なのは明日からだから、自由にしていてくれ」


 本来ならルビー達に醤油と味噌の研究をしてもらうつもりだったが、ヴィータのおかげで難しいところはクリアできそうだから、ルビー達に頼む事はだいぶ少なくなったな。


 たぶん味噌の方は今の段階でもほぼ間違いなく完成する。醤油の方も、ヴィータに質問すればある程度の目途は立ちそうだから、そこからルビー達の力を借りる感じになりそうだ。


「分かったぞ、じゃあまた明日なんだぞ!」


「ああ、また明日な。大豆の方は特に手を加える事もないから、そのまま預かっておいてくれ」


 分かったと頷くルビー達に手を振って家に戻る。さて、やる事が増えたぞ、まだ研究の段階だから大袈裟な施設は必要ないと思ってたけど、味噌はすぐにでも作成可能な感じだ。今日中に醤油蔵と味噌蔵を作っておきたい。


 これは俺の意思で作る調味料だから、精霊達のスペースではなく俺のスペースに建てるのが筋だろう。建物は別にセンスが必要なものでもないし、時間もないからノモスに頼んでもいいな。


 えーっと、まずは場所決めからだな。場所としてはルビー達が通いやすいように西側に面してたほうがいいか? ……関係ないな、飛ぶ事ができる精霊達なら楽園内のどの場所でも誤差みたいなものだ。


 西側の精霊の村側だと、ローズガーデンの近くに醤油蔵や味噌蔵が並ぶ事になる。さすがにちょっと雰囲気が違うよな。まあ、ローズガーデンの一つ南は水田なんだけど……まさかローズガーデンができるって分からなかったからしょうがない。水田を移動させる事も考えておいた方がよさそうだ。


 水田の場所は後で考えるとして、今は醤油蔵と味噌蔵の場所だな。精霊の村とは真逆の一番北東のブロックでいいか。一応現地に行って確認しておこう。北東ブロックに移動すると、当然のごとく地面のみの平らなブロックだ。醸造所に近いから精霊達が飛びまわってるな。


 もうすでに麦っぽい植物を抱えて飛んでるから、岩の境界で見えないが森の精霊が原料の麦を成長させたんだろう。エールに決定するまで時間が掛かったが、決まったら結構な速さで酒造りが進んでいるようだ。エールってどのくらいの期間で完成するんだろうな。醸造所には命の精霊もいるだろうし、結構早く完成しそうだ。差し入れを忘れないようにしないとな。


 とりあえず蔵の場所はここでいいとして、そうなるとノモスの出番だな。忙しそうだから召喚し辛いが、召喚しないと当分戻ってこない気がする。……うん、召喚しよう。


「なんじゃ?」


 大変な時に呼び出されて、イラついてるって訳でもなさそうだな。ちょっとホッとした。


「忙しいところ悪いな。ちょっとばかし建物を建ててほしいんだが大丈夫か?」


「建物? 構わんがなんの建物を建てるんじゃ? 儂にセンスを期待しても無駄なんじゃろ?」


 ……ノモス、前回精霊の村で言われた事を結構引きずってたんだな。俺を見つめる目に微妙に哀愁のようなものが漂っている。なんかごめんね。


「今回は醤油蔵と味噌蔵を建ててほしいんだけど、特にセンスとかは要らないから大丈夫だよ」


 強いて言えば、味噌蔵とか醤油蔵ってテレビで見た時、基本的に薄暗いイメージだった気がする。陽当たりがよさそうだと、菌が繁殖し辛そうな気もするし、温度管理も難しそうだ。窓は最小限にしてもらおう。


 蔵の大きさは、別に味噌や醤油を広めるつもりもないし、トルクさんに渡すのとルビーの食堂で使うぶんぐらいだから、そんなに大きな蔵は必要ない。簡単な注意点をノモスに伝えてお願いする。


「それなら構わんが、どこに建てるんじゃ?」


「特にメインの建物って訳じゃないし、端っこの方でいいかな。一応食べ物を作るから森から離しておいた方がいいよね。外側の境界の近くに雑貨屋くらいの建物を二棟建ててくれ」


「うむ、海岸の砂を出しておいてくれ。扉は自前じゃぞ」


「分かってる。じゃあ頼むね」


 俺は海岸の砂を取り出し少し離れる。ノモスが軽く右手を振ると醤油蔵と味噌蔵が二棟一緒に建てられた。精霊の村に建てたのと同じく陶器のような質感の建物だ。


「建物の形を変えてくれたんだな」


 角ばった建物と角を取った少し丸みがある。精霊の村でも使った手法だけど、ノモスの精一杯の心遣いなんだろう。


「うむ、同じじゃと紛らわしいじゃろ。まあそれ以外は一緒じゃがな」


 確かに違いがあった方が誰かに説明する時に楽だもんな。四角い方とか丸い方とかで話が通じるのは便利だ。


「いや、助かるよ。ありがとうノモス」


「構わん。他にも用事はあるか? なければ儂はそろそろ戻るぞ」


「ちょっと待ってくれ。作ってもらう物は無いけど、酒造りを開始したんだろ。醸造所の話を聞かせてくれ。問題はないのか?」


「そうじゃったな。ディーネが醸造所で枝豆とエールの相性を熱弁したら、他の酒を推しておった精霊達も引き込まれての。簡単に意見がまとまったんじゃ」


 シルフィに聞いていた通りの流れみたいだな。


「それで、いま麦を収穫してるんだな。順調なのか?」


「もちろんじゃ。酒造りが本職のような奴らじゃから何の問題もないぞ」


 ……酒造りが本職の精霊……それは酒の精霊って言うんじゃ? いるのかな酒の精霊……いや、さすがにいないよな。自由に酒が生み出せたら醸造所に拘る必要がないもんな。


「そうか、エールが完成したら、枝豆を差し入れた方がいいか?」


「いや、枝豆ぐらいなら醸造所におる森の精霊で生やせるし、茹でるぐらいなら簡単じゃから大丈夫じゃぞ」


「……塩はあるのか?」


「塩? ……そういえば味付けが必要じゃったな」


 これだから食に興味がない精霊は困る。放っておいたら枝豆に塩をぶちまけて台無しにしそうだな。


「差し入れをするから、酒が完成したら言ってくれ」


「うむ……頼む」


 他に聞く事もなさそうなので、ノモスと別れる。帰りの足取り……飛んでるから足取りって表現は変だな。なんかふらついて飛んでいったのは、塩すらまともに振れないって思われたのがショックだったのかもしれない。


 まあいい、それよりも醤油蔵と味噌蔵の確認をしよう。とりあえずは角ばった方が醤油蔵、丸みがある方が味噌蔵って事にするか。中に入るとただの広い部屋だな。注文通り窓が小さいから少しだけ雰囲気が出ている。


 そういえば某農大の漫画で、蔵に菌が付くって話があったな。陶器みたいな土の建物に菌は付きそうにない。蔵の中に木材を使った方がよさそうだな。扉を作るついでに木材の台なんかも作っておくか。


 樽は……ドリーに木材を接合してもらえば作れそうではあるが、本職みたいに大きな樽で作る必要はないから、酒樽で試してみよう。醤油や味噌に酒の風味が付いたら問題だから、洗浄だけは念入りにしておかないとな。


 さて、木材を出して必要な物をつくるか。最近あんまり戦ってないから、開拓ツールを本来の使い方で使っている気がする。


 ***


 昨日はドリーの協力も得て、醤油蔵と味噌蔵の扉と内装は全て終わらせた。といっても簡単に樽を載せる台座を木で作って、部屋の中に木で作った梁や柱を何本か設置しただけなんだけどな。開拓ツールとドリーのコンビネーションはかなりのチートだ。


「裕太の兄貴、今日は何をするんだぞ!」「するんだぞー!」「キュキュキュー!」


 あっ、ベルとレインがルビーの頭上にプカプカと浮いて、口癖をマネしだした。……別に可愛らしいからこの場合は有りか? まあ、有りって事で……レインの場合はよく分からないし……マネしてるのかな?


「えーっと、とりあえず今日は味噌の仕込みをします。みんなお手伝いをよろしくね」


 俺の言葉にちびっ子軍団+ジーナとルビー達が元気に返事をしてくれる。ルビー達とジーナ、サラ以外は多分よく分かってないと思うが、楽しそうにしているし問題ないだろう。


 実際にマルコとキッカは、兄妹でなにをするのか想像を膨らませながら楽しそうに会話をしている。サラ、微笑ましそうに見守ってないで説明してあげて。


 大精霊達の参加者はシルフィ、ドリー、ヴィータの三人で、残りのディーネ、ノモス、イフは醸造所でお酒造りに夢中だ。しかも参加者の三人も椅子とテーブルを出して、優雅にお茶会のスタンスだ。収穫の時と同じで保護者目線での参加らしい。


「じゃあ仕込みを始めるよ。まずは大豆を沢山煮ないといけないから、フレア、この焼き台の炭に火を熾してくれるかな?」


「らくしょうだぜ!」


 俺が魔法の鞄から出した三台の焼き台に炭を入れると、フレアが自信満々に焼き台に両手を向けた。そのフレアの両手から火炎放射のように火が三本に分かれて飛び出し、焼き台の炭を包み込む。両手の火が消えた後には、三台の焼き台に入った炭は赤々と燃え盛っていた。まさか三台とも一気に火を付けるとは。


「ありがとうフレア」


 フレアの技術に喜んだのか、ワフワフとシバに突撃されているフレアにお礼を言うと、かんたんだぜ! っと返事をしたあとシバになめまわされている。まあ、嫌がってないし大丈夫だよね。


「じゃあ次はレイン、この大豆を入れた三つの大鍋に水を入れてくれ」


「キュキューー」


 レインが右ヒレをパタパタを振りながら返事をしてくれる。これぐらいなら俺にも分かる。まかせてーって言ってるな。俺が頷くと、レインがキュキューっと鳴き声をあげ、水路の方から三つの水の玉が飛んできて鍋にポチャンっと収まった。水路の水を使ったのは省エネなのかな?


「キュキュー」


 考えているとレインが褒めろと言いたげに、鳴きながら俺に頭を差し出している。……もちろん褒めまくりの撫でまくりだ。しっかりとレインを撫で繰り回した後、シルフィ達やルビー達のちょっと呆れたような視線を無視して作業に戻る。


「よーし、じゃあ大豆を煮るよ。灰汁を取らないといけないから、当番を決めるね。ベル達はこの左側の鍋、ジーナ達は真ん中の鍋、フクちゃん達は右側の鍋、ルビー達は全体の補助をお願いね」


 今まで大豆を煮た事はないが、黒豆は弱火でコトコト、灰汁を取りつつって料理番組で言ってたから同じようにすれば間違いないだろう。たぶん……。楽しそうに鍋を覗き込むちびっ子軍団+ジーナをみながら、ちょっとだけ不安に思う。失敗したら悲しむよね。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読ませていただいています。 投稿してくださってありがとう。<(_ _)> [気になる点] 子供の頃、ばあちゃん達の味噌造りを手伝っていた時は、大豆はもち米みたいに蒸かしていまし…
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