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二百七十二話 旅行計画

 朝、ルビーが料理を沢山作ったと迎えにきたのでついて行くと、テーブルいっぱいに料理が並んでいた。料理を収納したあと、いい機会なので上級精霊達の話を聞いた。色々と面白い話を聞けたが、まさかルビー達がグレーゾーンを突っ走っていた事にはちょっと驚いたな。


 ルビーに料理のアドバイスを頼まれたのでちびっ子軍団+ジーナを連れて、ルビーの食堂で料理の試食会をおこなった。結果はちびっ子軍団+ジーナも大喜びだった。


 俺も試食してみたが、味としてはトルクさんと並ぶ美味しさだった。初回からトルクさんと並ぶ料理を作るって事は、やっぱり凄腕料理人だったらしい。


 トルクさんの時の最初の味見は、不満が幾つかあったからな。もしかしなくてもトルクさんよりも料理が上手みたいだ。中学生に見えてもルビーは精霊だから、料理に打ち込んできた年月の差なんだろう。


「うーん、本格的に羽を伸ばすにしても、いい考えが思い浮かばないな」


 昼食を兼ねた試食会が終わり、ちびっ子軍団+ジーナは再び休日を満喫している。のんびりできる今の間に、俺の休日計画をある程度まとめてしまいたい。


 ……なんか旅行計画を練るみたいで楽しくなってきたな。一人旅ってのがちょっと寂しいが、ハッチャけるなら一人旅の方が都合がいい。こうなったら本格的に旅行計画を立てるか。


 まずはいつ行くかだな。今の状況を考えるとすぐに出発するのは難しい。最初の精霊達が遊びに来たあとぐらいが狙い目か? そこら辺は臨機応変に対応するか。


 時期は臨機応変にって事で、次はどこに行くかだな。……はは、どこに遊びに行けばいいのか全然分からない。基本的に楽園と迷宮都市の往復だったからな。まずはどこに行くのかリサーチから始めないとダメだ。 

 ネットがあればすぐに調べられるんだけど、この世界だとそうはいかない。シルフィに聞くのが一番確実なんだが、なにをどう聞くのかが難しい。目的をハッキリと決めておかないとな。


 日本でだと自然を満喫するために田舎に行くってパターンもある……が、今の俺は厳しい自然に晒されているから、その選択肢はないな。都会一択だ。そして夜遊びがしたい。


 ……シルフィに夜遊びの話を聞くのは気まずいが、前にノモスに相談した時は、詳しい情報を得られなかったんだよな。できるだけ直接的にならないように、上手にシルフィに話を聞きだす必要がある。……あれ? すごく難しいよね? いや、諦めるな。ここで諦めたらいつまで経っても夜遊びに行く事すらできんぞ。


 だいたい最近は父性が止まらなくなっている。ここらへんで自分の野生に火を付けるのは大切な事なんだ。シルフィもきっと分かってくれるさ。


 他に考えておく事は……資金は幸いにもたっぷりあるから問題ない。行く時期と場所はリサーチしてからだから、残るは身分証と身の安全ぐらいだな。


 身分証については迷宮都市で偽造するか、城門でお金を払って中に入るかだな。拠点を作ってその街で遊びまくるってのなら、偽造の身分証ぐらいあった方が良さそうだが、数日滞在して遊び惚けるぐらいなら偽造の身分証は必要なさそうだ。素直に門で入場料を払って町に入ろう。


 身の安全に関してはレベルも上がったし開拓ツールもあるんだから、そこら辺のチンピラには負けないだろう。危なくなったら恥も外聞もなく、シルフィ達を召喚するから大丈夫だ。


 うん、だいたいやるべき事は決まった。休みは臨機応変で取る。場所はシルフィにリサーチ、突き詰めればこの二つだな。やる気が萎まないように、今晩にでもシルフィから情報を得よう。



 ***



「それで裕太、話ってなんなの?」


 夕食を済ませ、ちびっ子軍団+ジーナも自分達の部屋に戻った。昼の間に聞くべき事はしっかりと考えたから準備は万端だ。本来であれば口が軽くなるようにお酒を出したいところだが、それをすると他の大精霊達も集まってくるから却下だ。


「うん、精霊の村にお客さんを迎えた後の話なんだけど、ちょっと一人で羽を伸ばしたいなって思ってるんだ」


「一人で羽を伸ばす?」


「ああ、誤解しないでほしいんだけど、別にシルフィ達やベル達、ジーナ達と一緒に居るのが嫌になった訳じゃないんだよ。ただ、この世界にきて色々あったし、一人で身軽に数日過してみたいってだけなんだ」


「べつにそんな誤解はしないわ。裕太がベル達やジーナ達を大切に思っている事は、誰が見ても分かるわよ。ようするに誰にも気兼ねせずに遊びに行きたいって事なんでしょ?」


 悪くない感触だな。とりあえず楽園をほったらかしにする気か! 的な反応じゃないのは助かる。


「あはは、まあそういう事だね。楽園も聖域になったし、食堂も氷室もできた。村開きが終わったあとなら、俺が数日いなくても何の問題もないよね」


 シルフィ達やベル達は精霊だから何の問題もないし、ジーナ達も精霊が見えるようになったんだから、楽園に残っていても寂しいって事はないだろう。食事は自分で作ってもルビーの食堂に食べに行ってもいい。


 動物や植物の世話は大精霊達に頼めば、俺が手を出すよりもずっと上手くやってくれる。少し悲しい気もするが、楽園は俺が数日留守にしても何の問題もない。ルビーの料理も村開きが終わったあとなら、ある程度はお客さんが消費してくれるだろう。ならば遊びに行ってもいいはずだ。


「まあそうね。でも数日ってどのくらいなの? あんまり離れるとベル達が寂しがるわよ?」


「そんなに長期間離れるつもりはないよ。三日ぐらいかな?」


 俺としてもベル達とそんなに長期間離れているのは不安になるだろうし、三日が限界だろう。


「それぐらいなら大丈夫ね。それでどこに行くのか決めているの?」


「いや、まったく決めてないんだ。その事をシルフィに聞きたくてね。どこかいいところを知らない?」


「せめてどんなところに行きたいかぐらいは言ってくれないと、私としても困るわね」


 そうだよな、具体的な事を言わないと困るよな。……ここからが正念場だ。なんとか怪しまれないように話を持っていかないといけない。一番重要な事は下心を表情に出さない事だ。純粋に羽を伸ばして楽しみたい、ただそれだけを思いこめ。


「俺としては、クリソプレーズ王国は目立っちゃったから落ち着けないと思うんだ。俺の事を知っている人がいない場所で、栄えている場所がいいな」


「栄えてる場所……それだと王都になるわね。その中で平和な場所がいいわよね?」


「うん、厄介事や戦争に巻き込まれるのは嫌だね。治安がいい場所をお願い」


「んー、そういう事ならベリル王国がいいんじゃないかしら。クリソプレーズ王国から距離があるし大きな国よ。戦争も国境での小競り合い程度だったと思うわ」


 大きな国の王都か……ノモスが言ってたのは王都、もしくは冒険者が集まるような都市や町だったな。条件にはピッタリと当てはまる。たしか王都には高級な店があるって話だったはずだ。……死の大地にきた頃ならともかく、いまなら問題ない。むしろ王都の方が安全っぽくて大歓迎だ。


「大きな国の王都か。楽しそうだし国境での小競り合いぐらいなら、王都には影響はほとんどないよね。見どころとか、名物料理とかある?」


「見どころと名物料理ね……確かベリル王国の王都は大きな湖に隣接してて、風景は一級品だったわね。ただ、名物料理となるとその湖の魚ぐらいだったと思うわ」


 湖に隣接した王都か……風景としては凄そうだな。でも湖の魚って事は淡水魚って事だよな。マス系な塩焼きにしたら結構美味しいけど、ブラックバスとかだったらどうしよう? ブラックバスも料理次第では美味しいらしいけど、狙って食べに行くものでもない気がする。


「その魚ってどんなのか分かる? 魔物?」


「王都に隣接する湖ですもの、危険な魔物はあらかた討伐されてて、居てもほぼ害がない魔物ね。魚はあんまり興味がないから覚えてないわ」


 そっか、シルフィは食にあんまり興味がないからしょうがないな。うーん、魔物だったら湖にも美味しいのがいそうだと思ったんだけどな。


 夜にハッチャけるなら別に名物料理がなくても構わないんだけど、美味しい料理も一緒に食べられた方が嬉しいに決まってる。まあ、贅沢を言ってもしょうがないし、綺麗な景色だけで満足しておくべきかな?


「そういえばスラムの子達が、気持ち悪い魚を捕って食べていたわね。なんだか黒くてヌメヌメして蛇みたいな魚だったわ。変な物を食べるのねって思ったのを思い出したわ」


「マジで!」


「急に大声を出してどうしたの?」


 俺が急に大声を出したので、シルフィがめずらしく驚いている。俺が思った通りなら、ちょっとテンションが上がっちゃうな。


「ごめんシルフィ、ちょっと俺の大好物かもしれない魚の話が出てきたから驚いたんだ。もしかしてその魚ってウナギって名前じゃない?」


「ウナギ? ……そういえばそんな名前だったわね。あの気持ち悪いのが裕太の大好物なの? ヌメヌメよ?」


 おお、やっぱりウナギだった。実際には名前は違うんだろうが、翻訳が通じているんだからほぼ間違いないだろう。シルフィが嫌そうな顔をする気持ちも、分からないではない見た目なのは認めるが、俺にとっては朗報だ。


「もし俺が思っている通りの魚ならかなり美味しい魚なんだ。それでシルフィ、そのウナギの大きさはどのくらいだった?」


「美味しいの? ……裕太が作る料理は全部美味しかったけど、ウナギが美味しいというのは信じられないわね、確か血に毒がある魚だったわよ」


「ああ、俺が知っているウナギも血には毒があるんだ。それで、大きさはどのぐらいなの?」


「子供でも捕れる大きさだからそんなに大きくないわ。五十センチぐらいだったかしら?」 


 ウナギにも色んな種類がいるけど、聞いた感じだと日本のウナギっぽい。増々期待がもてる……ああ、ダメだ、ウナギのタレが作れない。白焼きも美味しいけど、ウナギって言ったらタレだよな。


 ウナギのかば焼きの為なら、秘蔵の醤油を使う事も辞さないが、他にも味醂と酒と砂糖を使ったはずだ。酒は日本酒があるからなんとかなるが味醂がない。酒、醤油、砂糖だけでもなんとかなる気もするがどうなんだ?


 ……材料が豊富にあるのなら実験的に作ってもいいんだが、今の状況だと失敗したら洒落にならん。日本酒は、お米が作れるようになったからまだ望みはあるが、醤油は作り方すら分からんからな。


 でもウナギ……ほっかほかの白飯に、タレをたっぷりまぶして、肉厚のウナギをデンっとのせる鰻丼。最高に美味しいだろう。スラムの子達の食料になっているのなら、沢山集められそうだ。タレの問題さえ解決できればウナギ食い放題の人生になるんだけど……。


 あぁ、悩ましい。日本酒は口カミ酒とは言わないが、某、農大生が出てくる漫画でおにぎりを使ったお酒の造り方もあったし、ハンパながらも麹を使うって事までは知っている。ノモス達に丸投げすれば、なんとかしてくれる気もするんだよな。


 でも醤油となると大豆から探さないと……ドリーに聞きに行くか? 大豆があれば豆乳と豆腐なら作れる……醤油と味噌は……想像できないよ。こっちはルビー達に丸投げするか? ああ、悩ましい。一人旅の計画を立てるはずだったのに、悩みが増えてしまったな。でも、ウナギか……。

読んでくださってありがとうございます。

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そういえば発酵って、命の精霊がどうにかできないのかな?
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