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二百七十話 ついに解禁

 広場が完成したというので確認しに行くと、なぜかローズガーデンになっていた。完成度も高く、大精霊達が力を貸し過ぎたと誤解してしまい、ちびっ子軍団+ジーナに真剣に頭を下げる事態になってしまった。師匠として、弟子や契約精霊達の実力はちゃんと把握しておかないとな。


 しっかりと上空からのローズガーデンの光景を堪能したあと、暗くなってきたので家に戻る。リビングに集合してから今日のお祝いの事を話そう。みんな喜んでくれるかな?


「そろそろ夕食なんだけど。みんな協力して凄い広場を作ってくれたから、お祝いをしようと思います!」


リビングに戻り、少し得意げに全員の前で発表する俺。

 

「師匠、おいわいってなにをするんだ? えんかい?」


 ……マルコの口から宴会って言葉が出てくるとは……なにかいい事があったら宴会って、お酒を飲まないマルコにまで認識されているのか? シルフィ、ディーネ、ドリー、期待した目で見ないで。


 とはいえ、大精霊達は完全に宴会を期待してるし、ここでお酒は出さないって選択は難しいだろう。色々と手伝ってくれたのも確かだしお酒は出すが、今日のメインはちびっ子軍団+ジーナって事は強調しておこう。


「シルフィ達にはお酒を出すけど、あくまでも今日の主役は広場作りをメインで頑張ったジーナ達、フクちゃん達、ベル達のお祝いだよ」


 俺の言葉に嬉しそうにはしゃぐちびっ子軍団+ジーナ。まあ、シルフィ達も喜んでるけど、これはお祝いとは関係なくお酒を出すって言ったからだろうな。


「それでお師匠様、お祝いって何をするんですか?」


 俺の言い方から、いつもの宴会とは違うって事に気がついたのか、サラが首を傾げながら聞いてくる。


「サラ、いい質問だ。いい機会だから、ファイアードラゴンのお肉を食べようかと思ってるんだ。アサルトドラゴンやワイバーンのお肉よりも美味しいらしいから楽しみだよね」


「ファイアードラゴンのお肉を食べるんですか……」


 サラが驚いた表情で固まっている。なんでこんな事で驚くんだ? ファイアードラゴンのお肉を持ってるのはみんな知ってただろ?


「なあ師匠、今まで大切に保存してたお肉だろ、お祝いだからって貴重なお肉を無理して出さなくてもいいんだ。あたし達にとってはアサルトドラゴンやワイバーンのお肉だって、十分過ぎる高級品なんだからな。それに、属性を持ったドラゴンの肉はお金を出しても食べられる物じゃないって、あたしでも知ってる。もっとちゃんとした場所に提供したほうがいいよ」


 驚いて固まってしまったサラから話題を引き継いで、ジーナが困惑顔で俺をたしなめるように言ってくる。俺の想像ではファイアードラゴンのお肉だーって大喜びするはずだったんだが、気を使われているようだ。


 もしかして、今まで結構な期間、ファイアードラゴンのお肉を出さなかったから、ファイアードラゴンのお肉を俺がとても大切にしているって思ってたのか?


「えっとね、誤解があるかもしれないから説明しておくけど、ファイアードラゴンを売ってお金を儲けるつもりはないんだ。ただ、ものすごく美味しいお肉らしいから、最初に食べちゃうと他のお肉が味気なく感じそうだから、我慢してたんだよ」


「そうなのか?」


 ジーナがキョトンとした顔で言う。やっぱり誤解されてたみたいだ。


「うん、もともと売らずに全部自分達で食べる予定だよ。そろそろファイアードラゴンのお肉も食べようと思ってたから、ちょうどいいタイミングなんだ」


「そうなのか……じゃあ、あたし達も食べてもいいのか?」


「ああ、なにせファイアードラゴンのお肉は、魔法の鞄の中に大量に入ってるからな。ジーナ達が遠慮してたら食べつくせないよ。だから今夜はファイアードラゴンの極厚ステーキだ!」


 俺の言葉に「おおー」っとテンションが上がり始めるジーナ達。ようやく美味しいお肉を食べるモードに変わってきたようだ。まさかこんなところでつまずくとは思わなかったな。


「ゆーた、おにくたべる?」


 話が理解できていなかったのか、隣で浮かんでいたベルが質問してくる。


「うん、今日は今まで食べた事がない、ファイアードラゴンのお肉を食べるよ。すごく美味しいらしいから期待しててね」


「ふおおぉぉぉ、おにくー」「キュキュー」「たべたい」「ククーー」「うまそうだぜ!」「…………」


 簡単に説明すると、即座に理解してテンションを上げるベル達。そうそう、俺としてはこういうリアクションを求めてたんだよ。


「よーし、じゃあ準備しようか」


 全員が声を上げて賛同してくれるが、手伝ってもらうのはジーナとサラで十分なんだよな。


「それで師匠、あたしとサラは何をすればいいんだ?」


 ステーキだからそんなにやる事は多くない。ただ、食べる人数が多いからひたすら肉を焼くだけだ。魔法の鞄に収納すれば冷めないから助かる。


「そうだな、俺はお肉を切り分けるから、サラはお肉に胡椒を振って馴染ませてくれ。ジーナは外で焼き台の準備を。炭火で焼くからシバに協力してもらってね」


「「はい!」」


 二人に指示を出し、俺は魔法の鞄からファイアードラゴンのお肉を取り出す。どうせなら一番美味しい部位を食べたいよな。解体の時に聞いた、腹肉の中心部分を取り出す。この部位は程よくお肉と脂肪が混ざり合い、ドラゴンのお肉の中でも一番の人気部位らしい。


 とりあえずお肉を切るか。みんなには極厚と言ったがブロックみたいなのは噛み切れない。厚さは三センチぐらいだな。大きな塊肉なので包丁ではなく魔法のサバイバルナイフで切り分ける。


 スルっと切れるが下のテーブルまで切らないように注意が必要だ。慎重に厚みを計り切り分けると、サーロインっぽい見た目の極厚ステーキ肉が……。


 最上級の肉で最上級の部位……日本で同程度のランクのお肉を食べるとしたら、幾らぐらい掛かるんだろう。俺の給料では店に入る事すらビビりそうだ。


「お師匠様、これだけ大きいと、私やキッカでは食べきれないと思うんですが……」


 胡椒を振る為に隣で待機していたサラがポツリと言う。確かに……見た感じがステーキ店で食べたワンポンドステーキよりも明らかに大きい。みんな冒険者をやってるしキッカでも結構食べるけど、さすがにこの大きさは辛いか。でも薄く切ると肉としての迫力が下がる……。


「じゃあ、焼く時はこの大きさで焼いて、食べられそうにない人は半分の大きさに切り分けて出そうか」


「それなら大丈夫そうですね」


 半分でも三百グラムぐらいありそうだけど、サラも頷いてくれたから大丈夫だよな。問題がなくなったところで次々とお肉を切り分けていく。


「師匠! こっちの用意は終わったよ」


 ジーナが火熾しを終えて戻ってきた。隣でシバが自慢げにワフワフ言ってるから、しっかりとお手伝いしたんだろう。


「ありがとうジーナ。そこにお肉があるから塩を振ってくれ」


「了解、これがファイアードラゴンのお肉か。凄いな!」


 キラキラした瞳でお肉を見つめるジーナ。料理が好きならファイアードラゴンのお肉には興味があるよね。


 しっかりと三人で下準備をして、お肉を抱えて外に出る。焼き台では炭が赤々と燃えていい感じだ。ぶ厚いステーキを炭火で網焼きで焼き上げる。贅沢の極みだ! 俺、ある意味成り上がったな。彼女いないけど。


 炭を片方によせて強火ゾーンと弱火ゾーンを作る。ぶ厚いお肉だからゆっくり火を通さないと、中が生焼けになってしまう。


 強火ゾーンにステーキ肉を置き一気に表面を焼き上げる。アルミホイルがあれば、両面をこんがり焼いた後に包んで寝かせるっていう手法に挑戦できたんだけどな。日本に居た頃はそんなにぶ厚い肉を買う事なんて無かったし、異世界ではアルミホイルが無い。上手くいかないものだ。


 ……ノモスに頼んだら、金属を薄く紙みたいにしてくれる気もするが……アルミってどう説明したらいいんだ? そもそもアルミってどこの土の中にでも含まれてるのか?


 そういえば日本で使っていた財布の中に一円玉は残っているな。迷宮の山岳に行った時にノモスを召喚して探してもらうか。考え事をしながらも肉を焼き上げる。ふと顔を上げるとサラが羨ましそうに俺を見ている。……ジーナは弱火ゾーンでお肉を見てくれているし、サラもステーキを焼いてみたいんだろうな。


「サラ、代わってくれる?」


「いいんですか!」


「うん、焼き方は分かってるよね?」


「はい、大丈夫です!」


 笑顔で近づいてきたサラと交代して、俺はステーキの収納係に収まる。一枚焼くのに結構時間が掛かるから、全員分を用意するには結構時間が掛かりそうだな。ちびっ子軍団とお酒を待っている大精霊達の限界までに焼き上がるかが少し心配だ。



 ***



「じゃあ、みんな食べようか」


「おにくー」


 俺の言葉と同時にベルがファイアードラゴンのステーキにフォークを突き刺し噛り付く。その右手に持っているナイフは飾りなのか?


「おいしーー」


 自分の顔ぐらいあるステーキを高々と掲げて喜ぶベル。たいそう可愛らしいが、お肉の大きさが異様で違和感が凄い。ちなみに、食べきれなさそうな場合は半分にカットして出すと先に言ったが、ステーキ半分を選択したのはサラとキッカだけだった。ちゃんと食べきれるんだろうか?


「ベル、美味しいのは良かったけど、ナイフとフォークの使い方は教えたよね。ちゃんとしないとダメだよ」


「わかったー」


 素直にお肉をお皿に戻し、今度はちゃんとナイフを使って一生懸命お肉を切り分けるベル。多少ぎこちないが形にはなっている。ベルはやればできる子なんだよね。なんとかお肉を切り分けて満面の笑みで口に運ぶベル。


「ゆーた、おいしー」


「よくできたね、偉いよベル」


 ニパっと笑うベルを撫で繰り回しながら誉めそやす。大精霊達が多少なま温かい目で見ている気がするが、今はベルを褒める方が大切だ。俺は褒めて伸ばす教育方針だからな。


「キュキュー」「おいしい」「ククーー」「きるぐらいできるぜ!」「…………」


 ベルに構い過ぎたのか、レイン達も集まってきて褒めろと頭を擦り付けてくる。ステーキが冷めてしまうが、ここは精一杯褒めねばなるまい。レイン達を撫で繰り回しながら、ついでに他の子達の様子も観察しよう。


 大精霊達は……笑顔でお肉を食べながらエールを流し込んでいる。笑顔だから気に入ってるのは間違いないよね。酒かお肉か、喜んでるのがどちらかが微妙だけど。


 ジーナは真剣な表情でお肉の味を吟味しながら食べてるな。ちゃんとシバの面倒を見ているところはさすがだ。


 サラ、マルコ、キッカは完全にステーキのとりこだな。一心不乱にステーキを口に運んでいる。お肉を噛み締めている間は素晴らしい笑顔だし、気に入っているのは間違いなさそうだ。フクちゃん達は……表情はよく分からないが、合間に嬉しそうに鳴いているから美味しいんだろう。


 たっぷりとレイン達を褒めまくったあと、ついに俺もファイアードラゴンのステーキにナイフを入れる。おっ、ナイフの手応えがほとんどないぞ。これだけ柔らかいならベルでも簡単に噛み千切れるはずだ。


 大きめに切ったお肉を口いっぱいに頬張ると、一気に口の中で肉汁があふれ、とろけるように消えてなくなる。このお肉は日本で喜ばれる柔らかいタイプの肉質だが、とろけ具合と肉汁の味が段違いだ。脂身も濃厚なのに、くどさがまったくなく、サラリと飲み込める。


 段違いの美味しさって事にも納得だが、良かったのがアサルトドラゴンやワイバーンの肉質とだいぶ違う点だな。これならその時の気分や、好みに合わせて食べ分けられる。


 俺としては噛み応えのある肉も好きだから、アサルトドラゴンとワイバーンとファイアードラゴンを順番に食べたい感じだ。魚やパスタも間に挟むから、ファイアードラゴンのお肉を食べ飽きる事はなさそうだな。


「たべたーー」


 俺がお肉に夢中になっていると、隣からベルの満足そうな声が聞こえてきた。目を向けるとポッコリお腹を膨らませて、ベルが仰向けにプカプカと浮いている。テーブルを見るとお皿にはお肉もパンも一欠けらも残っていない。あの量を完全に食べきったのか。


 全部を食べきるベルの根性が凄いのか、あの量でも食べきらせるファイアードラゴンのお肉の味が凄いのか……両方って事で納得しておこう。


 他の子達も食べ終わりそうだし、俺も急いで食べるか。そのあとはシルフィ達の宴会に少し付き合って……胃が大丈夫か心配になってきたな。ムーンやヴィータを頼りに頑張ろう。

読んでくださってありがとうございます。

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