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二百六十九話 弟子達の成長

 ルビー達のお店の準備も一通り終わった。さっそく渡したレシピで料理を作るルビー達と別れ、食堂を出る。そこに高速でベルが飛んできて広場が完成したと教えてくれた……正直、早すぎると思う。


「広場が完成したって全部?」


「ぜんぶーー」


 ベルが俺の腕に収まりながらも、両手を上げて自慢げに宣言する。バンザイしながらも顔がドヤ顔なのが可愛らしい。


「そっかー全部かー。それでベルが教えにきてくれたの?」


「そうー」っと言ったあとに、ハッとした顔をしたベルが俺の腕の中を脱出した。どうしたのかとベルを見ていると、広場の方を指差して早く行くのっとワタワタしだした。どうやら教えにきたのではなく、お迎えだったらしい。


 ベルに急かされながら広場に向かう。しかし全部完成したのか。俺としてはコツコツ試行錯誤しながら、ある程度時間を掛けて作ると思ってたんだけどな。小さな精霊達が待ってるって教えたから、急がせちゃったのかもしれない。


「ゆーた、はやくー」


 想像以上に早く広場が完成した理由を考えていると、いつの間にか足取りが遅くなっていたらしい。ベルが急いでっと手招きしている。まあ、とりあえず広場を確認してからの話だな。


 急ぎ過ぎて作業が雑になってたとしたら、師匠としてお説教をせねばなるまい。上手にお説教ができるか自信はないが、声を荒げる事無く理路整然と問題点を指摘できるように頑張ろう。急かすベルに頷き早足で広場に向かう。


「つれてきたー」


 広場の出入り口で待っていた、ちびっ子軍団+ジーナとディーネとドリーにベルが胸を張って報告する。褒められてご機嫌のベルだが、俺を迎えにきた事を忘れてたよね。だが、褒められて喜んでいるベルを見ると、そんな事言えないな。ちゃんと俺を連れてこれたんだから、ミッションは成功って事で納得しておこう。


「師匠、広場が完成したんだ。確認してくれ!」


 ジーナが嬉しそうに報告してくる。広場作りが楽しかったのか満面の笑顔だな。


「完成が予想以上に早かったけど大丈夫なの?」


「ああ、みんなが協力してくれたから、結構凄い広場ができたんだ。自信があるから中を見てくれ!」


 ジーナの言葉にサラ、マルコ、キッカも自信満々に頷く。どうやら他のみんなも広場の出来栄えに自信があるようだ。


「じゃあ見せてもらうね」


 境界になっている岩と岩の間を通り抜け、広場の中に入る。


「これは……凄いね……」


 ……凄いには凄いんだけど想像していたのと全然違う。これはどうなんだ? 俺は何て言えばいい? 確かに花畑とか言ったけど、なんで広場がローズガーデンになってるんだ? そもそもローズガーデンって広場としてカウントしていいのか?


「えーっと、ものすごく綺麗なんだけど、なんでローズガーデンなの? っていうか、ジーナ達はよくローズガーデンを知ってたね」


「どうせ作るなら綺麗でみんなが驚くような広場を作りたいって言ったら、シルフィさんとドリーさんが、お城には沢山のバラで埋め尽くされた広場があるって教えてくれたんだ」


 ジーナが事の真相を教えてくれた。シルフィはお城の事も知ってたし、ドリーも植物の事については詳しいから、ローズガーデンを知っていてもおかしくないな。俺は並んで立っているシルフィとドリーに目線を向ける。


「裕太がジーナ達が相談してきたら、力を貸してあげてって言ってたから教えたんだけど、ダメだった?」


 俺の戸惑いを読み取ったのか、シルフィがコテンと首を傾げながら言う。


「いや、相談に乗ってくれたのは助かるんだけど、これはちょっと力を貸し過ぎかなって思って。ジーナ達の訓練でもあるから、あんまり大精霊が力を貸し過ぎると困るんだ」


 シルフィ達ならそこら辺は上手に導いてくれると思ってたけど、言葉が足りなかったのかも。


「あら裕太さん、私達はそこまで力を貸してはいませんよ。シルフィはお城のローズガーデンがどんな様子なのかを教えただけですし、私はバラを成長させただけです。ディーネも水路に関してアドバイスをしただけでしたよね?」


「そうよー、お姉ちゃんは水の流れについて、アドバイスをしただけねー。裕太ちゃんはジーナちゃん達の実力が分ってないのね、師匠として失格よー」


「えっ? マジで? このローズガーデンって相当凄いよ。至る所にアーチがあってバラが巻き付いてるし、ドーム型の休憩所も自分達で作ったの?」


 バラ達がキレイに映り込む水路や池も? ヤバい、美的センスが完全に弟子達に負けてる。


「師匠! 俺達頑張ったんだ! ウリで難しいところはトゥルが手伝ってくれたけど、自分達で作った!」


 ウリを抱っこしたマルコが一生懸命に訴えかけてくる。俺に疑われた事が悲しいんだろう。かなり必死の表情だ。…………まず俺がやるべき事は……土下座か?


 いや、別に土下座をするぐらいなら死ぬってほどプライドは高くないし、誠心誠意謝る必要があるのなら土下座も辞さないが……それでも師匠としては土下座はいかんだろう。師匠に土下座されたらジーナ達の方が困る。


「えーっと、ジーナ、サラ、マルコ、キッカ、申し訳ない。俺が想像していた以上に素晴らしい広場になっていたから驚いたんだ。悪かった」


 土下座はダメだが、謝らない訳にはいかない。できるだけ深々と頭を下げる。


「師匠、頭を上げてくれ。あたし達だってこんなに凄い広場ができるとは思わなかったんだ。師匠が疑ってもしょうがないよ。あたし達は全然気にしてないよ。なっ、サラ、マルコ、キッカ」


「はい、私も驚いていますし、お師匠様が疑問に思われるのも当然だと思います」


「おれは師匠がしんじてくれたならそれでじゅうぶんだ!」


「キッカも!」


 弟子達の優しさが身にしみる。俺が逆の立場だったら、心が傷ついたとか言って夕食ぐらい奢らせるのに、なんて優しい子達なんだろう。


「ほら、裕太、ジーナ達が困ってるでしょ。頭を上げなさい」


 それもそうだな。シルフィの言葉に従い頭を上げる。


「ふふー、裕太ちゃん、ちゃんと謝れて偉いわねー」


 ディーネが幼い子供を褒めるように俺の頭を撫でる。……子供扱いに不満はあるが、今の俺に言葉を返す権利はない。次はベル達とフクちゃん達にも謝らないとな。


 再び、ベル達とフクちゃん達に、謝罪の言葉を言って頭を下げる。ベル達とフクちゃん達も快く許してくれた。いい子達ばかりに囲まれて幸せなんだが、自分の心の汚さが浮き彫りになるのが辛いな。


「師匠、謝るのはもう大丈夫だから、広場を見てくれよ。自信作なんだからな!」


「そうだな、じゃあ見させてもらうよ」


 気分を切り替えてみんなが作ったローズガーデンを見学する。バラの色は赤と白だけなんだな。地球ではもっといろんな色があったけど、この世界ではどうなんだ?


「ドリー、バラの色って赤と白しかないの?」


「いいえ、他にも色は幾つかありますよ。ピンクや黄色、紫なんかもありますね。ただ色が混ざると配置のバランスが難しいですから、今回は赤と白をお勧めしたんです。裕太さんはバラで好きな色がありましたか?」


「いや、バラには詳しくないんだ。ただ俺が住んでた世界には沢山の色があったから疑問に思っただけ」


「裕太さんの世界のバラも色んな種類があるんですね」


「ああ、バラは人気の花だから、どんどん品種改良されてついには青いバラも作られたんだよ」


 確か青いバラって作るのが不可能って言われてたのが、遺伝子組み換えとかそんな感じで作られたんだよな。そこまでして青いバラを作りたかったのかって驚いた覚えがある。


「あら、青いバラでしたらありますよ」


 そういったドリーが地面に右手を向けると、地面から芽が出て枝が伸びてあっさりと青いバラが咲いた。……そうだよね、魔法だもんね。時に科学では難しい事も、魔法は理屈とか関係なしにやってしまう。


 こういう方面だと知識チートも難しい。例え遺伝子組み換えの知識があったとしても、それをおこなうだけの設備がほぼ確実に手に入らない。緻密なのは化学、理不尽なのが魔法って事なのか?


「ありがとうドリー。青いバラを初めて見たよ」


「そうですか、裕太さんに喜んでもらえて私も嬉しいです」


 ニコニコと微笑むドリー。ドリーに悪意なんてないんだよな。純粋に善意だけで俺に青いバラを見せてくれて、あっさりと科学の弱点を露呈させてしまった……まあ、俺は文系だし、元々知力Bだからそんなにダメージはないけどな。


「あっ、そういえば小さい精霊がメインで来るんだよね? 怪我をし辛いといってもバラのトゲとか大丈夫か?」


 植物のトゲって地味に痛いんだよな。冒険者ギルドで俺に敵対していた相手ならともかく、浮遊精霊や下級精霊が痛い思いをするのは嫌だ。中級精霊はさすがにトゲの生えた植物に突っ込む事はないだろうが、実体化してテンションが上がった浮遊精霊や下級精霊だと、少し不安だ。


「ああ、それなら大丈夫ですよ。バラのトゲを確認してください」


 ドリーの言うとおりにバラのトゲを確認してみる。


「あれ? トゲの部分が丸まってる。手で触ってもまったく痛くないよ」


「はい、私も気になったので、丸めておきました」


 トゲがあったであろう場所にはポコッとした盛り上がりがある。丸めるぐらいならトゲを無くすのはダメなんだろうか? ……まあダメなんだろうな。


「じゃあ何の問題もないね」


 安心したところで、ちびっ子軍団+ジーナの案内でローズガーデンを見て回る。自分達が拘ったところ、苦労したところを一生懸命教えてくれる。プロの目から見たら荒い部分があるかもしれないが、俺の目からだと完璧に見える。


「うん、一通り見て回ったけど、想像以上だったよ。たぶん遊びにくる精霊達も大喜びするよ」


 実際に歩いていて優雅な気分になった。ローズガーデンって事で俺の活動範囲とは完全に離れた世界だから、少し落ち着かなかったけど、楽しめたのは間違いない。


「師匠、実はこれだけじゃないんだ。あたし達もまだ見てないんだけど、精霊のみんなに確認してもらいながら頑張ったんだ。師匠、シルフィさんに頼んで、みんなを空に連れていってほしいんだけどいいか?」


「まだ何かあるんだ、分かった、シルフィ、頼める?」


 ジーナに言われた通りにシルフィにお願いする。


「ええ、じゃあ行きましょうか」


 シルフィの言葉と同時に、俺達の体が空へと浮かび上がる。


「うん、これは凄いよ! よく考えついたね」


 空からローズガーデンを見ると、敷地いっぱいに大きな一輪のバラが描かれている。ローズガーデンを歩いていて入り組んだ作りだとは思ってたけど、こんな仕掛けがあったとは。空撮も無いのに、花壇を配置して大きなバラを地面に描こうなんて、よく思いついたな。


「良かった、自分達では見えなかったから少し不安だったけど、ちゃんと形になってるな」


「はい、本当に綺麗にできていて良かったです。マルコの思いつきのお陰ですね」


「精霊って空から遊びにくるって思っただけなんだけど……」


「おにいちゃん、えらい!」


 マルコの言葉が切っ掛けになったらしい。ちゃんとみんなで相談して、しっかり考えてローズガーデンを作り上げたんだな。師匠として大感激だよ。


「みんな、すごい広場を作ってくれてありがとう。最高の広場だよ」


 ちょっと……いや、かなり思ってたのとは違う形だったけど、素晴らしい広場が楽園に誕生した。もう、今日はお祝いだな。いい切っ掛けだし頑張ったちびっ子軍団+ジーナのご褒美に、ファイアードラゴンのお肉を出そう。


 決してちびっ子軍団+ジーナを疑ったから、お詫びに美味しいお肉を出してご機嫌を取っておこうって訳ではない。

読んでくださってありがとうございます。

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