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二百六十八話 食材の受け渡し

 精霊の村の最低限のお店が完成し、ルビー達がお待ちかねの食材を渡す為に氷室に向かった。俺が想像していた以上にルビー達が作った氷室はしっかりとしており、テンプレとは逆に知識チートをされた気分で、少しだけ落ち込んでしまったのは内緒だ。


 だが、その沈んだ気分もルビーの次の説明で復活する。ルビー達は長年の経験からお肉を熟成させる方法を編み出していた。これでまた食材のバリエーションが増える。熟成肉のステーキとか胸が熱くなるよね。


「えーっとルビー、お肉が大量の魔力を持っていると熟成させるには向かないんだよね。ラフバードやオークのお肉は大丈夫?」


「大丈夫だぞ! ラフバードやオークのお肉は間違いなく美味しくなるんだぞ!」


 それは嬉しい。美味しいお肉が魔法の鞄の中には沢山あるけど、基本となっているのはラフバードとオークのお肉だ。基本は大事だからな。基本が底上げされたら、俺達の食生活がワンランクアップするのは間違いない。


「ジャイアントディアーは?」


「ジャイアントディアーはやった事がないから分からないぞ!」


「じゃあお肉はあるから試してほしい。構わないか?」


「いいぞ! 新しい挑戦は大歓迎だ!」


 楽しそうに請け負ってくれるルビー。ジャイアントディアーはベル達のお気に入りでもあるから、美味しくなったら喜ぶだろう。


「ねえ、裕太、さっきからお肉を熟成させるって言ってるけど、本当に美味しくなるの? 冷やしておいても腐るでしょ?」


 シルフィが不思議そうに聞いてくる。まあ、お肉は放置してたら腐るもんな。誰が言ったのかは知らないけど、お肉は腐りかけが一番美味しいって言葉がある。でも、腐りかけのお肉って食べるには勇気がいるよな。特に色とか……。


「俺が居た国ではお肉の熟成は基本だったよ。腐らせない為に色々と注意する事があるんだけど、俺はまったく知識がなかったから手が出せなかったんだ。でも、ルビー達が熟成の方法を自分達で作り上げてくれたから、これからの食事がより美味しくなるよ」


「よく分からないけど、本当に美味しくなるのね?」


「シルフィの姉貴! お肉は熟成させたら本当に美味しくなるんだぞ!」


 ルビーが話に割り込んで熱心にアピールしだした。あっ、エメ、サフィ、シトリン、オニキスが援軍に加わった。今までなかなか信用してもらえなかったんだろうな。


「分かった、分かったわよ。信じるしちゃんと食べるから安心しなさい」


 シルフィがルビー達の勢いに押されて、食べる事を承諾させられている。まあ、熟成に失敗しなければ美味しくなるのは間違いないんだし、問題ないだろう。


「じゃあ、そろそろ食材を出すね」


「あっ、ちょっと待って。先に氷室を冷やしちゃいますね」


 サフィがそう言ったあと両手を前に出すと、氷室の至る所に氷が生まれ、部屋の中の空気まで一気に冷えた。これなら食材は痛まないだろう……でも、俺の体が寒さで凍えそうだ。


「裕太、大丈夫? 温めましょうか?」


「ちょっと、かなり寒いけど、俺を温めて食材に影響が出たら嫌だから止めておくよ」


「うーん、確かに熱を遮断する事も可能なんだけど、裕太が動いた範囲内は温まる事になるわね」


「じゃあ、我慢して手早く終わらせるよ」


「そう? 無理しないでね」


「了解」


 そんなに時間が掛かる事ではないし、さっさと食材を出して氷室から出るのがベストな選択だろう。


「そういえば、裕太の兄貴は人間だったんだぞ!」


 俺とシルフィのやりとりに、驚くルビー達……今更そこに引っ掛かるのか。


「ふふ、しょうがないわよ。この子達が精霊以外と話す機会なんてないもの」


 それもそうか、実体化する機会なんてほとんどないから、人間と話す機会もほとんど無いって事だよな。そうなったら、自分と話している相手が別の種族だって考えにはなり辛いだろう。


「あの、いきなり冷やしちゃってごめんなさい」


 サフィが申し訳なさそうに謝ってくる。


「気にする事はないよ。氷室を冷やすのは当たり前の事だからね。でも、寒いのは確かだからさっさとやっちゃおうか。食材を出すね」


 魔法の鞄から急いで食材を取りだし氷室の棚に置くと、ルビー達が流れ作業で氷室の中に配置していく。大きなブロック肉はサフィが熱を奪ったあと、シトリンが生み出した金属? の大きなフックにつるされる。なんか海外の映画とかで出てくる精肉工場みたいだな。


「あとは……解体してないラフバードとオークが大量にあるんだけど、ルビー達は解体できる?」


「解体はあたいの得意分野だから大丈夫なんだぞ! あっ、でもそれなら解体部屋も作らないといけないな。シトリン頼むんだぞ!」


「えーっと、今は先に食材を全部出してしまおうか、これはジャイアントディアーのお肉なんだ。熟成を試してみて」


 ルビーのお願いに動き出そうとしたシトリンを止めて、食材を氷室に入れる事を優先する。マジで寒い。


「へー、これがジャイアントディアーのお肉なのか。魔力はそこまで内包してないから熟成しても大丈夫そうだぞ!」


 おっ、朗報だな。ジャイアントディアーは普通に食べてもかなり美味しかったから、熟成肉で更に美味しくなるのならかなり楽しみだ。興味深そうにジャイアントディアーのお肉を観察しているルビーを放っておいて、食材を出す事を優先する。


「これでとりあえずは十分かな。まだ魔法の鞄の中に食材が余ってるから、足りなくなったら言ってね」


「おー、沢山食材があるんだぞ! 料理しほうだいなんだぞ!」


 小躍りするルビーと、一緒に喜ぶエメ達。仲が良いのはとってもいい事だよね。でも、俺は凍えそうだから早く外に出たい。


「あとはレシピを渡すだけなんだけど、ここは寒いから場所を移そうか」


「そうだった、裕太の兄貴は寒いんだった、移動するぞ!」


 ルビーの号令で氷室から外に出て食堂に戻る。温かい空気に触れると安心する。普段は嫌になるぐらいに暑いのに、この暑さを喜ぶ日が来るとは思わなかったな。


「はい、これがレシピ。文字は読めるんだよね?」


 植物の椅子に座り、ワクワクしているルビー達の前に書いておいたレシピを渡す。トルクさんに渡した料理は全て書いてある。新しい料理も書き足そうとは思ったが、とりあえず最初は既存のレシピだけを渡した。


「字は読めるんだぞ!」


 そう言ったあとはレシピを食い入るように見ている。


「えーっと、見たら分かると思うけど、ぼんやりとしたレシピだから、残りは自分で研究してね。それと、そのレシピを元に作ってもらった、料理やデザートがあるから食べてみるといい。参考になると思うよ」


「「「「新しい料理!」」」」


 エメ、サフィ、シトリン、オニキスが食い付いてくるが、ルビーは難しい顔をしている。


「ルビー、どうかしたの?」


「うーん、新しい料理はもちろん食べたいんだぞ! でも、料理人としては、このレシピで完成形を想像して美味しい料理を作ってみたいって気持ちもあるんだぞ!」


 料理人としてのプライドって事なのかな? トルクさんと違った美味しい料理が出来上がる可能性もあるし、俺としてはそっちの方がバラエティが増えて面白いな。


「じゃあ、エメ、サフィ、シトリン、オニキスには悪いけど、そのレシピの料理を出すのは今度にしていいかな? それで、ルビーが作った料理が完成したら、魔法の鞄の中の料理と食べ比べをしてみるのはどう? まあ、エメ達が先に料理を食べたいなら、ルビーが居ない場所で先に食べるのでも構わないけど……」


 俺が言うと、五人が頭を寄せ合ってゴニョゴニョと相談しだした。……比べるものじゃないって分かってるけど、頭を寄せ合って相談する姿はベル達の方が可愛らしいな。


 ……あれ? この満足感って親の欲目って奴じゃないのか? 最近、俺の父性にストッパーが掛からなくなっている気がする。お嫁さんをゲットする前からパパになってしまってはダメだ。


 ルビー達を見習って、常に気持ちは若くいないと、いずれ……最近女性に対する関心が薄れちゃって……とか言い出すことになるぞ。


「裕太の兄貴。エメ達もあたいがレシピの料理を作り終えるまで待ってくれるって。だから食べ比べって事でお願いするんだぞ」


「そ、そうか。分かった。じゃあ俺もルビーがレシピの料理を完成させる事を楽しみにしてるね。でも、精霊の村が開放されるのを楽しみにしている子も居るから、そこまで時間は掛けられないよ」


 自分の心の変化に危機感を覚えていると、ルビー達の相談に結論が出た。俺の心の問題はとりあえず後にしよう。


「分かったぞ。五日あればそれなりの料理ができると思う。食べ比べはその時でいいかな?」


 シルフィを見ると頷いている。五日ぐらいなら問題ないって事か。


「分かった、じゃあその時に食べ比べをしようか。頑張ってね」


「頑張るんだぞ! さっそく試作をするんだぞ!」


 レシピを持ったまま氷室に向かって走っていくルビー。さっそく材料を取りにいったのか。


「裕太の兄貴、ごめんなさい。ルビーは目標が決まると周りが見えなくなるの」


 オニキスが深々と頭を下げる。


「別に気にしてないから大丈夫だよ。五日で沢山の料理の完成度を上げるのも大変だろうから、みんなもルビーに協力してあげるといい。じゃあ俺達は家にもどるね」


 エメ達に手を振ってシルフィと一緒に食堂を出る。普通ならたった五日で食べた事のない沢山の料理を、何種類も完成させるとか無理っぽいけど、トルクさんは一晩で形にしてきたからな。長い料理経験を持つルビー達なら、面白い事になるかもしれない。


「凄くやる気がある子達だね。五日後が楽しみだよ」


「ふふ、私も熟成肉には少し興味があるわ。でも、本当に腐ってないのよね?」


 シルフィは熟成肉の存在が好奇心半分、心配が半分と言ったところらしい。無理もないといえば無理もないが、しっかりとした熟成肉が完成すれば、その疑念も払拭できるだろう。


「俺が知ってる熟成肉は結構美味しくなるから、期待しててもいいと思うよ。でも熟成肉は時間が掛かるから五日後には間に合わないね」


「あら、そんなに時間がかかるの……」


 シルフィの不安が増したようだ。失敗したかな?


「ゆーた、みつけたーー」


「わぷっ!」


 どうしたものかと思っていると、ベルが高速で飛んできて、俺の顔に張り付いた。俺に衝撃をほとんどあたえない飛行技術は凄いな。とりあえず顔からベルをはがして抱っこして頭を撫で繰り回す。


「ベル、どうしたの?」


「ゆーた、よびにきたー」


 頭を撫で繰り回しながら聞いた質問に、ベルがはっとした表情をして俺を呼びにきたと告げる。


「ん? なにかあったの?」


「むふーー、ひろばできたーー」


 両手を上げて自慢げに言うベル。とっても可愛らしいが、言ってる言葉の意味がよく分からない。広場が完成したって事? 精霊の力を借りるのが前提だから、完成にそこまで時間は掛からないと思ってたけど、でも、それにしたって早すぎるだろう。今朝は一面真っ平だったのに……とりあえずベルに詳しく話を聞いてみるか。

読んでくださってありがとうございます。

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