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二百六十六話 上級精霊の実力

 シルフィがルビー達にお説教をするといったアクシデントは有ったものの、無事にルビー達に調味料と食材のお披露目は完了した。ルビーが今にも料理を始めたそうだが、とりあえず四つの店の内装を済ませてからだな。まずはノモスを召喚しよう。


「ノモス。ルビー達の意見を聞いて内装の方を頼む」


「うむ、じゃがそこに土の上級精霊がおるんじゃから、儂は必要ないと思うぞ。娘っ子共の店なんじゃし、娘っ子共に任せたらどうじゃ?」


 ……そういえばシトリンって土の上級精霊だったな。上級精霊って出会う切っ掛けがなかったから、力の程がよく分からない。でも、中級精霊でも相当凄いんだから、上級精霊なら店の内装ぐらい楽勝だろう。まあ、一応確認しておくか。


「土の上級精霊なら店の内装ぐらい楽勝なのか?」


「上級精霊じゃからな。土に関する事なら大抵の事はできるじゃろう」


 そうなんだ。……そうだよね、上級精霊だもんね。


「それなら全部をルビー達に任せた方が良さそうだな」


「うむ、儂が手を出さずともなんとでもなる。そういう訳で儂は醸造所に戻るぞ」


「ああ、手間を取らせて悪かったな」


 ノモスを召喚したのに、何もせずにそのまま帰す事になってしまった。なんか申し訳ないが、ノモスは早く醸造所に戻れて嬉しそうだから大丈夫なんだろう。


「そういう訳で、シトリン。内装は全部シトリンに任せるから、必要な物があったら言ってくれ」


「……分かった」


 反応が薄い。さっきまで調味料や食材に目を輝かせてたんだけど……内装を任されるのが嫌だったのか?


「ああ、ごめんよ裕太の兄貴。シトリンは恥ずかしがりやなんだぞ。別に裕太の兄貴と話すのが嫌な訳でもないし、店の内装を任されるのが嫌な訳でもない。むしろ喜んでるんだぞ」


 俺が戸惑ってるのが分かったのか、すぐさまルビーがフォローしてくれる。なるほど、恥ずかしがりやな精霊も居るんだな。今まで会った事がある精霊は、ほぼ全員が好奇心が強くて人懐っこかったから知らなかったよ。


 そして何より驚いたのが、ルビーが仲間のフォローをしっかりとした事だ。昨日会ったばかりの印象だと、悪い子ではないが暴走しがちで周囲に気を配らないタイプだと思ってた。


「嫌じゃないなら良かったよ。シトリン、無理をする必要はないから、欲しい物があったらルビー達に相談して俺に伝えてもらうといい」


 コクっと頷くシトリン。恥ずかしがりやって事は慣れたら普通に話せるようになるだろう。仲良くなる前にこっちからグイグイいくと、苦手に思われる可能性が高い。のんびり慣れるべきだな。


「じゃあさっそく始めようか。まずは食堂からだね」


「そうだった! 早く始めるぞ! シトリン、急ぐんだぞ!」


 ルビーがシトリンの腕を掴んで食堂に走っていった。


「シルフィ、俺は一緒に居た方がいいか?」


「んー、まあ、一緒に居た方がいいんじゃない? 正直私もあの子達が何をするかは分からないし、内装が完成したら調味料や食材を渡すんでしょ?」


 調味料や食材を渡すのは後でもいいけど、何をするのか分からないって言葉が地味に怖い。悪意があるような事はしないだろうが、凄い力を持っている存在だけあって、ちょっと調子に乗っただけで、凄い事になりそうだからな。


「……そうだね。手を出せる事もないだろうけど、様子は見ていた方がよさそうだ。行こうか」


 シルフィを連れて走り去っていったルビー達を追いかける。もう食堂の内装に手を加え始めたのか中から賑やかな声が聞こえる。


「うわっ! なにこれ!」


 食堂の中に入ると、中は大量の土のブロックで占領されていた。内装に手を入れるってテーブルとかを作るんじゃないのか? 入口近くに居たサフィとオニキスに声を掛ける。


「サフィ、オニキス。なんでこんな事になってるの?」


「あっ、裕太さん、朝はすみませんでした」


 俺って気づいた瞬間、サフィがすぐに頭を下げる。一瞬、シルフィに怯えた表情を見せたのは幻だったと信じたい。……ルビーは普通だったし、俺の勘違いのはずだ。


「ああ、もう気にしないでいいよ。それよりもどうしてこんな事になってるの?」


「はい、この食堂には食材の保管庫が無いので、まずはそこから作ろうという事になりました。シトリンが地下に氷室を作っています」


 サフィは昨日会った時はもっとゆったり話してたから、やっぱり少し朝のお説教が堪えてるんだろうな。俺からリラックスしていいとか言っても、簡単に肩の力が抜ける訳もないし、お説教の記憶が薄れて慣れるまで待つか。


「それにしては土の量が多い気がするけど」


 結構大きめの食堂の至る所にブロックになった土の塊が置いてある。そんなに食材を溜め込む気なのか? 

「それは私の部屋も一緒に作ってもらってるのよ。部屋が一つ足りなかったし、私は闇の精霊だから地下の方が落ち着くのよ」


 なるほど、オニキスの部屋も一緒に作ってたのか。それならこの土の量も納得できるな。


「へー、オニキスは食堂に住む事にしたんだ」


「ええ、一番忙しそうだし、ルビーの側に居た方が色々と安心なのよ」


 なんとなくオニキスの苦労が分かる気がする。


「うん、まあ、頑張ってね。そういえば氷室って氷はどうするの? 氷の精霊は居なかったからディーネに頼むのか?」


 精霊石のなりそこないにも氷属性の石はなかったから、醸造所のメンバーにも氷の精霊は居ないはずだ。


「氷なら私が作れますー」


 ちょっと自慢気にサフィが言う。


「へー、水の精霊が氷を作るのって難しいってディーネが言ってたけど、サフィも作れるんだ」


「はい、食材を保存する為に頑張って練習しました」


 ……この子達の原動力ってやっぱり食に関係するのか。確かに氷が作れると食材の保存に便利だもんね。


「あっ、裕太の兄貴、この土ってどうしたらいいんだぞ? 建物の周りの土に混ぜても大丈夫?」


 サフィとオニキスと話していると、氷室とオニキスの部屋が完成したのか、ルビー、エメ、シトリンが地下から出てきて話しかけてきた。


「ああ、それなら俺が預かっておくよ」


 結構深く掘ったのか、俺が持ってきた森の土を通り越して、死の大地の死んだ土のブロックも結構ある。混ぜない方が無難だろう。


「じゃあ、お願いするんだぞ!」


 ルビーにお願いされたので、室内に大量にある土のブロックを魔法の鞄に収納する。俺の魔法の鞄の中は、いつ使うかも分からないような物が大量だな。


 それにしても生きている土の中には、虫も結構居たはずなんだけど、あっさり全部のブロックが収納できた。シトリンが土の中の虫達を避けてブロックを作ったと考えると……さすが土の上級精霊、恥ずかしがり屋でも実力は凄い。


 ……あっ、感心した目でシトリンを見ていると、エメの背後に隠れてしまった。見るのも止めておいた方がいいらしい。


「終わったよ。次は何をするの? 必要な物があれば言ってくれ」


 ルビー、エメ、シトリンが軽く相談した後に、まだ必要な物はないと言ってきた。続いて調理場を作るそうだ。


 シトリンが両手を前にかざすと、地面がウネウネと動き出した。ノモスが綺麗に陶器状に固めてくれてたんだけど、動かすのは問題ないんだな。


(裕太、ジロジロと見ないの)


 面白いので観察していると、シルフィに小声で注意されてしまった。


(えっ? 術を見るのもダメなの?)


(失敗はしないでしょうけど、こちらを気にしているのは確かよ。女の子相手なんだから気にしてあげなさい)


(了解)


 ……なるほど、精霊でも女の子って難しいらしい。これが日本だったらセクハラ裁判が開廷されるんだろうか? とりあえず嫌われたくないので、視線からシトリンを外し、ウネウネと動く土に注目する。


 動き出した土は迷いなく形を作り、カウンター付きのキッチンが完成した。広々として使いやすそうだな。動きに迷いが感じられなかったから、たぶんキッチンを作り慣れているんだろう。


「次は私の出番ね!」


 もう一人の元気っ子、エメが元気に手を上げた。あの子は森の上級精霊だったよな。何をするんだ? キョロキョロと食堂の内部を見回るエメ。時おり空を見上げて考え込みながら、地面に植物の種を幾つも置いている。


「うん、これでいいわね。シトリン、お願い!」


 エメがシトリンに頼むと、シトリンが頷き土が置いてあった種を飲み込んでいった。種を植えたかったのか。


「じゃあ、いくよ!」


 エメが両手を前に出すと、植えられた種から芽が出てウニョウニョと動きながら大きくなっていく。普通に木や蔓なんかが生えてるけど……なぜ食堂に植物を生やす。観葉植物代わりにしても多すぎるぞ。


 意味が分からずに観察していると、複数の植物は意思をもったように動き出し、絡み合うようにテーブルやベンチの形になる。……それってありなの? 木を加工する訳じゃなくて、木や蔓が家具の形になって生えてるよ。


 そのくせ、料理を載せるであろう場所や、人が触れるであろう場所は木の皮部分が滑らかになっていて、艶々している。あの椅子は蔓で編まれてるのか? ハンモックみたいになっていて座り心地は良さそうだ。精霊って本当に何でもありだな。所々にアクセントとして葉っぱや花が咲いているのがお洒落だ。


 丸テーブルや長方形のテーブル、小さい子達が座れるように椅子が高くなっているところや、動物型の精霊でも食べやすいように、工夫されているテーブルや椅子。一気に作ったにしては細やかな心遣いが随所に見られる。全体の雰囲気としては、絵本に出てきそうな可愛らしい食堂になった。


(ねえ、シルフィ。これってドリーにもできるよね?)


 別に小声になる必要もないのに、なぜか小声でシルフィに質問してしまう。


(そうね、センスの違いはあるでしょうけど、ドリーにも同じ事はできるでしょうね)


 ……生きている木の家具か。なんか凄くカッコいい。……家具にされた木としては、どう思うかは分からないが、森の精霊なら木が嫌がる事はしないだろう。多分なにかしらのフォローがあるんだろうな。


 ドリーが木で家具が作れるって言わなかったのは、たぶん俺が普通に家具を買い揃えてたからなんだろう。今の家具に不満がある訳ではないけど、ちょっと羨ましい。まだまだ大精霊達には俺が知らない、凄い特技が沢山ありそうだ。


 そういえば、ドリーは森の動物達の巣穴の為に木に穴を開けるのは、あんまり嬉しくないって言ってたな。穴を開けるのではなく、家具の形に植物を生やすのはどうなんだ? 問題なさそうなら俺も作ってもらいたい。公園とか祭壇の近くに作ってもらうといい感じだよな。

読んでくださってありがとうございます。

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