二百六十四話 新しい精霊達
精霊の村で食堂、雑貨屋、両替所、子供用宿屋をノモスに建ててもらった。その合間にノモスがツンデレの子供好きだと発覚したが、その事は知らなかった事にしたい。
夕食が終わりリビングでまったりしていると、ベルがシルフィが戻ってきたと教えてくれた。せっかくなのでリビングに居る全員で出迎えに出る。
「あら、みんな。出迎えてくれたの?」
「ああ、ベルからシルフィが帰ってきたって教えてもらったんだ。結構遅かったように感じたけど、なかなか来てくれる精霊が見つからなかったのか?」
「ちょっと変な場所に居たから発見し辛かったのは確かなんだけど、それに加えて色々と話を聞かれて遅くなっちゃたのよ。それにこの子達は荷物を持ってたから、飛ぶスピードも遅かったの。ごめんなさいね」
シルフィが苦笑い気味に言う。ちょっと大変だったみたいだ。しかし荷物を持った精霊か、流れから言って料理道具なんだろうな。やっぱり珍しいタイプの精霊みたいだ。
「そうなんだ。えーっと、それで、その人達……精霊達が、精霊の村でお店をやってくれるの?」
「ええ、そうよ。紹介するわね」
「シルフィの姉貴、自己紹介なら自分でやるんだぞ!」
シルフィがみんなの紹介をしようとした時、赤い髪でベリーショートの女の子が割って入ってきた。体型はスレンダーだが、元気いっぱいの中学生って感じだな。運動部に所属してそうだ。あと姉貴ってなんだ?
「そう? じゃあ各自自己紹介しなさい」
「ありがとうシルフィの姉貴。あんたがこの聖域の主の裕太さんだな。あたいは精霊一の料理人! 人呼んで炎のルビー! よろしくなんだぞ!」
……なぜに大声で名乗りを上げる。あと、内容が薄くて、名前と火の精霊と料理人って事しか分からなかったぞ。
「私はエメラルド、森での食材調達なら私にお任せ! 人呼んで食材調達係のエメ! エメって呼んでね、よろしく!」
緑色の髪でボブカットの中学生ぐらいの女の子。この子も元気は良さそうだけど、自己紹介の内容が薄い。そしてなんで大声で名乗りを上げる。
「私はサファイアです。サフィって呼んでくださいね。あと水辺での食材調達を主に担当していました」
この子は普通に話すんだな。相変わらず自己紹介の内容が薄い気がする。
「シトリン……食器とか作れる」
それだけなの? ……茶髪の大人しそうな中学生ぐらいの外見の女の子。食器とか作れるらしい。
「私はオニキス。この子達のストッパーかしら?」
なんだか後半になるにつれて、自己紹介の内容がドンドン薄くなってるな。しかし黒髪ロングのこの子は、中学生ぐらいの見た目なのに、なぜか色気が凄い。
どう反応したらいいのか戸惑っていると、五人の視線が俺に集中する。とりあえず俺も自己紹介をしておくか。
「えーっと、俺は森園 裕太。この聖域は精霊達の楽園って名前なんだけど、その楽園の責任者って事になるのかな? まあ、とりあえずよろしく」
「「「「「よろしくおねがいします」」」」」
声のトーンは違うけど、この五人は息がピッタリだ。オニキスがこの子達のストッパーって言ってたし、普段から行動を共にしているのかもしれない。
「ねえ、シルフィ。この子達って友達同士なの?」
「ええ、聞いた話によると、全員が宝石の名前を持っていて、食べる事と飲む事が好きだった事で意気投合、中級精霊の頃から一緒に居たらしいわ。ちなみに今の彼女達は火、森、水、土、闇の上級精霊ね。まとまっていたから、丁度いいと思って全員連れてきたの」
なるほど、変わり者が名前と趣味から集まって、変わったグループが完成した訳か。女子中学生グループって感じなのに、なかなか濃いメンツが集まってる。
「そうなんだ。でもお店は四つしか建ててないよ? 一人余るけどどうする?」
「私の話を聞いて、彼女達が話し合ったんだけど、ルビーが食堂、エメが雑貨屋、サフィが宿屋、シトリンが両替所、オニキスが全体のサポートって事でまとまったわ。酒場ができたらオニキスがやりたいって言ってるんだけど、酒場は人気があるから、どうなるかは分からないわね」
「……そうなんだ。酒場の件はあんまりモメないようにね」
シルフィが一瞬疲れた様子を見せた。おそらくだけど、この話し合いが時間が掛かった原因の一つなんだろう。酒場の主人は人気なのか……まあ、自分も飲むつもりだからだろうな。
「なあボス! 色んな調味料が使いたい放題ってホント? いま迷宮都市で流行ってるっていうレシピも教えてくれるの? 食材はどのぐらいあるんだぞ? 沢山? いっぱい料理を作りまくってもいいの?」
ルビーがグイグイと質問してくる。トルクさんもそうだけど、料理が好きな人は新しいレシピとか食材とか聞くと我慢ができないようだ。トルクさんとルビーを会せたら凄い事になりそうだな。でも、なによりも問題なのは、今、俺の事をなんて呼んだ?
「えーっと、ルビー。ちょっと落ち着こうか。まずは俺からの質問なんだけど、なんでボスって呼んだの?」
「えっ? ボスはボスだからボスって呼んだんだぞ。この楽園の責任者なんだよな?」
きょとんとした顔を俺に向けてくるルビー。そうか、この子の中では責任者はボスなのか。
「ダメだったか? 親分の方がいいか?」
……洋風だった呼び方が和風に変わっただけじゃん。まあ、この世界の言葉が翻訳されてるんだろうから、洋風、和風は関係ないだろう。たぶんこの世界も地域によって、呼び方やニュアンスの違いがあるんだろう。
「責任者って言っても、俺は普通の人間で精霊に命令する権限を持ってる訳じゃないから、ボスや親分って呼び方はちょっと困る。普通に裕太でいいよ」
「んんー、じゃあ裕太の兄貴なんだぞ。これならいい?」
……この子達って最初は戦隊物みたいな集まりかと思ったけど、どっちかっていうと、テキヤとかそんな感じの集まりなのかもしれない。シルフィの事も姉貴って呼んでたし、何かをくっ付けないと違和感があるようだ。……まあ、兄貴なら問題ないか。
相手が俺よりも確実に年上な事に加えて、中学生ぐらいの女の子に兄貴って呼ばせている痛さに目をつぶれば、一番まともだろう。
「裕太だけでいいんだけど、呼び辛いなら兄貴でいいよ」
「よろしくなんだぞ、裕太の兄貴! それで調味料は? レシピは? 沢山作って良いのか?」
……少し早まった気がしてきた。なんとか普通に呼び捨てにしてもらうべきだったかも。
「調味料は大体揃ってると思うよ。レシピは今まで迷宮都市の料理人に渡したレシピは全部教えるつもり。料理を沢山作りたいのは俺としても問題ないけど、食材には限りがあるから、お客さんとの兼ね合いも考えて作ってくれたら助かる」
大量に料理ができても魔法の鞄に収納しておけば問題ないが、ある程度枷がないとガンガン料理を作りまくって、食材がなくなったと迷宮都市に頻繁に買い出しに行かされそうだ。
「そうか、沢山お客がくれば沢山料理ができるんだぞ。なあ、裕太の兄貴、調味料や食材を見せてほしいぞ。どんなのがあるんだぞ?」
……食べるのが趣味って言ってただけあって、ルビーの背後にはエメ、サフィ、シトリン、オニキスがくっ付いて話を聞いている。……オニキス、自分でストッパーって言ってたよね。役割をちゃんと果たしてほしい。
「ゆーた、べるたちもごあいさつするー」
あっ、待ちくたびれたのかベル達とフクちゃん達が乱入してきた。完全に混乱状態だ。ベル達がルビー達に突撃し、自己紹介が始まった。ベル坊とか呼ばれてるけど、ベルは女の子だからね。
「なあ、師匠。あたし達はどうしたらいいんだ?」
ジーナが聞いてくるが、俺に主導権なんて無いからどうしたらいいのかはサッパリです。
「んー、あとで改めて紹介してもいいし、あそこに飛び込んでもいいよ」
「……シバも行ってるし、あたし達も行ってくるよ。また改めて紹介してもらうのも面倒だしな」
ジーナがサラ達をつれて、騒がしい精霊達の間に飛び込んでいった。俺なら諦めるところなんだが……この世界の人達は根性あるな。おっ、楽しそうに会話をしだした。馴染むのが早い。
しばらくワイワイと騒ぐ精霊達とジーナ達を眺める。そろそろ止めようかな?
「ほら、今日はもう遅いんだから明日になさい。私達はともかく裕太達は人間なんだから、そこのところはちゃんと配慮しないとダメよ。それで裕太、この子達のお店は完成しているの?」
止めようかと思っていたら、シルフィが先に場をおさめてくれた。頼りになる。
「外観だけは完成してるよ。内部はお店をやる精霊の意見を聞いてからって事になってる。あと、何もないけど彼女達の部屋も作ってある。四人だと思ってたから四部屋しかないけど……」
「部屋をもう一つ増やすのはノモスに頼みましょう。今日はとりあえずお店に荷物を置いて、それぞれ休みましょうか、ルビー達は私が案内するわ」
シルフィがパンパンと手を叩いて、今日はもう終わりだと宣言する。完全に楽園の責任者にはシルフィの方が向いてるな。
なによりも前回ノモス達が、醸造所の職員を連れてきた時との対応の違いが凄まじい。あの時も一応挨拶はしたんだけど、こいつらが醸造所の職員じゃってだけだった。俺、いまだに醸造所で働く精霊達の名前とか属性を知らない。
まあ、三十人も居たから一人一人自己紹介されても、全員を覚えきる事はできなかった。ある意味助かったのかもしれないな。
シルフィが案内するルビー達を見送り、俺もちびっ子軍団+ジーナを促して家の中に入る。
「師匠! あたしとサラも食堂の手伝いとかしていいかな? ルビーに話を聞いたんだけど、色々料理を知ってるみたいなんだ」
「落ち着いてからならいいんじゃないか? 今は準備で忙しいだろうし、ジーナ達もしっかり広場を作ってもらわないと困るから、それが終わってからだね」
食堂ができたらジーナもサラも興味を持つと思ってたけど、広場もちゃんと作ってもらわないと困る。予想よりも精霊達が遊びにくるのが早そうだからなおさらだ。
「ありがとう師匠。あたし達が精霊術師だって事はしっかり自覚してる。シバの為にも立派な精霊術師になるつもりだから心配しないでくれ。ただちょっと料理にも興味があるだけなんだ」
おうふ、表情を読まれたか? 弟子にまで表情を読まれるのは問題かもしれないが、おかげでジーナとサラの気持ちが分かったんだから、良かったって事にしておこう。
ジーナもサラも料理が楽しそうだったから、精霊術師になるのが嫌にならないかと心配だったんだけど、これで心置きなく訓練がつけられる。やる事はあんまり変わらないけど。
本日デンシバーズ様で、精霊達の楽園と理想の異世界生活、第二話が公開されております。
こちらの方も楽しんで頂けましたら幸いです。よろしくお願い致します。
読んでくださってありがとうございます。