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二百六十三話 いまさらの発覚

 シルフィには食堂と雑貨屋を任せる精霊をスカウトに行ってもらい、俺とディーネとノモスは急場をしのぐ為に食堂、雑貨屋、子供用宿屋、両替所を建てる事にした。


「次は雑貨屋と子供用宿屋と両替所だな。どれから作るんだ?」


「ふん、どれから作ろうが、儂が作るんじゃからたいして変わらんわい。裕太が選べ」


 会話をしてくれるようになったし、少しは機嫌が直ったが……ディーネと色々言っちゃったから、まだ拗ね気味だ。ノモスにとって建築関係のセンスが無いところは急所なのかもしれない。


「えーっとじゃあ、雑貨屋から作るか。場所を教えてくれ」


「食堂の隣よー。ここは沢山お店を並べる予定なのよー」


 ディーネが自慢げに教えてくれる。商店街みたいな感じにするつもりのようだ。俺も商店街の雰囲気は好きだが、そんなに出すお店があるのかが疑問だな。精霊はあんまり物を欲しがらないのに、何を売るつもりなんだ? ……酒場が乱立しないようにだけは注意しておこう。


「了解、じゃあ隣に雑貨屋を作ってくれ。内装は食堂と同じで、シルフィが連れてくる予定の精霊に聞いてからだな」


「どんな形にするんじゃ?」


 精霊の村の事なのになんで俺に聞くんだろうな。 ……一番店に詳しいのが俺って事になるからか? 精霊達は買い物なんかしないもんな。


 ……雑貨屋か……日本みたいに特徴的な看板を設置できる訳でもなし、建物の差別化が難しい。今の感じだとノモスにあれこれ注文をつけるとキレそうだし、統一感を重視した方が良さそうだ。ただ、雑貨屋の場合は商品に陽射しが直撃するのは良くないな。


「形的には似たような建物で構わないけど、店の中に直射日光が入らないように、ガラス部分を小さくしてくれ。砂はここに出しておくぞ」


「ふむ、分かった」


 ノモスが右手を振るとズモモモモっと土が盛り上がり、食堂よりは小さめの建物が完成する。やっぱり凄いよな。これで建築センスがあれば地球の世界遺産を再現してもらうのに。


 まあ、無い物ねだりをしてもしょうがない。雑貨屋の外観は食堂と同じように陶器のように固められ、窓が各面に小さめに配置されている。あれなら雑貨の置き場所を考えれば直射日光は避けられるな。


「うん、こんな感じで良さそうだな。次はその隣に両替所でいいか?」


「そうねー……裕太ちゃん横一列に並べるのと、道を作って反対側にもお店を建てるのって、どっちがいいと思うー?」


「子供用宿屋もこの場所に建てるのか?」


「そのつもりだけどどうして?」


 ディーネがきょとんとした顔で聞いてくる。……宿屋は中心から少し離れた静かな場所がいいと思うんだけど、精霊は賑やかな方が好きなのかもしれない。


「宿屋でのんびりしたい時に、周りが騒がしかったら嫌じゃないか? 少し離れた場所に建てるのなら、この場所に建てるのは三軒になるから、道を挟んで分けるのはバランスが悪いって思ったんだ」


「んー、どうなのかしら? ノモスちゃんはどう思う?」


「ふむ……騒がしいのは大して気にならんじゃろうが、酒場ができた時、近くに子供用宿屋があるのは面倒じゃな。離れた場所に作るぞ」


 ノモスが清々しい程に自分の意見を言う。ディーネもそれもそうねーって頷いているし、子供用宿屋の近くで飲み明かすのは避ける方向のようだ。


「それなら、店が増えてから道を作るって事で、今回は三軒並べて作ったらどうだ?」


「そうじゃな、それでいいじゃろう。では両替所を作るぞ。形は雑貨屋と同じでいいんじゃな?」


 うーん、まあ看板を作れば見分けはつくか。でも、それ以外でも少しは見分けがついた方がいいよな。


「大体の形は同じでいいけど、両替所の方は建物の角を丸めて柔らかい雰囲気にできないか?」


「それぐらいなら簡単じゃ。では作るぞ」


 再びノモスが右手を振ると、雑貨屋の隣に似たような建物が完成した。でも角が丸くなってるだけで、建物って印象が結構違うんだな。これなら少しは見分けがつくだろう。


「これで食堂、雑貨屋、両替所の外側が完成したな。次は子供用宿屋だな。場所を決めてくれ」


「ふむ、ディーネ、どこにするんじゃ?」


 ノモスがディーネに話を振った。子供が関係するとあんまり考えたがらないよな。まあ、宿屋を中心から離すのは速攻で決断してたけど。


「んー、そうねぇー。お姉ちゃんとしてはあんまり離れていても寂しいと思うから、前に岩で囲っていた範囲で言うと、隣ブロックぐらいならいいんじゃない? もともとそこら辺に家を作る予定だったわよね?」


「そうじゃな。周りに家を建てれば、そこに住む精霊が子供達の面倒を勝手に見るじゃろうし、いいかもしれん。決定じゃな。元々家を建てる予定じゃったのは中心の南側じゃ。裕太、行くぞ」


 簡単に決まった。精霊の村作りがこんなに適当でいいのかとも思うが、元々は醸造所が落ち着いてから作る予定だったから、ノモス達も準備不足なんだろう。


 まあ、ノモス達の力があれば、気に入らない点はすぐに直せるだろうし問題ないか。中心から南側に移動し、子供用宿屋を作る場所を決める。


「ここに子供用宿屋を作るとして、どんな感じにするか考えろ」


 ノモスが俺に丸投げする。いつの間にか建物に関する主導権が俺に移ってるな。確実に根に持ってるな。建物に関してはノモスは考える事を止めたようだ。


「……シルフィからは広い部屋を作って、ベッドを並べればいいって聞いてる。ただ、沢山の子供達が実体化してはしゃぐんだ、走り回れるだけの大きさがあった方がいいと思うぞ」


「確かにそうじゃな。ベッドを置くのは十台じゃったな?」


「ああ、今あるのはそれぐらいだな」


 ワラのベッドだから、もう少し数を揃えようと思えば揃えられたんだが、あんまり人数が来ても対応できない。最初は十台ぐらいで慣れたら宿屋を増やすそうだ。ベル達も一つのベッドで団子になって眠っているから、十台のベッドでも結構な人数が泊まれるだろう。


「ならばベッドを置くスペースと、はしゃげるスペースじゃな。そうなると広さは……裕太、砂を出すんじゃ」


「了解」


 俺が砂を出すとノモスが右腕を振って、子供用宿屋を作る。この作業も今日だけで五回目か。ノモスがこれだけ連続で魔法を使うのを初めて見たかもしれない。


 完成した建物を見て思う……これはどうなんだ? ツッコミを入れるべきなんだろうか?


 建物の完成度は問題ない。問題はないんだが、宿屋は角が取られ丸みを帯び、建物の光沢も他の建物と比べると光り具合が一段階上だ。


 そして何よりも宿屋には至る所に窓が散りばめられ、形も様々だ。丸、三角、四角、星、台形、八角形をここから表を見ただけで様々な窓が……明らかに力が入ってるよな。ツッコミたい、激しくツッコミたい。俺が戸惑っていると、ニマニマしたディーネが近づいてきた。


(ふふー、裕太ちゃんが何を考えてるのか、お姉ちゃんにも分かるわー。でも、そっとして置いてあげて。ノモスちゃんは素直じゃないから、言ったらむくれちゃうわー)


 ……プチパニックだ。


(ディーネ、ノモスは子供が苦手なんだよな?)


(いいえ、子供が大好きよ)


(……子供達が集まってくると良く消えるのは?)


(照れてるのね)


 ツンデレ? ノモス、ツンデレなの? あれ? 俺、前にノモスと話した時、過去に色々あったんだろうな、ソッとしておこうとか考えたよな。過去に俺が想像した事もないような、辛い事があったんだろうって……あの雰囲気がタダのツンデレ? なんだそれ。


 そっとノモスの様子を確認すると、普段の顔と変わらないように見えて、わずかに満足気な雰囲気を漂わせている。もしかして、子供達が宿に泊まる光景でも想像してるんだろうか? なんだか面倒臭い。果てしなく面倒臭いよノモス。


(なあディーネ。俺がノモスとちびっ子軍団との橋渡しをした方がいいのか?)


(んー、止めておいた方がいいわー。ノモスちゃんは照れ屋で意地っ張りだもの。いい結果にはならないわ)


(……分かった)


 そうなると今回子供専用の宿屋を少し離したのも、自分の為じゃなくて子供達の事を考えてたって事っぽいな。できれば知りたくなかったよ。ノモスにどう話しかければいいのか分からなくなってきた。


「えーっと外側は全部完成したし、あとはシルフィが精霊を連れてきてからだな。俺は少し疲れたから家で休むけど、ディーネとノモスはどうする?」


 とりあえず、一度家に帰って気持ちを立て直したい。ゆっくりコーヒーを飲んで、シルフィが戻ってくるまで休憩しよう。


「なんじゃ今日は全然動いておらんじゃろ。体調でも悪いのか?」


 ……体調は万全だよ。ただ、精神的ダメージが大きかっただけだ。


「単なる気疲れだよ。それで二人はどうするんだ?」


「そうじゃな、儂はシルフィが戻るまで醸造所に行くか」


「お姉ちゃんもノモスちゃんと一緒に醸造所に行ってくるわー」


「そうか、じゃあまた後でな」


 二人と別れて俺は家に戻る。途中でちょっとだけ広場建設予定地を覗いて癒されたのは内緒だ。


 ***


「ゆーたー、しるふぃもどってきたー」


 夕食が終わり、リビングでまったりしていると、ベルがシルフィの帰還を知らせてくれた。


「ありがとうベル」


 飛び付いてきたベルを抱っこして、お礼を言いながら撫でまくる。しかしシルフィが戻ってくるのに結構時間が掛かったな。なかなか発見できなかったか、スカウトに手間取った可能性があるな。


「師匠、新しい精霊がくるなら、あたし達も出迎えた方がいいよな?」


 ジーナが声を掛けてくる。……ちびっ子軍団+ジーナは精霊の村にも遊びに行くだろうし、顔合わせは早い方がいいか。


「そうだね。みんなもお世話になるだろうし、みんなで出迎えよう」


 リビングに居る全員で外に向かう。


「あっちー」


 ベルが指さす方向を見る。暗視スキルがあるから、暗闇でもある程度は見えるんだが、まだ遠いのか影すら見つけられない。相変わらずベルの索敵範囲は広い。


 しばらく待っているとようやく影を確認できた。影は六つ、……一つはシルフィだとして、人数が多いように感じるが、精霊をスカウトできたみたいだな。


「ねえ師匠、いまからくる精霊がおみせをするんだよな? おれたちもあそびにいっていいのか?」


 マルコが楽しそうに聞いてくる。楽園にお店ができるのが嬉しいらしい。最近は迷宮都市でも買い物に行く事もあるし、マルコも積極的になったんだな。


「ああ、遊びに行くのは問題ないよ。でも、しばらくは開店準備とかで忙しいだろうから、落ち着いてからみんなで行こうか」


 ちびっ子軍団+ジーナが楽しそうに頷く。精霊の村ができると、俺達にも良い影響がでそうだな。

読んでくださってありがとうございます。

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