二百六十二話 新しい建物
精霊の村に必要な物資を日帰りで迷宮都市に買いに行き、ちょっと過密スケジュールだったかなと思いつつも、予定を全部熟して楽園に戻ってきた。頑張れば予定外の事が起こってもなんとかなるもんだな。
リビングに入ると誰もいない。ちびっ子軍団+ジーナはもう寝てるみたいだ。大精霊達は醸造所か?
「シルフィ、お疲れ様。買ってきた物は俺が預かっておくけど、この後はどう動くの?」
「そうね、明日にはノモス達を引っ張り出して、食堂、子供達の宿、雑貨屋を作ってもらうわ。石造りのシンプルな物になっちゃうけど、ある程度の形はできるはずよ。それと私は食堂の料理人と、雑貨屋の店員をスカウトしてくるわ」
「かなり急ピッチで事が進んでるけど大丈夫?」
「もう少しゆっくり作りたかったのは確かね。でもまあ、大枠を作っても、後から手を入れる事はできるわ。楽しみに待ってる子達が沢山居るんだから、大人も少しは頑張らないとね」
シルフィが苦笑い気味に答えてくれる。とりあえず迎え入れる環境を先に作って、そこからは時間を掛けて発展させていくって感じかな? 俺が想像している以上に、精霊宮にいる中級精霊、下級精霊、浮遊精霊は多いのかもしれない。
「なるほど、でも店が雑貨屋と食堂だけだと少し寂しいな。うちのちびっ子軍団も遊び相手が増えて喜ぶだろうし、精霊達が遊びにきたら公園とプールも自由に使っていいよ。広場が完成したら広場もね」
「あら、遊ぶ場所が有るのと無いのでは大違いだから助かるわ。ありがとう裕太」
「どういたしまして」
その後、シルフィと精霊の村について簡単な打ち合わせをする。これでおおまかな予定はたった。さて、俺も今日は疲れたし、そろそろ寝るか。
「じゃあシルフィ、俺はそろそろ寝るよ」
「そう、お休み裕太。あっ、やっぱり醸造所の精霊達に買ってきた酒樽、いくつか出してくれる。あそこの精霊達も話し合いで疲れているでしょうし、お酒を差し入れしておくわ。そうね、足りないでしょうけど十樽ぐらいでいいわ」
三十人以上の精霊で十樽、確かに少ないねって思った俺はだいぶ精霊に毒されているんだろう。考えるのも面倒なのでシルフィに酒樽を十樽預け、俺は自分の部屋に戻る。
本来ならシルフィ達も、醸造所に全力投球したかったんだろうけど、子供達の圧力に負けたって事なんだろう。精霊の村が最低限の形になるのは意外と早そうだな。
***
「ゆーた、おはよーー」「キュキュー」「おはよう」「ククーー」「あさだぜ!」「……」
目が覚めて一杯のコーヒーをゆっくりと飲む。しっかりと目を覚まして部屋を出ると、ベル達が元気に突撃してきた。
朝の挨拶と共に、昨日ベル達が何をしたのかを一生懸命に教えてくれる。どうやら昨日は広場予定地にディーネとドリーを連れ出し、アドバイスをもらいながら、どこに何を作るか決めたらしい。なかなか楽しそうにやってるみたいだし、広場の完成が楽しみだな。
リビングに行き、集まっているみんなと朝の挨拶を交わす。今日の予定を話し合いながら朝食を取るが、ベル達だけでなくジーナ達もフクちゃん達も広場作りを楽しんでいるようで、目をキラキラさせながら計画を教えてくれる。
一緒に広場を作る事でジーナ達とベル達の仲も深まったのか、気軽に名前で呼び合うようになったのが印象的だ。ジーナ達は姿が見えなかった頃はベル達の事を、さん付で呼んでたもんな。
いや、姿が見えたからこそ、さん付けが無くなったのかも。ベル達の外見はキッカよりも断然幼いからな。さん付けには違和感があるだろう。
「よし、じゃあ話し合った通りにそれぞれ行動しようか。えーっとジーナ、広場予定地に岩と木材が欲しいんだよね? 本当に加工は手伝わなくていいの?」
「ああ、加工はトゥルやタマモが手伝ってくれる約束なんだ。岩の加工ならウリも活躍できるって張り切ってるし、師匠の手をわずらわせないで済みそうだ」
自信たっぷりにジーナが言う。……ちょっと頼ってもらえないのが寂しいんだけど、ここは師匠として弟子達の成長を喜ばないといけない。
広場作りは俺がちびっ子軍団+ジーナに出した課題なんだから、俺の手をできるだけ借りないようにする事は当然の事なんだ。……決して疎外感を味わってる訳ではない。
「師匠、どうかしたのか?」
「い、いや、なんでもないよ。じゃあとりあえず二メートル四方の岩を三つと、木材十本渡しておくね」
「おう!」
家から出て魔法の鞄から岩と木材を取り出し、それをジーナが使っている魔法の鞄に納める。魔法の鞄って、鞄と鞄で直接やり取りできないのが面倒だよな。一度外に出して、再度収納しないといけないから地味に手間がかかる。チート性能の魔法の鞄の唯一の弱点だな。
「じゃあ師匠、行ってくる」
「ああ、あんまり無理はしないようにね」
ちびっ子軍団+ジーナが楽しそうに広場建設予定地に向かうのを見送り、俺はシルフィ達の方に向き直る。
「……その生温かい目を止めてくれると嬉しいな」
「ふふ、だって裕太、寂しがってるのがバレバレよ。もっと頼ってくれてもいいのに! とか思ってたでしょ」
シルフィが無自覚に……いや、完全に自覚して俺の心をエグってくる。
「……さて、精霊の村を作るんだったな。ノモスが建物を作るんだよな?」
ディーネが「裕太ちゃんが聞こえないふりしてるー」とか言ってるが、まるっと無視だ。この場でいくら足掻いてみても形勢の不利は覆せないからな。
「うむ、まずは大部屋の宿舎と食堂と雑貨屋じゃな。個別の家や道、植物なんかは追々じゃ」
ノモスが俺の言葉に乗ってくれる。しょうがないから話に付き合ってやるわい! って感じがまる出しだけど、それでも十分にありがたい。
「話を聞いた時に思ってたんだけど、宿舎と食堂をなんで別々に作るの? 一体化させておいた方が手間は少ないだろ?」
「確かにその方が手間が少ないんじゃが、あ奴らの目的が楽園を楽しむ事じゃからな。手間が多い方が逆に喜ぶじゃろう」
なるほど、元々精霊はご飯を食べる必要も、実体化する必要もないんだ。お出かけをしてご飯を食べる、これも一つの娯楽なんだな。俺としては上げ膳据え膳の、温泉旅館みたいなのが好みだけどな。
不便を楽しみにきていると言えば良いのか……都会に住んでいる人が田舎っていいよねー! て感覚なのかもしれない。
「あれ? そういえば両替所は作らないのか? 精霊石のなりそこないと、お金を交換するんだろ?」
「うむ、そのつもりじゃが……金など使わんからすっかり忘れておったな。もう一軒建物と人員を増やすか」
忘れてたのかよ。お金にまったく興味がないとそんなものなのか? 俺は資産に余裕ができても、お金の事は気になっちゃうんだよな。根が庶民だとどうしようもないのかもしれない。
「了解、村はどこに作るの? 東側は醸造所で使ってるから西側だよな?」
「うむ、裕太の弟子達が作っておる広場の向こう側じゃな。そろそろ始めるから移動するぞ。シルフィも笑っておらんで、スカウトに行ってこい。宿と食堂と雑貨屋、両替所は使う者の意見を聞いて、微調整せねばならんのじゃからな」
「ふふ、そうね。じゃあ裕太、ちょっと行ってくるわね」
「ああ、気を付けてな」
俺が少しホッとしたのが分かったのか、シルフィは再び軽く笑った後に大空に飛び去っていった。なんでだろう、シルフィの表情ってあまり変わらないのに、笑ってるってハッキリ分かるようになってしまった。契約してると表情も読みやすくなるのかな?
「僕も建設には何の役にも立たないから、動物達を見回ってくるね」
「私も植物の様子を見に行ってきます」
「んー俺はどうしようかな? 家を建てるのを見てるのもつまんねえし、醸造所に行って発破を掛けてくるか」
「お姉ちゃんは裕太ちゃんが寂しいといけないから、一緒に居てあげるわー」
ヴィータとドリーは動植物の見回りに、イフは醸造所に発破を掛けに行ってしまった。そしてディーネは俺が寂しくないように、一緒に居てくれるそうだ。なんか納得がいかない気持ちを抱えながら、場所を移動する。
途中で広場建設予定地の横を通ったが、頑張って中を見ないようにした。ここで中を覗くと仲間に入れてほしいのに、素直になれない思春期の子供……的な扱いをディーネにされてしまう。
「裕太ちゃん、広場の事は気にならないの?」
「ん? 気にならない訳じゃないけど、邪魔するのも悪いからね。あとで話を聞いて満足するよ」
正直ものすごく気になるが、ここではくだらない見栄を張ろう。ディーネのおもちゃになるつもりはないぞ。だからそんなに不満そうな顔でこちらを見ないでほしい。
「ふむ、まずは食堂から作るか。おそらく精霊達には一番人気になるじゃろうから、少し大きめに作るぞ」
ノモスがそう言って右手を振ると、ズゴゴゴゴっという地響きと共に地面が盛り上がり、大き目の建物が完成した。
「……ノモス、凄いんだけど、なんか土の色そのまんまで地味だぞ。村の一番人気になる場所なんだから、もう少し凝った作りにしたらどうだ? それと一部屋だと働く精霊が休む場所がないから、裏に精霊が休憩できる部屋も作った方がいいんじゃないか?」
形も単に大きな四角い箱だし、建物としてのワクワク感があまりにも少ない。醸造所を見て、俺が豪邸はノモスに作ってもらえばいいじゃんって言ったのを、シルフィ達が止めたのはこういう訳だったのか。
醸造所だからシンプルな作りになってるんだと思ってたんだが、ノモスは建物自体に興味がないらしい。ノモスは職人気質だから興味があったら徹底的に凝るもんな。
「土から作ったから当たり前じゃろうと言いたいが……確かに地味じゃな。せっかく実体化したのなら、そのままくつろげる場所もあった方がいいじゃろう。裕太、砂浜の砂を出してくれ」
「ああ、どのぐらい必要なんだ?」
「そうじゃな。境になっておる岩二つ分ほど出してくれ」
結構な量だな。まあ砂は大量にゲットしてあるから構わないか。ノモスに言われた量の砂を魔法の鞄から取り出す。
「これでいいか?」
「うむ、十分じゃな。ではやり直すか」
ノモスが再び右手を振ると、先ほど作られた食堂が崩れ平らな地面に戻る。再びノモスが手を振ると、砂浜の砂と混じり合うように土がうごめき盛り上がった。
「今度はどうじゃ?」
……今度のは評価に悩む。同じく箱型だが後方に一部屋追加され、色が茶色いのは変わらないが、建物の表面は陶器のように固められて太陽の光をキラキラと反射していいる。そして驚きなのが、建物の前面がオールガラス張りになっている。
シンプルではあるが、これはこれで有りなのか? なんとなくカッコいい気がする。ただ、死の大地は直射日光万歳って感じなんだよな。大きなガラスはカーテンで遮る事になるのか?
「ディーネはどう思う?」
「うーん、可愛くはないけど、ノモスちゃんにしたら頑張ったと思うわよ」
なるほど、ディーネの言葉でなんとなく理解した。ノモスは建物は屋根と壁があればいいじゃろって感じなんだな。
「じゃあとりあえず外観は完成って事にしておこうか。中の広さは十分だし、建物の内装はシルフィが連れてくる精霊の意見を聞いた方がいいよね」
「そうね、使う精霊の意見を聞いた方が確実ね。料理好きの変わった子だもの、たぶん凄く拘りを持ってる子だと、お姉ちゃんは思うわー」
シルフィが連れてくる予定の料理好きの精霊も、結構癖が強そうだな。どんな子が来るんだろう? 闇の精霊王様みたいな色っぽい美女だったら嬉しいな。……この手の願望は俺の思い通りにならないから、たぶん上手くいかないだろうけど……。
とりあえずシルフィが戻ってくる前に残りの、子供用宿屋と雑貨屋、両替所を建ててもらおう。まずは俺とディーネの微妙な評価に機嫌を損ねたノモスをなぐさめる事から始めるか。
読んでくださってありがとうございます。




