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二百六十話 精霊石のなりそこないの値段

 シルフィと精霊の村について話し合った。だいたいの目途はついたものの、資金稼ぎをする商材の確認の為に、日帰りで迷宮都市に行く事になった。


「師匠、おはよう」


「おはようジーナ。朝早くから悪いね」


 まだ日が昇り切っていない薄暗い時間帯。リビングに降りる前に子供部屋を覗いたら、大きなベッドで団子になって眠るベル達が見れた。スマホで撮影したくなったが、フラッシュとシャッター音で起こしてしまいそうなので、泣く泣く諦めた。


「いいよ、いいよ。なんてったってあたし達の食事の事だからな」


「そう言ってくれると助かるよ。とりあえず夕食の分まで渡しておくけど、傷みやすい料理は朝と昼で食べちゃってね。特に乳製品は傷みやすいから気を付けてくれ。もし気になるのなら、氷室に傷みやすい料理を置いておくのもいいかもね」


 俺の魔法の鞄からジーナの魔法の鞄に次々と料理を移す。


「ああ、分かった。でも夜には戻ってくるんだよな?」


 今から出発すれば迷宮都市で十分に時間を掛けても、夜には戻って来られるだろう。


「うん、その予定。サラ達の事を頼むね」


「ああ、みんなしっかりしてるから、大丈夫だろうけど注意しておくよ」


「お願い、じゃあ行ってくるね。シルフィ、行こうか」


 ジーナに別れを告げて、シルフィと一緒に大空に飛び立つ。片道約四時間、のんびりシルフィと話しながら行くか。


 ***


 迷宮都市近くの目立たない場所に着陸する。あっさり何事も無く到着したな。でもまあ聖域や精霊の村、精霊石、ベル達についてなど、ゆっくり話せて結構充実した時間だった。

 

「シルフィ、お疲れ様」


「ふふ、これぐらいじゃ疲れないわ。じゃあ行きましょうか。最初はマリーの雑貨屋よね?」


「そうだね。マリーさんかソニアさんに会えれば、交渉もできるだろうから、とりあえず行ってみようか」


 シルフィも結構気合が入ってるな。口では面倒だって言ってたけど、小さい精霊達が精霊の村を楽しみにしているのを聞いて、やる気になってるのかもしれない。表情があまり変わらないから分かり辛いけど、なんとなく微笑ましい。迷宮都市の門を抜け雑貨屋に到着する。


「すみません、マリーさんにお会いしたいんですが、いらっしゃいますか?」


 店員さんに声を掛ける。ソニアさんの気配を消したお出迎えを阻止できたのは少し嬉しい。まあ、今までの行動パターンから外れてるし、突然一人で現れたんだから無理もないけどな。


「あっ、はい。少々お待ちください」


 店員さんが奥に駆け込み、代わりにソニアさんが出てきた。その表情は心なしか悔しそうで、俺に勝者の余韻を味わわせてくれる。


 別に俺とソニアさんで勝負をしようとか約束した訳じゃないんだが、いつの間にかソニアさんを出し抜きたくなってたんだよな。たぶんソニアさんも同じような気持ちだったと信じておこう。


「裕太様、いらっしゃいませ。応接室にご案内致します」


「ああ、ソニアさん突然すみません。よろしくお願いします」


 ちゃんとニヤニヤ顔を引っ込めて真顔で謝れたかな? 一瞬ソニアさんの口元がヒクついた気がするから、ドヤ顔が出てしまったかもしれない。


 応接室に案内され、出された紅茶を飲みながら一息ついていると、足早にこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。マリーさんが来たようだ。予想通り足音は応接室の前で止まり、軽くノックをした後にマリーさんが入ってきた。


「裕太さん、遅くなってすみません」


「いえ、こちらこそ突然来てしまって申し訳ないです」


「裕太さんならいつ何時どんな時でもいらして下さって構いません。自宅の場所もお教えしておきましょうか?」


 なんでお詫びしたら、自宅の話になるのかさっぱり分からないな。ただ分かるのは据え膳を食ったら逃げられないって事だけだ。


「あはは、それはまたの機会でお願いします」


「そうですか、いつでもお教えしますのでご遠慮なく。それで裕太さん、どのような御用でしょうか? あっ、申し訳ありませんがアダマンタイトは、まだ時間が掛かりそうなのですが……」


「アダマンタイトの事はマリーさんの都合に合わせますので、問題ありません。今日来たのは少しご相談がありまして、お時間を頂けますか?」


「ええ、裕太さんのご相談であれば最優先で対応させて頂きます!」


 凄くありがたい言葉なんだけど、マリーさんの目が儲け話? 儲け話だよね? って俺に訴えている気がする。


「ありがとうございます。まずはこちらを見て頂けますか」


 魔法の鞄から精霊石のなりそこないを取り出し、マリーさんの前に並べる。シルフィが醸造所にきている精霊達も動員したようで、様々な色の精霊石のなりそこないがある。


 マリーさんと背後に控えていたソニアさんも身を乗り出し、食い入るように石を眺めている。なかなかの好感触ですな。


「裕太さん、手に取っても構いませんか?」


「ええ、自由にご覧になってください」


 俺の言葉にマリーさんとソニアさんが手袋をして石に触れる。……こういう商談に使う応接室って、ちゃんと考えられてるんだな。ソニアさんが棚の戸を開けると幾つも手袋が常備されてたよ。


「裕太さん、この石は宝石なんですか?」


「いえ、違います。ガラスよりも少し硬いぐらいの、色付きの石ですね」


 あれ? 透明の色付きの石ってもう、宝石のカテゴリーに入ってるのか?


「普通の宝石よりも脆いんですね。この球体はどのように加工されたんですか? それにどの石にも濁りも無く大きさも揃っています。もしかしてこの石自体が人工物なんですか?」


 人工物……精霊が造った物も人工物って言うんだろうか? チラッとシルフィを見る。


「裕太、人工物でいいと思うわよ。それなら定期的に卸しやすいもの」


 それもそうか。数量調整もしやすくなりそうだ。


「ええ、製法は秘密ですが、作られた石です」


「大きさや形を変える事はできますか?」


 マリーさんの目の色が強い興味から、欲に濁った目に変わってきた。儲ける目途がついたのかもしれない。


「大きさはその玉より、一回り小さいぐらいまでは変えられますが、大きくはできませんね。形は……」


 今の大きさよりも大きくすると、精霊石になっちゃうらしいから、大量にバラ撒くのはダメなんだそうだ。形の方は聞いてなかったな。考えるふりをしながら、シルフィに目線でどうなのか聞いてみる。


「うーん、玉が力を込めやすくて一番作りやすいのよね。中級精霊以上なら、ある程度は形を変えられるけど、複雑なのは難しいわね」


「形は玉が一番作りやすくて、他の形だと作れない事もないのですが、量は揃えられそうにないです」


「そうですか……」


「どうでしょう? この玉は商品になりますか?」


「卸値次第ですが、商品には間違いなくなります。卸値は幾らをご希望ですか?」


「そこも含めてマリーさんにご相談したいんです。ただ貴重品として扱われるよりも、ある程度安くても量が販売できるようになってくれた方が嬉しいです」


 お買い物をしたい精霊達が頑張って作るだろうし、単価を上げて在庫をダブつかせるよりも、ある程度量が販売できる流れの方がありがたい。


「そうですか…………そういう事でしたら単価は安くなりますが、若い子や豊かではない人向けの宝飾品として売りに出せそうです。他にも家や家具の装飾にも利用できそうですし、最初は一粒三千エルトでどうでしょう?」


 ん? 結構高いな。確かに綺麗だけどガラスよりも少し丈夫なただの石だぞ。最終的にオハジキみたいな感じになる事も考えてたんだけど…………ああ、そういえばガラス自体が高価なんだよな。


「思っていた以上に高いのですが大丈夫ですか? 今は数を確定できませんが、これからも定期的に運んで来ますよ?」


「これだけの物ですから、これ以上値段を下げるのは良い結果を生みません。卸値がこの値段でも他国での転売や、宝石と偽っての詐欺行為が起きる可能性があります。あまり安くし過ぎますと、買い占められて被害が大きくなりますね」


 人気アイドルグループのチケットの転売みたいなものか? いやちょっと違うな。この世界だと良い物をより安くなんて考えると、他人に儲けを掻っ攫われるんだろう。


「そういう事でしたら、マリーさんの判断にお任せします」


「ありがとうございます。私共で販売する際は商業ギルドに届けを出し、若干脆い事等この石の情報を周知しながら商売を致します。できるだけ詐欺や転売に利用されないように致しますので、ご安心ください」


 そうしてくれると助かるな。変な詐欺師に利用されて、精霊石のなりそこない自体が売れなくなったらそれはそれで嫌だ。


「よろしくお願いします」


「はい、お任せください。それでなのですが、持ってきていただいた石は全部卸して頂けますか?」


「俺としては全部買い取ってもらえれば助かりますが、結構量がありますよ?」


「問題ありません」


 普通はサンプルとしていくつか預かって、調べてからどのぐらい仕入れるか決定するよな。これって気を使われてるのかもしれない。でもそのおかげで、早めに精霊が使えるお金が手に入るのは助かるな。


 精霊達が両手で持てるぐらいって事で、属性毎に二百個作ってくれている。いま楽園に居る精霊達で八属性居るから全部で千六百個で、四百八十万エルトになるって事だな。……一気に結構な大金が手に入ったぞ。


「裕太、お金が余ったらお酒を買って帰ってもいいかしら? 醸造所のみんなも喜ぶと思うんだけど」


 醸造所の人達もお酒を飲みたいだろうし、お土産を買うのは賛成なんだけど、食材や雑貨、ベッドを買ってお金が余るんだろうか?


 まあベッドはそこまでランクが高い物を買う訳でもないし、食材の肉類は迷宮での乱獲だから余る可能性も高いか。とりあえず余ったらねと目線で伝えるが、上機嫌になったシルフィにちゃんと伝わったかが不安になる。

 

「では、全部買い取りでお願いします」


「分かりました。では、すぐに代金をご用意しますね」


「あっ、ちょっと待ってください。まだ頼みたい事があるので、代金は終わってからでお願いします」


 まだまだ頼みたい事は沢山あるんだ。手間を取らせてしまうが、精霊の村を作る為に色々と協力してもらおう。

読んでくださってありがとうございます。

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