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二百五十八話 相談?

 コーヒー豆の加工にも無事に成功し、俺の異世界生活がまた一つ豊かになった。遅々とした進みであるが、自分でコーヒーが加工できた事は、大きな一歩になるだろう。


 少し知的な事を考えながら優雅に朝のコーヒーをすする。これが現代人のあるべき朝の姿だな。一人で悦に入っていると部屋のドアがノックされた。まだ朝食には時間があるはずだけど誰だ?


「シルフィよ。入っていい?」


「ああ、シルフィか、入っていいよ」


 俺が許可を出すと、シルフィが部屋に入ってきた。朝に俺のところに来るのは珍しいな。普段はリビングでくつろいでるのに。


「どうしたの?」


「ふふ、やっぱりコーヒーを飲んでたのね。目覚めにコーヒーを飲むんだ! って言ってたから、ご相伴に預かりにきたのよ。朝飲むコーヒーが美味しいんでしょ?」


 どうやら俺の行動が完璧に予測されていたらしい。まあ、飲むって自分で宣言してたんだけどね。朝のひと時に一人静かにコーヒーを飲む。それはそれで素晴らしいが、シルフィみたいな美女と一緒に飲むコーヒーには敵わないだろう。大歓迎だ。


「ああ、目覚めのコーヒーは格別に美味しいんだ。まあ精霊のシルフィもそうなのかは分からないんだけど……」


 シルフィに対面のソファーに座るように勧めながら、コーヒーの準備をする。


「あら、聖域になって私達の体が実体化しているんですもの。たぶん感覚も似たようなものよ」


 そうみたいだけど、ベル達とか普通に飛び回ってるからな。説明されても未だに実体化の影響がよく分からない。ジーナ達みたいに精霊の姿が急に見えるようになったのなら、実感が湧きやすいんだろうが……まあ、同じ美味しさが味わえるのであれば、それで十分か。


「はい、コーヒー。牛乳を少しで砂糖なしだよね?」


「ええ、ありがとう。頂くわ」


 シルフィが少し香りを嗅いだ後、コーヒーに口を付ける。


「この苦みと香りが、朝の飲み物として向いているって事なのかしら?」


「どうだろう? 俺は眠気覚ましとしての効果もあるから、朝はコーヒーが人気になったんだと思ってたけど、精霊は実体化したら眠気が強くなったりするの?」


「眠気ね。ずっと実体化をして人間と同じように生活をしていれば、眠気を感じるようになると思うわ。実体化を解いて自然に溶けていれば、そう言う感覚はないんだけどね」


 眠る必要がない……忙しい時には羨ましい能力だな。俺は惰眠を貪るのが好きだからそこまで羨ましくはないが、ワーカーホリックな人や一部ゲーマーとかは、歓喜しそうだ。


「シルフィも自分の部屋ができたら、人間みたいな生活をするの?」


「ええ、そのつもりよ。楽しそうだもの」


 楽しそうだからか、ものすごく簡単な理由だな。でも楽しみにしているのなら頑張らないとな。


「うーん、俺としては醸造所の方が忙しそうだから、そっちが落ち着いてから豪邸を建てる計画を始めようと思ってたんだけど、それならすぐに豪邸を建てる計画を始めた方がいい?」


「裕太の言う通り、みんな醸造所に夢中だからそこまで急ぐ必要もないわ。でも豪邸って言ってもどんな形を考えているの? 一応魔法の鞄の容量についてはこれからも隠すのよね?」


「ああ、一応隠すつもり。すでに偉い人達に目を付けられてるから、隠す意味もあんまりない気がするけど、自分で簡単に制限を外すと、それはそれで不味い気がするんだよね」


 自分でハメた緩々の枷だけど、アッサリ枷を外しまくってたら、いずれは大精霊の力を使って世界征服だーとか言い出しそうだ。


「裕太の場合は制限を外しても、大袈裟な事はできそうにないんだけど……。でも自分に制限を掛けようと思うのはいい事よ。そう考えている間は暴走する事もないわ」


 完全に見抜かれてるな。世界征服だーって叫んで実際に動き出そうとしても、直前で面倒臭さに負けるタイプだ。でも用心は大切だと思う。世界征服は有り得ないにしても、俺だって欲望に負けてバカをする可能性は大いに有る。


「まあ、そう言う訳で豪邸と言うよりも、いくつか大きな建物を建てて、橋で繋ぐような感じをイメージしてるんだ。そうすれば自分が住む建物の内部を、ある程度自由にリクエストできるから楽しいだろ。一人一軒だと時間が掛かりそうだから、相性が良い組み合わせを考えてくれたら助かるな」


 積み木みたいにジルさんに発注した家を合体させて、豪邸って事にしようかとも思ったが、中途半端に引っ付けるよりもある程度独立させた方が違和感は少ないだろう。


 ディーネとか家の中に滝や水路がほしいとか言ってたし、ドリーは植物が多い方が嬉しいだろう。でもその二つなら融合もできる。それぞれの家を橋で繋げば豪邸とは言えないが、みんなが住みやすい家になるだろう。


 別に橋で繋がなくても、それぞれ個別に家を建てればいい気もするんだが、どうせなら繋がってる方がカッコいいし雰囲気も出ると思う。


「そうね、私だったら風通しが良くて障害物が少ない家が好みだし、ディーネなら水場を家に作りたがるでしょうね。……面白いわ」


「そう言えばイフだったらどんな家を好むのかな? 水や風はともかく、家の中に大きな火が焚かれたりすると地味に怖いんだけど……」


 もちろん、火の精霊が住むんだから火事の心配はないんだろうけど、それでもちょっと怖いよな。


「イフが好む家ね……確かに家の中に火は欲しがるでしょうけど、そんなに大袈裟な物をほしがるとは思えないわ。イフは火の大精霊、火の危険性もよく知ってるわ」


 前に火山に住んでたって言ってたから、迷宮の火山みたいに、シルフィの助けがないと入る事もできない家を想像してたな。


「なるほど、安心したよ。じゃあ、みんなに自分が住みたい家を考えてもらってから、次に迷宮都市に行った時に、ジルさんに出来るかどうか聞いてみるね。醸造所の件もあるけど、みんなで話し合ってどんな家がいいか考えておいてくれ」


「ええ、いい家を考えておくわ。あら、そろそろ朝食の時間ね」


 コーヒーを飲みながら少し話し込み過ぎたな。シルフィと一緒に部屋を出ると、いつも突撃してくるベル達がこない。シルフィがきてたから遠慮したのかな?


 少し寂しく思いつつもリビングに降りると、ベル達、ジーナ達、フクちゃん達がディーネとドリーを取り囲んで何事かを相談している。


 ちびっ子達からの元気がいい質問に、ドリーはちょっと押され気味だな。反面ディーネは余裕の表情でちびっ子達を捌いている。ディーネって幼稚園の先生とかに向いてるのかも。


「みんなおはよう。朝から何を話してるの?」


「あっ、ゆーただー。おはよー」


「おはよう、ベル」


「あのね、べるたちはひろばのおはなししてたー」


 エッヘンと胸を張り、ベルが何の話をしていたのか教えてくれた。昨日、みんなで広場を作るように言ったんだったな。それでディーネとドリーに相談していたのか。


「そうだったのか。みんな頑張って偉いな。でも、朝食の時間だから話はご飯を食べてからにしようか」


 みんなと朝の挨拶を交わし、朝食の準備をする。今日朝食に来た大精霊はシルフィ、ディーネ、ドリーか。残りは醸造所に居るっぽいな。


 ***


 朝食が終わり、ちびっ子軍団(ベル達、フクちゃん達、サラ達)+ジーナは、ディーネとドリーを引き連れて広場の建造予定地に走って行った。ジーナ達も昨日は不安そうだったけど、みんなと話し合っている間に不安が取れたのか、なかなかいい雰囲気だったな。


 ディーネとドリーが協力しているのなら、失敗はしないだろう。少し心配なのがディーネの暴走だな。湖を作ろうとか言い出してもおかしくないところが怖い。まあ、ドリーがついてるからディーネの暴走は止めてくれるはずだ。


 聖域になってからこの場所の名前が決まり、コーヒーが完成し、酒造りの精霊達がやって来て醸造所を作っている。ちびっ子軍団+ジーナが綺麗な広場作りに着手し、俺は新たに豪邸? を建てる計画を始めた。なんだか一気に楽園が元気になった気がする。


 俺も負けてられない。とりあえず豪邸に関しては大精霊達の意見がまとまってからだ。動物達と仲良くなるには、ヴィータの許可が下りてないし、ちびっ子軍団+ジーナは広場建設予定地に行っている。あれ? やる事がないんだけど……。


 みんな頑張ってるのに俺一人がだらけていると、それはそれで師匠の威厳的に問題だ。俺も何かを始めないと。


 一瞬、ちょうどいい機会だから、コッソリ他国に遊びに行っても良いんじゃないかとも思ったが、さすがに今はダメだろう。でも聖域になったって事はここの安全度は格段に上がったんだよな?


「裕太、どうかしたの?」


「あー……うん、やる事が思いつかないんだよね。何かしらやっておくべき事は有るはずなんだけど、これだって事が思いつかなくて。シルフィ、今の楽園で至急やっておくべき事ってなんだと思う?」


 グァバードのすり込みは違うし、果樹園や椿油の採取も違う気がする。水路の最終地点を釣り堀にするつもりだったけど、そこまで魚は増えていない。


「そうね……すぐに思いつかないのなら、ちょっと私達の相談に乗ってくれるかしら? 裕太の力を借りたいの」


 ……えっ? 俺がシルフィ達の相談に乗って力を貸すの? 逆なら分かるが違和感がハンパ無い。


「えーっと、俺で役に立つかは分からないけど、できるだけの事はするよ。でも相談なら朝、コーヒーを飲んでる時にでも話してくれればよかったのに」


「私達のワガママだもの。裕太の予定がないみたいだから、相談させてもらう事にしたの。正直、助かったわ」


 俺の予定があるのなら、そっちを優先してくれたって事か。だいぶ気を使ってもらってるみたいだが、それだけにワガママって言葉に怖さを感じるな。


「そうなんだ、それで相談って何なの? 醸造所の事?」


「醸造所の方は私達で大丈夫ね。力を貸して欲しいのは楽園に作る予定の精霊の村の方ね」


 精霊の村の話か。楽園の東側は酒造り、西側は村にする予定だったよな。


「あれ? でも村作りは醸造所の目途が立ってからって話じゃなかったっけ?」 


「私達はそのつもりだったんだけど……どうもそうはいかなくなったのよ。大半の精霊はお酒が好きだから、酒造所が完成するまで待っててくれるはずだったんだけどね」


 憂鬱そうにシルフィが溜息を吐く。俺が知らないところで何が起こってるんだ? 


「裕太、そう心配そうな顔をしなくていいわ。断ってくれても構わないし、裕太に協力を頼む内容は手間は掛かるでしょうけど、難しい事じゃないわ」


「それなら助かるけど、ならなんでシルフィはそんなに困ってるの? 手間がかかるぐらいなら幾らでも協力するよ?」


「困ってる訳じゃないのよ。ただちょっと面倒に思っただけよ」


 良くは分からないが、シルフィ達にとって面倒な事が起こっているらしい。まあ難しい事ではないのなら、恩返しのチャンスだし気合を入れて話を聞くか。

読んでくださってありがとうございます。

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