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二百五十五話 ジーナ達の新しい挑戦

 コーヒーの実をレインに皮と果肉と種で分離してもらったが、レインでは種の中身まで水分を抜くのが難しいそうなので、酒造りを手伝ってくれる精霊を迎えに行ったディーネ達が戻ってくるのを待つ事にした。


 しばらくしてノモス、ディーネ、イフ、それぞれ十人程の精霊を連れて戻ってきたが、簡単な挨拶をした後に速攻で醸造所の建設予定地に向かってしまった。一緒に醸造所に向かおうとしていたディーネを引き留め、種の乾燥はしてもらったから次は焙煎だな。


「ゆーた、おはよー」


 今日の予定を考えてから寝室を出るとベル達が飛び付いてきた。朝から元気いっぱいだな。ふわふわと浮かんだままのベル達を撫で繰り回しながら朝の挨拶を交わす。


 実体化していてもベル達は基本的に飛んでいる。遊んでいる時なんかは地面に降りている事もあるが、やっぱり飛んでいる方が生活的には便利なんだろう。


 シルフィ達大精霊は聖域になるとのんびり歩いている姿をよく見かける。あちらは体も大きいし、のんびり地面を歩く事でゆったりと自然を楽しんでいる雰囲気だ。


 ベル達を連れてリビングに行くと、こちらも朝から元気いっぱいマルコがキッカを連れて駆け寄ってきた。


「師匠! すごいんだ。でっかい家ができてる」


「おっきいの!」


「マルコ、キッカ。ちゃんとお師匠様に朝の挨拶をしないとダメよ」


「そうだった。師匠! おはよう」


「おししょうさま、おはよー」


「お師匠様、おはようございます」


 サラに注意され、マルコとキッカが朝の挨拶をしてくれる。なんかサラ、若いのにお母さん的な役割を担いだしてないか? それとマルコが気になる事を言ってたな。


「おはよう、サラ、マルコ、キッカ。それで……」


 デッカイ家ってどう言う事かを聞こうとしたが、すでに目の前はサラ達、ベル達、フクちゃん達が揉みくちゃになりながら、朝のご挨拶をしていた。


 ……楽しそうだしいいか。自分で確認した方が早そうなので外に向かう。デッカイ家……まあ、十中八九醸造所なんだろうな。


「あっ、師匠おはよう。あそこを見てくれ、なんかいつの間にかあんな建物ができてるぞ」


「おはようジーナ。うん……できてるね」


 昨日精霊達が向かった先に、高さはそれ程ではないが横に広い建物が完成していた。んー、デッカイって言ってたから、どんな物かと密かにビビってたが、それほど大きい建物ではないな。


 高層ビルみたいな物を想像したのは大袈裟だったらしい。大きいのは大きいが、精々俺の家の三軒分ってところか? ノモス達が作った酒造所としては小さい気がする。たぶん気を使ってくれたんだろうな。


 前にノモスと話していた時は、酒蔵を建てるよって約束した気がするが、この様子なら俺が建てる必要はなさそうだ。むしろ、俺がノモスに豪邸を建ててもらった方がいい気もする。


 って言うか、俺が岩山から切り出して作った蒸留所も、ノモスが自ら作ればもっと使いやすい建物ができただろうに……あれ? もしかしなくてもここでも気を使われてた?


 ……蒸留所を作った時、俺、ドヤ顔をしてなかったか? ……いかん、これ以上考えるな。これって絶対に深く考えたら、地面を転げ回りたくなるやつだ。俺は間違ってない。できるだけ大精霊の力は借りないようにするよって約束したんだから、蒸留所を俺が造った事は間違ってない。


 それに建物を自分のお金で作るのはいい事だ。沢山儲けてるんだから、お金を使わないと経済が回らない。それに俺がシルフィ達に約束したんだからな。うん、俺は間違ってない。


「師匠、顔色が悪いけどどうかしたのか?」


「いや、何でもないよ。あれは精霊達が醸造所を作ったんだね。とりあえず朝食を食べたら話を聞いてみるよ」


「そう言えば朝食がまだだったな。師匠、家に戻ろうか」


「ああ、戻ろう」


 美味しい朝食と、ベル達に癒されたい。


 ***


「うむ、外側を作っただけでまだ中身は全然じゃが、あそこを醸造所にするつもりじゃ。じゃが色々と作らねばならん物も多いし大変じゃわい」


 大変だと口では言いながらも楽しそうだな。醸造所を作るとか、物作りと酒造りを両方考える事になるから、ある意味ノモスにとって至福の時間なのかもしれない。

  

「でも、ノモス達ならすぐに酒造りにこぎつけられるだろ? 最初は何の酒を造るつもりなんだ?」


「それがそう簡単にいかんのじゃ」


 珍しい事にノモスが渋い顔をする。


「何か問題があるのか?」


「うむ……三つの聖域から酒造りに集まってきておるじゃろ。それぞれ酒造りに拘りがあってな、誰も譲らんから最初に何の酒を造るのかすら決まっておらん」


「……精霊ってモメたりしないと思ってたけど、そんな事もないんだな」


「うむ……確かにめったにモメ事など起こらんのじゃが、何しろ酒の事じゃからのう」


 ……ノモスが若干遠い目をしている。


「それで何の酒を造るかでモメてるのか?」


「うむ、それも重要な問題じゃが、今は原料でモメておる」


「原料?」


「うむ、原料の段階から時間を掛け、精霊の力を集結して至高の酒を造ろうと言う一派と、まずは原料から森の精霊の力を借り沢山育てて、全精霊に飲み切れないほどの酒を造ろうと言う一派じゃな」


 高級な一品を目指すか、大衆向けの安くて美味い酒を目指すかか。


「それって根本から目的が違うし、お互いに納得する事って無いんじゃないか? 最初っから醸造所を二つに分けた方が後々のモメ事は少ないと思うぞ」


「確かにそうなんじゃが、それ以外にも擦り合わせねばならん問題が多々あるんじゃ。それぞれに拘りがあり真剣に酒を造っておるからこそモメる。いちいち取り合っておったら、楽園に幾つの醸造所ができるか分からんわい。下手したら明日には十の醸造所ができておるぞ」


 船頭多くして船、山に登る状態なのか。沢山醸造所があるのはいい事だと思うが、この狭い楽園に十の醸造所ってどうなんだ? いや精霊は沢山居るんだから、それぐらいあってもいいのか? それぞれに味が違えば楽しみも大きいはずだ。


「それならそれで楽しみが増えて良さそうに思えるけど、ダメなのか?」


「うむ、醸造所が一つや二つなら構わんが、分裂して酒の生産力があまりに落ちると、酒を待っておる精霊達からクレームがくるんじゃ。楽園は注目されておるからな」


 なんか精霊社会も色々と複雑らしい。


「それで、ノモスとしてはどう考えてるんだ?」


「まあ、結局は酒を大量に作ってからの話じゃ。話し合って妥協点を探して、一丸となって酒を造る。余裕ができたら各々で自分の酒を追求するのがいいじゃろうな」


「方針はできてるんだな」


「うむ、言うのは簡単なんじゃが妥協点を見つけるのが面倒でならん。楽しい酒造りのはずじゃったんじゃが、予想外の問題があったわい」


 誰しも自分が大好きな事って、譲れない部分も多いよね。


「まあ、頑張って何とかしてくれ。ジーナも精霊が造る酒を楽しみにしてたしな」


「あの嬢ちゃんがか。まあ期待されておるんなら頑張らんとな。では戻るぞ」


 ノモスの戻っていく背中が微妙にすすけている。昨日連れてきた精霊達を、醸造所予定地に案内する時とはずいぶんな違いだ。まあ、酒を造りだしたら元気になるだろう。さて、俺はコーヒーの加工をしよう。


「師匠、あたし達は今日何をすればいいんだ?」


 そう言えばジーナ達のやる事を指示してなかったな。と言っても今のところアンデッド討伐に行くか、お休みかしか選択肢がないんだよな。


 ジーナとサラは料理をしたりしてるけど、マルコとキッカには日常に変化が少ない。せっかくフクちゃん達も実体化しているんだし、なにか新しい事を始めたいな。ん? この前もまったく同じ事を考えた気がする。


「ちょっと考えるから、ゆっくりしてて」


 俺の指示を待っていたジーナ達をソファーに座らせて、頭をフル回転させる。楽しくて経験になる事がいいよな。それでいて難し過ぎる事もなく、危険も少ない事……前に考えた時は精霊達との意思疎通が難しそうだったから諦めたアイデアが使えるかもしれない。


 ……できそうではあるが、ジーナ達とフクちゃん達だけだと難しいな。ベル達も遊んでおいでって事が多いから、ジーナ達、フクちゃん達、ベル達でやらせてみるか。


「ジーナ、新しくやってもらう事が決まったよ。ベル達にも手伝ってもらうから、一緒についてきてね」


 ジーナ達、フクちゃん達、ベル達を連れて外に出て、公園の隣で一番西側のブロックに向かう。新しい事って何をするのとマルコやベルが聞いてくるが、特に意味もなくついてからのお楽しみだよって言ってしまった。説明するだけだから、別に歩きながら説明しても良かったんだけどな。 


「この一ブロックをみんなに任せるよ!」


「お師匠様、任せるってどう言う事ですか?」


 俺の突然の言葉にみんながキョトンとしているなか、サラが首を傾げながらも質問してきた。


「うん、良い質問です。ここをみんなで考えて綺麗な広場にしてください」


「広場ですか?」


「そう、広場。ここは一番西側で沢山の精霊達が来る場所に面してるんだ。ただ一面の土だと寂しいから、精霊達がここを見た時に喜んでもらえるよう頑張ってね」


 ジーナ、サラ、マルコ、キッカは見て分かるぐらいに困惑している。ベル達とフクちゃん達は「きれいにするー」って無邪気に騒いでいるからよく分かってなさそうだ。


「師匠、そう言われても、何をしたらいいのかすら分からないんだけど……」


 だよね。俺も無茶振りしてるって自覚はある。


「分かってるよ。だから有ったらいいなってリクエストが幾つかあるから、参考にしてみて。まずは平坦な地面だけだと寂しいから、少し丘みたいな場所が欲しいな。あと、池とか花畑なんかがあったら綺麗だと思う。休憩所も欲しいね」


 ちょっと適当だけど、綺麗な池と花畑があれば大体何とかなるはずだ。


「お師匠様。それだけの事を私達だけでやるのは難しいと思います」


「基本的な事はジーナ達、フクちゃん達、ベル達で相談して決めるんだけど、自分達では難しい事は俺や大精霊達に相談してもいいんだ。足りない物も俺に言えば、できるだけ調達してくるから心配しなくていい。訓練なんだから失敗しても構わないし、時間が掛かっても構わない。全員で色々と相談して頑張ってね」


「訓練なんですか?」


「そうだよ。戦う以外にも精霊に力を貸してもらえる事は沢山あるからね。周りには沢山の精霊がいるんだ、沢山話を聞いて色々と挑戦してごらん」


 少し四人で相談した後、ジーナが一歩前に出た。


「師匠、やってみるよ」


 なんか凄く気合が入った顔で言われた。もっと気楽にやってくれていいんだけど、訓練って言葉がプレッシャーを掛けちゃったか? 文化祭的なノリでいいんだけどな……。


「う、うん、頑張ってね。でもさっきも言ったように失敗しても何の問題もないから、気楽に楽しんでやってくれ」


「「「「はい!」」」」


 ……まあ、やる気があるのはいい事だ。これからこの場所をどうするのかみんなで話し合うそうなので、俺は家に戻ってコーヒーの種をコーヒー豆に生まれ変わらせよう。……コーヒー豆ってどの加工段階から言っていいんだろう? コーヒーの実とコーヒー豆の境目が分からない。

読んでくださってありがとうございます。

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