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二百五十三話 念願の収穫

 聖域のルールを考えた後、俺はノモスに頼まれた精霊達のスペースの岩を収納に向かい、ノモス、ディーネ、イフは他の聖域に酒造りの人員の勧誘に行った。


「ん? 公園から楽しそうな声が聞こえるね。ちょっと覗いて行こうか」


「確かに賑やかね。行ってみましょうか」


 岩を収納する為にシルフィとドリーと歩いていると、公園から賑やかな声が聞こえてきた。精霊達が実体化できるようになって、遊びの幅が広がったんだろうな。せっかく作ったんだから楽しんでもらえると俺も嬉しい。


「えっ? あれ、大丈夫なのか? えっ? ベル、フレア、危ないよ!」


「あっ、ゆーただー。べる、これたのしーーー」


「もえるぜ。もっと、もっとだぜ!」


 テンションが上がったベルとフレアが、笑いながらブランコをガンガンと漕いでいる。もう体が水平に近くなってるよ。


「いや、そうじゃなくてね、えーっと、シルフィ。どうしたらいいの? 落ちたら怪我しちゃうよ!」


「裕太、ちょっと落ち着きなさい。ベル達は飛べるのよ」


「……ああ、……でも飛ぶの間に合うかな?」


「大丈夫よ。精霊は飛んでいる状態が普通だから、あれぐらいの速度で怪我したりしないわ。普段どれだけの速さで飛んでると思ってるのよ」


 なるほど、偶に瞬間移動と見まがうばかりの速度を出すからな。あれぐらいではたいした速度じゃないか。


「納得したよ。とりあえずジーナ達には真似しないように注意しておくよ」


 ベル達に引っ張られて無茶をしたら、人間だと怪我をするからな。


「……裕太、あの子達もすでに人間の中ではかなりのレベルなのよ。この場所で命にかかわるような怪我なんてしないんだから、あまり過保護にしない事。少しぐらいの怪我なら、ムーンやプルちゃんが治せるんだからね」


 ジーナ達についても注意されてしまった。そうなんだよな、あの子達も冒険者なんだ。日本の子供達と同じに考えたらダメなんだよな。


「頑張って見守る事にするよ」


 ものすごく心臓にダメージを喰らいそうだけどね。


「それがいいわ」


 楽しそうにブランコから片手を離して、手を振ってくるベルとフレアに手を振り返して、公園の中を見渡す。みんな思い思いの遊具で好きに遊んでいる。ジーナはシバと追い駆けっこをしているし、マルコは相変わらず鉄棒に夢中なようだ。


 目を引くのがボール遊びだな。精霊達の中にサラとキッカも混じって、楽しそうにはしゃいでいる。こんな光景は聖域にならなかったら見れなかったんだ。それだけでも頑張った価値はあったな。


「楽しそうだし、邪魔をしても悪いからそろそろ行こうか」


 シルフィとドリーを促して岩の回収に向かう。……俺も後でベル達と公園で遊ぼう。みんなが公園で遊んでいるのが、ちょっと羨ましかった。俺もみんなと一緒に公園で遊びたい。


 ***


 岩を回収し、みんなと公園で戯れた翌朝、朝食を済ませてもまだノモス達が戻ってない。今日はなにをしようかな? なにかしらしておいた方が良さそうな事もあるが、優先順位が難しい。


 ふーむ、優先順位がつけ辛いのであれば自分の欲望に従うか。欲望って言っても朝っぱらからエロい事に突っ走るのは問題だろう。そうなると……コーヒーだな。毎日コーヒーが飲めるようになりたい。


「ドリー、コーヒーは実をつけても問題ないんだよね?」


「そうですね。十分土とも馴染んでますし木を急激に成長させた影響もなくなりました。実をつけても大丈夫ですね」


「よし、今日の予定が決まりました。皆さん注目ーー」


 俺の声に全員が俺に注目する。


「みなさん、今日の予定が決まりました。今日はコーヒーの実の収穫から加工まで一気に済ませてしまいたいと思います。お手伝いよろしくお願いします」


「べる、がんばるー」「キュキューー」「しゅうかく」「ククーー」「とりまくるぜ!」「…………」


 ベル達が俺の周りに集まり、力強くお手伝いを申し出てくれる。


「師匠、手伝うのはなんの問題もないんだけど、何で敬語なんだ?」


「……なんとなく?」


 ジーナになんで敬語なのかと聞かれてしまったが、特に意識をしてなかった。なんとなくみんなの注目を浴びたから、朝礼を思い出して敬語になっちゃったのかもしれない。


「まあ、特に理由はないよ。じゃあコーヒー畑に移動しようか」


 なんか締まらない朝礼になってしまったが、コーヒー畑に移動する。


「じゃあ、ドリー。頼むね」


「分かりました」


 ドリーが右手を振るとコーヒーの木が震え、みるみる間に白い花が咲き、花が枯れた後に小さな緑色の小さな実が鈴なりに実る。緑色だった実は段々と赤く色付き始め、完熟したのか濃い赤と柔らかそうなテカリが見える。


 相変わらず不思議な光景だよな、植物の成長がリアルで早回しされるとか、現実に目の前の光景なのにテレビを見ている気分になる。朝顔をドリーに成長させてもらったら、教育番組の植物の成長記録だよな。


「終わりました」


「ありがとうドリー。もう収穫しても大丈夫?」


「はい、調整して全ての実を完熟させましたから、全部収穫した方が良いと思います」


 ……ドリーの話しぶりだと、実の色付きにバラツキがある植物なんだな。迷宮で採取した胡椒も、いろんな色が混じってたから、同じタイプなんだろう。一度に収穫を終わらせられるのはかなり助かるな。


「了解。そう言う訳だから、みんな、全てのコーヒーの実を収穫してね。あと、この実は甘いらしいから、食べたくなったら食べてもいいからね。でも種は食べちゃダメだよ」


 甘いという言葉を聞いて、ベル達、ジーナ達、フクちゃん達が目に見えてソワソワしだした。食べきれないほど実が生ってるし大丈夫……だよね?


「じゃあ、収穫始め!」


 一斉にコーヒー畑に突撃して行く子供達。さっそく熟したコーヒーの実を口の中に収穫している。


「裕太、小さな実を沢山収穫するんだから、入れ物を持たせた方が良いんじゃない? 実体化しているんだからベル達も普通に籠を持てるわよ」


「……そう言えばそうだね。でも小さな籠とか準備してないよ」


「それならこれを使ってください」


 ドリーがそう言って地面に手を向けると、そこからウニョウニョと蔓が生え、更にウニョウニョと絡み合いながら籠が編み上げられた。……こういう小技もできるんだな、ちゃんと持ち手まで付いていて使いやすそうだし、素直に凄いと思う。


 これは手を使えないタイプの精霊の為に、首から下げられるようにしてあるのか? ムーンとプルちゃん用と思われる籠にいたっては、底が凹んでいて王冠のように頭にかぶれるようになっている。芸が細かい。


 植物が一斉に成長するとか、巨大な精霊樹が生えるとか凄い光景を何度も見てきたけど、現実味がなさ過ぎたせいなのか、蔓が生えて籠が編み上がるほうが、驚きを感じる。


「ありがとう、ドリー。使わせてもらうよ」


 大声でみんなを呼び戻し、一人一人にドリーが作ってくれた籠を渡す。しかしあれだな、ベル達の口の周りが果汁でベチャベチャだ。実体化してからベル達もフクちゃん達も、口の周りをよく汚すようになった。


 一人一人の口周りに洗浄を掛けながら考える。こう口いっぱいに頬張るベル達も可愛いんだが、ちゃんと食べられるようにしないと、よそで恥を掻く、食べる練習が必要だな。……よそ? ……よそで人に見られながら食べる機会なんてあるんだろうか?


「ゆーた、これ、おいしーー」


 ベルがちっちゃな手で、真っ赤に熟したコーヒーの実を渡してくれる。


「ありがとう。じゃあちょっと貰うね」


 コーヒーはよく飲んでたけど、実を食べるのは初めてだな。ベルから貰った赤い実を口に入れる。噛むと歯がすぐに種に当たる。うん? あっ意外と美味しい。皮は少しエグイが、わずかな果肉からは確かな甘みを感じる。


 しかし、本当に食べられる部分が少ないな。これだけしか食べられる部分がないのに、ベル達は顔をビチャビチャにできたものだ。どれだけ食べたんだ?


「んー、美味しいよ。ベル、ありがとう。じゃあ収穫を再開しようか。今日中に全部収穫するつもりだから、みんな張り切って収穫してくれ。あと籠が満杯になったら、空樽を並べておくからここに入れにきてね」


 俺が言うと、元気な返事をしてみんながコーヒー畑に再突入して行った。結構な量があるし、俺ものんびりしてられないな。


「それで、シルフィ、ドリー、ヴィータは収穫に参加しないのか?」


「私達が参加したら、すぐに収穫が終わっちゃうわよ。それだとみんな楽しめないでしょ?」


 確かにヴィータは分からないが、シルフィとドリーなら簡単に収穫を終わらせる事ができそうだな。でも、普通に収穫に参加してもいいんだよ。手摘みとか楽しいと思うんだけどな。


「私達はここでのんびりしてるわ。収穫が終わらなかったら手伝うから安心しなさい。それと、椅子とテーブルと紅茶が欲しいわ」


 ……のんびりお茶会をするんですね。今までは紅茶だけで十分だったんだけど、実体化したから椅子とテーブルがあった方がいいんだろうな。まあ、お酒を出せと言われなかっただけ良かったって事にしよう。


 椅子とテーブルを取り出し紅茶を並べる。魔法の鞄に淹れたての紅茶を収納しておけば、すぐに飲めるからとても便利だ。


 優雅にお茶会を始めた三人の大精霊を残して俺も畑に入る。まずはあの木から収穫するか。ドリーが全ての実を完熟させてくれたから、実を選別する手間が無いのは助かるな。さっき実ったばっかりだから虫も付いてないし……元々この場所自体の虫が少ないけど。


 一つ一つコーヒーの実を摘み取り籠の中に入れる。この実が多ければ多い程、気軽にコーヒーが飲めるようになるんだよな。これだけ大量にコーヒー豆があれば、当分コーヒーには困らないだろう。


 もし、俺以外の全員がコーヒーを好まなかったら、俺一人では飲み切れない可能性もあるな。紅茶が流行っているんだから、飲み物としてコーヒーは受け入れられる余地があるはずなんだが、色と苦みが最大のネックになるだろう。


 俺はコーヒーが大好きだが、最初にコーヒーを飲んだ人は何を思ってコーヒーを作ったのかが疑問だ。種子を焦がして粉にして、お湯でドリップして飲む……なんでそうしようと思ったのかを聞いてみたい。


 発酵食品でよくあるパターンみたいに、偶然できたと考えるには難しい所があるんだよな。焦がして粉にする意味が分からん。チョコレートみたいに薬関連から発達したのかな? スマホの検索機能が使えればな……。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
精霊でコピ・ルアクめいたことできるのかな……
[良い点] ほのぼのしてて毎回楽しく読ませて貰ってます。 [一言] コーヒーの起源は、豆茶からとなっている説があります。 ある時豆茶用の倉庫が火事にあい、炭化した豆の撤去中焦げた豆が何とか飲めないもの…
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