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二百五十二話 ルール

 聖域になった影響をヴィータに説明してもらい、これからの聖域のルールを考えようとしていると、この場所にもちゃんとした名前が必要だとディーネが言い出した。最初は酒飲み達の楽園と言う名前にしようとしたが、ドリー、シルフィの抵抗にあい、精霊達の楽園、通称楽園に決定した。


 お酒を好きな事を隠してはいないはずなのに、こういうところで切っ掛けに利用されるのは嫌なようだ。複雑な乙女心ってやつかもしれない。俺としては酒飲み達の方がメインだったんだけどな。あと自分が開拓した場所を楽園って呼ぶの、ちょっと恥ずかしい。


「じゃあここは精霊達の楽園。通称、楽園ね。こちらもある程度ルールがまとまったから説明するわね」


「ああ、頼むよシルフィ」


「まずは、お酒造りに関する人員ね。これは他の聖域でお酒を造っていた精霊を連れてくるから問題ないわ」


「そんな引き抜くような事をして大丈夫なのか?」


「大丈夫、他の聖域は保護が第一の目的なの。だからお酒造りは細々と周囲に配慮しながらやってるのよ。ここは大手を振ってお酒が造れるんだもの。誘わなくても押し掛けてくるわね」


 ものすごく説得力があるな。そして不安もある。制限されていた酒造りから解放されるんだ。無茶しないように、偶に見回った方が良さそうだな。


「それならいいか。お酒を造りだしたら見学に行くよ。それと観光と言ったら良いのかな? 遊びにくる精霊達はどうするの?」


「そちらは他の聖域と同じ扱いにするつもりよ。精霊宮に届けを出しての許可制ね」


 初めて聞く言葉が出てきたぞ。


「精霊宮ってなに?」


「精霊王様達が執務をおこなう場所よ。自然の管理が主な役割ね」


「あれ? 前に精霊は自由で、位も精霊王様以外はあんまり意味がないって言ってなかった?」


「前に精霊王様に呼び出された場合は、裕太の召喚に応えられない時があるって言ったでしょ。偶に手が足りなくて呼び出される事があるの。それ以外は基本的に自由よ。位も力の目安みたいなものね」


「そういえばそんな事を言われたな。精霊王様の呼び出しと俺の緊急事態が重なったら、運が悪すぎるって話になったのを覚えてる」


「ええ、運が悪いわね。大抵の事は精霊宮で対処が可能だから、呼び出しなんてめったにないもの。それで、その精霊宮で働くのはそういう作業が得意な精霊達よ。精霊の場合は向き不向きがハッキリしているから、意外と上手く回っているの。確かドリーは前に勤めていた事があったわよね?」


「ええ、ずいぶん昔の事ですが勤めてました。精霊宮は静かで落ち着いた環境を好む精霊が集まりやすいですね。結構楽しかったです」 


 そうなのか。俺は精霊って自由に飛び回って、のんびりしているのが基本だと思ってたよ。そんなお役所みたいな場所があるとはな。精霊でもそういう組織みたいなものから、逃れられないのがちょっと残念だ。でもまあ、人間社会と比べるとずいぶんとゆるそうな雰囲気だな。


「でも許可制なら、ベル達やフクちゃん達みたいな子供はどうするんだ? 自分で許可をもらえるのか?」


「ふふ、裕太が過保護過ぎるのよ。ベル達ぐらいなら、自分が興味を持った事の許可をもらうぐらいできるわよ。浮遊精霊になると意識がハッキリしていない子は無理ね。でも、面倒見がいい精霊が何処にでも必ず居るから、小さな子達はまとまって遊びに来ると思うわよ」


 過保護なのは自覚している。俺よりも年上とは分かってるんだけど、あの見た目と言動だからしょうがない。でも確かにベル達なら精霊宮とやらに突撃して「きょかほしー」ぐらいは言えるだろう。


 それができない浮遊精霊達は、イフみたいに面倒見がいいタイプの精霊が、引率してくるって事みたいだ。抜けはありそうだが、長く生きる精霊なら問題ないんだろうな。


「なるほど、それで俺は手伝った方がいい事ってあるの? 泊まる場所が必要なら簡単な物を用意するけど……」


「それなのよね。宴会の時に精霊王様達とも話したんだけど、半分の面積をお酒造りに使うつもりなの。残りの半分では、いずれは村みたいな場所を作って、聖域でしか味わえない生活を演出したいのよ。協力してくれるかしら?」


 半分をお酒造りに回すってどうなんだろう? 半分も使うのかよって言うところなのか、よく半分で我慢したねって言うところなのか、悩みどころだ。


「協力するのは問題ないよ。村って事は家が必要だよね。お店も作るの?」


「ええ、酒場と食堂、それに雑貨屋。物は聖域から出ると所有が大変だから、レンタルができれば嬉しいわね。ふふ、まだ先の事でしょうけど、村を作るなんて初めてだから考えるだけで凄く楽しいわね」


 シルフィ達からワクワクした感情が伝わってくる。


「先の事なの? 別にすぐに取り掛かっても問題ないと思うけど……」


「裕太に渡す対価も考えないとダメでしょ。それにお店を任せる精霊も探さないとダメだし、最初に力を入れるのはお酒造りね。裕太が思っている以上に、自由にお酒が造れるって事は重要な事なのよ」


 シルフィが真剣な顔で俺に言う。俺が思っている以上に重要? それなら今後、精霊との付き合いを真剣に考えたくなるんだが……。


「シルフィ。俺の中でシルフィ達は、お酒が大好きでしょうがないってイメージなんだ。だから、大規模な醸造所ができるって事で、酒好きの精霊達は狂喜乱舞して、騒ぎまくってると思ってる。それ以上って事なら、ちょっと怖いんだけど」


「失礼ね。そこまでじゃないわよ。みんな喜んでるって事なの!」


 珍しくシルフィが声を大きく反論してきた。どうやら俺の想像は、シルフィの中では予想外だったようだ。でも何となくだけど俺の想像の方が正解な気がする。


「えーっと、話を戻すけど、俺に対価を払うつもりなの? 俺の儲けはシルフィ達の協力がなかったら、ほとんど無いよ。お金が必要なら資金を分割するし、報酬もいらないんだけど……」


「ダメよ。裕太は私達の条件をクリアして契約をしたわ。魔力ももらってるし協力する事は当たり前なの。楽園の主は裕太で、土地を借りて協力してもらうのなら、精霊側が対価を用意するのは当たり前でしょ。ただ、精霊から人間に対価を支払うって事が初めての事だから、悩みどころなのよね」


 別にそんなに杓子定規に考えなくても、洒落にならんぐらいに稼がせてもらってるから、俺が出しても問題ないんだけどな。それにそんなにちゃんとした考えがあるのに、お酒に関しては要望が多いのが驚きだ。線引きの境目が分からん。酒は別物って事なのか? 


「まあ、なんとなく分かったけど、無理はしないでね。大精霊達は俺と契約する時に魔力をずいぶん負けてくれてるんだ。その分ぐらいは無償で協力するのは構わないんだろ?」


「んー、魔力を金銭に変換するのって難しいわね。でも、ありがとう。足りない時はそれで協力してもらうわ」


「だいたいの話は終わったかな?」


「そうね。おおまかな事は話したわ。あとの細かい事はその都度決めましょう」


「了解」


「うむ、話は終わったようじゃの。裕太、儂とディーネとイフはそれぞれ別の聖域の酒造所と話をしてくる。構わんか?」


「ああ、構わないよ」


「それと酒造りは楽園の東側でやる予定じゃ。それで裕太の場所との区切りと、外側の区切りを除いて内側の岩を撤去してくれ。儂が作っておいた方がいいじゃろうと言っておいて悪いが、場所を広く使いたいからな」


 ……あの岩の壁、結局回収するのか。まあ、一応同じ条件で作っておいた方がええじゃろうって感じだったから納得はできるが、少し虚しい。あれだけで岩山を何個更地にしたんだろうな? でも、また開拓面積を増やす時には使えるか。無駄にならないならまた使う機会まで魔法の鞄で眠っていてもらおう。


「分かった。あとで収納しておくよ」


「うむ、頼むぞ。では行ってくる」


「お姉ちゃんも行ってくるわー」


「俺も行ってくるぜー」


 ノモスに続いてディーネとイフもリビングを飛び出していく。


「三人とも楽しそうだったね」


「ふふ、なにしろ大きな醸造所を作るつもりなんですもの。張りきらない訳がないわ。裕太はこれからどうするの?」


「とりあえず、岩の収納に行ってくるよ。あの様子だといつ戻ってきてもおかしくないからな。俺は一人で大丈夫だから、シルフィとドリーとヴィータは好きにしていてくれ」


 あの調子だと全力で飛んで、速攻で精霊を引き連れてそのまま戻ってきそうだ。実際には道具の片づけとか、色々あるだろうから時間は掛かるだろうが、こんな時は早めに行動しておいて悪い事はない。


「分かったわ。それなら、私は醸造所を作る場所を決めたいから裕太と一緒に行くわね」


「私もご一緒します」


「僕は動物達の様子を見ておくよ。あっ、そろそろ動物達の食料が切れそうなんだ。夜の分はもう足りないね」


「分かった。俺も動物達に食事を与えるのに参加したいから、その時に声を掛けてくれ。それと俺が居る間は魔法の鞄から直接食事を準備した方がいいよな?」


 動物達からの信頼を得る為には食事の準備が効果的だからな。警戒心が薄れていく聖域の中で、俺は動物達の心を掴む。


「そうだね、直接魔法の鞄から出した方が手間が少ないね。でも、裕太が食事をあげるのはしばらく待った方がいいかな。警戒心が薄れると言っても、今はまだ野生そのものだよ。もう少し時間を空けてからの方が裕太にも動物達にも良い結果が出ると思うよ」


 ヴィータには俺の考えが完全に見透かされてるな。


「……了解。俺が行っても問題がなくなったら誘ってくれ」


「うん」


 動物の様子を見に行くヴィータと別れ、俺はシルフィとドリーと歩いて楽園の東側に向かう。


「しかし、シルフィとドリーが俺と一緒に歩いているのは違和感があるよね」


「そうかしら? そう言えば裕太の隣を飛んでいた事はあっても、歩いた記憶はあんまりないわね。食事中ぐらいかしら? 実体化してない時は、魔力を込めて地面を踏まないといけないから、歩く意味がないもの」


「私もそうですね、飛ぶのも良いですが、歩くのも自然を身近に感じられて良いです。聖域に遊びに行った時の事を思い出します。あら……ここも聖域になったんでしたね」


 ウッカリしてましたと、ドリーが笑う。なんか今の会話って凄くアットホームだった気がする。これも聖域になって、俺の心が穏やかになっているからか?

読んでくださってありがとうございます。

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