二百五十話 宴会が終わって
精霊王様達との宴会も無事? ……に終わった。精霊王様達も面白がってスマホで集合写真を撮影させてくれたのは良かったが、その後の宴会で予想以上に酒樽が消費された。カパカパと飲む大精霊達と精霊王様の三人。俺も途中から合流して、ついつい酒樽を追加してしまったのが敗因だ。
途中まではなんとか意識を保ちベル達やフクちゃん達、ジーナ達を部屋に帰した事は覚えている。でもそこからまったく記憶が無い。リビングの床で目が覚めるとすでに外は明るくなっていた。頭痛と吐き気がえげつない。
その場でまだ飲み続けていた酒飲み組の中からヴィータを引っ張り出し、体調を整えてもらう。何気にヴィータに魔法を掛けてもらったのって初めてな気がする。
ただ、二日酔いの治療としてはムーンの方が上かもしれない。ヴィータの魔法は一瞬で爽やかな気分になるほど体調を整えてくれる。ムーンの治療は良くなっていく過程が分かると言うか、ああ、酒が抜けてるなーって感覚が癖になるんだよな。
ヴィータのおかげで見事に二日酔いが完治したので、さわやかな気分でリビングを見渡す。精霊王様は全員お酒を飲んでるのか。特にお酒好きのようだったウインド様、ファイア様、ダーク様以外も、普通にお酒は飲むんだな。しかしこのままだとどう考えても不味い。
「もう朝だから、宴会は終わりだよ。子供達が降りてきた時にまだ宴会が続いていたら、教育に悪いからね」
俺がお開きを宣言すると、不満そうな声を上げる酒飲み組。これだけ飲んで不満の声を上げる精神が怖い。
「ゆーたーー。もう少し飲んでもいいでしょーーー」
「そうよーー。お姉ちゃんもまだまだ飲めるわーーー」
「えっ? シルフィ、ディーネ、ちょっと、どうしたの?」
顔を真っ赤にしたシルフィとディーネが、フラフラと千鳥足で近づいてくる。ディーネはともかく、シルフィがヤバい。目つきがトロんとしていて、もっと飲ませろーっと口をとがらせている。明らかに異常事態だ。
「ちょっと落ち着いて。ねえみんな、シルフィとディーネがおかしいんだけど。どうなってるの?」
「ガハハ、そりゃあ実体化しておるのにあれだけ飲んだんじゃ。当然酔っぱらうじゃろう。まだまだ酒に弱い小娘じゃわい。ガハハ」
「そうらな。まだまらだな! アハハハハ」
ノモスが理由を説明してくれた。実体化してると、お酒に酔いやすいらしい。そんな大事な事は飲む前に言ってほしい。あとイフ。お前も笑ってるけど、口調が怪しくなってるぞ。完全に酔ってるだろ。
ドリーは……綺麗な姿勢で座ってるけど微動だにしない。もしかして寝ているのか? まともそうなのはノモス、ヴィータと精霊王様達だな。精霊王様達は年季が違うんだとも言いたげに、カパカパとお酒を飲んでいる。だから宴会はお開きなんだって。
焦っているとシルフィとディーネがついに俺の所までたどりつき、二人で俺を揺さぶりだす。
「ゆーた。赤ワインをもう一樽よ!!」
「ゆーたちゃん、お姉ちゃんはーー。じょうりゅうしゅー」
明らかに普通じゃないぞ。これってどうなんだ。どうすればいいんだ?
「ちょっとノモス。もうすぐ子供達が起きて来る。こんな姿を子供達に見せるのは良くない。だいたいジーナ達にとっては、ちゃんとシルフィ達と会うのは昨日が初めてって事になるんだぞ。大精霊としてそれでいいのか?」
「むう……たしかにそんな醜態を子供に晒させるのは忍びないか。しょうがない、精霊王様方。そう言う訳じゃから宴会はお開きじゃな」
ノモスが俺の説得を受け入れて動いてくれた。精霊王様も飲むのを止めてくれたし何とかなりそうだ。
「ほれ、とりあえずお前らは実体化を解いて寝るんじゃ」
ノモスがシルフィとディーネに近づいて手を当てると、溶けるようにシルフィとディーネの姿が消えた。たぶん自分の属性に戻ったんだな。
「ウニャ」っと声が聞こえたので振り向くと、ドリーとイフの姿も無い。ヴィータが側に居るから、ヴィータが何とかしてくれたんだろう。しかしあのウニャって声はどっちが出したんだ? ドリーでもイフでもその瞬間を見たかったな。
「えーっと、精霊王様達はどうする? 朝食の用意をするけど食べる?」
「んー、いいや。僕達もそろそろ戻るよ。美味しいご飯にお酒、楽しい宴会だったよ。ありがとね」
少し考えた後、ウインド様が今から帰ると立ち上がった。なんだろうミニドラゴンの姿だからか、ぬいぐるみが立ち上がったように見える。ウインド様に続き他の精霊王様達も立ち上がる。
「楽しめたのなら良かったよ。途中で潰れちゃって、あんまりお構いもできずに申し訳ない」
「あはは、気にしないでいいよ。僕も他のみんなもとっても楽しんだからね。じゃあ帰るね。また宴会をしよう」
ウインド様がリビングの窓を開けて外に出た。他の精霊王様も俺に一声かけた後、窓から飛び出して帰って行った。空の上に大きなドラゴンが現れたから、来た時みたいにウインド様に乗って帰っていったんだろうな。
しかし帰り際に素直に欲望をリクエストして帰るのは止めてほしい。また宴会を開いてとか、甘味が改良されたら呼ぶようにとか、もっとご飯を食べたいとか……また来る気満々だよね。
精霊王様達はあんまり怖くも無いし気軽に接して良かったからストレスは溜まらないけど、その分気軽に遊びに来そうで少しだけ不安だ。
「ノモスとヴィータはどうする?」
「うむ、儂は蒸留でもするか」
「僕は動物達の様子を見てくるよ」
寝ないんだ。まあ、大人の精霊なんだから大丈夫だよね。
「分かった。でも聖域になった事で色々知りたい事があるから、午後から少し話し合えないか? シルフィ達も一緒がいいんだけど、あれだけ酔っぱらってたら無理かな?」
シルフィが酔っぱらったように、知っておくべき事が沢山あるはずだ。他にもこれからの聖域の事とか話し合っておかないとな。
「いや、実体化を解いておるから、少し休めば普通に元気になる。問題ないぞ」
精霊って便利だよな。
「分かった。じゃあ午後から話し合いだな。シルフィ達にも伝えておいてくれ」
「うむ。片付けは手伝わんでいいのか?」
「ああ、収納して洗浄の魔法を使うだけだから大丈夫だよ」
ノモスとヴィータを見送り俺はとりあえず転がっている空樽を収納する。一樽、二樽、三樽……十六樽、十七樽、十八樽か……最終的に十二人で飲んでたにしても、よく十八樽も飲めたな。これに蒸留酒も加わってるんだから、人間だったら急性アルコール中毒間違いなしだぞ。
ちょっと背筋がゾクッとした。酒樽を収納して部屋の中に浄化を掛けていると、ベル達とジーナ達が降りてきた。ジーナ達はフクちゃん達を抱っこしたり、頭に乗っけたりしているな。みんなと朝の挨拶を交わし朝食の準備をして食事にする。
「拠点が聖域になってフクちゃん達が実体化したから、今日はジーナ達とフクちゃん達でしっかりコミュニケーションを取るようにね」
朝食が終わりジーナ達に今日の予定を伝える。今までは気配でしか感じる事ができなかったが、見えて触れて声が聞こえるなら、もっと仲良くなれるだろし新しい発見もあるはずだ。
俺は午後まではベル達とまったり戯れるか。ベル達も実体化しているから、少しは違う事があるだろうからな。
……実体化ってこうなるんだな。ベル達が縦横無尽に部屋の中を走り周り、キャッキャとはしゃいでいる。レインとムーンは体の構造上、実体化しても飛んでいる方が楽な様子だが、ソファーで飛び跳ねたりと実に楽しそうだ。
でも俺はトテトテと走り回る、ベルとフレアがいつ転ぶかと気が気じゃない。トゥルは体幹が安定しているし、タマモは四本足だから安心して見てられるんだけどな。ベルとフレアはハラハラする。
「ゆーたー!」
「おわっ」
ベルがトテトテっと走り寄ってきて、勢いよく飛び付いてくる。慌てて落とさないように確保するが、心臓がバクバクと鳴っている。早めにシルフィ達に実体化について話を聞かないと体が持たない。
とりあえず詳しい話を聞くまで、なんとか怪我をさせないように乗り切るしかない。構って構って構い倒して怪我をする暇がないぐらいに構い倒そう。
***
「じゃあ話し合いを始めようか」
ハラハラしながらも楽しくベル達と戯れた後、昼食を終えて話し合いを始める。ベル達とジーナ達は遊びに行かせたし、ゆっくり話ができるだろう。
でも、ベル達はいつでも実体化を解く事ができるので、よっぽどの事が起こらない限り、実体化中に危険な目に遭っても簡単に回避できるって、どうせなら午前中に教えて欲しかったな。おかげで無駄にハラハラしてしまった。
「それでノモスから大丈夫だって聞いてはいたけど、体調は大丈夫なの?」
「ええ、問題ないわ。裕太にはみっともないところを見せちゃったみたいね」
「お姉ちゃん、酔っぱらっちゃったわー。でも楽しい宴会だったわーー」
「私は眠ってしまいました。恥ずかしいです」
「俺はそんなに酔ってなかったんだぞ!」
俺が体調を確認すると女性陣がそれぞれ反応してくれた。顔色も良いし問題はなさそうだな。
まあ、シルフィは表情はあんまり変わってないけど、少し恥ずかしそうだ。ディーネは宴会を思い出しているのか、ほんわかと笑いながら遠くを見ている。
ドリーは恥ずかしい事なんてまったくなかったぞ。綺麗な姿勢で座ってたから、最初は眠ってるって気がつかなかったもんな。そしてイフはあと一歩で泥酔するところまで行ってたよな。まだまらとか言ってたし。下手したら下ネタだよな。
「まああれだ、実体化をしたら酔いやすいって知らなかったからビックリしたけど、特に問題はないよ。でも昨日はさすがに飲み過ぎだから、酒の量は注意してくれ」
みんなは酒があればあるだけ飲むタイプだから、言うだけ虚しい気もするが、言わなかったら言わなかったで問題がある。
「裕太、勘違いしないでね。実体化しても本来はあそこまで酔わないのよ。ただ、少し酔ったところに蒸留酒が出てきたから、ペースを間違えただけなの。本当なのよ」
……シルフィが珍しく言い訳のような事を言ってる。なんか大精霊としてのプライドと言うよりも、酒飲みとしてのプライドを傷付けられて言い訳をしてないか?
「分かった。でも蒸留酒の熟成が終わったら、飲む機会が多くなるだろうから、早めにペースを掴んでおいてね」
昨日は大丈夫だったけど、大精霊が酔っぱらって暴れたら洒落にならんからな。聖域が酔っ払いのせいで崩壊したとか笑えない。
「ええ、もう大丈夫よ。次からは間違えないわ」
シルフィが真剣な表情で応える。やっぱり酒飲みのプライドが傷ついていたらしい。ヤバい。なんとなく口がムズムズする。悪い癖が出てしまいそうだ。
「……でも、昨日の酔っぱらったシルフィも可愛かったよ? ゆーたーってベルみたいだった」
言っちゃった。「ガハハハハ」っとノモスの笑い声が響き、シルフィのコメカミがピクピクしだした。やっぱり、この話題をこするのは不味かったか?
「……裕太。忘れなさい。いいわね忘れるの。でないと空を飛んでいる時に、うっかり何かを落としてしまうかもしれないわ」
元々無表情な顔が、仮面のように何の感情も移さない顔に変わり、静かな声でシルフィが言う。何かを落とすって何? 俺を落とすって事じゃないよね?
「うん、忘れた。何にも覚えてないよ。お酒を飲み過ぎちゃったかな? あはは」
「裕太ちゃん。お姉ちゃんは可愛かった?」
ディーネ、俺は今、何にも覚えてないって言ったばかりだよ。隣に居たんだから聞いてたでしょ。なんでこのタイミングでその質問をぶち込んでくるんだよ。
何よりも聖域になった事で受ける影響を聞きたいのに、一向に話が進まない。まあ、話を逸らしてしまったのは俺なんだがな。
読んでくださってありがとうございます。