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二百四十七話 精霊王様達との宴会 上

 精霊王様達が拠点の中心に聖域の要の玉を作ってくれた。めでたく拠点は聖域になり、ジーナ達とフクちゃん達の感動の対面も無事に成功した。とりあえず目出度いと言う事で、リビングに案内して宴会だな。


 ……六人も増えたからさすがに狭く感じるかと思ったけど、そうでも無いな。人型なのは水、土、闇の精霊王様で、風、火、光の精霊王様は元の大きさは分かんないけど、現在はベル達サイズだ。場所はあまり取らない。


 現在は人型の精霊王様達はソファーに座り、他の精霊王様達はテーブルの上でくつろいでいる。小っちゃいベル達やフクちゃん達は同じような事をしているけど、精霊王様がそれでいいんだろうか?


「師匠、料理を並べるんだよな。手伝うよ」


「私もお手伝いします」


 ジーナとサラがお手伝いを申し出てくれた。マルコとキッカは交流できるようになった精霊達にもみくちゃにされているから、放っておこう。なんか幸せそうだし大丈夫だよね?


「じゃあ料理を出すから、ジーナとサラは並べちゃってね。精霊王様達が居る方がお酒を飲むテーブル。普段ご飯を食べているテーブルは禁酒にするからね」


 場所を区切る事を伝えて、トルクさんに作ってもらった料理と食器をドンドン取り出すと、ジーナとサラが料理を並べてくれる。うーん、色んな種類の料理をいつもより沢山出したから豪勢ではあるが、メニュー的には変わり映えがしないんだよな。


 いっそのこと、ファイアードラゴンのステーキを出すか? 聖域になった記念日だし、いい切っ掛けかもしれない。でも、未体験の物を宴会に出すのは怖いな。美味しいのは分かっているんだが、他の料理の印象を全部持っていくような肉だったら困る。


ん? 土の精霊王様が覗き込むように料理を見ている。体が鉱物だから表情は分かり辛いが、食べ物に興味があるのか? そうか、精霊王様達にとってはここに並べた料理も目新しい料理なんだよな。


 姑息な考えだが、なんとなく精霊王様達は今後も遊びにきそうだし、今日、手の内を全部晒すのは危険だな。今後の為に、変わり種は取っておこう。でも、今後の事もあるし、切っ掛けがあったら早めにファイアードラゴンのお肉も試してみよう。


 よし、大体料理は出したな。あとはデザートなんだけど、アイスとか溶けたらアイスじゃ無いよな。プリンも温くなったら味が落ちる。宴会中に頼まれてデザートを出すのも面倒だ。


「ディーネ、ちょっといいか?」


 空樽を二つ出して、何故かキッカを抱きしめていたディーネを呼ぶ。


「なーに、裕太ちゃん、お姉ちゃんがキッカちゃんにばっかり構っちゃって寂しくなっちゃったの? 大丈夫よ。お姉ちゃんは裕太ちゃんのお姉ちゃんだからねー」


 ……あれ? なんか久しぶりにディーネにイラッとした気がする。まあ、とりあえず今は流そう。


「あはは、ありがとう。それでディーネ、悪いけどこの二つの空樽に氷を敷き詰めてくれないか?」


「うふふー、お姉ちゃんに任せなさいー」


 ディーネのおかげで氷が満載になった空樽に、プリンとアイスを並べる。


「裕太ちゃん、それだとアイスは溶けちゃうわー。お姉ちゃんが力を貸してあげる」


 ディーネが右手を軽く振ると、樽の上に氷のドームができた。これで中の冷気が逃げづらくなるのか。


「ありがとうディーネ。助かったよ」


「どういたしましてー。かなり温度を下げておいたし、溶けたお水は樽の底に溜まるようにしておいたから、しばらくは大丈夫よー」


 ディーネはよく分からないマイペースな性格に思えるんだけど、こういう時に凄さを発揮するのが上手いんだよな。さすが大精霊って思ってしまう。 


「ああ、あとは酒だな。とりあえず色々と十樽程出すから、ディーネの好みで冷やしておいてくれ」


「きゃふーー、お酒が沢山ねー。ねえねえ裕太ちゃん、蒸留酒もちょっとだけ出していい? あとお酒も選ばせて!」


「酒を選ぶなら、儂も混ぜろ!」


 ディーネがベルみたいな喜び方をしている。そして酒樽が出た事に気づいたノモスが一瞬で混ざる。


「分った。とりあえず沢山出すからその中から十樽選んでくれ。あとディーネ、蒸留酒はノモスと相談して出してくれ。強いお酒だし寝かせる分もあるんだから、量は考えろよ」


「分かったわー」


「うむ、任せておけ」


 頷く二人の前に大量の酒樽を積み上げる。いつの間にか風、火、闇の精霊王様が酒選びに混ざっている。どうやらあの三人が精霊王様達の中でも特にお酒が好きなようだ。闇の精霊王様とはお話したいんだが、今話しかけると空気が読めないって嫌われそうだ。


 二人の大精霊と三人の精霊王様の意見を元に、十樽の酒樽が選ばれたので残りを収納する。収納する瞬間、残念そうな表情をしている五人の精霊。この調子だと、飲み終わったら追加を頼まれそうだな。


 ***


「えー、精霊王様方のお力添えと、みんなの協力のお陰で、この地が聖域になりました。今日はめでたい日ですので、おおいに飲み食いして騒ぎましょう。では、乾杯!」


 俺の掛け声に、精霊達とジーナ達が乾杯っと応えてくれる。ふいー地味に緊張した。普段の宴会ならこんな事はしないんだけど、風の精霊王様がめでたい日だし、この地の主の挨拶は必要だよね! とか言い出すからビビった。風の精霊王様は明らかに面白がってたようだし、悪戯好きっぽいな。


 乾杯が終わり、始まった宴会の様子を見る。ジーナ達は姿が見えるようになったフクちゃん達を、楽しそうにお世話しながら料理を食べている。


 ベル達は……いかんな、ベルとレインとタマモが速攻でデザートコーナーに突撃している。あの調子だとデザートのみで満腹になってしまいそうだ。栄養学的に問題が無かろうとも、ちゃんとご飯を食べてからデザートを食べるようにしないとな。


「ベル、レイン、タマモ。デザートはちゃんとご飯を食べてからだよ。今持っているのを食べ終わったら、料理をしっかり食べてデザートを食べようね」


「はーい」「キューー」「クーー」


 三人ともとっても良いお返事だな。しかしデザートはご飯を食べ終わってからにした方がよかったな。精霊王様達が居るから、華やかな方がいいだろうとデザートを並べたけど、ベル達に我慢させる結果になってしまった。反省しよう。


 さて、禁酒のテーブルは問題無いな。酒飲みテーブルはどうかな? ……うん、まだ始まったばかりだし、変わった料理もある事から、お酒一辺倒にはなって無いな。シルフィ達が精霊王様達に色々と説明してくれてるし、問題無さそうだ。今の間に挨拶をしておこう。


「風の精霊王様、飲んでいる途中に申し訳ありません。改めて精霊王様方にご挨拶をさせて頂きたいのですが……」


 ちっちゃな体で両手でカップを持ち、グイグイとお酒を飲んでいる風の精霊王様に話しかける。


「改めて挨拶ってそんなに生真面目にしなくて、普通に接してくれて構わないよ。僕の事はウインドってよんでね」


 堅苦しくなっちゃうよ。人間の王様でも緊張したのに、今回は精霊王なんだからな。精霊にはお世話になってるし、機嫌を損ねてシルフィ達との関係が気まずくなったら洒落にならない。


「ではウインド様、ご挨拶してもよろしいですか?」


「まだ固いね。ウインドって呼んでいいし、敬語もいらないよ。他の精霊王達も僕と同じだからね」


 ……無理。目の前の風の精霊王様とかミニドラゴンでメチャクチャ可愛いもん。そんなの呼び捨てにして敬語を止めたら、いつの間にかベル達みたいに扱う自信がある。とは言え、嫌がってるみたいだし、どちらかは譲歩した方がいいだろう。


 様を止めるか敬語を止めるか……敬語を止める方が俺にとっても精霊王様にとっても堅苦しい時間が短いか。


「じゃあ普通に話すから様だけつけさせてくれ。大きなドラゴンの姿だと別だけど、今のウインド様の姿だと、ベル達と同じように扱いそうだからな。あっ、話し方はもう少し丁寧にした方がいいか?」


「話し方は今のままでいいよ。さすがにベル達みたいに可愛がられたら、精霊王としてどうかと思うから、様は付けていいや」


「ありがとう。助かるよ」


「どういたしまして。それで挨拶だったね。まだ自己紹介も済んでなかったのを忘れてたよ。面倒だから一遍にやっちゃおうか」


「うむ、そうじゃな。では妾から名乗ろう。妾はライト、光の精霊王じゃ。よきにはからえ」


 なにこの可愛い生き物。フワモコの玉兎が可愛い声で妾とか、よきにはからえとか言ってるよ。


「ライトはね。精霊王として、外見が可愛いのを気にしてるんだ。少しでも威厳を出そうとしてあんな話し方をしているけど、気にしないであげてね」


「ウインド、余計な事を言うでない!」


 玉兎のライト様がウインド様に体当たりしている。なかなか可愛らしいが……あの話し方ってキャラを作ってたのか。涙ぐましい努力ってやつだな。しかしそうなると、あのフワモコを触らせて貰うのは断念した方が良さそうだ。うっかりモフりまくったらプライドを傷付けてしまうな。


「ライト様。よろしくお願いします」


「うむ、よきにはからえ」


「ふふ、じゃあ次は私ね。私はダーク、闇の精霊王よ。裕太君、よろしくね。あと、蒸留酒ってとっても美味しいわ。寝かせたお酒はいつ完成するのかしら?」


 闇の精霊王様はダークって言うのか。ウインド様、ライト様もそうだけど風、光、闇、属性そのままの名前なんだな。


 しかし、ダーク様ってちょっと影があってスタイルが抜群。怪しいぐらいに妖艶な美女なんだけど、今のセリフで確定した。さっきのお酒選びにも参加してたし、シルフィ達と同類の酒好きだな。


「よろしくお願いします、ダーク様。えーっと、蒸留酒は十年も二十年も寝かせたりするそうなので、いつ完成と言えるのかは分かりません。三年程で飲みやすくなるようなので、熟成が進むのが早い海底に寝かせた蒸留酒でも、あと四ヶ月は様子を見たいところです」


「そうなの、じゃあその時に飲みにきても構わないかしら?」


「いつでも来てください。歓迎しますよ」


 ……いかん、美女が訪ねてくるって事で、反射的に承諾してしまった。冷静に考えると面倒な返答をしてしまった気がする。


「僕も飲みにくるね」


 ウインド様が話に乗っかって来た。


「そう言う話なら俺もだ。ああ、俺はファイア、よろしくな!」


 まだ挨拶していない火の精霊王ファイア様も話しに混ざってきた。やっぱり風、火、闇の精霊王様がお酒大好きらしい。なんか面倒な事になった気がする。


「えーっと、ファイア様よろしくお願いします。それで、今更なんだけど、精霊王様が気軽にここに来て大丈夫なのかな?」


「別に長時間居座るって訳じゃないから問題ないよ。時間がある時に聖域の視察って名目で飲みにくるだけだから、気にしないで」


 気にするよ! 断れないけど、とっても気になるよ!


「……分かったよ。蒸留酒が飲めるようになったら、シルフィ達に頼んで連絡するよ」


 満足げに頷く三人の精霊王様。あれだ、酒好きは立場とかあんまり関係ないな。いや、立場がある方が気を使わないとダメだから面倒だ。まだ全員との挨拶も終わってないのにちょっと疲れたぞ。

読んでくださってありがとうございます。

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