表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
245/754

二百四十三話 トマト

 ノモスとドリーの協力で、二十三枚の額縁が完成した。あとは絵を入れてそれぞれの部屋に飾るだけだな。これでいつでも精霊達の絵を見る事ができるようになる。ジーナ達もベル達も喜ぶだろう。


 とりあえず精霊の全員集合絵はそれぞれの部屋に飾るとして、個人を描いた絵はどうしようかな。ジーナ達は自分の契約精霊の絵を、自分の部屋に飾れば良いけど、俺の場合は全部で十三枚もの絵を部屋に飾る事になる……さすがに多過ぎる。音楽室みたいになってしまうのは嫌だな。


 リビングや廊下なんかに絵を飾るのもいいかも。俺は精霊の姿が見えてるんだから、わざわざ自分の部屋に飾らなくていいもんな。


 とりあえず家の中の目立つところに、絵を飾っていこう。なんか楽しくなってきたぞ。普段よくいる場所。よく通る場所を考えながら絵を飾る。


 ……こうして見ると絵が飾ってある家って悪くないな。まだ必要な物しか家に無いから、ちょっと殺風景だったのが、絵が飾られた事によって少し華やいだ気がする。みんなが戻ってきたら驚くぞ。


 一仕事やり終えた気分で満足する。これからどうしようかな? ……あんまり根を詰め過ぎてもしょうがないから、夕食までコーヒーを飲んで休憩にしよう。


 まだ完成してないけどコーヒーの実の目途もついたし、砂糖と牛乳も手に入るようになった。今日、コーヒーを一杯飲むぐらいの贅沢は許されるはずだ。


 そうと決まれば急いで自分の部屋に戻り、魔法の鞄からインスタントコーヒー、ク〇ープ、砂糖を取り出し、震える手でカップに好みの分量を投入する。なんか我慢していた分、いざコーヒーを飲む瞬間になったら焦ってしまうな。


 魔法の鞄から熱湯が入ったポットを取り出しカップに注ぐ。部屋の中に広がる嗅ぎ慣れた匂いを満喫しながら、ゆっくりとソファーにもたれ掛かり、カップを口に運ぶ。


「んー、うまいなー。嗜好品ってやっぱり人には必要な物なんだよ」


 全身の力を抜き、だらけた姿勢でコーヒーをすする。コーヒーの実の加工が成功すれば、気兼ねなくコーヒーが飲めるようになる。楽しみだな。あっ、焙煎とマメを細かく砕くのはどうしよう?


 焙煎はフレアに……フレアに頼むと消し炭になる予感がする。イフなら……イフでも消し炭になる気がするが、大精霊なんだし繊細な火加減もできると信じよう。


 細かく砕くのは……コーヒーミルの構造なんて知らないから、シルフィに頼むか。石臼でも代用できそうだから、ノモスに作ってもらうのもいいかもしれないな。


 まあ一度に沢山砕いてもらっても、魔法の鞄に入れておけば鮮度は抜群だから、シルフィに沢山砕いてもらって保存するのがよさそうだ。ゆっくりコーヒーを飲みながら、楽しい計画を頭の中で練る。


「もう、飲み終わっちゃったか……」


 ものすごく悲しい気持ちになりながら、空になったカップを見つめる。もう一杯飲みたいところだが、加工が上手く行かなかったら後悔する事になる。十分リラックスできたし、このままひたすらまったりするか。



「あーー、しるふぃだーーー」


 まったりしていると、下からベルの大きな声が聞こえた。玄関に飾ったシルフィの絵を見つけたらしい。家に帰って来て一番最初に目にする場所だから、美女の絵が相応しいよね。


 キャッキャと騒ぐ声が聞こえ、自分の絵を見つけると嬉しそうに他の精霊達を呼び集めている。今の声はフレアだったから、みんなはリビングに到達しているらしい。リビングには一番目立つところに集合絵を飾って、色んな所にベル達を散りばめたからな。楽しんでくれるだろう。


 しかし、リビングで大精霊達が宴会していてもほとんど声は聞こえないのに、ここまで声が届くって事はかなりの大声で騒いでいるようだ。


「キューーーーー」


「あ、ほんとだーー。でぃーねがいるねー」


 レインがディーネをみつけたらしい。ディーネは二階の階段の真正面に飾ったはずだ。もうすぐ俺の所に来そうだな。


「ゆーた。えがたくさんーー」


 予想通りすぐにベル達が突撃してきた。お団子みたいに固まって笑いながら突撃してきたからちょっとビックリしたな。


「みんなの絵を飾ってみたんだ。自分の絵は見つけられた?」


「みつけたー」「キューー」「かざってあった」「ククーー」「いたぜ!」「……」


 自分の絵があった場所を一生懸命に教えてくれるが、飾ったのは俺なんだよね……。まあ、楽しんでくれて何よりだ。興奮しまくっているベル達を落ち着かせて皆でリビングに向かう。


「おっ、ジーナ達も戻って来てたんだね」


 ベル達の騒ぎに気を取られて、全然気がつかなかったな。


「はい、先ほど戻りました。絵を飾られたんですね」


「ああ、時間が空いたから飾ってみたんだ。どうかな?」


「私達もシルフィさん達の姿がすぐに想像できますので、とてもいいと思います」


 なんかサラに褒められると変な感じだな。子供なのに話し方が上品だから、どう答えたらいいのか迷う。


「なあ師匠。家に帰ってからシバが落ち着かないんだけど、理由が分かるか?」


 ジーナの質問にシバを見ると、シバが俺の方に右手を上下に一生懸命振ってワフワフ言っている。……んー分からん。


「ベル。シバが何を言ってるか分かる?」


「んー。しばたちのえがないっていってるーー」


「なるほど。ありがとうベル」


 自分達の絵が無いから探してたのか。夕食の後に渡す予定だったけど、この調子だと先に渡しておいた方がよさそうだな。


「ジーナ。シバは自分の絵を探してたんだ。ジーナ達の契約精霊の絵は、ジーナ達の部屋に飾った方がいいかなって思って、まだ飾って無いんだよ。今から渡すね」


 ジーナ達を集合させてそれぞれに絵を渡す。ジーナに集合絵とシバの絵を渡し、サラにはフクちゃんとプルちゃんの絵を、マルコには集合絵とウリの絵を、キッカにはマメちゃんの絵をそれぞれ手渡した。


「自分達の部屋に飾るといい。位置が決まったら釘を打つから呼びにおいで」


 俺の言葉にジーナ達は自分の契約精霊を引き連れて部屋に向かう。周りでフクちゃん達が飛びまわりながら、自分達の絵を覗いている姿は、なかなか可愛いな。


 さて、今から料理を並べると冷めてしまいそうだし、ジーナ達が絵を飾り終わったら夕食にするか。明日も忙しいし、しっかり食べてしっかり休もう。




 ***




「では、今からトマトの収穫をおこないます!」


 ワーッと拍手をしてくれるベル達とジーナ達。みんな付き合いが良くて大変素晴らしい。ちなみに大精霊達はシルフィとディーネとドリーが見学。ノモスは杖の改造、イフはお酒の蒸留、ヴィータは動物達のケアをするそうだ。


 畑には真っ赤なトマトが朝日を反射してキラキラと輝いている。見たら分かる、完全に食べ頃だ。


「じゃあまずは一人一つずつトマトを取って食べてみようか」


「たべる? おいしい?」


 ベルが少し警戒気味に聞いてくる。未だに小松菜の苦みが忘れられないらしい。トマトは酸味はあっても苦くは無いよな?


「たぶん美味しいと思うよ。食べられなかったら俺が食べるから、一口だけでも試してみるといい」


「んー、わかったー」


 ちょっといつもの元気が無いが、ベルも納得してくれたしさっそくトマトを食べよう。畑の中に入り、一番美味しそうな実を選ぶ。新鮮だし最初は塩無しで試してみよう。


 艶々とした真っ赤なトマトに大口でかぶりつく。歯が分厚い皮を突き抜け、驚くほどの水分とわずかな酸味。そして思った以上の甘味。品種改良なんてされてないはずなのに、なんでこんなに甘いんだ?


 驚きつつも夢中でかぶりつき、あっさりトマト一個を完食してしまう。日本のトマトと比べると皮が随分と厚かったが味は申し分ない。もぎたて完熟だからかな?


「ゆーた、おいしい?」


 トマトの事を考えていると、ベルが味を聞いてきた。両手で真っ赤なトマトを持ってはいるが、食べるのが怖いらしい……しかもベルだけじゃなく全員がトマトを持って俺を見てるな。


 サラ達なんかはスラムに居ただけあって、食べ物に対する忌避感は少ないはずなんだが、なんで食べて無いんだ? ケチャップとか食べ慣れてるよね。もしかして、師匠を毒味にした? ……いや、ジーナ達がそんな事をするはずが無い。たんに俺が食べるのを待っていただけだよね。


「うん、とっても甘くて美味しいよ。みんなも食べるといい」


「あまいー?」


「うん、とっても甘いよ」


 俺の言葉に契約精霊達と弟子達がトマトにかぶりつく。


「あまいー」「キュー」「おいしい」「クーー」「うまいぜ!」「……」


「師匠! このトマト美味しいな。こんなの初めて食べたよ」


「お師匠様、本当に美味しいです」


「師匠! トマトうまい!」


「おししょうさま。キッカ、トマトすき!」


 ベル達にもジーナ達にもフクちゃん達にもトマトは大好評のようだ。ベルなんて夢中でアグアグとかぶりついている。マルコとキッカは顔中にトマトの汁が飛び散ってるな。


 しかし、ジーナが初めて食べる美味しさなのか?


「裕太、どうしたの?」


 俺が悩んでいると、シルフィが声をかけてきた。


「いや、ジーナが初めて食べるぐらい美味しいって言ってたよね? 迷宮都市の近くの村のトマトだから、なんでそんなに違いが出たのかなって思って」


「ふふ、当たり前じゃない。同じトマトの苗でも、ドリーとタマモがじっくり時間を掛けて育てたんだもの。美味しいに決まってるわ」


 ……なるほど。森の大精霊と下級精霊が育てたトマト。そう聞いたら美味しいのが当然な気がするな。それに料理をせずに素材のまま食べたから、味の違いがしっかり分かったって感じか。


「納得したよ。ドリーとタマモの協力があれば、美味しくなるよね。ありがとう、ドリー」


 まずはドリーにお礼を言っておこう。タマモはトマトに夢中だからあとでだな。


「美味しかったのならよかったです。急に成長させた物と違って、ゆっくり育てた野菜もよいですよね」


「急激に成長させた野菜よりも、時間を掛けて育てた野菜の方が美味しいの?」


「そうですね。急いで成長させる場合は、野菜自体にも負担が掛かりますし、ゆっくり育てる場合に比べると掛けられる手間も少ないですから」


「そうなんだ。お米とか違和感を感じないぐらい美味しかったんだけどな」


「裕太さん、私は植物に関しては自信があります。急に成長させても一般的な物以上の作物はできますよ。ただ、時間を掛けるとそれ以上によい物が作れるだけです」


 おお、いつも通りニコニコと綺麗な笑顔だけど、ドリーの植物に関する譲れない拘りを見た気がする。 


「そうなんだ。それなら、お米も今よりももっと美味しくできるって事だよね?」


「ええ、裕太さんの好みを教えて頂ければ、それに近づける事も可能ですよ」


 もっと美味しいお米……最高に魅かれるんですけど。これはあれだな。聖域関連の忙しさが落ち着いたら、本格的な米作りもお願いしよう。


「ゆーた。べる、もういっこーー」


 ベルが手足をパタパタさせながら、お代わりを要求してくる。よっぽど気に入ったらしい。


「はは、じゃあみんな、もう一個ずつ食べてから収穫しようか」


 俺ももう一個食べたかったからちょうどいい。美味しく食べて素早く収穫だ。魔法の鞄があれば、毎日この美味しさが味わえる。農作業に魔法の鞄は最高のツールだよね。


 あとは……収穫が終わったら動物の捕獲にも行かないとな。こちらも何度か経験があるし、手早く捕まえて聖域の条件を満たしてしまおう。

読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ