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二百三十八話 ベティの奮闘 下

 美味しかったです。全部美味しかったです。裕太さんがトルクさんに教えて、作られた料理もデザートも全部美味しかったです。やる気が出て来ました。まずはギルマスの説得です!


「フランコ事務長! ギルマスに会いたいんです! 約束を取り付けてください!」


「……少し落ち着きなさい。その様子だと料理とデザートが美味しかったのは分かる。だが、いきなりギルドマスターに会わせろは無いだろう。ちゃんと説明しなさい」


「ものすごく美味しかったんです。国中のお金持ちの奥方様が目の色を変えて求めると、確信できるほどに美味しかったんです。まだ試作品が残ってますから、ギルマスを連れて食べに行くんです!」


「いきなり無茶を言わないでくれ。ギルドマスターは忙しいのだ。そんなに簡単に時間を取ってもらう事はできない」


 フランコ事務長が分かってくれません。じれったいです。


「大丈夫です。黄金に変わる食材を見つけたんですから、その食材の販売ルートを確保できれば大儲け間違いないんです。ギルマスがその儲けをふいにする事はありえません!」


「はーー……分かった分かった。まずは私が報告をしてくるから、その間に制服に着替えて落ち着いておきなさい。ギルドマスターに今のように興奮した説明は許さないよ。頭を冷やして、冷静に説明できるように頭の中を整理しておくんだ。分かったね」


「はーい」


「返事を伸ばさない!」


「はい!」


 少し興奮し過ぎだったかしら? でもあんなに素敵なデザートを食べたのは初めてだったんだもの。しょうがないわ。


 ***


「ふむ、ベティがそれ程拘るのであれば、美味いのは間違いないじゃろう。じゃがデザートでそれ程儲けになるかのう?」


「食べたら分かります。あのデザートは今までのお菓子とは全く違うんです。儲かります!」


「ふむ、じゃが何故それ程急ぐんじゃ? 商売に迅速さは大事ではあるが、手順を踏む事も大事なんじゃぞ」


 むー、ギルマスは事の重大さが分かっていませんね。商業ギルドがちゃんと牛乳の管理をしてくれないと、私達がプリンやアイス、クレープが食べられなくなってしまうじゃないですか。その商品の管理に関わっているからこそ、私達ギルド職員にもおこぼれがあるんです。


 最悪でも裕太さんと約束したように、トルクさんのところに安値で卸せるようにしておかないといけません。トルクさんなら私に美味しいデザートを食べさせてくれるでしょう。その為には横やりが入らない間に、しっかりと流通に食い込んでおくべきなんです。


 まあ、ちゃんとトルクさんにお願いすれば、時間を掛ける事も可能かもしれませんが、ゆっくりすればするほど、私がデザートを食べるのが遅くなってしまいます。


「だから、食べたら分かるんです! 料理ギルドのギルマスも誘って、トルクさんの宿屋に早く行きましょうよ」


「お主は何を言っておるんじゃ? なぜ料理ギルドのマスターを誘わねばならんのじゃ? 商品になるのであれば、儂等が確認してからで問題は無いじゃろう」


「どうせ王様に献上する事になるんです。商業ギルド単独では王様にレシピを召し上げられちゃうかもしれません。それにちゃんとトルクさんと話し合っておかないと、トルクさんがレシピを公開しちゃいますよ。裕太さんはトルクさんにレシピの扱いを一任しています。トルクさんはレシピを独占しようとか考えてませんから、聞かれたら答えちゃいます」


「王まで出てくる話なのか? その言葉は冗談では済まされんのじゃぞ?」


 うう、ギルマスが怖いです。王様までは言い過ぎだったかも。でも、美味しい物は王家専用レシピにされる事があるんです。先手を打っておかないと、王家の晩餐会に出席しないと食べられないデザートになってしまいます。


「商業ギルドが献上しなくても、まったく新しいデザートですから、他の誰かが献上すると思います。その場合は王家にレシピごと召し上げられてしまう可能性があるんです。商業ギルドと料理ギルドが協力して流通できるようにしてください」


「王家が独占しようと考えるレシピか……儂には想像もつかんが、それだけのレシピであれば確かに貴族相手に大きな商売になるじゃろう。……おい、儂の今日の予定にズラせん約束はあるか?」


 良かったです。王家が独占したら商業ギルドは儲かりませんからね。ギルマスもやる気を出してくれました。


「……昼は商会との面会や会食がありますが、予定の変更は可能です。夜は伯爵家のパーティーに参加予定ですので、こちらは出席して頂かないと問題になります」


「では、昼の予定はズラしてくれ。それと、料理ギルドのマスターにもここに来るように使いを頼む。重要な話じゃと伝えて構わん。来れんのなら、料理ギルドで権限を持っておる者を寄こせとも伝えてくれ」


「畏まりました」


 ギルマスが予定を変更してくれました。料理ギルドのギルマスを誘ってくれたのも助かりましたね。いざとなったら料理ギルドのお友達からたどって行くつもりでしたが、迅速に進むのであれば大助かりです。


(ベティ。私は冷静に、ちゃんと説明するように言ったはずだが?)


 ホッとしているとフランコ事務長が、ギルマスと秘書さんが会話をしている隙に寄ってきました。これは完全に怒っています。ちゃんと説明したつもりでしたが、フランコ事務長の額には青筋が浮かんでいます。


 ***


 料理ギルドのマスターが来るまで、フランコ事務長にお説教されてしまいました。しかもそのまま二人のギルマスと同じ馬車で、トルクさんの宿屋に向かう事になってしまい、なんか気まずいです。


「それで、急に私を呼び出した重要な話はとは何なのかしら? 私にも予定があるんだから、それ相応の理由が無いと怒るわよ」


 料理ギルドのギルマスの機嫌が少し悪いです。急な呼び出しが機嫌を損ねてしまったようです。


「うむ、まあ儂もそこのベティと言う受付嬢に乗せられた形じゃから、詳しくは分からん。じゃが今まで流通されておらん食材を使った、まったく新しい料理で、レシピが王家に召し上げられる可能性があると言われては、動かん訳にもいかんじゃろ?」


「あら、あなたがベティなのね。料理ギルドでも商業ギルドに味が分かる受付嬢が居るって有名なのよ。詳しく話を聞かせてくれるかしら?」


 不機嫌な表情が変わり、興味深げな視線を私に向ける料理ギルドのギルマス。ここが正念場です。頑張って説明しましょう。



「ふふ、そうなの。トマトソースや揚げ物を広めた精霊術師の新しい料理やデザート。しかも牛乳を使った物で、王家がレシピを召し上げる可能性がある料理……興味深いわ、とっても興味深い話だわ」


 料理ギルドのギルマスが、ランランと目を光らせて不気味に笑っています。ギルマスに助けを求めると視線を逸らされてしまいました。


「それで、どんな料理なの?」


「何も聞かずに食べた方がいいと思います。ただ、料理を食べた裕太さんには不満な点があったようで、トルクさんと色々と相談していました。でも今の状態でも驚くほど美味しかったです」


「そうなの……楽しみね」


 機嫌が直ったのは良かったけど、料理に対する期待値がかなり上がってしまいました。でも今回の新しいレシピなら大丈夫なはずです。


 料理ギルドのギルマスの機嫌も良くなりましたし、丁度いい機会ですから高級料理店の情報を教えてもらいましょう。高級料理店は行く機会も少ないですし、なかなか情報が手に入らないのでこのチャンスは逃せません。


 貴重な話を聞いているとトルクさんの宿屋に到着した。最初は気まずかったけど、普段聞けない話が聞けたので良かったです。


「マーサさん、トルクさん、商業ギルドと料理ギルドのギルマスを連れて来ましたー」


「……あんた、本当に連れてきたのかい。無茶するねえ」


「へへー、頑張っちゃいました。新メニューをお願いしますね」


「あいよ! っと言いたいところだけど、もうすぐお客が来るんだよ。さすがに量が少ない料理の品評会を、見せびらかしながらやるのは問題なんでね。部屋を用意するからちょっと待っとくれ」


「あっ、そうですね。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」


「なに構わないさ。あたしも料理を食べたんだ。牛乳を手に入れる為ならこのぐらいの事は何でもないさ」


 マーサさんも牛乳を使ったレシピがお気に入りみたいですね。心強い味方が増えました。マーサさんのお気に入りレシピなら、宿屋で作られる頻度も上がるはずです。


「あと、この宿には護衛の人まで入れる部屋は無いよ? それに料理も足りない」


 ギルマス二人の護衛と秘書さん……さすがに全員は無理ですよね。どうしましょう?


「ふむ、まあベティは説明役として、それ以外に商業ギルドから二人、料理ギルドからも二人でええじゃろう。護衛は邪魔にならんところで待機しておれ。女将、悪いが護衛に飲み物を出してやってくれ。無論料金は払うぞ」


「あいよ!」


 マーサさんが手早く動き、私達は部屋に案内されました。二人のギルマスと、商業ギルドからは秘書さん。料理ギルドからは料理人の雰囲気を醸し出したおじさんが椅子に座ります。……私の座る場所が無いんですが、私は食べられないんですか?


 なんとか私も食べられないかと考えていると、マーサさんとカルク君が料理を運んで来てしまいました。なんとかデザートまでには試食に混ざりこみたいです。


「これは……凄いわね。牛乳を使うとこんなに味がまろやかになるの?」


「熱いが美味いな。確かに今までの料理とまったくの別物じゃ」


 次々と出される料理を感想を言い合いながら、食べつくす四人。私が説明役のはずなのに、誰も私の話を聞こうとしません。そのまま何も手を打つ事ができずにデザートに突入してしまいました。プリンを一口食べた四人の顔色が変わります。


 その気持ち良く分かります。冷たくてプルプルで、底のソースがほろ苦い……幸せの味です。

 

「これは……確かに凄いわね。冗談抜きで王がレシピを独占しようとしても不思議じゃないわ。トルクと言ったかしら? このデザートの製法は難しいの?」


 デザートと一緒に部屋に入ってきたトルクさんに、料理ギルドのギルマスが質問しています。


「……作り方が分かっていれば、味の良し悪しはあるだろうが子供でも作れるな」


「そう……この甘いのに苦みがあるソースも簡単に作れるの? 焦がしているみたいだけど」


「簡単に作れる。それよりもアイスを食え。それは溶けるのが早い」


「あらそうなの。ごめんなさいね」


 料理ギルドのギルマスがアイスに口を付ける。私も食べたいです。


「……こちらも凄いわね。料理の方も美味しかったけど、デザートは本当に洒落にならないわ。王家の独占を防ぐ事ができれば、ベティの言った通り国中で求める人が続出するでしょうね。ねえ、商業ギルドでは牛乳の安定供給は可能なの?」


「そうじゃな。悔しいが難しいじゃろう。まずは牛を飼っておる牧場との契約と、移送手段の確保が必須じゃな。そこから投資して徐々に牛を増やしていくしかあるまい。じゃが、今はチーズぐらいにしか使われとらん牛乳が、高価な食材に変わるのであれば、やらぬ手はないのう」


「そうね、料理よりもまずはデザートかしら。店を作って貴族の奥方様達に広めるわよ」


「そうじゃな。料理にまで手を出せば牛乳が追いつかんじゃろうし、甘味は高値がつけられる」


 ギルマス二人が、真剣な顔で話し合いを初めてしまいました。まだクレープが出てないのに。あっ、いけません、このままだとドンドン話が進んでしまいます。


「お二人とも、話し合うのならトルクさんも加えてちゃんと話してください。それとこのレシピの所有者からの要請なのですが、トルクさんの宿屋には牛乳を格安で卸す事が最低条件で、あとはトルクさんに任せるとの事です」


「ふむ、確か冒険者ギルドを追い込んだ精霊術師がレシピの所有者じゃったな。分かった、トルク、すまんが時間をくれ」


「いや、俺は今から食事を作らねばならん。マーサを代理で置いて行くからマーサと話し合ってくれ。マーサ、頼んだぞ」


「あいよ、任しときな!」


 四人とマーサさんで話し合いが始まりました。この宿に牛乳が卸されるなら、私でも牛乳を使ったデザートを食べる機会が増えますね。とりあえず受付嬢の私には難しい話なので、厨房に行って料理とデザートが余っていないかを確認しておきましょう。

読んでくださってありがとうございます。

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[一言] この世界の上司は柔軟で話がわかるな 食レポの知名度があるとはいえ受付嬢の進言なんかに耳を傾けるんだから
[一言] ギルドが商売してどうするんだよ これじゃ国家規模の商会じゃん
[一言] 最後の一行がベティさんらしくてイカス
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