二百三十五話 裕太のおでかけの裏では……
「さてっ、会ってみたがどうであった? 余には悪意を持っておるようには見えなかったな。まあ、礼儀を守ろうとはしておったが、王家に対する敬意や恐れも感じられんかったがな」
王である余の前で、偶に面倒そうな顔をしておったのが印象的ではあったな。
「あの間合いであれば斬る事は可能でした。国に利益があるとはいえ、従わぬ危険分子はやはり斬り捨てるべきだったのでは?」
「そうは言うがな、バロッタがあれほど止めるのだ。迂闊に手を出す訳にもいくまい」
裕太が部屋に入ってきてから、ずっと青い顔のままのバロッタを見る。あの様子では我々に分からぬ精霊術師の感覚で、何かを捉えておったのだろう。
「ラザル騎士団長。裕太殿の側には二体の精霊が控えておりました。私の精霊よりも圧倒的に強力な二体です。手を出すには危険過ぎます」
「そうは言うが、動きは素人だったぞ。優秀な精霊術師が強大な力を使える事は知っているが、接近すれば簡単に始末できるだろう」
「裕太殿は単独で迷宮に潜る冒険者です。接近戦に対処できなければ生き残る事は不可能でしょう。失敗すればファイアードラゴンを一撃で倒す力がこちらを向くのです。私は裕太殿に手を出す事は絶対に反対です」
「そうかもしれんが、落とし穴に落とせば何とでもなったはずだ。罠にかかればあの体捌きでは回避もむりだし、詠唱も間に合わんぞ」
「裕太殿は遠隔で弟子に護衛をつける事ができるそうです。暗殺者の奇襲にも一瞬で植物が生えて防いだという話もあります。私達の知らない精霊術を使える可能性が高いのです。失敗したら王都がメチャクチャになる可能性もあります。賭けに出るにはリスクが高すぎます」
裕太が来ると知らせを受けて話し合った時も同じ事を言っておったが、直接姿を見た後でも両者の意見は変わらぬか。
「ふむ、爺はどう見た。スキルは使ったのであろう?」
「そうですな……ありていに言えばバケモノと言ったところですな」
「バケモノだと?」
宮廷魔術師の長がバケモノと言うか。
「もしくは稀代の詐欺師ですな」
「意味が分からん。詳しく申せ」
「分かりました。まずはこれを見てください。あの精霊術師を鑑定し書き写した物です」
名前 森園 裕太
レベル 152
体力 S
魔力 A
力 A
知力 B
器用 S
運 B
スキル
生活魔法
ハンマー術
ノコギリ術
夜目
「確かに高レベルではあるが、たいしたスキルも持っておらん……これでファイアードラゴンが倒せるのか? 英雄達の平均レベルは二百後半ではなかったか? あとノコギリ術ってなんだ?」
「その通りです。爺の鑑定ではユニークスキルは見通せませんが、ファイアードラゴンを倒すには明らかに力不足です。そうなると、ステータスを偽装しているか、強力なユニークスキルを持ち、従えている精霊を自由自在に操れるか、本当にファイアードラゴンを倒した者が別に居るかといったところですかな? 無論バロッタ殿が青ざめる精霊を二体も従えているのです。前者の二つと考えるのが妥当でしょう。あとノコギリ術は意味が分かりませんな」
「それでバケモノか詐欺師か。バロッタよ、もしお主の契約精霊を自由自在に使えるとしたら、何ができる?」
「……小国なら落とせましょう」
「裕太の契約精霊は、お主の契約精霊と比べて圧倒的に力が上だと言っておったな?」
「間違いなく上です。スライムとドラゴンを比べるようなものかと……」
バロッタは我が国でもトップクラスの精霊術師だ。その契約精霊も当然、それにふさわしい力を持っておる。それがスライム扱いか、爺の言う通りであれば洒落にならんのではないか?
詐欺師の可能性もあるとは言っておったがな。だが例え詐欺師だとしても、ファイアードラゴンを倒せるものとの繋がりがある事は間違い無いだろう。いや、ファイアードラゴンを他の冒険者の前で一撃で倒していたな。何か秘密がある事は確かであろう。
「もう一度通達を出しておくべきだな。裕太に干渉する者には罰を与える。爵位の消滅、死罪もあり得るとな」
「軍はいかが致しましょう? ガッリ侯爵家の者達があの精霊術師を、拘束するべきだと騒いでおりますが」
「ならぬ。例えガッリ侯爵家の者でも容赦はせぬ。そう伝えておけ。先代の功績を無にするなとな」
先代には命と国を救われたが、だからと言って国を亡ぼす訳にはいかぬ。多少増長しておったようだし、釘をさしておくべきだろう。
「ハッ」
そう言えばガッリ家の当主代理が、正当に爵位を受け継ぎたいと言っておったな。裕太の元にガッリ子爵が訪ねた後に消えたと聞いたが……。始末されたのであれば爵位の継承は当然であろうが、軍部に対するガッリ家の影響力を削ぐ良い機会だ。もうしばらく様子を見るべきだな。
しかしあの者が現れ我が国は他国に対して優位に立った。最上位の魔法薬が潤沢なのだ。多少の無茶も無茶ではなくなった。ガッリ侯爵がおれば敵国に侵略しろとうるさかったであろうな。裕太が従えば他国との戦争も視野に入れても良かったが立ち位置が不明では無理はできん。
余が見たところこの国に愛着がある訳でも無いようだ。敵に回らぬように手を打ちたいところだが、報告によれば気に入らぬ事があればギルドマスターにも歯向かう男だ。下手に手を出して関係を拗らせれば面倒な事になる。頭が痛くなってきたぞ。
***
「なにするー?」「キューー」「おうとははじめて」「ククーー」「はでにあそぶぜ」「…………」
裕太から王都で遊んで来ていいと言われたベル達が、ぷかぷかと浮きながら何をするか相談している。
「やたいしらべるーー」
ベルが元気に手をあげて、趣味の屋台巡りを提案している。
「クゥククーーー」
「たまもはおしろみたい?」
「クーー」
タマモが尻尾をブンブンと振りながら頷いている。お城の見学がしたいようだ。
「おにごっこ! でっかいおうとおにごっこしようぜ!」
フレアは鬼ごっこを提案している。
初めての王都に興奮したベル達には、やりたい事が沢山あり、話し合いがなかなか纏まらない。やりたい事が次々と提案され、フンフン、キューキューと白熱した議論が交わされている。
「まず、やたいをしらべる。つぎにおしろのけんがく。そのあとおにごっこでいい?」
「いいー」「キュー」「ククー」「いいぜ!」「……」
ベル達の意見をトゥルが纏め、ベル達が元気に賛成した。どうやら最初に提案された三つの意見に決めたようだ。他に出されたかくれんぼや、貴族家の見学は次の機会に回すようだ。
「じゃあべるとれいんはこっちにいくーー」「キュキューーー」
「ぼくとたまもはこっちにいく」「クーーー」
「あたしはむーんとこっちにいくぜ!」「…………」
まずは、ベルとレイン、トゥルとタマモ、フレアとムーンの三組に分かれて、王都の屋台を探索に出発した。
***
「これたべたいーー」
「キュキューー」
王都の西側にある屋台街に来たベルとレインは、一つ一つ屋台を覗き込みながら屋台料理を確認している。
「しらないのたくさんあるねーー」
「キューー」
国中から食材が集まってくる王都だけあって、ベルが見た事が無い料理が沢山ある。迷宮都市でも裕太の影響で新しい屋台料理が増えているが、王都にはまだまだ敵わない。
「でも、おにくへん?」
「キュー?」
沢山の屋台料理を見て楽しんでいるベル達が、屋台で売られている肉料理に疑問を感じているようだ。
ベルとレインの疑問はもっともな事で、王都の屋台で使われている肉類は、基本的に迷宮都市から仕入れられている。独自ルートを持つ店以外では商業ギルドが一括肉類を輸送し、料理ギルドが分配している。
屋台で使われる肉類はどうしても質が悪くなってしまい、迷宮から直接新鮮な肉類を安く仕入れられる、迷宮都市の屋台には肉の質では及ばない。
肉類は時間を置いて熟成させた方が美味しいが、安定して熟成させる為の設備や人員が無い。裕太が熟成肉の存在を思い出し、マリーや料理ギルドに協力を求めれば話は変わるかもしれないが、美味しい魔物肉に満足しているので、可能性は低いかもしれない。
「れいん、たのしいねーー」
「キューーー」
肉の質が気になったベルとレインだが、食事をする悦びに目覚めてから、そんなに時間が経っていない事もあってか、そういう物なんだろうと納得したようだ。二人で戯れるように全ての屋台を確認する。
「たべたいのたくさんあったーー」
「キューー」
「うん。ゆーたにおねがいするー」
「キュキューー」
屋台の確認を終えたベルは、満足そうに額の汗を拭う仕草をする。精霊は汗を掻かないので、確実に裕太と行動を共にして学習したんだろう。
屋台を巡り終え、ベル達が王都の上空で合流する。トゥル、タマモ組。フレア、ムーン組も満足そうな表情をしているので、成果はあったのだろう。すぐに全員が頭を寄せ合い、自分達が確認した屋台の料理情報を共有する。
話し方はつたないが、ベル達は真剣な表情で話し合う。ダブっている料理はどちらが美味しそうか確認し、一つしかない料理、際立って美味しそうだった料理、お客が沢山いた屋台。
ベル達は様々な角度から屋台を分析し、裕太と一緒に行く屋台を決定する。ベル達が僅かな時間で集めた情報量は意外と多く、王都屋台マップとか作成すれば、ベストセラーになったかもしれない。
ネックとしては、見ただけで料理を食べていないので味が分からない事。楽しい事が好きなベル達は、尖った料理やゲテモノに分類されそうな料理にも興味を示す事だ。
「これでだいじょうぶ。つぎはおしろ!」
屋台情報を共有したベル達は、トゥルの指示で次の予定のお城に向かって突撃する。
縦横無尽にお城の中を飛び回り、はしゃぎながら探検をするベル達。偶にこの国に仕えている精霊術師の契約精霊と話したり、王家のプライベートスペースや宝物庫まで侵入したりと、隅々までお城を堪能する。充実した探索を終えたベル達は、ここで衝撃の事実に気がつく。
「おひるないねーー」「キューー」「わすれてた」「ククーー」「ゆーたもわすれてるぜ!」「…………」
午前中にしっかりと屋台を確認して、ご飯を食べる気持ちになっていたのでかなりショックな出来事のようだ。再び頭を寄せ合って相談するベル達。
元々がご飯を食べる必要が無い精霊なので、夜に沢山食べさせてもらおうと結論を出し、気持ちを切り替えて鬼ごっこをする事にしたようだ。ただ、王都を飛び回る追いかけっこの中で、屋台周辺での鬼の交代率が異常に高かったらしい。
二百三十五話の後半では、三人称に挑戦してみました。
ちゃんと三人称になっているのかすら不安で、読み辛かったら申し訳ありません。
読んでくださってありがとうございます。




