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二百三十四話 交渉

 光属性の杖を手に入れる為にお城に交渉に来た。王様が居る部屋に入るとレベルが高い騎士が四人と、死角に四人の暗殺者? が居る。それに加えて結界があって、俺の座る場所には落とし穴があるらしい。あとは精霊術師のバロッタさんと魔術師? が壁際に控えていた。


 コスタ子爵の話では好意的な感じだったのに、ここまで警戒されているとなるとウソだったんだろうか? いや、単なる用心の可能性もあるんだし、穏便に話を進めるべき……なんだよな? 軽くテンパって来た。


 いきなり指を指して、お前達の罠は全て見破った! とか背景にバーン!! と文字が浮かびそうな事を言って、シルフィとノモスに全ての罠を粉砕してもらうパターンもあるけど、大騒ぎになるよな。


 あっ、バロッタさんの契約精霊がこっちに近づいてきた。たしか土の中級精霊だったよな。


「あら? ディーネはいないの? 風の大精霊と土の大精霊が来るなんて、ヘタしたらこの国が亡んじゃうわね。何かあった時、できれば私の契約者を見逃してくれるとありがたいわ」


 のんきに物騒な事を言う土の中級精霊。そういえば前に会った時はディーネだけだったな。大精霊を二人連れてきた事でバロッタさんが驚いてるかも。


「お主が裕太か、色々と話は聞いている。そう固くならずにそこに座るがいい」


 精霊達やバロッタさんが気になっているのに、王様が話しかけてきた。内容は落とし穴が待ち構えている席に座れって事らしい。いきなり穴に落とされる事もあるのか? シルフィが、それなら王様がわざわざ居る意味が無いって言ってたし、大丈夫だと信じよう。王様が影武者でなければだけど……。


 それよりものんきに会話している精霊達が気になって、王様との会話に集中できない。って言うか今回の会談は気になる事が多過ぎるぞ。


「失礼します」


 ビビっていてもしょうがないので、言われた通りにソファーに座る。危険な時はシルフィとノモスが助けてくれるよね。幸いにも座ってもいきなり落とし穴が発動する事は無かった。


 落とし穴の上に座るって、助けてもらえるって分かっていても心臓に悪いな。ドッキリ番組でドッキリに気づいてしまっても、自分でドッキリに掛かりに行く芸人さんも、こんな気持ちなんだろうか?


 座ってから、失礼にならない程度に王様を観察する。うーん、王様……なんか貫禄ある気もする……のか? まあガッリ侯爵を甘やかしていた王様だからな。凄い王様って事も無いだろう。なんか気持ちが楽になってきた。表面上は畏まった雰囲気で次の王様の言葉を待つ。


「さて、先ほども言ったがお主には興味を持っておった。に仕えるつもりは無いか?」


 余って使ってる人を初めて見た。さすが王様、一人称ですら特別感が有る。しかしいきなり勧誘されてしまった。


「申し訳ありません。私は誰かに仕えると言う事ができない性分でして……」


 ペコリと頭を下げる。正確に言えば異世界に来てまで、誰かにこき使われたくないだけなんだけど。なんか王様の左右に居る騎士達からプレッシャーが増した。断ったから機嫌を損ねてしまったようだ。


「ふむ、バロッタからもお主に迂闊に手を出すなと言われておるが、ファイアードラゴンを単独で倒すほどの男を、冒険者にしておくにはもったいない。伯爵位と領地を授けるぞ。功績を上げれば侯爵位も夢ではない」


 周りがメチャクチャざわついている。たぶんよっぽどの好条件なんだろうな。子爵までは有るかと思ってたけど、いきなり伯爵か。俺が頭が良ければ領地を貰って内政チートも楽しそうだが、残念な事にラノベやネット小説で読んだくらいの知識しかない。さすがにそれで領民は背負えないよな。


 ちょっとだけシルフィ達の力を借りれば楽勝かもって思ったけど、大精霊達が人間の領地経営を喜ぶとは思えない。でも、経済はともかく、領地全体の大豊作は可能だよな。……いかんいかん、魅力的な話だけど、貴族になったら戦争に行けとか言われるんだ。そんな面倒な事に関わるのは勘弁だ。


「申し訳ありません」


 それだけ言って頭を下げる。大変光栄な事ではありますが的な返事をしてみたかったが、確実に噛むのでシンプルが一番だ。俺が言葉を発する度に、騎士達がプレッシャーを増すのは勘弁して欲しい。ムカついたからって落とし穴を作動するのは止めてね。


「伯爵位でも断るか……ではお主にはこれをやろう」


 なんかゴージャスな短剣を目の前に置かれた。


「陛下!」


 なんか騎士達の中で一番偉そうな人が慌てている。なんかヤバい短剣なのか?


「その短剣は余の庇護に有ると言う証だ。それを見せればこの国だけでなく、敵対国以外の国々でも相応の扱いを受ける事ができるだろう」


「陛下! 素性の分からぬ者に、陛下の短剣を与えるなど危険過ぎます!」


「良いのだ。つまらぬ事でこの者に国を出て行かれる方がよっぽどの損失だ。裕太よ、その短剣があれば、くだらぬチョッカイの大部分は避けられよう。もし、誰かに仕えてもいいと思ったなら、是非ともその短剣をもって余の元を訪ねて欲しい」


 ……なにこの雰囲気。ヒモ付きになりそうな短剣なんか要らないんだけど、確実に断ったらダメな空気がかもし出されているよ。


 この短剣を持ってたら、クリソプレーズ王国の関係者って思われるんだろうな。偉そうな騎士さんは短剣を悪用される事を恐れていて、王様は俺に唾を付けたって明確にしたいって事なんだろう。


 ……断れる空気じゃ無いし、受け取っておくか。面倒な貴族に絡まれたら、御老公様の印籠的な事ができそうで、ちょっと楽しみでもある。


 それにこの短剣を受け取るか受け取らないかが、王様にとって重要な境界線になっている気がする。断ったら落とし穴が発動する可能性もあるな。危険人物として、全力で殺しに来るかもしれない。


 誰かに仕えるつもりも無いし、この短剣に何か俺の知らない罠があったとしても、死の大地かこの国の敵対国に逃げ出せば何とかなるだろう。どうせお城に来る事なんてそうそう無いだろうし、さっさと交渉を終わらせて帰りたい。


「ありがとうございます」


「うむ」


 俺がお礼を言うと王様は鷹揚に頷き、偉そうな騎士さんは不満そうに黙った。


「あの、それでですね、光属性の杖と精霊樹の果実を交換して頂きたいと言う話なのですが、どうなんでしょう?」


「ああ、そうであったな。まずは精霊樹の果実を見せて貰おうか。杖を持ってまいれ」


 ……精霊樹の果実を見せるのは問題無いんだけど、このまま王様が話を続けるの? 普通こういう時は部下が代わりに交渉するんじゃ無いのか? ……どうやら引き続き王様がお相手くださるらしい。俺から交渉相手を別の人にしてくださいって言ったら、騎士に斬られそうだ。


 王様が声を掛けると、バロッタさんの隣に居た魔術師らしきお爺さんが、箱を持ってこちらに来た。あの箱に杖が入ってるのか。精霊樹の果実も何かに入れて来た方が良かったか? むき出しなんだけど……。


 今更か。なんか異世界に来てから、服装とか精霊樹の果実の入れ物とか、そう言う気が利かなくなってる。日本に居た頃はそう言う事はちゃんと出来ていたんだけど、今は完全に気が抜けてるんだろう。ちょっと恥ずかしく思いつつも、魔法の鞄から精霊樹の果実を取り出し王様の前に置く。


 光属性の杖も箱から出され俺の前に置かれる。俺が見ても分からないから、ノモスにお願いするしかない。ノモスもその事が分かってるのか、杖の前に移動してじっくり観察している。


「うむ、十分な品質じゃ。問題無いぞ」


 ノモスが王様に近づいた時に、バロッタさんが慌ててたのがなんか申し訳ない。まあ、ノモスが太鼓判を押してくれたなら大丈夫だ。王様も精霊樹の果実を手に取り一通り確認した後、杖を持ってきた魔術師に果実を渡す。


「どうだ?」


「精霊樹の果実に間違いありません。魔力もしっかり宿っていますので、古い物ではありませんな」


 あの魔術師が鑑定役だったのか。俺にとってのノモスポジションだな。しかし魔力が宿っているかどうかで鮮度も分かるのか?


「こちらの杖も十分に私が欲しい品質を満たしております。交換して頂けますか?」


「ふむ……王国にとっては良い取引ではあるが、何に使うつもりなのだ?」


 死の大地に聖域を作る為に使いますって、馬鹿正直に言う訳にはいかない。何に使うのか聞かれると思ってたから、まともな理由を考えてたんだけど、良い言い訳が思いつかなかったんだよね。


 迷宮の攻略に必要なんですって理由が一番まともだったんだけど、どのように光属性の杖が必要かって聞かれたら困る。


「秘密ですって訳にはいきませんか?」


「明確な理由を話して貰わぬと、迂闊に交換する訳にはいかんのだ」


 やっぱりダメか。


「くだらない理由なんです。色々な属性の杖を持ってはいるんですが、どうしても光属性の杖だけが手に入らないんです。光属性の杖が無いのが嫌で嫌でしょうがないんです」


「……そんな理由で精霊樹の果実を手放すのか? 確かに光属性の杖は希少な物ではあるが、凄まじい力を秘めている訳では無い。精霊樹の果実と比べると価値としては劣るぞ」


 もう一個精霊樹の果実を持ってるし、物欲センサーに怯えているだけなんです。光属性の杖を手に入れた後に迷宮に入れば、あっさり光の杖が見つかる気がするけど、持ってなかったら物凄く苦労しそうで嫌なんだ。


 単なる被害妄想なのは分かってるんだけど、どうしても最後の一つがなかなか手に入らないって考えから逃れられない。これもゲーム脳って事になるんだろうか?


「それは分かってるんですけど、コレクターとしてどうしても我慢できないんです」


 ものすごく胡散臭そうに俺を見る王様。明らかに信じてないな。あと騎士さん達がキレそうだ。別にバカにしているつもりは無いから抑えて欲しい。


「まあ、良かろう。裕太、余はお主を信用する事にする。コレクターとしてどうしても光属性の杖が欲しい。間違いないのだな?」


 なんか念を押されてるぞ。何か問題が起こった時の為に言質でも取るつもりなのか? ……言質を取られても別に問題無いし、たぶん何か政治的な理由で念を押したいんだろう。


「はい、間違いありません」


「良かろう。では交渉成立だな」


「ありがとうございます」


 良かった、なんか物騒な警備が敷かれてたから何かあるのかと思ったけど、落とし穴に落とされる事無く、無事に交渉が成立した。なんか偉い人と会う度に揉め事になってたから、一つ成長出来た気がするな。


 これで杖集めから解放される。あとはノモスに杖を改造してもらって、設置する土台を作れば聖域になるはずだ。よし、帰ろう。


「今日は突然訪ねたにも関わらず、お時間を割いていただき、ありがとうございました」


「なに、構わん。余もお主に興味があったからな。またいつでも訪ねて来るが良い。そうだ、時間が有るのであれば、我が国に所属する精霊術師と話をしていかんか? お互いに何か役立つ事もあろう」


 ……嫌な誘いが王様の口から発せられた。こういう場合は断ったら失礼になるんだろうか? それに精霊術について話せる事がほとんど無い。そして何より早く帰りたい。多少無礼でも光属性の杖は手に入ったんだし、断って帰ろう。


「申し訳ありませんが、精霊術に関しましては秘伝の部分が多く、お話する訳にはいかないのです」


「……残念じゃが、無理強いはできんな。バロッタよ、そう青い顔をせずとも、お前の言葉は忘れておらん。大丈夫だ」


 バロッタさんが王様に色々と伝えてくれたようだ。どんな内容か気になるが、そのおかげで強制的な行動が無かったのかもしれないな。罠はあったけど。


「普通に終わっちゃったわね。裕太が穴に落ちるところが、ちょっとだけ見たかったわ」


「そうじゃの。精霊の恐ろしさを示す良い機会じゃったのに、ちょっと残念じゃの」


 背後で大精霊が気楽に物騒な事を話している。助けてくれるのなら落とし穴ぐらいは落ちてもいいけど、精霊の恐ろしさを示すって、何をするつもりだよ。怖すぎるぞ。





 落とし穴に落とされる事も無く、騎士に斬りかかられる事も無く、無事に王様との交渉が成立した。帰りの馬車の中ではコスタ子爵に、迷宮でどんな財宝を手に入れたのかと聞かれたり、家に泊まらないかと誘われたりで、大変だった。


 光属性の杖を手に入れたので、さっそく並べて鑑賞したいんですとワガママを言い、なんとか貴族街との境目で馬車を降ろしてもらう。さて、ベル達を召喚して帰るか。


「裕太、何人かつけて来るわよ」


 ベル達から王都探索の報告、九割は食べ物関係を聞きながら歩いていると、シルフィから注意を受けた。


 ……面倒だな。襲って光属性の杖を取り戻そうと考えるほど、あの王様はバカそうじゃ無かった。王様の隣でイラついていた騎士が、何か手を打ったのか?


(襲って来そう?)


「今のところ襲って来る気配は無いわね。排除しておく?」


(んー、たんなる様子見なら排除する必要は無いよ。もし襲い掛かって来たらよろしく)


「分かったわ」


「裕太、儂はいつまで一緒におればいいんじゃ? 襲撃者などシルフィだけで十分じゃろ。儂は早く戻りたいぞ」


 ノモスが帰りたいと言い出した。確かにシルフィがいれば何の問題もないんだけど、少しは心配してくれてもいいんじゃなかろうか。まあ、そう言ったら鼻で笑われるだけだろうし、大人しく送還するけど。


(たぶん明後日には泉の家に戻るから、みんなに伝えておいてくれ)


「うむ、宴会じゃな。楽しみにしておるぞ」


 消え際に都合のいい事を言うノモス。そんな事一言も言って無いよ。でも結局宴会になるんだろうな。抵抗しても抵抗しきれずに、酒樽を出している自分の姿がありありと想像できる。もはや確定した未来だな。のんびり尾行を引き連れながら城門を抜け外に出る。


(シルフィ、尾行はまだついて来てる?)


「城門を出るところで二人ほど戻って行ったけど、残りは付いて来てるわね」


(戻った二人の監視はしてる?)


「ええ、今は城に向かってるわ」


 なるほど、俺達が王都を出たって報告に戻ったんだろうな。ならここで休憩して尾行を寄こしてきた相手を探っておくか。王都から続く道から逸れて、人気の無い方向に進む。これで尾行も近づき辛いはずだ。


 地べたに座り、魔法の鞄から紅茶を取り出す。こういう時はコーヒーの方が雰囲気は合うよな。もうそろそろコーヒーの実も、実らせる事ができるだろうし楽しみだな。


 都会に出ると落とし穴やら尾行やらがついてくるし、なんか最近、死の大地の方が心が落ち着く気がする。死の大地を開拓して、俺が楽しく暮らせるようにした方が建設的かもな。都会は遊びに行くだけで十分だ。


「裕太、二人とも報告を終えたわ。内容を今聞く?」


 つらつらと現実逃避気味の考え事をしていると、シルフィが盗聴? が終わったと教えてくれた。内容次第で王様から貰った短剣を使うチャンスもありそうだし、ここで話を聞いておくか。


「うん、お願い」


「一人はガッリ子爵についていた筆頭従者の手駒ね。裕太の事を怪しんでいて、拠点を知る為の尾行ね。もう一人は国王の方で、裕太に余計なチョッカイを出すバカがいないかの監視だったわ」


 なるほど、あの筆頭従者はまだまだ頑張ってるんだ。後継者争いとか大変そうなのに、よく頑張るな。俺の中で、ガッリ家の関係者との縁は全て終わった事になってるのに意外としつこい。


 もしガッリ親子が帰って来たら更にウザくなりそうだ。もう一つの方は王様が手を回していてくれたのか。


「じゃあ特に問題は無さそうだね。尾行は俺の事が見えてる?」


「そうね、人影が確認できるって感じかしら? 遠くを見るスキルを持ってなかったらだけど……」


 尾行に駆り出された人員なら、そう言うスキルを持っててもおかしくなさそうだな。俺が飛べるって事は結構知られてるだろうけど、わざわざガッリ家の奴らに見せる必要も無い。


「シルフィ、強風で尾行の目を塞いで、その間に飛び去る事はできる?」


「簡単よ」


「じゃあ、お願い」


 シルフィが頷くと王都がある方向に竜巻が発生し、微かに悲鳴のような声が聞こえる。そしてゆっくりと上昇して行く俺の体……なんか思ってたのと違う。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 罠が気になって、精霊達の会話も気になって、王様への対処が気もそぞろとか、どんだけ大物なの?という感じですが、おなかが痛くなってきたとかも描かれてるし、もう何がなんだか、チグハグでバラン…
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