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二百三十三話 王都

 のんびりとベル達と戯れた後、王都にやって来た。いよいよお偉いさんとの交渉って事になるんだろうな。王都から少し離れた場所に降り立ち、城門に向かって歩いて行く。


「そう言えばこうやって普通に王都に入るのって初めてだよね」


 前回はガッリ親子を攫いに来た時だったから不法侵入だったもんな。今回はお城に行くんだし、ちゃんと門を通った方がいいだろう。


「そうね。そう言えば、あの親子はどうしているのかしら?」


 シルフィも同じ事を思い出したのか、ガッリ親子の事を考えているようだ。生きているのか死んでいるのかすら分からんから、俺も少し気になる。


「調べてみましょうか?」


「いや、あんまり関わり合いになりたくないし、戻って来ても俺に絡まなければ問題無いから、わざわざ調べなくてもいいよ」


 シルフィがすぐに頷いた。ガッリ親子の事をどうしても調べたいって事では無いらしい。偶々思い出して少し気になった程度のようだ。


 王都の城門に近づくと、門の前には結構行列がある。中に入るのはしばらく時間が掛かりそうだな。


「王都に入るのって結構時間かかるんだね」


「結構並んでるみたいだから、中に入るのに結構時間が掛かりそうね」


 まあ、面倒だけど手順を踏んで入るには並ぶしか無いんだ。並んでのんびりと待つか。ふとベル達を見ると明らかにソワソワしている。


 目線は王都の城門。好奇心が旺盛な子達だし、並んで待たせているよりも王都の中で遊ばせておくか。


「ベル達は先に王都に入って遊んでいていいよ。用事が終わったら召喚するからね」


「いいのー?」


 ベルがコテンと首を傾げて聞いてくる。あれ? もしかして俺が気を使われてるのかな?


「問題無いよ。他の人達に迷惑を掛けないように遊んでおいで」


「わかったー」「キューー」「いってくる」「クーー」「もえるぜ!」「……」


 改めて許可を出すと、大喜びで王都に向かって飛んで行くベル達。契約をしてから皆と一緒に生活するようになったから、色々と考えるようになったのかもな。さて俺は列に並んでシルフィと話しながら、のんびりと列が進むのを待つか。


 一時間程でようやく門に到着し、問題無く王都に入る事ができた。シルフィと小声で話していたからか、ちょっと列の前後の人に気味悪がられて距離を取られたが、旅の恥はかき捨てって事にしておこう。


(この前は夜中だったから分からなかったけど、王都と言うだけあってかなり賑やかだね)


「そうね。一国の首都だけあって迷宮都市と比べてもこっちの方が断然賑やかだわ。でも裕太、キョロキョロしていると絡まれるから、もう少し落ち着いて歩きなさい」


(そんなにキョロキョロしてるかな?)


「ええ、初めて都会に出てきたって感じね。とっても騙しやすそうだわ」


(分かった注意するよ)


 余計なのに絡まれると面倒だ。王都見物は時間が有る時にみんなで来る事にして、今日はさっさと用事を済ませるか。とりあえずマリーさんから貰った紹介状もあるし、お城にたどり着ければ何とかなるだろう。ダメだったら改めて考えよう。まあ、精霊樹の果実はかなり凄いみたいだし問題無いはずだ。田舎者だと思われないように視線を固定してお城を目指して歩く。


「止まれ。ここより先は貴族街だ。許可なきものは入れんぞ」


 お城に到着する前に、若い門番に止められてしまった。貴族街か……こんな関門があったとは。ここでマリーさんから貰った紹介状を渡せばいいのか?


「えーっと、コスタ子爵と言う方にお会いしたいのですが、どうしたらいいですか? 紹介状を持ってはいます」


「紹介状? では、こちらに紹介状を。それと身分証もお願いします」


 なんか態度が少し軟化したな。一般人ではなく貴族の客の可能性があるからだろう。とりあえず冒険者ギルドのカードと紹介状を渡す。


「Aランクの冒険者なんですね。それなら申請すれば貴族街に入る事も可能です。申請して貴族街に入り用事を済ませるか、この紹介状を使いの者に届けさせ、コスタ子爵に許可を貰うかですね。どうしますか?」


 Aランクの冒険者なら申請すれば中に入れるのか。フリーパスで無いところが、凄いのか凄くないのか判断に迷うところだ。それに申請して中に入っても、どうせお城で止められる気がする。


「お手数ですが、紹介状をコスタ子爵に届けて頂けますか?」


「分かりました。返事を届けますが、どこの宿にお泊りですか?」


 宿に泊まる予定は無いんだよな。どうしよう、そんなに時間が掛かるのか? そう言えばスマホがある訳でも無し、コスタ子爵にすぐに会えるかどうかも分からないか。お城でお仕事をしているらしいから出勤してればなんとかなる気がするんだが……。


「しばらくこちらで待たせて頂いても構いませんか? 紹介状の内容がお城の方達に価値がある物であれば、すぐに手配してくれると思いますので。ダメだった場合は宿を取った後に、また知らせに来ます」


「では、こちらの詰め所でお待ちください」


「ありがとうございます」


 お茶まで出してくれたぞ。なんだか思った以上に待遇がいいな。Aランクの冒険者って事で優遇されているのかな? ガッリ親子の取り調べとの時とは大違いだ。詰所の中でまったりしていると、先ほどの門番が話しかけてきた。


 紹介状に王都でも話題になっているポルリウス商会の名前が書いてあり、俺の名前とランクからファイアードラゴンを倒した精霊術師だと分かったんだそうだ。とても嬉しそうに俺を誉めそやしてくれる。王都にも名前を轟かせてしまったか。


 あんまり目立つと面倒事が寄って来るから良くないはずなんだが、知られている事にちょっと鼻が高くなるのは、どうしてなんだろう?


 ……俺はキャーキャー言われたいのかもしれない。迷宮都市で散々悪い方向で目立ったから、好意的な反応を貰うとちょっと嬉しくなってしまう。俺、単純。相手が女の人だったらデレデレだった気がする。


 ゆっくりとお茶を飲みながら、迷宮の事を話す。……なんか大袈裟に褒める訳じゃ無いんだけど、相槌が上手でついつい話が弾んでしまう。俺ばっかり話して、完全に情報収集をされてるな。偶にガッリ親子の事なんかも話しに挟んで来る所が怖い。この侮れない門番の話も聞いてみよう。


 色々と話してみると、どうやらこの人も貴族の家系で、この詰め所では一番偉いんだそうだ。男爵の三男坊で親が仕事を斡旋してくれたとの事。羨ましい話だ。


 手柄を立てて爵位を得たいそうだが、門番だと爵位を得られる手柄は難しいそうで、なんか手柄になる情報は無いですかっとストレートに聞かれた。


 絶対にガッリ親子の情報を得て、どうにか手柄にしようとしてたよね。まあ、だからと言って初対面の男に手柄をあげる理由も無いな。よく分からない会話を繰り広げていると、兵士の一人が詰め所に飛び込んできて、実は意外と偉かった門番に手紙を渡す。


「裕太殿、すぐに迎えが来るそうです。いや、これほど迅速に事が運ぶとは驚きました。何か重大な話なのでしょうか?」


 結構驚いている門番さん。迅速って言われても、二時間近く待った気がするんだけど……これでも迅速らしい。マリーさんに即日ってお願いして良かったな。のんびりやってたら結構待たされたかもしれない。


 でも、完全に礼儀知らずだって思われてそうだな。俺がベティさんに思ったように、いきなり来るなよボケッぐらいは思われてそうだ。


「重大と言う訳では無いんですが、迷宮で手に入れた貴重品を持って来たんです。結構いい物なのでお城でも手早く動いてくれたんでしょうね」


「へー、そうなんですか」


 何を持って来たのって聞きたそうだが、さすがにそこまで話すのは問題だろう。国側も自分で公表するか秘匿するか決めたいだろうからな。話を逸らしながら馬車が来るまで再び雑談をする。


 ……なんかゴージャスな馬車がやって来たよ。馬車の枠が金ピカなんですけど……装飾も細かいし普通じゃない気がする。門番曰く、国が偉い人なんかを迎えに出す場合に使われる馬車らしい。ちょっと緊張して来たんですけど。


「いや、お待たせしました裕太殿。アメデオ コスタですぞ!」


 ニコニコと立派な衣装を着たおじさんが、馬車から降りて挨拶してきた。この人って子爵だよな? 偉い人が直接冒険者を出迎えに来るとか有りなのか? しかもなんかフレンドリーだ。


「初めまして。冒険者の裕太と申します。今日は急にお訪ねして申し訳ありません」


「いやいやいや、裕太殿であればいつでも大歓迎です。ささ、王がお待ちです。さっそく出発致しましょう」


 なに? 王様? いや、王家との交渉になるから王族と会う可能性は考えてたけど、いきなり王様なの? コスタ子爵に促され、気後れしながら馬車に乗り込む。


 内装もゴージャスで座席も魔物素材なのかフカフカだ。馬車が走り出すと、石畳の影響か思っていたよりも振動が少ない。これだけ厚遇されると逆に怖いぞ。のんきに構えてたけど、シルフィに手紙の行方を追いかけて貰えば良かったかな?


「いやいやいや、裕太殿の活躍でクリソプレーズ王国の財政は右肩上がりですぞ。友好国との関係も良好です。王も裕太殿に興味を持っておられたのですが、バロッタ殿から無用な干渉は国を亡ぼす事になると釘を刺されましてな。残念に思っておった所なのですが、会いに来てくださって嬉しく思っております」


 迷宮から下ろした素材で結構国も儲かってるんだな。俺が卸している薬草って薬草自体でもかなり高価だ。加工した薬は相当高く売れて、友好国とやらに貸しでも作れたんだろう。コスタ子爵は財務関連って言ってたから、それで俺に対して好意的なのかもしれない。


 あとはバロッタさんがしっかり俺の事を国に報告してくれてたみたいだ。国が亡ぶとまで言ってくれたから、わずらわしい勧誘が減ったのは間違い無いだろう。


「えーっと、コスタ子爵。自分で言うのもなんですが、国が亡ぶとまで言われた危険人物を、そんなに簡単にお城に入れてもいいんですか?」


「裕太殿の国に対する貢献は並ではありませんからな。それに失礼ですが裕太殿の人となりは国でも調査させて頂いております。もちろん裕太殿に敵対する為ではございませんぞ。その結果、野心が少なく上から押さえつけると激しく反発をするが、友好的に接すれば礼儀を持って返してくださる、と言う調査結果が出ております。裕太殿を利用しようとする勢力も確かに存在するのですが、王が釘をさしてくださいましたので、安心してください」


 ……調べられてたのか。いや、まあ国としたら当然の事だよな。国の調査員を冒険者ギルドが排除してたりしないよな? あとコスタ子爵、内情をペラペラ話し過ぎなんじゃなかろうか。


 うーん、ちょっとヤンチャな奴も居るけど、王様は俺の味方だよって言いたいのかな? まあ、警戒はされてるんだろうけど、表面上は友好的に振舞ってくれると思っておこう。そうなると問題は王様と会うって事だな。俺、まったく礼儀とか知らないよ? 片膝をついて頭を下げるとかしないとダメなのかな?


「そうなんですか、安心しました。それでコスタ子爵。俺は王様とお会いする時の礼儀を知らないんですが、どうしたらいいんでしょう? 無礼を働くつもりはありませんが、知らない間に失礼な態度をとってしまうかもしれません……」


「ああ、それなら大丈夫です。時間もありませんでしたし、謁見の間は使いません。個別での謁見となりますので、一般的な礼儀を守っていれば、うるさく言われる事はありませんぞ」


 一般的ってこの世界での一般的な礼儀だよな。更に緊張して来たぞ。普通に日本の礼儀で大丈夫なんだろうか? まあ、精一杯礼儀正しくして、それでもキレられたら逃げよう。


 ちょっと現実逃避気味に外を見ると、お城が間近に迫っていた。時間が掛かってもいいから、マリーさんに頼んで、ポルリウス商会で交渉してもらった方が良かったかな?


 あっ、ノモスを召喚しておこう。光属性の杖の鑑定をして貰わないとダメだからな。いきなり馬車の中に召喚され、戸惑うノモスにシルフィが現状を説明してくれている。なんかごめんね。


 ***


 城門を抜けて馬車を降り、コスタ子爵の案内で城内を歩く。日本のお城には入った事があるけど、西洋風のお城は初めてだ。なんかカッコいい。あと、俺の場違い感がハンパ無い。ちょっと城に行ってみるかって感じで出てきたから、普段着で来ちゃったよ。もっとまともな服で来れば良かった……普段着しか持ってないけど。財宝で出た装備とか宝石を身に着けておけば良かったかな。


「こちらで王がお待ちです。では入りますぞ」


 えっ? ちょっと待って。普通は別室に通されてなんかお茶を飲んだりするよね? 身体検査は? 俺が暴れたらどうするつもりなの? だいたい俺が先に部屋に入ってて、後から王様が登場ってのが基本じゃないのか?


 あっ、ノックしちゃった。もしかして手紙に即日とか書いちゃったから、色々と短縮されてる? 面倒が減ったのは嬉しいが、ここまで流れが速いとビビる。


 コスタ子爵と一緒に部屋に入ると、広い部屋に豪華な調度品、そして中央に王様らしき人が座り、左右に二人ずつ騎士が控えていた。


「ほう、人間にしては中々のレベルの者達じゃな」


「そうね、あと上手に隠れてるけど、死角に四人ほど潜んでるわね」


「うむ、部屋自体にも仕掛けがあるな。結界は王を守る為で、落とし穴と槍は裕太に使うんじゃろうか?」


「どうかしら? 殺すつもりなら王が居る意味も無いし、用心の為かもしれないわね」


 ……シルフィとノモスが物騒な事を楽しそうに話している。なにそれ、高レベルの騎士が周りを守るのは、王様なら当然かもしれない。俺が精霊術師だから、詠唱でもしだしたら斬りかかってくるんだろう。俺の場合は、シルフィがオートで撃退してくれるけど。


 しかし、罠まであるのは酷いと思う。俺の味方のような事を言っておいて、そこまで警戒心がむき出しだと帰りたくなるな。王様が影武者だったらどうしよう。このまま国と揉めるとか嫌なんで、シルフィが言ったように用心の為って事でお願いしたい。


 あっ、壁際にバロッタさんも居るな。その隣に居る人は魔術師かな? 見た目は普通なのに、意外と厳戒態勢で、なんだかお腹が痛くなってきた。

読んでくださってありがとうございます。

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