二百三十一話 レシピ
ガッリ親子の時のアリバイを忘れていたので修正しました。
修正内容
村までの時間が一日 → 半日
王都に行かずに牛乳を手に入れて迷宮都市に戻る。
修正前は王都に行っていましたが、
話の順番を入れ替えましたのでもう少し迷宮都市に居る事になります。
申し訳ありませんでした。
村で牛乳を手に入れ、ディーネにキンキンに牛乳を冷やして貰ってから、のんびり時間を潰して迷宮都市に戻ってきた。
「マーサさん、ただいま戻りました」
「ああ、戻ったんだね。牛乳は手に入ったのかい?」
「ええ、問題無く手に入りましたよ」
「そうかいそうかい。旦那も気にしてたから教えてやっておくれ。あんたから貰った材料で、ひたすら料理をするつもりみたいだからね」
「いいんですか? 更に料理に熱中しちゃいますよ?」
「ははは、あんたの依頼は思う存分料理ができるから、旦那のやる気に火が付いちまうのさ。どうせもう止まらないから無理やり休憩は取らせるけど、思う存分料理させてあんたの分ができた夜には、強制的に寝かせるよ」
なるほど、新しいレシピに加え大量に色んな料理を好きに作ってくれって依頼だから、トルクさんのテンションが上がっちゃうのか。しかもドラゴン系統のお肉も使えるから楽しいんだろう。
「分かりました。でしたら後で新メニューのレシピもお渡ししますね」
なんのメニューを渡そうかな? 俺的には米料理のレシピを渡したいところだが、牛乳を手に入れたし、俺がいない間に商業ギルドに動いて欲しいから、今回頼むのは牛乳を使ったレシピの方がいいだろう。
「ああ、裕太が教えてくれるレシピは美味しいから嬉しいね、今から試食が楽しみだよ」
ご機嫌なマーサさんと別れ部屋に戻ると「ゆーた、おかえりー」っとベルが飛び付いて来た。胸元にしがみ付いたベルを抱っこして、集まってきたレイン達を撫で繰り回しながら、ただいまを言う。なんだかホッコリするな。
「置いておいたご飯は足りた?」
「まんぷくー、でもゆーたがいないのさみしー」「キューー」「いっしょがいい」「ククーー」「あたしはへいきだぜ!」「…………」
夕食の量は問題無かったようだが、連続で一緒にご飯を食べられなかったのが寂しかったらしい。あとフレアの言葉はツンデレだと俺は信じているから問題無い。だからベル達は俺が帰って来てから引っ付きっぱなしなんだな。なんか申し訳ないけど、ちょっと嬉しい。
「ごめんねみんな。ちょっとジーナ達の様子を見たあとにも用事があるんだけど、それが終わったら沢山遊ぼうか」
今すぐにもベル達と戯れたいが、ジーナ達の様子を見てレシピを書かないとダメだからな。あそぶーっと喜ぶベル達を装備しながらジーナの部屋とサラ達の部屋に向かう。
「あっ、お師匠様、お帰りなさい」「師匠、おかえり」「おかえりなさい」
「ただいまみんな。ジーナが居なかったんだけど、どうしたの?」
ジーナが部屋に居なかったから、サラ達の部屋に来ていると思ったんだけど居ないな。ドリーも居ないし出かけてるのか?
「ちょっと実家に寄ってくると言ってたんですが、まだ戻って来てないんです」
昨日手に入れた獲物を持って行ってるんだろうな。迷宮の帰りにジーナに頼まれて、オークとラフバードを狩ったから、あれを持って行ったんだろう。
サラが少し心配そうにしているが、ドリーがここに居ないって事は、ジーナについて行ってるんだから安全だ。そこまで遅い時間じゃ無いし、まず間違いなくピートさんに引き止められているんだろう。百パーセント問題無いとは思うが、一応確認しておくか。
「シルフィ、悪いけどジーナの様子を確認してくれる?」
「ええ、食堂を見てみるわね。…………父親にさかんに話しかけられてるけど、まあ、問題ないわね」
早いな。そしてやっぱりピートさんが引き留めてたか。
「ありがとうシルフィ。サラ、様子を見てもらったけど問題は無さそうだよ」
「そうですか。お師匠様、ありがとうございます」
サラ達がホッとしている。今は雰囲気はある程度良くなったが、俺が嫌われまくっている姿をサラ達も見ていたし、サラ達も冒険者にちょっかい掛けられた事もある。ドリーが一緒にいて安全だって事が分かっていても、心配だったんだろう。
「どういたしまして。じゃあ俺もちょっとする事があるから部屋に戻るね」
安心したサラ達の頭を撫でて部屋に戻り、どんな料理を教えるか頭を悩ませる。食べたい物は幾らでも思いつくんだが、レシピとなるとあやふやだから困る。
まず食べたいのはクリームシチューだな。バターは何とかなるにしても、真っ白な小麦粉は高級品だよな。白パンは貴族の食べ物って言ってたし、牛乳を使う料理は小麦粉がネックになりそうだ。コンソメは似たようなスープで代用できるにしても、出汁関連も結構難しそうだ。こっちは研究してもらう方のレシピに書いておくか。
ベシャメルソースが作れればグラタンやラザニアも行けるな。これも研究用のレシピに書いておこう。トルクさんなら何とかしてくれるはずだ。マーサさんが大変そうだけど……。
今思いつく料理ですぐに作れそうなのは、カルボナーラだな。無調整の牛乳なら生クリームも作れるし、何とかなるだろう。しかし牛乳を使った料理で思いつくのは熱々の料理が多いな。牛乳を使ったレシピが広まらなかったのは、腐りやすいってだけじゃ無くて、熱々ってところにも問題があるのかもしれない。
デザートは……バニラエッセンスが無いのは悲しいが、プリンとアイスは今の材料で作れるな。クレープとカスタードクリームは小麦粉がネックになる。手に入らない事は無いだろうが、卵も高いから高価な物になっちゃうだろうな。
頭を悩ませながらなんとかレシピを書き上げる。あとはトルクさんの腕次第って事で丸投げだ。あっ、確かアイスを作る時には氷に塩を掛けた方がいいんだったか? あやふやだけど、これもトルクさんに試して貰おう。
レシピを書き終えたのでマーサさんに渡しに行く。そう言えば牛乳も渡しておいた方がいいよな。幸いこの宿には冷蔵部屋があるから悪くはならないだろう。
「マーサさん、これが新しいレシピです」
「もう書いたのかい? 仕事が早いねえ」
「ええ、でもすぐに作れそうなのは二つだけなんですよね。残りは真っ白な小麦を使うので、材料を手に入れるのが大変かもしれません」
「なに! 白い小麦粉!」
トルクさんが現れた。さっきまで見える位置にはいなかったはずなんだが、どんな耳をしているんだろう? スキルか?
「あんた、何処に行くんだい?」
「ちょっと買い物に行ってくる」
「バカ言ってんじゃ無いよ。まだお客さんが居るんだよ。あんたが食事を作らないで誰が作るんだい!」
そのまま買い物に行こうとしてマーサさんに怒られるトルクさん。小麦粉を買いに行きたかったんだろうな。
「むう、しかし、新メニューだぞ。早めに作って裕太に味を見てもらった方がいいだろ」
おお、いつもはマーサさんの言葉に逆らわないのに、今回は頑張って抵抗している。白い小麦粉になんか思い入れがあるのかな?
「それが宿のお客さんを、ほったらかしにしてもいい理由になると思ってるのかい?」
背景にゴゴゴゴゴって字が浮かびそうなプレッシャーを掛けるマーサさん。完全にビビっているが、諦めないトルクさん。蛇とカエルが両者の背後に浮かんでいる気がする。
「はあ、しょうがないねえ。あたしがちょっと行ってくるからあんたは料理を作ってな。それで手に入らなかったら我慢するんだよ。カルク、しっかり店番してな」
「分かった」
おお、蛇が折れた。なんか大波乱の逆転試合を見た気分だ。まあ、マーサさんが行かなくても、俺が行けばいいんだけどな。
「マーサさん、俺が買って来ますから大丈夫ですよ」
「いいさ、商業ギルドに行くだけだし、このぐらいの事でお客さんを使う訳にはいかないよ。じゃあちょっと行ってくるよ。カルク、しっかりやんな」
「おい、ちょっと待て。レシピは俺が預かろう」
出て行こうとしたマーサさんに、慌ててトルクさんが声を掛ける。今のタイミングでレシピを要求するのが間違っているのは俺にも分かる。
「バカを言うんじゃ無いよ。あたしが居ないんだ。しっかり料理をして、カルクにも注意を払うんだよ!」
トルクさんに発破を掛けてマーサさんが出て行った。いきなりお店を任されたカルク君には申し訳ないが、頑張って欲しい。なんか気まずいし俺は牛乳を渡して部屋に戻ってベル達と戯れよう。
部屋に戻り、外で遊んで楽しかった事を報告してくれるベル達を撫で繰り回す。いつもよりも激しく揉みくちゃにしながら話を聞くと、今日は街中で鬼ごっことだるまさんが転んだ、かくれんぼをしたそうだ。
屋台巡りも大体網羅したから、遊ぶ事にシフトしたみたいだな。街中での鬼ごっことかくれんぼか、結構楽しそうだな。精霊だから何かにぶつかると言う事もないだろうし、好き放題に遊んでそうだ。ベル達と戯れていると扉がノックされる。どうやらジーナが帰って来たらしい。
「師匠、ただいま」
「お帰り。ご両親は元気だった?」
「うん、もう少し落ち着いて欲しいと思うぐらいに元気だった。最近兄貴も帰って来て、あたしが卸した素材で色々と安く作れるから、儲かるって喜んでたよ」
元気過ぎるのか……その光景が目に浮かぶな。
「お兄さんが戻って来たの? 俺も挨拶しておいた方がいいかな?」
「んー、なんか騒ぎになりそうだからいいや。兄貴も過保護なんだよな。しかも親父がある事無い事吹き込んでたから心配されまくった。誤解を解こうとしたけど聞いてくれないし、たぶん師匠が来ると店が荒れる」
……面倒なのが一人増えたのか。一緒に帰ってきたドリーが苦笑いしているのが相当ヤバそうだ。……あれだな、とっても近づきたくない。ドリーの苦笑いで危険度がマックスだ。
「分かった、俺は行かない事にするよ。俺がよろしく言ってたってだけ伝えておいて」
「うん。本当は世話になってる師匠にも、兄貴を紹介したいんだけど……ごめんな」
ジーナがちょっと申し訳なさそうに言う。家族が話を聞いてくれないのは大変だろうな。まあ、俺は一応挨拶しておくべきかな? って思っただけだから、何の問題も無い。
「俺は誤解が解けてからで構わないよ。それよりも、サラ達が心配してたから顔を出してあげて」
「あっ、そうだった。ちょっと遅くなっちゃったもんな。今から顔を出してくるよ」
少し慌ててサラ達の部屋に向かうジーナを見送る。俺は再びしっかりとベル達と戯れよう。シルフィがなんだか生温かい目で見ているけど気にしないぞ。
幻冬舎コミックス様にて、書籍とコミカライズが決定いたしました。
コミカライズは4/27よりデンシバーズにてスタート致します。詳しくは活動報告をご覧いただけましたら幸いです。
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本当にありがとうございます。