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二百二十九話 ベティさん

 マリーさんのところにアダマンタイトを卸しに行き、ついでに光属性の杖について相談をすると、この国の財務官僚に紹介状を書いてもらえる事になった。交渉で杖が手に入るのなら、被りで苦しむ事も無くて安心だよね。


「ここです」


 マリーさんに案内された場所は、メルの工房の近くだった。そう言えば鍛冶師が集まっている場所って言ってたな。金属関連はこっちで保管しているのかもしれないな。


 倉庫の中に入ると想像通り何種類かの金属や鉱石が分類されて置いてある。ポルリウス商会ってかなり手広く商売しているようだ。


「ここにアダマンタイトを出せばいいんですよね?」


「はい、お願いします」


 とりあえずいつも魔物を卸しているぐらいの量を出せばいいんだよな。どうせならバラバラになったのや、イフがボコボコにしたアダマンタイトから消費するか。綺麗に倒したゴーレムは、物好きがいたら高く売れるかもしれないからな。可能性は低そうだけど。


「これだけの量のアダマンタイトを初めて見ました」


 マリーさんが喜んでいるけど、今までの素材と比べると興奮度が今一つだ。アダマンタイトの値崩れがどうとか面倒な理由もある、今までと違って手間がかかるんだろうな。


「マリーさん、各種薬草もここに出していいですか?」


「あっ、こちらにお願いします」


 マリーさんに言われた机に魔力草、万能草、神力草を置く。薬草を見る目はいつもの欲望に濁ったマリーさんの目だ。なんか落ち着く。軽く雑談をしているとソニアさんが倉庫に入ってきた。


「裕太さん、紹介状と前回卸して頂いた素材の代金です。内訳を説明しますか?」


 そう言えば前回の代金は今回卸した素材とまとめて支払ってもらう予定だったな。アダマンタイトを捌くのに時間が掛かりそうだし、しょうがないか。


「総額だけ教えてもらえれば大丈夫です」


「畏まりました。総額五億一千万エルトになります。問題ありませんか?」


 薬草を卸す量を増やしたから、金額も結構増えたな。


「相変わらずいい値段しますね。薬草はまだ値下がりしたりしないんですか? 迷宮の翼やマッスルスターのみなさんも薬草を採取してますよね?」


「そうですね、万能草はそろそろ値が下がるかもしれません。ですが魔力回復薬と欠損回復薬は国の備蓄分も合わせると全く数が足りてません。当分は値が下がる事は無いと思いますよ」


 まだ高値で売れるのか。いずれは飽和するかもしれないが、稼げる間に稼いでおこう。お金と紹介状を受け取り、俺は一足先においとまする。まだ昼にはだいぶ早いけど一度宿に戻って飯でも食うか。


 ***


「おかえり。ベティが来てるよ!」


 宿に戻ったらマーサさんに訳の分からない事を言われた。


「えっ? 来てるんですか? 時間を聞いて予定を合わせるんじゃ……」


「カルクを使いにやったんだけどね、今日の午後から二日ぐらいなら予定を合わせられるって伝えたら、その場で休みを取ってここに来たらしいよ」


 なにそれ怖い。俺は自分が突然訪ねるのは構わないけど、急な来客にはビビるタイプだ。できれば会う前に心構えの時間が欲しかった。って言うか俺が宿に戻らずに遊んでたら待ちぼうけだったんだから、もう少し考えて欲しい。


「そうなんですか……えーっと、そのベティさんはどこに?」


「ああ、食堂で待ってるよ。こっちだ」


 マーサさんに案内されて食堂の奥のテーブルに向かう。あの人がベティさんだな。


「ベティ、裕太が戻って来たよ」


 マーサさんが声を掛けるとベティさんが立ち上がり俺に笑顔を向けてくる。なんだかホンワカした雰囲気の人だな。色白でムッチリしていて、太っている訳では無いけど肉がついているって感じ。こう、母性豊って言うか安心するというか、美人と言うよりも可愛くて落ち着く雰囲気だ。


「裕太さんですね、私はベティと言います。突然訪ねて申し訳ありません。どうしてもお会いしたくて我慢できませんでした」


 テヘっと笑った後にペコリと頭を下げるベティさん。何この気持ち。そんなに好意全開で話しかけられたら、いきなり来やがってって気持ちが飛んで行っちゃうよ。簡単過ぎるな俺。


「裕太、顔が壊れてるわよ」


 シルフィ、壊れてるってどう言う意味? ツッコミたいところだが、マーサさんとベティさんの前で誰も居ない空間にツッコミを入れる訳にはいかない。たぶん顔がニヤけてるんだろう。シルフィに目線でお礼を言って、顔を引き締める。


「いえ、俺もお会いできて嬉しいです。ベティさんが料理を褒めて下さったので、俺のせいでご迷惑をお掛けしたこの宿屋に、少しは恩返しができました」


「なんだい、そんな事を気にしてたのかい。あんたのおかげでトルクなんてはしゃぎまくりさ。世話になってるのはこっちなんだから気にするんじゃ無いよ」


 隣にいたマーサさんが気にしなくていいと言ってくれるが、俺がお客さんを減らしちゃったのは事実だからな。そんな俺にも優しくしてくれたマーサさん達は、良い人過ぎて心配だ。俺が宿の主だったら間違いなく追い出してるもん。


「まあ、立ち話もなんだし二人とも座って話しな、昼はどうするんだい? 今日はラフバードのチーズチキンカツだよ!」


 俺が話を続けようとすると、照れくさくなったのかマーサさんが昼食の話を振って来た。ベティさんも食べていないそうなので、一緒に昼食を取る事にした。ごめんねシルフィ。再び目線で謝るが、気にしないでって感じでパタパタと手を振ってくれた。


 色々とメニューが増えてシルフィ達も一緒に食事を取ってくれる回数が増えたから、こういう時はちょっと切なくなるよな。でも精霊が食べ物や酒で釣れるって事を大々的に宣伝できないから難しいところだ。シルフィ達はともかく、フクちゃん達だと餌付けの効果が抜群にありそうで怖い。


 俺とベティさんは改めて席に座り、食事が来るまで軽く話をする。とりあえずグルメのカリスマらしいから、料理について話を振っておけば間違い無いはずだ。


「ベティさんはこの宿の料理はほとんど食べたんですよね? 何かお気に入りの料理はありますか?」


「食べましたよ。トマトソースは衝撃でした! 様々な料理に応用できて、素晴らしいとしか言えません。ですが、あの揚げ物。あれは悪魔の食べ物です。美味しくて美味しくて……少し体重が増えてしまいました……」


 満面の笑みで話し出したが、後半はドンドン声が小さくなってションボリする。そうか、あのムッチリボディに俺も貢献していたんだな。油物はカロリーが高いから、体を動かさない人には確かに危険だ。まあ、日本に比べると体を動かす機会も段違いに多いだろうし、ムッチリからポッチャリに進化する事は無いと思う。


 そして何より、初対面で地雷満載な話題をぶち込まないでください。拾うべきか聞き流すべきか非常に悩みます。


「確かに体を動かす機会が少ない人が、揚げ物を沢山食べるとちょっと危険ですね。冒険者には合う料理だとは思うんですが」


 しょっぱなからぶち込まれた話題を無視するのも不安なので、おそるおそる話題に乗ってみる。


「そうですよね。私も揚げ物を毎日食べるのは諦めました。でも最近はできるだけ運動する事にしていますので、少しは食べて良いはずです」


 少しって言っても、今から出てくるのはチーズチキンカツ。破壊力抜群なんだけどね。それにしても、この人完全に料理についてしか考えて無いな。商業ギルドの職員としてそれでいいのか? 自分で言うのもなんだけど、結構な金づるだよ? 


「はは、そうですね。運動するのは健康にもいいですし、運動しながら美味しくご飯を食べるのが一番です」


「そうですよね。ご飯が美味しいのはいい事です!」


 うんうんと頷きながら言うベティさん。丁度その時にマーサさんが揚げたての料理を運んできた。すでに目が料理に釘付けだ。目がマルコやキッカ、ベル達と同じだな。金づるとかそう言うのはあんまり興味が無いらしい。


「話は食べてからにしましょうか」


「そうですね。揚げ物は揚げたてが一番です!」


 そう言う訳で、とりあえず食事を始める。ガブっと大きく口を開けてチーズチキンカツにかぶりつくベティさん。口を開ける事に躊躇いが無いところが素敵だ。


「んーーー、このとろけるチーズがたまりません!」


 体をブルブルと震わしながら美味しそうにご飯を食べる姿が微笑ましい。この人に美味しいと勧められたら、大抵の人はその料理を食べたくなるだろう。食のカリスマって聞いてたから、究極とか至高とかのタイプの人かなって想像してたけど、まいうーって言うタイプの親しみやすい感じの人みたいだ。緊張しなくて助かる。


「裕太さん、美味しかったですね」


「そうですね。あやふやな説明でこれだけ美味しい料理が作れるトルクさんは凄いです」


 しばらくトルクさんが作った料理について語り合う。……えーっとこのままでいいのかな? 料理の感想しか話してない。このままだと延々とトルクさんの料理について話してそうだし、用件を聞いてみるか。


「それでベティさん、会いに来て下さった用事はなんですか? ベティさんとお話するのは楽しいので、用事が無くても大歓迎なんですが……」


「ああ、そうでした。すみません裕太さん」


「いえいえ、気にしないでください。それで何の用事なんでしょう?」


 用事を聞くと、ベティさんは少しモジモジしたあと、真剣な表情で話し始めた。


「実は、裕太さんにお聞きしたい事がありまして、その……」


 何を聞かれるんだろう? そんなに大事な話なのか?


「裕太さん、甘いお菓子は作らないんですか? もちろんレシピは貴重な財産です。無理に教えてくださいとはとても言えませんが、報酬も私にできる限り頑張りますので、何卒甘いお菓子を迷宮都市に広めてもらえませんか?」


「……えーっと、甘いお菓子ですか?」


「そうなんです!」


 何事かと思っていたら、食べた事の無い甘いお菓子が食べたかったらしい。……虎の子の日本のお菓子を渡したらどうなるんだろう? でも無くなったら次が無いか、逆に恨まれそうな気もする。それにこの世界で甘いお菓子に出会った事が無いな。砂糖があるんだからお菓子もあるだろうけど、気にしてなかった。


「俺は迷宮都市で甘い物を食べた事が無いんですよね。どんなお菓子があるんですか?」


「食べられて無いんですか。砂糖やハチミツを混ぜた焼き菓子が基本ですね。あとは果物と砂糖を煮詰めた物が人気です。パンにつけると美味しいんです」


 クッキーとジャムがあるのか。他にはあんまり種類が無いみたいだな。でも料理はともかくお菓子はあんまり作った事が無いんだよな。


 かろうじて作れそうなのは……異世界物の王道、プリンだな。他に簡単そうなのはアイスとかクレープとかか? まあ、まずはプリンがこの世界にあるのか確かめてみよう。

読んでくださってありがとうございます。

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