二百二十四話 撃破
イフが八十七層で大暴れした後、俺は順調に八十八層、八十九層を攻略してボス部屋に到着した。
「うーん、どんなボスか分からないと結構不安だね」
ボス部屋の前で休憩しながらシルフィに弱音を洩らす。
「そう? 今までのパターンから言って、ボスはゴーレムなんだから裕太なら問題ないわよ。相性抜群じゃない」
「あー、それもそうか。基本、アダマンタイトでもスパスパ切れたし、ゴーレムなら問題無いか。本の情報が無くなったから少し神経質になってたかも。ありがとうシルフィ」
「ふふ、どういたしまして」
攻略本が無くなっても、シルフィのいう通りゴーレム相手なら問題無いだろう。ボスが亜種ってパターンもあるから油断だけはしないようにして、誰も倒した事がないボスをサクッと潰して凱旋しよう。英雄を抜いたんだから俺も英雄になっちゃうのか? モテモテだな! 調子に乗ってしまいそうだ。
「でも、用心の為に自然の鎧は身に付けておいた方がいいわね」
……なるほど、ボス戦の前の自然の鎧パターンか。ほぼテンプレ化しているな。このままベル達を見たら、キラキラした瞳に断る事ができず、自然の鎧を身に付けるんだ。間違いない。
「えーっと、うん、自然の鎧をお願いね。でも、たぶんボス部屋の中も雷雨だから、靴と手袋はレインの雷を通さない水でお願い」
予想通りだったので素直にベル達に自然の鎧をお願いする。
「はーい」「キュウ、キュキューー」「さくせんかいぎ」「クーー」「もやす……ぜ?」「……」
対雷装備が自然の鎧に組み込むから、ベル達の作戦会議が始まった。偶にバチッっとなるけど、八十八層と八十九層の探索中は、結構な確率でレインの純水が感電を防いでくれたから、絶対に必要な装備だ。
フレアが断言できなかったのは、イフのマネをしてゴーレムを倒そうとして失敗したからだろうな。下級精霊だとアダマンタイトを一発で溶かすのは無理のようだ。自信喪失を心配したけど、イフの凄さを再確認して、テンションが上がってたから問題無いだろう。
ベル達の相談も終わり、自然の鎧を俺に装着してくれる。今までと違う所は……純水のミトンと靴、あとは火の刃の雰囲気が今までと違うな。アダマンタイトに敵わないまでも、今まで以上に火の密度を上げてくれたんだろう。今回も火の刃を使う機会は無さそうだけど、頑張ってくれた気持ちは素直に嬉しい。ベル達にしっかりお礼を言ってボス部屋の扉を開く。
***
「あー、こう来たか。シンプルな分、強そうだね」
扉から中を覗くとどう考えても面倒なボスが居る。
「ゆーた、あれおっきいねー」「キュキュッ」「きょだい」「クックー」「おおきい」「……」
ベル達も驚いてるな。形は今まで見た中で一番ゴーレムらしいゴーレム。これぞゴーレムって形だ。でも、サイズが洒落にならない。今まで見た中で一番大きかったアサルトドラゴンの倍近い大きさだ。もはやビルだな。
シンプルに固くて大きくて重い。このボスは相性が悪いと絶対に倒せないボスかもしれない。普通のパーティーだとどうすれば倒せるのかが想像できないな。
最低でもアダマンタイトを傷付ける攻撃力と、巨体を削り切る体力が必要だ。しかも巨体に雷が落ちまくってる。結構無理ゲーだな。ボスの強さが急激に上がり過ぎてないか? いったん扉を閉めて安全地帯に戻る。
「あれ、どうしようか? 切るのは問題無いにしても大きすぎるよ」
「そうね、ヘタに近づくとプチってなるわね」
だよね。自然の鎧があっても、魔法のハンマーで迎撃してもプチってなるビジョンしか見えない。足のサイズだけで何メートルなんだ? あのボスの素材だけでアダマンタイトの価値が暴落しそうだ。いくら相性が良くても、純水の厚底靴を身に付けて雷に痺れながらビルサイズの魔物と戦うのは怖い。
「私が倒す?」
シルフィがコテンと首を傾げながら聞く。たぶん百層のボスは俺だと倒せないんだよな。五十層でファイアードラゴンなんだから、百層の節目がファイアードラゴンよりも弱いとは考えられない。せめて九十層のボス戦では活躍したい。
そう言えば百層をクリアしたら続きはあるんだろうか? 百層で終わりなら俺がこの迷宮の初制覇者……歴史に名が残りそうだ。テンションが上がるが、制覇する為には九十層のボスを倒さないといけない。
「ベル達の力を借りても無理かな? トゥルなら金属を加工できるよね」
「無理ね。トゥルなら少しは干渉できるでしょうけど、魔石を核に強力に結びついているアダマンタイトに干渉し続けるには、サイズが大きすぎるわ」
「そうなんだ……」
結局大きさが問題なんだな。下から地道に切り飛ばすのも、倒れて来たら一発でペチャンコだ。自分も参加するにしても大精霊の手助けが無いとリスクが高すぎるな。
シルフィ達ならゴーレムの動きを止めるぐらい簡単そうだけど、それだと戦いじゃ無くてただの解体作業だ。なんとかして俺も活躍している感を出したい。シルフィに頼んで飛びながら上から切り刻むのが一番安全で参加している感じなんだけど、飛びながらノコギリを構えているだけになりそうだ。他に方法は無いか?
自分の出番の為に一生懸命考える。「むー」「キュー」「むずかしい」「くー」「なぐれ!」「……」
いつの間にか俺を囲むようにベル達が集まり、一緒に一生懸命考えてくれる。とても和むんだが、どんなアイデアが飛び出してくるのか、地味に怖い。ベル達が考えた作戦は多少無茶な事でも断れないから、急いで俺が安全で目立てる作戦を考えないと……。
「……うーん、今回はノモスに手伝ってもらうよ」
久しぶりに脳ミソをフル回転させた。
「あら、戦いでノモスを呼ぶの? 珍しいわね」
「そうかな? そう言えばノモスと一緒に戦った事って無かったかも」
俺の中でノモスって完全に生産職になってたな。でも俺が活躍する為にはノモスの力が必要だ。今回は戦いに力を貸してもらおう。そうと決まったらノモスを召喚だ。決してベル達が何かを思いつく事を恐れた訳じゃ無い。
「なんじゃ? また鑑定か?」
「いや、今回は戦いに協力して欲しくて呼んだんだ。頼めるかな?」
「戦いか。まあ構わんぞ」
ノモスはちょっと驚いた顔をしたが引き受けてくれた。ノモスも戦いで呼ばれるとは思ってなかったんだな。ベル達がノモスにご挨拶した後に軽く打ち合わせをして、今度こそ九十層のボス部屋の中に入る。
「なるほど、確かにでかいな」
ノモスが巨大ゴーレムを見ながら呟く。あそこまで大きいとゴーレムと言うよりロボだよね。コックピットがあれば、ファンタジーと言うよりSFだ。
「できそう?」
「問題無いわい。始めるぞ」
ノモスが右手を軽く振ると、ズンっと音を立てて胸元まで巨大ゴーレムが地面に沈んだ。突然の出来事にベル達も大興奮だ。
「終わりじゃ。地面も固めておいたから当分脱出はできんじゃろ。あとはお主が頑張るんじゃな」
「ありがとう、頑張ってくるよ」
ノモスにお礼を言って地面から脱出しようと腕を振り回す巨大ゴーレムに近づく。しかしさすが土の大精霊。あの巨体をあっさり落とし穴に落として、脱出できないように固めてしまった。
迷宮を突き抜けて下の層に繋がったりしたらどうしようと少し不安だったが、どうやらそう言う事にはならなかったようだ。胸元まで埋まり、振り回せるのが両手だけなら俺でも倒せそうだ。
いきなりレイドボスみたいなのが現れて、どうしようかと思ったが何とかなりそうで良かった。この迷宮を作った奴に言いたいのは、バランスが大切って事だな。五十層のファイアードラゴンと言い、九十層の巨大ゴーレムと言い、もう少し考えて迷宮を作って欲しい。
なんとか倒す見込みが付いて気が楽になったので、内心で文句を言いながら巨大ゴーレムに近づく。雷雨はシルフィが防いでくれるし、足元の水はレインが逸らしてくれる。もう負けは無いだろう。
巨大な金属の腕が地面を叩き轟音と振動が広がるが、間合いを見切れば何とでもなる。あとは物理特化なのか特殊能力を持っているかの確認だな。
「じゃあ行くね」
見守ってくれているシルフィ達に声を掛け、ゆっくり巨大ゴーレムに近づく。俺に向かってブンブンと腕を振り回す巨大ゴーレム。ノコギリを構えたまましばらく様子を見たが、物理以外の攻撃を仕掛けて来ない。
「ゆーた、うごかない?」
ジッと巨大ゴーレムを観察していると、ベルがふよふよと俺の所まで飛んできた。俺が動かないので心配になったらしい。
「巨大ゴーレムを観察していただけだから大丈夫だよ。今から倒すから応援しててね」
「わかった、べる、おうえんするー」
問題無いと納得したベルはニコニコとレイン達のところに戻って行き、レイン達と一緒に「がんばれー」っと応援してくれる。気合も入ったしベル達の応援に応える為にもカッコよく倒そう。
機械的に俺に向かって腕を振る巨大ゴーレムの腕に、タイミングを合わせて最大サイズのノコギリを振るう。
「ん? ちゃんと切れたよね?」
「うむ、切れておるぞ。じゃが切れ目が入っただけじゃの。切り飛ばすように刃を当てぬと効果は薄そうじゃ」
「なるほど……」
戸惑っているとノモスが理由を説明してくれた。ゴーレムだから血も出ないし、大き過ぎるから切れ目が入っても見た目が分かり辛いのか。両腕を切り落とすまで結構時間が掛かりそうだな。
ブン、ブン、ブン、イタッ、ブン、イタッ、ブン、ブン、ブン、ブン、ブン、ブン、イタッ……。
絵面も地味だし、偶に雷が純水のミトンを通してバチッっと来るのが地味に辛い。もっとノコギリが大きくなれば、一発で腕を切り飛ばして派手な絵になるんだけどな。
ファイナル・ウインド・スラッシュは派手なんだけど、あれはポーズだけでシルフィの攻撃だし、開拓ツールを使った必殺技が欲しいところだ。
「さて、両腕を落としたけど、この後も切り刻めばいいのかな?」
「このサイズのゴーレムを動かしているんだから、良い魔石を使ってるんじゃない? 壊さないように取り出したら?」
「あっ魔石か。ファイアードラゴンよりも大きい魔石が出るかな?」
シルフィが良いアイデアをくれた。ファイアードラゴンの魔石もかなり大きかったもんな。凄い魔石が手に入るのかも。
「ふふ、ファイアードラゴンに比べたらこのゴーレムも格下よ。でもいい魔石だと思うわ」
大きさは圧倒的に巨大ゴーレムの方が大きいんだけど、格が違うのか。チラッと見ると、胸まで土に埋まり両腕を失った巨大ゴーレムは、あまり可動域が無い頭を前後に振りながら、なんとか俺を攻撃しようと足掻いている。なんだか物悲しくなってきた。
「まあいいや。良い魔石なのは間違いないんだから、魔石を取り出すね」
心臓辺りに魔石があると考え、魔石を傷付けないように大きめにノコギリで胸元を切り出す。頭を揺する振動がわずらわしいが、何度もノコギリを入れて胸元をくり抜くと、電源が切れたようにピタリと巨大ゴーレムが動かなくなった。予想通り胸元に魔石があったんだろうな。
世界一固いアダマンタイトにくるまれた魔石……俺はノモスやトゥルに頼むから問題無いけど、普通はどうやって取り出すんだろう? 魔術か? なんか取り出すの大変そうだな。
「裕太!」
くだらない事を考えていると、シルフィが指を指しながら声を掛けてきた。シルフィが指をさす方を向くといつの間にか巨大ゴーレムの隣にキラキラと輝く山盛りの財宝が。いかん、本に書いてあった最初にボスを攻略した時に出るって言う、クリアボーナスが出現する瞬間を見逃してしまった。結構楽しみにしてたのに。
雷に関して沢山のアドバイスを頂いております。修正すべきなのでしょうが、あまり時間が取れず、申し訳ないのですが更新の方を優先させて頂きたいと思います。
余裕が出来ましたら手を付けたいと思いますのでご容赦頂けましたら幸いです。
読んでくださってありがとうございます。




