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二百二十二話 役立たず?

 迷宮の八十六層に到着した。叩きつけるような豪雨と、至る所に轟音を立てて落ちる雷が特徴の層。迷宮って理不尽だよね。出発の前にベル達で階段と宝箱を探す組と魔物を警戒する組で分けるように言ってみた。頭を寄せ合ってフンフンと相談するベル達が可愛らしい。


 雨と雷の音が煩いのでどんな話し合いをしているのかは分からないが、なんだか楽しそうなので問題は無いだろう。しばらくすると二組に分かれて俺の前にふよふよと飛んできた。組み分けができたようだな。


「べるたち、たからばこー」「キューー」「……」


 ベルが元気に言うと、レインとムーンが声を合わせた。……ムーンの声は聞こえないから多分だけど。


「まもる」「ククー」「もやす!」


 トゥル、タマモ、フレアが魔物の警戒をしてくれるようだ。とりあえず、フレアの火力ではこの層の魔物に通用しないんだけど……まあいいか。


「分かった。じゃあベル達は探索だね、もう出発しても大丈夫だよ。トゥル達は警戒、魔物が近づいてきたら知らせてね」


「いってくるー」「キューー」「……」


「わかった」「クー」「けしずみだぜ」


 楽しそうに雷雨の中に飛び込んでいくベル達、やる気満々で俺を囲むトゥル達、うん、心強い。


「じゃあシルフィ、手間をかけて悪いけどお願いね」


「ええ、ゆっくり裕太の進みたい方向に行くから、ちゃんと指示してね」


「了解」


 シルフィの風が俺を包みふわりと浮かび上がる。そして普段俺が歩いているぺースと同じ位の速さで雷雨に向かって進む。大精霊にはあんまり頼らないって言っても、地面を伝わった雷に痺れるのは絶対に嫌だ。うっかり心臓が止まると困るから、ここはお願いしても良いところだろう。雷雨の中に入っても、シルフィが吹雪を防いでくれた時と同じで、俺の周りに雨は入って来ない。


「うわっ」


 上を見上げていると、雷が風のドームに直撃して思わず悲鳴を上げてしまう。普通に怖い。


「ふふ、大丈夫よ。地面以外に雷が内部に入ってくる事は無いから安心しなさい」


「う、うん。ありがとう」


 シルフィがビビった俺に声を掛けてくれる。風の大精霊がそう言ってるんだし、大丈夫なのは間違いない。でも正直怖いです。あとドームに雷が落ちると、地面の水たまりから放電して更に恐怖心が増す。


 ちなみに地面は土がむき出しで草も生えていない。そこかしこに降った雨が川のようになって流れている。こんな場所だとさすがに普通の動植物が生息するのは無理だよね。


 なんとか心を落ち着かせようと、心の中で真面目な事を考える。うん、なんだか落ち着いて来たぞ! 無理やり自分の心を納得させていると、トゥルが雷雨の中から目の前に飛んできた。


「あっちから、ゴブリンがごひき」


「了解、ありがとうトゥル」


 シルフィが気を利かせて俺の体をトゥルが指さす方向に向けてくれる。少し待つと剣や槍を装備したゴブリンが現れる。ゴブリンって言ってもゴブリンの形をしたアダマンタイトのゴーレムなんだけどね。でもゴブリンの姿で強敵とか、苦戦したらイラっとしそうだ。


 アダマンタイトは世界一固い金属と言われる硬度に特化した金属で、ベル達の魔法もその硬さで無効化する洒落にならない敵。英雄達もその硬さに、自分達の武器を消耗しながらようやく倒している。


 英雄達は自分達の武器を失い、途中からは倒した魔物の武器を使いながら先に進んだそうだ。敵が持っている武器もアダマンタイト製だからなんとかなったらしい。


 英雄達も八十六層以降の攻略は諦めたが、八十一層から八十四層の洞窟で、小型から中型の魔物を倒して、アダマンタイトを持ち帰ったと本に書いてあった。


 アダマンタイトを手に入れるだけなら、わざわざ雷雨に飛び込まなくても、洞窟で魔物を倒せば手に入るから当然だよな。倒すのが面倒ではあるが、アダマンタイトの尽きない鉱脈と考えれば超有望の鉱山だ。


 俺の場合はアダマンタイトの硬度も、開拓ツールのチート性能の前ではスパスパっと切断できた。開拓ツールの説明文に書いてある、金属だってスッパスパって文はウソじゃなかったな。八十一層から八十四層で散々倒してきたように、魔法のノコギリを取り出して構える。


 雷雨が晴れた事に驚いたのか、それともプカプカ浮かんでいる俺に驚いたのか、戸惑った表情のゴブリンのゴーレム。表情まで変わるとかどんな理屈なんだろう? なかなか襲い掛かって来ないゴーレムを観察しながらふと思う。


「ねえシルフィ、魔石を壊せばゴーレムってそのままの形で固まるよね? 綺麗に倒したら銅像みたいに美術的な価値が付かないかな?」


 凄く良い事を思いついた気がしてシルフィに聞いてみる。


「どうかしら? アダマンタイトってオリハルコンほどでは無いけどかなりの希少金属で、ゴブリンの大きさだけでも相当な金額になるわ。その値段でゴブリンの像を誰か買うのかしら?」


「なるほど……俺なら買わないね」


「まあ、世の中には色んな人が居るんだから、価値が上がるかもしれないし、綺麗に倒してマリーに見せてみれば?」


 どうなんだろう? そんな高額なゴブリンの像とか物好きでも買わない気がする。ドラゴンとかなら買う人いそうだけど、それだけ大きなアダマンタイトの像って洒落にならない値段だよね。欲しい人は居るかもしれないけど、買える人が居ない気がする。まあ話のタネにもなりそうだし、一体持って帰ってみよう。


「裕太、来るわよ」


 シルフィの声に意識を戻すと、五体のゴブリンゴーレムが一斉に飛び掛かって来ていた。思わず魔法のノコギリで薙ぎ払い、五体のゴブリンゴーレムをスパっと切断する。切断されたゴブリンゴーレムは風壁に弾かれ地面に鈍い音を立てて落ちる。


 失敗したな。綺麗に倒すつもりだったのに胴体から半分にしてしまった。次に出て来た魔物を綺麗に倒す事にしよう。魔石の位置が分かりやすい二足歩行の魔物がいいな。魔石が残っている上半身はまだ動こうとしているので、シルフィに頼んで止めを刺そうと近づく。


「……ねえシルフィ。ゴブリンの上半身が水に浸かってバチバチしてるんだけど、魔法のノコギリで切っても大丈夫なのかな?」


「……どうなのかしら?」


 コテンと首を傾げるシルフィ。もしかして、ゴブリンを真っ二つにしたのも危険だったのかな? あのゴーレム達が飛びかかって来てたから平気だったとか? 魔法のノコギリに絶縁機能が付いているとはとても思えないし、今になって冷汗が出てきた。


「シルフィ、悪いけど止めをさしたいから、ゴブリンゴーレムを浮かび上がらせてくれる?」


「ええ、そうね。その方が良さそうね」 


 シルフィが浮かび上がらせてくれたゴブリンゴーレムが帯電してないかを確認して止めをさす。


「シルフィ、電気対策ができるまでは戦わない方向で進もうと思うから、とりあえず高度を上げてくれる?」


「分かったわ。魔物に襲われない程度の高さにするわね」


 地面に電気が流れてない時なら普通に倒せる気もするが、連続でカミナリが落ちまくるこの場所でそんなの気にしながら魔物と戦えない。


「うん、お願い」


 シルフィが高度を上げてくれたのでとりあえず安全にはなった。チートだし余裕だぜって思ってたら、思わぬ落とし穴があったな。俺が完璧に役立たずになってしまった。


「えーっと、今回は戦わない事になりました。みんなも階段と宝箱を探しに行って来てね」


「わかった」「クーー」「しょうがねえな!」


 トゥルとタマモとフレアが探索に飛び去って行く。わざわざ二組に分けたのに意味が無かったな。


「それで裕太はこれからどうするの?」


「んー、今のところできる事が思いつかないんだよね。雷対策を考えないとダメなんだけど、どうしようか?」


 純水は電気を通さないって言うけど、実際には僅かに電気を通すんだよな。避雷針を立てるにしてもそこかしこに雷が落ちまくっている状態だと飽和しそうだし……宝箱から雷耐性の魔道具が見つかるように願うしか無いのか?


「私が雲を吹き飛ばす?」


「それだと迷宮探索の醍醐味が無くなる気がするんだよね」


「そう?」


 首を傾げるシルフィ。ファイアードラゴンを倒して貰ったし、色々力を貸して貰って今更なんだけど、迷宮全体の天候まで管理して貰ったらイージーモードを越えた接待モードだ。


 辛いのは嫌だけど達成感は味わいたい。折角の異世界なんだし、自分の思い通りに楽しく生きるべきだろう。まずは電気バチバチの地面を歩けて、敵を倒せないと話にならないから、とりあえず色々と試してみるか。


 ***


 金の宝箱が三箱。銀の宝箱が七箱。木の宝箱が十二箱。ベル達の探索の結果、結構な数の宝箱が見つかった。英雄達もこの雨と雷の中だと、宝箱を探す余裕は無かったようだ。あと宝箱も帯電してた。木の宝箱にも直接雷が落ちているのに、焦げ跡一つ無いのが不思議過ぎる。


 宝箱も直接触るのは怖いので、シルフィに浮かべてもらって放電してから魔法の鞄に収納する。宝箱を集め終わり、八十七層に下りる階段で宝箱を確認する事にした。


 金の宝箱には残念ながら魔法の杖は入って無かったが、魔法の剣、魔法の鞄、財宝が手に入った。魔道具関連は後でまとめてノモスに確認して貰うとして、魔法の鞄が手に入ったのはラッキーだな。一つはジーナ達専用にできるから手間が減る。


「宝箱の確認も終わったけど、今日はもう先に進まないでここで実験をするからみんな手伝ってね」


「じっけん?」「クー?」「なにするの?」「キュー?」「まかせろ!」「……」


「普通に地面を歩けるようにみんなの力を借りたいんだ。お願いね」


 なるほどっと頷くベル達。フレアも頷いてるって事は、任せろって言ってたのに意味は分かって無かったんだな。その場のノリで請け負われると、後でしっぺ返しがありそうだから、分からない時は分からないって言うように注意しておこう。


 ベル達も手伝ってくれるし、後は宝箱を回収している間に考えた雷対策が上手く行くかが問題だな。感電する可能性があるのがとても怖い。アフロになるぐらいで済めばいいんだけど……。

読んでくださってありがとうございます。

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[一言] 電気には絶縁体のゴムでは?
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