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二百十九話 二日目の休日

 マリーさんの所に迷宮の素材を卸し、ジーナ達の評判を聞いてちょっと驚いた。良い方向に向かっている気がするが面倒も増えそうだ。素材を卸した後ディーネに連れられて酒屋に向かい、迷宮から出て一日目の休日は真昼間からの宴会で過ぎて行った。


「うぷっ」


「だいじょうぶ?」


「ん? あ、ああ、キッカか、大丈夫だよ」


 心配そうに見上げるキッカの頭を優しく撫でながら、昨日の事を思い出す。昨日の宴会はヤバかった。六人の大精霊との宴会……。狭い部屋だから巻き込まれてついつい俺も飲み過ぎてしまったし、ノモスが言ったように、暇を持て余していたイフに絡まれてた。


 ヘッドロックされたまま文句を言われるのは、ある一部の豊満な部分が顔にあたり幸せだったけど、その体勢のままお酒を流し込まれるとは思わなかった。日本なら確実にアルハラで訴訟問題だ。


 次の迷宮探索では一層だけ好きに暴れて良いと約束して事なきを得たが、説得が終わるまでにグイグイと飲まされてしまった。しかも俺が沢山飲んだからって、酒樽を一樽追加させられたし意味が解らん。


 そして危なかったのが、マリーさんとの約束をすっかり忘れていた事だ。夜に倉庫に解体されたお肉と羽毛を受け取りに行く約束をしていた事を本当にギリギリで思い出した。


 ふらついて足元もおぼつかない中、シルフィは今日は休日だからゆっくりお酒を飲んで貰う事にして、嫌がるディーネを頑張って引っ張り出して、倉庫に向かったのはいい判断だったな。宿を出る時にマーサさんに心配され、倉庫に到着してソニアさんにも心配されてしまう程、酔ってはいたが俺は頑張った。


 素材を受け取り馬車を出すと言ってくれたソニアさんの優しさもなんとか断った。断り切れてなかったら、馬車の振動で噴水のようにアルコールを吐き出していただろう。お酒が回っていてもしっかりと判断できた俺って偉い。宿に戻ってからの記憶はないけど……。


 大精霊達を送還して酒樽を片付けベル達を召喚する。ベル達の泉の家での成果を聞きながらサラ達の部屋に向かい朝食の準備をしていると、二日酔いでフラフラしていたのをキッカにまで心配されてしまった。


 キッカには大丈夫だと答えたが、正直、朝食用に運ばれてきた料理の匂いで胃が逆流してしまいそうだ。力のない微笑を浮かべていると、ムーンがふよふよと俺の頭の上に飛んで来てポヨンっと着地した。


あれ? なんか体が楽に……。


「ムーン、二日酔いを治してくれてるの?」


 見えないからよく分からないが、頭の感触ではプルプルが激しくなっているから頷いてくれているっぽい。


「むーん、ゆーたをなおしてるってー」


 ベルが通訳してくれた。やっぱりムーンが体調を整えてくれているようだ。ベルにお礼を言ってムーンに身を任せて力を抜く。ゆっくりと気だるい感覚が抜け頭痛が軽くなる。なんだかとってもポカポカで気持ちがいい。


 ふよんっとムーンが俺の頭を離れ、目の前に浮かんだ。頭痛とダルかった体は普段通り、いや……普段以上に体調がいい。命の精霊って最高だな。二日酔いが無くなるとか夢のような話だ。


「ムーン、ありがとう。とっても楽になったよ」


 お礼を言いつつムーンを撫で繰り回し、モニュモニュを堪能する。あっ、マルコとキッカが切なそうな顔をしてる。早く朝食を食べたいようだ。良くなった体調を生かして素早く朝ごはんを配膳し、朝食を開始する。


 ジーナとサラが居ないのは、トルクさんの所に料理を習いに行っているからだな。俺としては休日なんだしゆっくりしたらとも思うが、楽しくて休むのがもったいないそうだ。午後からは休みになるんだし、問題無いのかな? 朝食が終わり、まったりと紅茶を飲みながら、マルコとキッカに昨日の休日の話を聞く。


「へー、昨日は部屋に置くものを見に行ったんだ。いい物はあった?」


 ジーナは稼いだ報酬から実家の食堂に素材のまま持って行ったぶんを引いて全部渡し、サラ達には報酬の十分の一を渡して自分達で管理するように言った。ついでに得たお金を使って買い物の勉強もするように言っておいたが、さっそく昨日出かけたようだ。真面目で一生懸命ないい子達だ。


「おれはあんまりよく分からなかったんだ。師匠、ひつような物いがいに何を部屋におくべきなんだ?」


 マルコが首を捻りながら聞いてくる。難しい質問だな。


「マルコ。お店を見て回っている中で、これいいかもって思う物はなかった? 必要がある必要が無いだけで判断するんじゃなくて、自分が魅かれた物であれば買ってもいいんだよ。その買った物が思ったほど必要が無くて、いらなくなったとしても、それはそれで一つの勉強になるんだからね」


 なんか俺、結構いい事言ってる気がする。


「でも、ひつようない物をかってむだになったらもったいない……」


「まあ、マルコ達はお金の大切さを、十分に理解しているからそう思うんだろうね。でも今のマルコ達は自分でお金を稼ぐ事ができるんだ。生きていく為だけじゃなくて、楽しむ為にお金を使う事も覚えた方が人生が豊かになるよ。だからと言って完全に無駄なお金の使い方をするのも問題だから、バランスを考えて欲しい物を買ってみるといい」


「んー、むずかしいけど、分かった」


 むーっと顔をしかめて考え込むマルコ。とても真面目だ。いい事言ったつもりなんだけど、心に響いてくれただろうか?


「キッカは何か買ったの?」


 キッカはトコトコとベッドに歩いて行き、枕元に置いてあった人形を持ってきた。


「キッカはこれをかったの」


 ニコニコと俺の前に掲げて見せてくれる人形。木を塗装して服を着せた小さな女の子の人形かな? 簡易的な感じがするけど、日本の物と比べるのは条件が違うよな。ちょっと怖い気もするが、なんとなく愛嬌がある人形だ。


 ベル達もキッカの人形に興味があるのか、興味深そうに観察している。ベル達の子供部屋にも似たような人形を用意した方がいいかな? ちょっと悩みつつもキッカに質問する。


「へー、よく出来てるね。名前は何て言うのかな?」


「なまえ?」


 キッカがキョトンとしている。あれ? 女の子は自分の人形に名前を付けたりしないのか? むーっとキッカまで悩みだしてしまった。マルコとキッカ、性別も年齢も違うけど、なんとなく悩み方は似ているな。


 悩む兄妹を見守りながらベル達とマッタリ戯れていると、ジーナとサラが戻ってきた。満足気な様子から充実した時間だったんだろう。


「ジーナ、サラ、お疲れ様。楽しかった?」


「あっ、師匠! ただいま。勉強になったよ」


「私も勉強になって楽しかったです。ニンニクを切るのが速くなりました!」


 ニンニクを切るのが速くなったのか……トルクさんの料理、ニンニクを大量に使うもんね。


「良かったね。トルクさんには後から俺もお礼を言っておくよ」


「ありがとう、師匠。あっ、そういえばトルクさんが、師匠が持ってくるって言ってた食材の事を気にしてたな」


 そう言えば食材を持って行くってマーサさんに言ったな。昨日倉庫から帰ってきた時に渡せればよかったんだけど、ベロンベロンだったからそんな余裕は無かった。期待されているのなら早めに持って行っておくか。


「待たせるのは悪いから、ちょっと持って行ってくるよ。ジーナとマルコには渡す物があるからちょっと待っててね」


 ジーナとマルコに装備を渡しておこう。ジーナのセクシーコスチュームが楽しみだ。サラ達の部屋を出て、まずはマーサさんに話しかける。こういう時は順番が大切だからな。


「マーサさん、新しい食材なんですけどトルクさんに渡しても構いませんか? 今夜の夕食用とトルクさんの研究用に少しだけの予定なんですけど、どうでしょう?」


 トルクさんに本格的に料理を作って貰うのは次の迷宮から帰って来てからだからな。今回はエンペラーバードのお肉を少しだけ渡すつもりだ。


「いつも悪いね。あたしは問題無いから、あんたが大丈夫なら渡してやってくれると助かるよ。旦那もソワソワしているからね」


 苦笑いしながらマーサさんが答える。遠足に行く前の子供状態か? マーサさんに奥に通されたので一人で厨房に向かう。


「トルクさん、こんにちは。今大丈夫ですか?」


 声を掛けるとドスドスと早足で近づいてきた。待ってた感がハンパ無い。


「ああ、構わないぞ」


 期待をヒシヒシと感じる。早く食材をって目が言ってるんだけど、先にジーナ達のお礼を言っておこう。食材を出したら話を聞いて貰え無さそうだ。


「ありがとうございます。ジーナとサラもトルクさんに教えて頂けて、とても喜んでいます。ご迷惑をお掛けしていませんか?」


「ん? ああ、二人ともやる気があって一生懸命だ。俺も手伝ってもらえて感謝している」


 ダメだな。視線が鞄に向いている。食材を出す以前から話に集中して貰えていない。お礼はまた次回にして食材を出そう。トルクさんの視線が釘付けの中、エンペラーバードのお肉を一塊取り出す。


「これはエンペラーバードのお肉です。本格的に料理して頂くのは、俺が次に迷宮から戻ってからお願いします。このお肉は俺達の夕食以外は、トルクさんの研究とマーサさんとカルク君で食べてください」


「話には聞いた事があったんだが、これがエンペラーバードの肉なのか……」


 肉をジッと見たまま固まるトルクさん。たぶん肉を観察しながら料理を考えているんだろうな。


「えーっと、じゃあ夕食を楽しみにしていますね。それでは失礼します」


「ああ……」


 心ここに在らず的な返事を聞いて厨房を出る。


「えーっと、マーサさん。お肉を渡したら、トルクさんが固まっちゃったんですが、様子を見ておいて貰えますか?」


「ああ、すまないねえ。料理の事を考え出すと偶に固まるんだよ。作りたい料理が思いついたら動き出すから気にしなくてもいいよ」


「そうだったんですか。ではトルクさんが動き出したら、夕食を楽しみにしていますとお伝えください」


「あいよ」


 マーサさんと別れサラ達の部屋に戻る。さて、ここからはある意味勝負所だ。マルコに渡す魔法の盾は喜ぶ姿しか思いつかないから大丈夫だ。でもジーナに渡す予定の、セクシーコスチュームはジーナがどう反応するのかが怖い。


 色は黒で問題ないんだけど、かなり大胆に入っているスリットが問題だよな。ドロ〇ジョ様ほど際どい衣装じゃないからなんとかなるかな?


 ダークドラゴンで防御力が凄い上に精神系の異常に効果がある事で押していくしか無いな。頑張れ俺!

読んでくださってありがとうございます。

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