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二百十七話 確かに遠いよね

 迷宮から戻って来て、ジーナ達の話を聞いてちょっとウルって来た。あとワルキューレが微妙に活動を活発にしてきてちょっと怖い。


 嬉しい話と弟子の成長が実感できる話と、ちょっと面倒なワルキューレの話を聞いて自分の部屋に戻ってきた。ジーナ達には明日と明後日を休みにするって伝えたから、今頃何をするか話し合ってるだろうな。


「それでドリー、実際のところジーナ達に危険はなかったの? ワルキューレはどんな感じだった?」


 ワルキューレの裏を知っているドリーにしっかりと話を聞いておかないとな。ジーナ達にはワルキューレに対して結構なフィルターが掛かってそうだ。


「探索に関しては、みんなしっかりと周りに注意を払っていましたから問題は有りませんでしたね。ただワルキューレに関しては、一人だけ誘いを断られた事に不快感を示してました」


 うーん、Aランクのパーティーの誘いを、新人が断るとか生意気だって感じなのかな? ワルキューレ自体の人気も凄いから、断られたりする事に慣れて無さそうだ。


「暴走したりしないかな?」


「リーダーは落ち着いていましたから、余裕はありそうですね。このまま何度も断り続けると暴走する可能性は有りますが、しばらくは問題無いと思います」


 そうなのか……リーダーは聖母のような微笑の裏で、どす黒い事を考えているタイプだから油断はできないけど、ドリーの見立てなら時間はありそうだ。


「もし、ワルキューレが暴走してもドリーで対処できるよね?」


「ええ、大丈夫ですよ」


 ニコニコと上品に微笑むドリー。なんか背筋がゾクッってなった。ニコニコしてても目が笑って無いのが怖すぎる。


「えーっと、もしもの場合だからね。それとよっぽど外道な事をしてこない限り、できるだけ生かしておいてくれると嬉しいな」


「ええ、分かりました」


 一瞬暴走するまで待って、ドリーに対処して貰えば簡単なんじゃって思ったけど、自分が関わり合いになりたくないからって、後始末を大精霊に押し付けるのは間違ってるよな。


 なんか面倒だし、ガッリ親子みたいに遠くに行って貰うか? ワルキューレには生活力も武力もあるから同じ大陸だと直ぐに戻って来そうだし、別の大陸にポイッってしてくれば……いや、俺に関わった人間が連続で消えたら疑惑が確信に変わる可能性もある。


 んー、五十層を突破させれば大人しくなりそうだけど、困ったらまた利用しに来るタイプだろうし、譲歩はしたくない。とりあえずジーナが一度ハッキリと断った後も誘いが続いたら、俺が釘をさしに行くしか無いか。明日はジーナ達は休みにしたけど、俺は色々やる事がある。もうさっさと寝よう。


 あっ、ジーナ達から返してもらった魔法の鞄に、素材を詰め替えておかないと新鮮過ぎるって言われそうだ。面倒だけど、一度迷宮都市の外に出るしか無いな。


 ***


「今日はお姉ちゃんとデートねー」


 ……誰もそんな事言ってないよ? 単純に今日はお休みだから、ジーナ達は料理を習った後に迷宮都市で散策だし、ベル達も遊びに行かせた。ずっと付き添ってもらっていたシルフィにもお休みしてもらって、ディーネに護衛をお願いしただけだからね。


「裕太ちゃん、まずは酒屋よ!」


 俺の腕を取り酒屋に向かおうとするディーネ。デートって言ってたのに一発目に向かう場所が酒屋なのか、それはデートなのか?


(ディーネ、お酒は前回たっぷり買ったから酒屋には行かないよ。今からはマリーさんに素材を卸しに行って、魔法の杖の情報を貰うんだ)


「えーー」


 頬を膨らませて全力で不満を訴えかけるディーネ。そんな表情されても、元々の予定がそうなんだからしょうがないだろ。


「裕太ちゃん。お姉ちゃんはね、酒屋に行くのをとっても楽しみにしていたの。裕太ちゃんはいつも頑張っているお姉ちゃんに、ご褒美があっても良いとは思わないの?」


 取り合わずに流していると、ディーネが真剣な表情で話し出した。お水を綺麗に保ってるし、ヴィータちゃんのお手伝いもしているわーっと切々と訴え続けるディーネ。


 大精霊に対する報酬なんて、俺が得た利益を考えると酒屋を一軒買い占めたぐらいでは、足りないぐらいなのは分かっている。でもこの前相当な量のお酒を買い集めたばかりなんだよな。ディーネを見ると、今まで見た事が無いぐらいに真剣な表情だ。


(……分かったよ。でも素材を卸した後にだからね。それと買うのは一樽で勘弁して)


 迷宮都市の酒屋は全部回ったからな。十日とちょっとでまた樽を爆買いするのは辛い。


「三樽! 裕太ちゃん、三樽お願い! お姉ちゃん、エールと赤ワインと白ワインを選びたいのー」


 すがりついてくるディーネ。俺の魔法のカバンの中には大量の酒樽が収納されているのに、なぜそこまで……でもダメって言っても諦めそうに無いな。


(分かった、三樽だけだよ)


「ありがとう、裕太ちゃん」


 花が咲くように笑顔になるディーネ。今にも踊り出しそうな雰囲気だ。酒好きの大精霊の感覚がよく分からないな。テンションが上がったディーネを連れてマリーさんの雑貨屋に到着する。


「裕太様、いらっしゃいませ」


 当然のように出迎えてくれるソニアさん。もう考えるのは止めた。


「ソニアさん、おはようございます。マリーさんはいらっしゃいますか?」


「はい、裕太様が迷宮から出た事は知らせが届いていますので、手配を済ませてお待ちしております」


 ニコリと笑うソニアさん。いや、確かに美人だけど、そんな笑顔では誤魔化しきれない恐怖を感じたよ?


「えーっと、俺の迷宮の出入りを見張っているんですか?」


「いえいえ、ただ、私共と懇意にしてくださっている屋台やお店が幾つかありますので、迷宮に入られた後に裕太様を見かけると、知らせて頂けるようになっているのです。いつも迷宮から出られると翌日には納品に来てくださいますから、お待たせしては申し訳ありませんので……」


 ……うん? この場合は見張られている訳じゃ無いんだし、怖がらなくてもいいのか? でも、マリーさん達がその気になれば俺の行動が、ある程度は把握できるって事なんじゃ……。


 まあ今更か、中途半端に有名になっちゃったし、何処に行こうが人の目はあるんだ。迷宮都市で夜の店に行くのは諦めよう。わざわざ時間を調整して手間を省いてくれているんだし、本気で監視するつもりなら屋台とかから情報が入るって言わないよね。


「そうなんですか、お手間を取らせて申し訳ありません。マリーさんとソニアさんの予想通り、迷宮素材の納品です。準備が出来ているのであればこのまま倉庫に向かいましょうか? 今回も大量ですよ」


「お茶の用意もしておりますが、お急ぎですか?」


 お茶か……ディーネも早く酒屋に行きたいだろうし、今回はさっさと納品を済ませよう。馬車や倉庫でマリーさんと話す時間は十分に取れる。


「急ぐと言う事ではありませんが予定もありますので、納品の方でお願いします」


「畏まりました、馬車にご案内致します」


 ソニアさんが近くの店員さんにマリーさんを呼びに行かせ、俺はソニアさんと馬車に向かう。本当に準備万端整ってるんだな。おそらく解体をする職員も全員集まって待機してそうだ。


「裕太さん、おはようございます。お待たせしてすみません」


「マリーさん、おはようございます。全然待っていませんよ」


 実際に俺が馬車に乗り込んで一分もせずにマリーさんが馬車に入ってきた。早すぎるぐらいだ。軽く挨拶した後、マリーさんの合図で馬車が出発する。


「それで裕太さん、これが魔法の杖の所有者一覧です」


 馬車に乗ったとたんマリーさんが一枚の紙を手渡してくれる。話が早いな。


「意外と所有している人数が少ないんですね」


「裕太さんの求めるクラスの魔法の杖はなかなか手に入りませんし、公に取引された物や所有者がハッキリしている物だけを選びました。所有があやふやな物や品質がハッキリしない物も含めればかなりの数になりますが、そのリストもお渡ししましょうか?」


 品質があやふやな物を頑張って交渉したくない。迷宮で発見できずに、今日貰ったリストでも手に入らなかったらお願いしよう。


「いえ、確実に所有者が分かっている方がありがたいので、これで十分です。確認させもらいますね」


 マリーさんに断りを入れて、貰ったリストに目を通す。やっぱり高価な物なのか、名前の後に爵位や商人としてのランク、高ランクの冒険者等の補足がついている。迷宮都市の冒険者ギルドも所有しているのか、どうして売りに出さないんだろう?


 冒険者ギルドとはできるだけ交渉はしたくないから最後だな。どうしても手に入らなかったらって事にしておこう。リストの中には光の杖が二本しかない……しかも所有しているのが王家と教会って、譲ってもらうのが不可能っぽいのは気のせいなんだろうか? 光の杖は自力で見つけたいところだな。


「マリーさん、このリストに載っている人達の中で、命の危機にある人や、毒殺を非常に恐れているような人が居ないか調べられませんか?」


「そうですね、毒殺に怯えているのは、そのリストに載っている方のほとんどがそうだと思います。病にかんしては、気軽に調べるには危険な方達ばかりですので、公になっている事以外は調べるのが難しいと思います。立場がある方の健康は政争の道具になりますから」


 それもそうか。有力な当主が倒れたら、後継者争いや他の勢力からのチョッカイが増えそうだもんな。偉い人には偉い人なりの苦労があるんだろう。


「公になっている事だけで問題ありません。よろしくお願いします」


「分かりました」


 頷いてくれるマリーさん。利益の対価で動いてくれているのは分かってるんだけど、こちらばかりがお願いしているのもなんか気まずい。


「ありがとうございます。代わりと言ってはなんなのですが、マグマフィッシュ、魔力草、万能草、神力草が多めにとれましたので、いつもよりも多めに卸しますね」


 マリーさんの目が真剣な目から欲に濁った目に変わる。商人としてどうなのかとも思うが、それがマリーさんって事なんだろう。目がどのぐらい増えるのかを質問している。できれば言葉で聞いて欲しい。


「普段と比べると一.五倍と言ったところですね。それとエンペラーバードとグレートエンペラーバード、ホワイトエイプを卸す予定です」


 マリーさんの顔が歓喜に染まる。


「裕太さんは八十層に到達されたんですね。グレートエンペラーバードは、ある意味ファイアードラゴンよりも希少価値と言う面では高いです。本当に卸して頂けるんですか?」


 興奮し過ぎです。唾を飛ばさないでください。いくら俺でも唾を飛ばされて喜ぶ性癖は持っていません。……あれ? 本当に嫌なんだろうか? ……深く考えずに嫌って事にしておこう。わざわざマニアックな性癖の扉を、自分で開ける事も無い。マリーさんに落ち着くように伝える。


「失礼しました」


「いえ、構いません。ですがグレートエンペラーバードよりも、ファイアードラゴンの方が数倍強いと思いますよ?」


 グレートエンペラーバードは、俺でも戦えた。ファイアードラゴンは戦う前から見ただけで無理って分かったもんな。実際に五十層にあんなのが出てくるとか、無理ゲーだと思う。


「確かにそうかもしれませんが、距離の問題もあるんです。グレートエンペラーバードを手に入れる為には、五十層から更に三十層進まないといけません。しかも山岳、海、氷の世界を越えながらです」


 まあ、確かにそうか。五十層まで行くのに片道十日らしいし、そこから更に三十層は辛いよな。俺はシルフィが助けてくれるから楽だけど、普通に進むと心が折れるだろう。八十七層まで行った英雄達が化け物な気がする。


 再びテンションが上がってしまったマリーさんを宥めながら、いつもの倉庫に到着する。マリーさんテンション上がり過ぎだよ。

読んでくださってありがとうございます。

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