二百十五話 鑑定
四十九層の火山まで戻って来て、半分冗談でマグマの中をベル達に探索してもらうと、本当に宝箱が見つかった。ただ、発見した場所がファイアーバードの縄張りで、数えきれないほどのファイアーバードとの戦いが再び幕を開けた。
「うぅ、素材を集めるのが大変なんだけど……」
「放っておく?」
「……売れる素材を捨てて行くのももったいないし、ベル達も楽しそうなんだよね」
「じゃあ、頑張って集めるしかないわね。私が集めても構わないけど、ベル達が残念がるわね」
だよねー。何が楽しいのか分からないが、ベル達がファイアーバードの死骸を集めて持ってくるのにハマっている。自分が持てる限界まで素材を集めて、ふよふよと一生懸命運んで来てくれる姿は、とても可愛らしいが、数が数だけに時間が掛かる。
さらに数が数だから卸すのも大変なんだよね。それ以前に前回、ファイアーバードの群れを殲滅した時の素材が、まだまだ魔法の鞄に余っている。マリーさん達の解体の手間と素材の価値の暴落の可能性を考えると、気軽に全放出とかできないし、気長に少数ずつ卸していくしか無いな。
「みんな、お疲れ様。おかげで沢山素材が集まったよ」
「がんばったー」「キューー」「おしごと」「ククーー」「とうぜんだぜ」「……」
キラキラとした目で俺を見るベル達を、褒めつつ撫で繰り回し、単純作業の疲労を癒す。
「よし、じゃあそろそろ宝箱を引き上げようか。トゥル、宝箱を地上に押し上げる事はできる?」
「できる」
「それじゃあお願いね」
コクンと頷き、マグマの中に入って行くトゥル。マグマの中に入って宝箱を操作するようだ。ダメージを受けないから何の問題も無いんだろうけど、みんな気軽にマグマの中に突入するよね。
傍から見てると、幼女と少年と動物が水遊びをしている雰囲気だから、マグマが熱いって事を忘れそうになる。でもシルフィが気温の管理をしてくれてなかったら転げ回るぐらいに熱いんだよな。
意味の無い事を考えながら、宝箱があるはずのマグマの池の中心を見守っていると、中心のマグマが盛り上がり、金色の宝箱を乗せた岩の柱がマグマの上までせり上がる。
「ベル、あの宝箱持って来れる?」
「これるー」
元気いっぱいに右手を上げてお返事するベル。元気な事はいい事だ。俺が頷くと、ベルはレインに跨り宝箱に飛んで行った。……今の状況でレインに跨る必要があるのかは疑問だが、まあ、いつも一緒なんだし仲がいい事は美しい事だって、たぶん誰か偉い人が言ってたから問題無だろう。
「ありがとうベル、レイン、トゥル」
宝箱と一緒に戻ってきたベルとレインとトゥルにお礼を言う。色は金色だけど、これだけ分かり辛い場所にあったんだ。中身は期待してもいいよね。
「シルフィ、罠の確認をお願い」
俺が頼むとシルフィがフイっと右手を振る。
「罠があるわね。宝箱を開けると毒の霧が吹きだすと思うわ。あと、宝箱がとても熱くなってるわね」
ファイアーバードの縄張りのマグマの池の中の宝箱に罠が付いてるのか。どれだけ取られたく無いんだよ。あと、確かにマグマの中に金属があれば宝箱は熱くなるよね。
「シルフィで対処できる?」
「問題無いわ。私が宝箱を開ける事になるけどいい?」
俺が頷くと、シルフィが宝箱に手をかざす。蓋が開くと勢いよく毒霧が噴出するが、風に包まれて広がらない。
「裕太、この毒はどうするの?」
……宝箱の毒か、海の宝箱でポイズンドラゴンの毒液を手に入れたけど、鞄の中に眠ったままだし使う予定も無いから必要無いよね。毎回収納していたら魔法の鞄の中が毒で溢れそうだ。
「危ないから処分しちゃって」
「了解、じゃあマグマの中に捨てるわ」
ポイって感じで毒がマグマの池に飛んで行った。……環境破壊とか大丈夫なんだろうか? まあ、迷宮の中だし大丈夫だよね。マグマフィッシュも居たら捕まえて帰る予定だったけど、一応この層では止めておこう。
「もう大丈夫よ」
「シルフィ、ありがとう」
お礼を言ってドキドキしながらシルフィが開けてくれた宝箱を、頭上と両肩にベル達を引っ付けて覗き込む。中には……これってどう考えればいいんだ? 取り出して見ると黒い宝石が付いたサークレットに、大胆なスリットが入ったローブっぽいドレス? と杖が入っている。
なんかアニメとかで出てくる色っぽい敵役セットっぽいけど、金の宝箱だから魔道具だよね。杖もローブも黒光りしているし、良いものなはずだ。
とりあえず魔法の杖が入ってるんだから、今回は大当たりなはずだ。問題はどんな属性を持ってるかだよね?
「シルフィ、これは魔道具だよね?」
「ええ、そうね。間違いないわね」
「ノモスに確認してもらうのが楽しみだ。残りの四十六層から四十八層のマグマの中を調べて、ノモスを呼ぼうか」
「ふふ、属性が合えば聖域に一歩近づくわね」
「うん、色合い的には闇っぽいからちょっと期待してる。ベル達もあと三層分マグマの探索をお願いね」
「いえっさー」「キュキュッキュー」「イエッサー」「ククックー」「いえっさー」「……」
ベル達も敬礼のポーズで了承してくれたし、残り三層分の探索を頑張るか。もう一本ぐらい杖が出て来ると嬉しいな。
***
「やっとおわったーー」
「おわったー」「キュキュッキュー」「たくさんたおした」「ククーー」「よゆうだぜ」「……」
俺が心底疲れた気分で出した声に、ベル達が続いてくれたが、気持ちは全然違うようだ。ベル達は沢山戦って、沢山素材を拾った事が楽しかったのか、充実した表情をしている。
予想はしていたんだけど、四十八層から四十六層のマグマの池にも一つだけ金の宝箱が沈んでいた。そしてその全てのマグマの池の側にファイアーバードの巣が……俺の魔法のカバンの中には一生分のファイアーバードが収納されている気がする。ファイアーバードの一生分って意味が分からないけど、一生ファイアーバードに困る事が無いのは確かだろう。
マグマフィッシュや胡椒も手に入れられたし、金の宝箱も手に入れる事ができたので、苦労に見合う対価は有ったと考えよう。残念ながら魔法の杖は四十九層の宝箱から出たのだけだったけど……。
あと精霊樹の果実ももう一つ手に入った。マグマの中の宝箱に入っているぐらいだから、精霊樹の果実って結構レアな設定になってるみたいだな。迷宮の宝箱に設定があるのかは知らないけど。
「後は飛んで戻るだけだし、ノモスに魔道具を鑑定してもらおうか」
ファイアーバードの縄張り内で、マグマの川を越えて毒ガス地帯を抜けなければ、たどり着けないこの場所は、苦労する割に利益が少ないのでほぼ冒険者達は寄り付かない。移動拠点を出してのんびり鑑定してもらおう。
迷宮都市に戻ってから鑑定して貰えばいい気もするが、戻ったら戻ったで色々忙しそうだし、ここで確認するのがいいだろう。シルフィ達も頷いたので、移動拠点を出してノモスを召喚する。
「何か用か?」
「ああ、迷宮で手に入れた魔道具をノモスに見て貰いたくてね。構わないか?」
「うむ、問題無い。見せてみろ、むっ?」
俺が魔道具を見せる前に、ベル達がノモスに群がりご挨拶を始めた。ディーネには甘えるように、ドリーにはお行儀よくご挨拶するベル達だが、ノモスには親戚のおじさんに自分達が頑張った事を教えてあげるような報告のしかただ。む、むうって感じで戸惑いながら返事をするノモスが面白い。
人間の子供達が苦手なのは知ってたけど、精霊の子供達も得意と言う訳では無いんだよな。ベル達の人(精霊)を見る目って侮れないな。
「とりあえず、手に入れた魔道具はこんな感じだ」
ベル達が落ち着いたので、手に入れた魔道具をノモスの前に並べる。
「ふむ、この盾は魔力を込めると、障壁を展開させる魔道具じゃな。少ない魔力でも身を守れるし、込める魔力を増やせば障壁の強度を上げる事ができる優れものじゃ」
いい物らしい。ベルの風壁だと壊れる事もあるし、俺が使ってもまったくの無駄にはならないか? うーん……自然の鎧もあるし、ジーナ達の防御力を上げておいた方が安心な気がする。
マルコが剣とか習いだしたら渡しても良いかと思ったけど、先にマルコに渡しておくか。ウリが作る壁だと結構突破してくる奴もいそうだからな。
「次はこれなんだけど……」
金の宝箱からでた食器セットを渡す。単なる財宝だと思ってたけど、シルフィ曰く魔道具らしい。
「これは毒を検知する魔道具じゃの。毒が入った飲食物がこの食器に盛られると変色して直ぐに分かる仕組みじゃ」
「銀の食器みたいな物って事?」
「銀の食器にもそのような効果はあるが、銀に反応せん毒物等ざらにあるからな。まあ、この食器の機能を掻い潜って毒を盛るのは不可能に近いじゃろうな」
「そうなんだ……」
魔道具の食器って言うから、魔力を込めたら料理やお酒が出てくる、魔法の道具を想像してたよ。さすがに二十一世紀の〇型ロボットの道具には敵わないらしい。毒殺か……一応色んな所から目を付けられているだろうし、まったく必要無いとは言えないんだろうか?
……ヴィータも居るし精霊樹の果実もあるから、あんまり意味が無い気がするけど、一応持っておくか? 王侯貴族辺りだったらヨダレを垂らして欲しがりそうだし、魔法の杖の交換アイテムとして使うのも良さそうだな。特に王様とか毒殺をメチャクチャ怖がってそうだ。
「最後はこれ! 魔法の杖なんだけど属性に物凄く期待してるんだ」
色っぽい悪の魔法使い三点セットをノモスに見せる。
「ふむ、これはダークドラゴンの素材から作られた装備じゃな。杖は闇の杖じゃし聖域を支える事はできるじゃろう」
ダークドラゴンですか……ファイアードラゴンみたいな感じかな? とりあえず強そうだ。でも聖域に使える杖が手に入ったのはありがたい。特に闇の属性ってのがいい感じだ。光と闇はなんとなく希少性が高そうだもんね。
「効果は、敵に状態異常、主に精神面での負荷をかける事ができるようじゃな。ローブとサークレットは、防御力も高いが、敵からの闇系統の魔術はほぼ無効化するじゃろう」
闇系統って事は呪いとかも防御できそうだな。俺が身に付けるべきなんだろうか? ……いやいや呪いは怖いけど、いくら異世界でも女装は無いよな。俺がスリットが入ったドレスにサークレットとか誰得なんだよ。
「そう言えば俺って呪いとか対策してないけど、大丈夫なのかな?」
「裕太は問題ないじゃろう、契約者に呪いを許す大精霊などおらんわ」
よく分からんが、シルフィ達が防いでくれそうだ。そうなると、俺にとってはあまり意味がない物になる。サイズ的にローブとサークレットはジーナに渡すか。うん、防御力が大幅に上がるはずだし、決して色っぽい悪の魔導士ルックのジーナが見たい訳では無い。あくまでもジーナの身を心配しているだけだ。
「これで終わりか?」
「うん、ありがとう。助かったよ」
「これぐらい構わん。それはそうともう酒は仕入れたのか?」
「ああ、十分な量を確保したよ」
「うむ、それなら構わん。じゃあ儂は戻るぞ。ああ、イフが暇だとゴネておったから、一度ぐらい呼び出してやれ」
……そう言えば忘れてたな。一度ぐらい迷宮で戦わせておいた方がいいか。退屈で暴れ出したら大変だ。
「今回は迷宮都市に戻るけど、もう一度迷宮に潜る予定だから、その時に召喚するって伝えておいてくれ」
「うむ、伝えておく。これで少しは静かになるじゃろう」
なんかちょっとホッとした様子でノモスが戻って行った。一緒に蒸留所に居るみたいだから、大変だったのかもな。さて、俺達もそろそろ迷宮都市に戻るか。
読んでくださってありがとうございます。