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二百十四話 グレートエンペラーバード

 ベル達に自然の鎧ver.3を付けて貰い、ボス部屋に突入した。大きいがとっても可愛いグレートエンペラーバード……勝てるとは思うが、強敵だ。


「ピェーーーン」


 俺を見つけたグレートエンペラーバードが、ペンギン独特のヨチヨチ歩きで近づいてきた。物凄く可愛らしいが、ズシンズシンと響く足音は可愛くない。あとグレートエンペラーバードって名前が長い。巨大ペンギンでいいか。


 巨大ペンギンは止まる事無くそのまま俺を踏みつけようとしてくる。ヒレでの攻撃だと魔法のハンマーで弾き返せるけど、全体重を乗せた踏みつけはどうなんだ? 失敗するとプチっと潰される気がする。


 トゥルが作ってくれたスパイクのおかげで移動はスムーズだ。氷の大地を駆けて踏みつけを回避し、巨大ペンギンの足の甲に思いっきり魔法のハンマーを叩きつける。バキバキと音を立てて巨大ペンギンの足の甲が砕ける音がする。


「ピギャン」


 変な鳴き声を出したがヒレを叩きつけてくる。さすがボス、金色の羽毛は伊達じゃ無いな。普通のエンペラーバードは骨を砕かれると、痛みに転げ回ってたのに。振り下ろされるヒレに合わせてハンマーで迎撃、今度は巨大ペンギンのヒレの骨を砕きながら弾き返す。


「ピエーーン」


 ヒレを弾き返され、体勢を崩しながらも口から氷混じりの吹雪のブレスを吹きつけてくる巨大ペンギン。気が強いな。ベルが張ってくれた風壁が防いでくれるがきしんでいるように感じる。


 シルフィが張ってくれている温かい風の膜を普通に突破してくるって事は、結構な質量を伴ってるんだろう。ベルの風壁が破れると、七十六層の吹雪よりも危険なのが来るのか……正直ビビる。


「ゆーた、がんばれー」「キュキュー」「かてる」「ククー」「きあいだぜ」「……」


 ベル達の応援の声が聞こえる。ボス部屋に入る前に頼んだけど、本当に応援してくれているようだ。ベル達の前でビビっている訳にもいかない。フレアの言う通り気合を入れるか。


 風壁が破れた時の事を考え、魔法のハンマーを前に構えながらジリジリと前に進む。俺が前に進んだ事で、ブレスの圧力が増したのか、軋んでいた風壁が解けブレスが襲い掛かって来た。


「や、ヤバい、凍る」


 氷や雪は魔法のハンマーで防げるが、冷たい空気がえげつない勢いで体を冷やす。温かい恰好をしておけば良かった。自然の鎧には防寒システムが無いようで、唯一温かいはずの火の刃も、俺には熱が伝わらない。ゆっくり進むとマジで死ぬ。


 トゥルが作ってくれたスパイクを信じて、魔法のハンマーを盾に全力で前に進みブレスを抜け出すと、目の前には金色の羽毛が広がる。ふわふわモコモコで温かそうだ……飛びついて温まりたくなる衝動に襲われるが、我慢して金色の羽毛にハンマーを叩き込む。


「ピギャーン」


 ハンマーと同時に頭上から巨大ペンギンの悲鳴が聞こえるが、今の俺には可哀想だと思う余裕は無い。連続でハンマーを叩きつけていると、何故か風が俺を包み、シルフィの目の前に……。


「シルフィ、どうしたの?」


「裕太、無茶はダメよ」


 意味が分からず首を捻っていると、シルフィが巨大ペンギンの方を指差した。うん? ……巨大ペンギンが腹ばいで倒れている。


「もしかして潰されるところだった?」


「ええ、ハンマーがあったからペチャンコにはならなかったでしょうけど、あの巨体で変に押し潰されると、自然の鎧でも怪我をするわ。ちゃんと戦闘中も周囲の状況は確認しておきなさい」


 うう、確かに周りを見ていなかった。寒くて頭が回らなかったもんな。気がつけば暖かい風が俺を包んでくれている。シルフィ、マジでありがとう。


「うん、気を付けるよ。ありがとう」


「ゆーた、がんばったー」「キュキュキュー」「えらい」「クゥ、ククー」「なかなかね」「……」


 シルフィにお礼を言うと、周りで待っていたベル達が口々に褒めてくれた。まあ、百点の戦いでは無かったかもしれないけど、結構頑張ったから褒められると嬉しい。ベル達を撫で繰り回そうとして、自分の状態に気がつく。


「皆も応援ありがとう。とても心強かったよ。それで、自然の鎧なんだけど、もう大丈夫だから解いてくれるかな」


 俺の言葉にベル達が鎧を解いてくれるが、フレアがちょっと不満そうだ。鎧についている火の刃が敵を切り裂くところが見たかったらしい。なかなか難しいリクエストだな。自然の鎧に頼る場面って、風壁が破れて接近戦になってる状況だから、俺の場合は火の刃を使う前に開拓ツールを振り回してそうだ。


 次は使ってみるよって言うとフレアが期待してしまうので、曖昧な笑みで誤魔化し、改めてベル達を撫で繰り回す。


「裕太、グレートエンペラーバードを収納しないの? このままだと凍っちゃうわよ」


 ベル達と戯れていると、シルフィから注意された。それもそうだよね、氷の大地で温度は分からないけど多分氷点下の世界だ。死んじゃって熱を失っていく魔物はいずれ凍ってしまうだろう。ベル達との戯れを終らせ、急いで巨大ペンギンを収納する。


 可愛いと戦い辛いとか思ってたけど、余裕が無くなると可愛いとか関係なく全力で攻撃しちゃうんだな。俺がペンギンを可愛いとか言って、戦い辛いとか思っていたのは上っ面だった事が理解できた。一つ賢くなった気がする。


「それで裕太、これからどうするの? 先に進む?」


 どうしよう? 目的の魔法の杖を一本も手に入れて無いんだけど、ジーナ達の事も心配だ。効率は悪いけど、一度戻ってからもう一回迷宮に潜るか。次の層は途中で英雄が諦めたから、宝箱がザックザクなはずだ、いつもみたいに一回迷宮に潜って泉の家に戻るのももったいない。


「いや、一度迷宮から出るよ。神力草と魔力草と万能草も補充しておきたいし採取しながら帰ろうか」


 あっ、そう言えば火山地帯のマグマの中も探索してみようって思ってたんだよね。まさかって所に宝箱があるのはRPGの基本だ。一応探しておこう。難しい場所にある宝箱には、凄いアイテムが入っているはずだからな。


「そう? じゃあ戻りましょうか。飛んで戻るのよね?」


「うん、お願いね」


 あんまり大精霊に頼らないって口では言ってるけど、シルフィに頼らない場合は迷宮の往復だけで二十日以上掛かるから、それは勘弁して欲しい。シルフィに頼めば往復一日掛からないとか凄く有利だよね。


 ***


「きんいろあったーー」


 ベルがマグマの中から楽しそうに飛び出してきた。マグマの中から飛び出してくる幼女。絵的にはどうなんだとも思うが、本当に宝箱が見つかったらしい。飛び付いて報告してくるベルを誉めそやしながらも思わず本音が出てしまう。


「まさか、本当に見つかるとは……」


「そうね、見つかるとは思わなかったわ。迷宮って不思議ね」


「うん、不思議だね」


 予定通り海と山岳で神力草と魔力草と万能草採取して、火山の層まで戻って来た。マグマの川を見ながら、シルフィにもしかしたらマグマの中に宝箱があるかもしれないって言うと、熱があるかと心配された。


 でも万が一の可能性だからと説得して、ベル達にマグマの中の探索をお願いする。楽しそうにマグマに飛び込んでいくベル達を見送り、本当にあったら凄いよねって話しているところにベルが飛び出してきた。どうやら異世界の迷宮はゲームと通じる所があるらしい。


「金色の宝箱があったんだね。ベルで持ち上げられるかな?」


「むりー、かぜないー」


 首をプルプルと左右に振るベル。そう言えば海の中でもそんな事を言ってたな。そうするとどうやって宝箱を取り出そう? マグマだからレインよりもトゥルの領分かな? とりあえず皆を召喚して聞いてみよう。


 宝箱を見つけたベルをレイン達が誉めそやした後、ベルの案内で宝箱に一番近い場所に向かう。


「あそこのまんなかー」


 ベルが指さした先には大きなマグマの池が広がっている。そして崖にはファイアーバードの群れが……ここで宝箱の回収をすると確実に襲い掛かってくるよな。前回のファイアーバードとの乱戦を思い出して、ちょっと面倒な気分になる。でもマグマの池の中央に沈んでいる金の宝箱とか、中身が気になり過ぎて見逃すのは無理だ。


「じゃあ、あのファイアーバードの群れを倒してから、ゆっくり宝箱を回収しようか」


「しぜんのよろいー」


 ベルが右手を上げて言う。そう言えば前回のファイアーバードとの戦いの時も、自然の鎧は着ていたな。大軍の連続攻撃で、風壁が破れて自然の鎧に助けられた気がする。ベルはその事をしっかりと覚えていたみたいだ。


「ふふ、今回は自然の鎧の出番が沢山ね」


 ニコニコと笑うシルフィ。でも、前回に助けられたのは事実だからな。レベルがかなり上がったから、大丈夫な可能性はあるが、用心はしておくべきだろう。


「みんな、自然の鎧をお願いね」


「わかったー」「キュキュー」「でばん」「クーー」「こんどこそだぜ!」「…………」


 喜ぶベル達。でもフレア、こんどこそって鎧についている火の刃が、敵を切り裂くのが見たいんだろうけど、相手は火の鳥だからね。相性が悪いと思うよ。


 ベル達の儀式を経て自然の鎧を装着し、マグマの池を回り込んで崖に近づく。侵入者に気づいたファイアーバードが騒ぎ出す。そろそろ襲ってくるな。


「じゃあ数が多いしベル達も手伝ってね。あっ、ムーンは戦わなくてもいいから、シルフィと一緒に見学してて」


 がんばるーっとやる気を見せるベル達と、ふよふよとシルフィの胸に収まるムーン。精霊も性格は色々だ。


「そう言えばフレア、ファイアーバードに火の魔法って効果あるの?」


 俺が疑問に思って聞くと、フレアはドヤ顔でこう言った。


「ひももやすぜ!」


 ……意味は分からないが自信はあるらしい。まあ魔物の攻撃が当たる訳じゃ無いし、好きにさせよう。俺は魔法のハンマーを構え、ファイアーバードの縄張りに突入する。


 群がってくるファイアーバードをハンマーを振り回しながら弾き飛ばす。ベルの風の刃、レインの水の刃、タマモの葉っぱの刃、トゥルの土の槍が次々とファイアーバードに殺到する。


 そんな中、フレアが火の玉をファイアーバードにぶつけると、悲鳴を上げて地面に落ちた。地面に落ちたファイアーバードを見ると黒焦げになっている。フレアをみると超絶楽しそうな笑顔だ。


 要するにマグマの熱にも耐えられるファイアーバードでも、耐えられない高温で燃やしたって事だな。ちょっとファイアーバードが可哀想な気がする。

読んでくださってありがとうございます。

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