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二百十三話 自然の鎧ver.3

 七十七層を探索し一通り魔物をベル達が倒したので、目的を宝箱探索に切り替えた。


「ねえシルフィ、もしかしなくても英雄達が探索し終わっているここで宝箱を探すよりも、英雄達が諦めた八十七層以降を探索した方が、宝箱って沢山見つかるよね。八十七層まではさっさと進んだ方がいいのかな?」


 ゲームでは宝箱を全部集める派だったから、できるだけ全ての宝箱をゲットしようと、あまり人が入っていない五十層以降は頑張って宝箱を探していたんだけど、ぶっちゃけ効率が悪い気がする。


 攻略本がある訳でも無いし、何か次の層に進む為に必要なアイテムが迷宮の中に散りばめられている訳でも無い。しらみつぶしに宝箱を探す必要があるんだろうか? 異世界に来てファンタジーな世界だからか、ゲームの習慣に縛られてる気がする。


「そうねー……どうなのかしら? 普通の冒険者なら一つの層を探索するのに時間が掛かるから、裕太の言った通りだと思うけど。でも裕太にはベル達が居るんだから一日あれば一つの層の探索は終わるわ。取り逃した宝箱の中に魔法の杖が入っている可能性を考えると、注意深く探しても問題無いんじゃない?」


「あー、そう言う考えもあるか」


 取り逃した宝箱に大事なアイテムが入ってるのはRPGの基本だよな。それで、取り逃したら二度とその場所には行けなくて、うっかりセーブデータも更新してしまっていて、最初からやり直すか悩むんだ。某有名ゲームの召喚獣を取り逃した時は、半泣きでやり直したな。切なくもいい思い出だ。


 俺って……完全にゲーム脳になってる。ゲームとは違うんだからとか言いながら、ゲームを基準に考えている。この迷宮は今のところ二度と行けない場所なんて無いんだし、サクサク進んでも問題無いんだが、サクサクと先に進むと、取り逃した宝箱がずっと気になる気がする。


 あそこで宝箱を真剣に探していたら、もう魔法の杖が全種類揃ってたかもとか、考えてもしょうがない事で延々と悩むんだ。シルフィの言った通り細かく探しても数日迷宮に籠る期間が延びるだけなんだ、地道に宝箱を探して進もう。迷宮って結構楽勝だよねって感じだったのに、縛りが入ったせいで変なプレッシャーを感じてしまう。精霊王様恐るべし。


「地道に宝箱を探しながら進む事にするよ」


「ふふ、分かったわ」


 シルフィが軽く笑いながら返事をする。


「何か面白かった?」


「ええ面白かったわ。裕太は考えが顔に出過ぎね。悲しい顔をしたと思えば、真剣な顔になって、何か昔を懐かしむような表情になったと思えば笑ったり、まるで百面相みたいだわ」


 相変わらず考えが顔に出てるのか。直そうと思ってもなかなか治らないな。まあ、エロい事を考えてなくて良かったっと言う事にしておこう。シルフィとまったり話ながら、トゥルが作ってくれたスパイクで氷の大地を進む。


 そう言えばジーナ達は大丈夫かな? ドリーが一緒だから問題無いとは思うんだけど、今回は迷宮に潜っているからちょっと心配になる。みんな仲が良いから喧嘩はしてないだろうけど、無茶な事はしてないだろうか? ちゃんとご飯を食べられてるだろうか? 


「そんなに心配しなくてもドリーも一緒なんだし、ジーナ達は大丈夫よ」


「何も言ってないのに分かるんだ」


「分かるわね」 


 ……完全に表情を読まれてるな。心を読まれているって言われても信じるレベルだ。もはやおしどり夫婦の域まで、俺とシルフィの関係は昇華されているかもしれない。


「みつけたぜーー」


 シルフィと話していると、フレアが嬉しそうにニコニコで戻ってきた。今回のトップはフレアか。


「凄いね、今回はフレアが一番だよ」


「とうぜんだぜ!」


 おおう、物凄くふんぞり返っている。相当嬉しいらしい。


「どんな宝箱だった?」


「ぎんいろだったな」


 銀色の宝箱か。魔法の杖は難しそうだけどお宝には違いない。みんなを召喚してさっそく確認に行くか。


 ………………フレアが見つけてきてくれた宝箱に入っていたのは上級回復薬、上級魔力回復薬、上級解毒薬だった。今のところポーション系を使った事は無いんだけど、こういう薬を手に入れるとワクワクするよね。


 ***


 一層毎に丸一日かけて氷の大地で宝箱を探した。金の宝箱が一個に銀の宝箱が三個、木の宝箱を一個手に入れた。その大半が氷の大地に埋まっていた事を考えると、英雄達は幾つか発見しても取らなかった可能性もあるな。


 金の宝箱だと流石に放置しないだろうからこれは俺達が第一発見者だ。そして当然のごとく魔法の杖は出て来なかった。この調子だと聖域になるのにどのぐらい掛かるか不安になってきた。英雄達が探索していないボーナスステージに期待だな。


「さて、八十層に潜るよ。今回のボスはグレートエンペラーバード。普通のエンペラーバードよりも一回り大きくて、クチから氷の吹雪を吐き出すらしいよ。お腹の体毛は金色らしいけど、どんなのだろうね?」


 本に書いてあったグレートエンペラーバードの特徴を、ベル達にも伝えておく。動物園的な興味だと、ただでさえ大きなエンペラーバードよりも一回り大きくて、お腹の体毛が金色とか興味深々だ。でも可愛らしかったら戦うのが辛いな。できれば凶暴な感じで襲い掛かって来て欲しい。


「ふふ、面白そうね。でも裕太はベル達自慢の自然の鎧を身に付けるんだから、楽勝に決まってるわね」


 突然のシルフィの裏切り。俺が愕然とした表情でシルフィを見ると、恐ろしい程に表情が変わっていない。あれが完璧なポーカーフェイスなんだろう。シルフィの言葉で思い出したのか、ベル達がハッとした表情をする。


「ぼす! しぜんのよろいー」「キュキューー」「あたらしいの」「クククーー」「ひはつよいぜ」「…………」


 宝探しでスッカリ忘れてたのに、完全に思い出してしまった。このままなし崩し的に戦闘に突入する予定だったのに……。ボス戦では自然の鎧を使うって言質を取られてたから、逃げられそうにない。


 ベル達がキラキラした目で俺を見つめる。ここで断ったらベル達のショックは計り知れないだろう。大人は直ぐにウソをつくとか思われて、ベル達がグレたら……不良スタイルのベル達ってちょっと可愛いかもしれない。


「ゆーた?」


「ん? ああ、自然の鎧だったね。じゃあ階段を下りて、ボスの部屋の前でお願いね」


「わかったー」「キュキュー」「がんばる」「ククー」「もえるぜ」「……」


 張りきるベル達。下級精霊六人での合作か……いったいどんなのができるのか、ちょっとだけ不安だ。そして俺の不安に反比例するように、シルフィの機嫌が良くなっている。表情は変わらないが俺にもそれぐらい分かる。シルフィは確実に自分の楽しみの為に俺を売った。シルフィの躊躇いの無さに、ちょっとだけ恐怖を覚えながら階段を降りる。


「クークククーー」


 ボス部屋に到着するとタマモが俺に何かを訴えかけてきた。ダメだな、よく分からん。


「かぶとにつかうはっぱをだしてっていってるー」


 ベルが通訳してくれた。なるほど……自然の鎧の時タマモは兜担当だもんね。でもここには植物が無いから、俺の魔法の鞄から取り出して欲しいって事か。


「分かった」


 間伐した木から、木材にした時に落とした枝を取り出しタマモに渡す。ブンブンとシッポを振って喜ぶタマモ。たぶんこれで参加できるーって喜んでるんだろうな。 


 準備が終わると、立派なボス部屋の前でベル達に囲まれる。やっぱり六人全員で自然の鎧を作るらしい。契約精霊が増える度に、自然の鎧はバージョンアップされるんだろうか? でも俺の体にそんなにスペースは無いぞ。フレアとムーンの属性は何処に付くんだ?


「キュキュキューキュ(みずのころもを)」


「いわのよろいを」


「かぜのまんとを」


「クゥーククークーー(みどりのかぶとを)」


「ひのやいばを」


「…………」


「「「「「「しぜんのよろい(キュキュキュ)(クククー)(……)」」」」」」


 自然の鎧ver.3がベル達の掛け声と共に俺の体に装着される。うーん、これはまた何と言ったらいいんだ? どうしたらいいのか分からずシルフィを見ると、無表情だけどなんかプルプルしている。……ダメだな、自然の鎧関連の時にシルフィは頼りにならない。


 今回増えたのは……両手両足から外側に生える湾曲した火の刃だけか? って言うか何で鎧に刃を生やすの? ああ、そう言えば某有名ゲームにも敵の攻撃を受けたら、相手にもダメージを与える鎧があったな。


「フレア、この火の刃はどうなるの?」


「ぼうぎょしたら、きってもやすんだぜ!」


 物凄く得意げなフレア。火の刃で防御する事は無さそうだが、とりあえず目的は分かった。詳しく聞いてみると、どうやらフレアは防御に攻撃の面も持たせたかったらしい。火の精霊は防御の面でもアクティブなんだな。ただでさえ変わった鎧なのに色物感が更に増した。


 でも……火の刃を顔に近づけても熱は感じないな。そこら辺の調整はしっかりしているみたいだ。これなら頭を掻いても熱っってならないな。


「えーっとよく分かったよ。ムーンの担当が分からないんだけど、何が変わったの?」


 ムーンが物凄くプルプルしているが、当然のように理解できない。


「れいんのみずに、かいふくをつけたー。つかれなくなったー」


 ベルの言葉を考える……レインの水の衣に回復効果を持たせたのか? 疲れなくなるって事は体力も回復するのか……地味だけど凄い効果だな。


「凄い効果だね! みんなありがとう」


 俺の言葉にキャイキャイと喜ぶベル達。こうやって褒めるから、自然の鎧を使うのが好きになる一因になってるんだろうけど、頑張ったーって感じで俺を見つめるベル達を見たら、褒めない訳にはいかないよね。


「じゃあ、ボス部屋に入るね。せっかくみんなが鎧を付けてくれたし、俺一人で頑張ってみるから応援してね」


「おうえんするー」「キュキュー」「がんばって」「クククー」「きあいだぜ!」「……」


 ベル達の言葉に手を振りボス部屋の扉を開く。因みにシルフィはいまだに肩を震わせているので放置だ。中に入ると広い氷の大地に、本に書いてあった通りのボスが見える。


 グレートエンペラーバード……確かにエンペラーバードよりも一回り大きいな。そしてお腹の羽毛が金色でフカフカしている。あのお腹の上で昼寝したい。そして大きいけど凄く可愛いのが厄介だ。今からあのボスにハンマーをぶち込むと考えると、ちょっと悲しい。

読んでくださってありがとうございます。

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