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二百九話 迷宮探索

 昨日はジーナ達の迷宮探索に必要な物を揃え、メルとメラルの参加も決まり万全の体制が整った。充実した迷宮探索になる事は間違い無いな。


「メル、メラル、おはよう」


「おはようございます、お師匠様」


「裕太、おはよう! 楽しみだな!」


 朝、メルとメラルを迎えに行くと工房の前で待機していた。メルは普通だがメラルのテンションはかなり高めのようだ。


「メラル、やる気があるのはいいけど、全部一人でやらないようにね」


「ん? そうか? そうだな! 分かってるぞ!」


 言葉では分ったって言ってるけど、心配なテンションだな。……メルに注意しておこう。


「メル。メラルがちょっと気合が入り過ぎてるみたいだから、手綱をしっかり握っておいてね」


「メラル様は昨晩から凄く楽しそうでした。でもちゃんとお話をすれば、分かってくださいますから大丈夫です」


 自信ありげに言うメル。気が弱いはずのメルがここまで断言するって事は、しっかりコミュニケーションが取れているんだろうな。


「大丈夫なら良かったよ。じゃあそろそろ出発するけどいいかな?」


「はい、大丈夫です」


「おう、迷宮だな!」


 問題無いそうなので迷宮に向かう。ササっとキッカがメルと手を繋いでいる。後ろから見ると同級生にしか見えないな。


 ***


「じゃあドリー。ジーナ達の事はお願いね」


「はい、しっかり見守りますから安心してください」


 穏やかに微笑んで請け負ってくれるドリー。なんか安心できるよな。一瞬メラルのテンションが高いからディーネを投入しようかとも思ったけど、メルも自信ありげだし止めておいた。前に会った時にちょっと苦手意識を植え付けられているみたいだし、愛について語られても困るよな。


「ジーナ、サラ、マルコ、キッカ、メル。ドリーが付いていてくれるから安心だけど、それでも無理はしないで慎重に行動するようにね。それと、魔法の鞄には移動拠点が入ってるし、食料は…………」


「裕太、裕太。心配なのは分かるけど長いわよ。ジーナ達も戸惑ってるし、周りからも注目されてるわ」


 ……シルフィの忠告に周りを見渡すと、確かに他の冒険者達から見られている。ジーナ達もちょっとポカンとしているし、話し過ぎたのかもしれない。


「……えーっと、まあ、みんな頑張ってね」


 最終的にしりすぼみになった俺の言葉に、みんなしっかりと返事をして迷宮に入って行った。失敗したな。師匠の威厳的にウダウダと注意をしないで、頑張って来い! ぐらい端的に終わらせた方が良かった気がする。


 まあいい、次からはしっかり威厳を持って送り出す事にして、俺達も迷宮に入ろう。


 ***

 

「へー、迷宮の中ってこんななんだな。話には聞いてたけど不思議な感じだ」


「ジーナさんは迷宮に入るのは初めてでしたね」


「そうなんだ、迷宮都市に住んでても戦えないなら入る機会なんて無いからな。メルさんは結構迷宮に潜ってるんだよな?」


「ええ、と言っても専門ではなく、人に助けて貰ってばかりなんですけどね」


 メルさんが少し苦笑いしながら言う。そうだよな、本職は鍛冶師だもんな。あたしは食堂の娘だし、サラ達はスラムの子共達だ……なんで精霊術師になって迷宮に潜っているのか疑問だ。人生って何が起こるか分からないもんだな。


「ジーナお姉さん、出発しましょうか。決めていた通りにフクちゃんとマメちゃんを偵察に出しますね」


「ん? そうだな。マルコとウリが先頭で、あたしとシバは最後尾で後方警戒だったな。メルさんは中盤でメラルさんと前後のフォローだったな。師匠も言ってたし油断しないで注意して行こう」


「はい!」「ウリがいればだいじょうぶだ」「マメちゃんがまものをみつけるの!」「はい、フォローは任せてください」


 皆の返事と共に陣形を組み迷宮を進む。でも、この中で一番経験が少ないのはあたしなんだよな。あたしが仕切るのはおかしいと思うんだけど、やっぱり年齢なんだろうな。


 師匠もあたしに指示を出すし、サラ達もあたしを立ててくれる。子供に頼るのも情けないしちゃんと仕切れるように頑張らないとな。


「みんな、頑張ってねーーーーーーー」


 ……師匠が飛びながらあたし達を追い抜いていった。なんか緊張感が……師匠も変わった人だよな。死の大地の拠点を見てその力を目の当たりにして驚いた。たぶん大抵の事は思い通りにできる力があるはずなのに、なんであたし達の世話ばかり焼いているんだろう?


 うちの食堂に来る冒険者なんか、財宝を見つけて一発逆転! 美女を囲って酒池肉林だーって客ばかりなのにな。ちょっと不思議だ。精霊の気配が戻ってきた。サラの方に戻って行ったからフクちゃんなんだろう。


 サラとキッカは見分けられるみたいだけど、あたしはフクちゃんとマメちゃんの気配の違いがよく分からない。絵を見た時にこれだけソックリならしょうが無いと思ったけど、契約している二人はバッチリ見分けられるらしい。あたしもシバの気配は他の精霊よりも分かりやすいから、そう言う事なんだろうな。護衛について来てくれているドリーさんみたいな大精霊だと、圧倒的で凄く分かりやすい。


「ゴブリンが来ます!」


「ウリとフクちゃんで撃退してくれ」


 しばらくすると言葉通りゴブリンが現れるが、ウリに瞬殺される。アンデッドの巣に突入した時も思ったが、本当に低レベルの魔物は相手にならない。シバの気配があたしの周りをグルグル走り回っている。


 たぶん自分も戦いたいってはしゃいでるんだよね。絵で見た時はとても小さくて可愛い犬だけど、戦闘が好きみたいで、戦いになると興奮する。


「シバ、出番はちゃんとあるから落ち着いてね」


 あたしの声にグルグルと走り回っていたシバが、目の前でピタリと止まる。ふふ、絵で見てからシバがどんな表情で、どんな事をしているのか想像しやすくなった。たぶんシッポをパタパタと振りながら、まだ? まだ? って言ってる気がする。ハッキリと姿が見えて触れられる師匠が羨ましいな。


 ゴブリンの魔石を回収して先に進む。サラ達の話ではトロル以外は湿原まで何の問題も無いそうなので、罠や奇襲に注意しながら先に進む。湿原って中堅の冒険者でも大変なはずなんだけどな。


 ***


「裕太、あそこの岩陰で迷宮の翼とマッスルスターが野営しているわね」


 ジーナ達がどうしているか考えていると、シルフィが教えてくれた。迷宮の翼とマッスルスターか、ギルマスにも挨拶しておくって言ったし、顔だけ出しておくか。


「挨拶だけしておくから、驚かせないように降りてくれる? えーっと、シルフィ。ここって何層だっけ?」


「五十八層ね」


 五十八層か……もうだいぶ遅い時間になるから野営しているんだな。驚かせないようにゆっくりと手を振りながら降りて行くと、丁度見張りをしていたアレクさんが俺に気づいてくれた。


「裕太さん、お久しぶりです」


「お久しぶりです。迷宮に潜っているとギルマスに聞いたので、挨拶だけでもと思いまして、調子はどうですか?」


 迷宮の中で冒険者同士なのに挨拶するとか違和感でしか無いけど、有言実行の為に挨拶はしておこう。ギルマスが話を聞いたら本当に挨拶したんだって驚きそうで面白いよね。


「はは、苦労しています。出て来る魔物は弱いので倒すのは簡単なんですが、音を立てられないのが面倒ですね。一度目立つと後が大変ですから」


 苦笑いするアレクさん。まあAランクの冒険者なんだからゴブリンやオークなんか雑魚だよね。でも数が多いから群がられたらうんざりするか。話し声に気づいたのかマッスルさん達も出てきたので挨拶する。


「マッスルさん達、なんか疲れているみたいですが大丈夫ですか?」


 迷宮の翼も物凄く元気って訳じゃ無いけど、マッスルさん達は明らかに疲れている。もしかして野営中に筋トレでもしてたか?


「山岳は私達には向いてない。ストレスが溜まる」


 マッスルさんが憮然とした表情で言う。筋トレをしてたんじゃ無いようだ。


「ストレスですか?」


「そうだ! 私達が戦うと音が大きい。ハンマーで魔物を叩き潰す訳にもいかず、チマチマと素手で首を折るのはもう飽きたのだ!」


 マッスルさんの言葉に他のマッスルスターのメンバー頷いている。まあ、言いたい事は分かった。ムキムキの大男達が鈍器を振り回せば、それだけで他から魔物が集まって来そうだよな。迷宮の翼が苦笑いしているのは、マッスルさん達の愚痴に付き合ってるからか。どちらも大変そうだな。


「ストレスが溜まるのは分かりましたが、嫌だからと言って暴れるとそれはそれで面倒な事になりますよね」


「そうなのだ。オークを潰していたら、ゴブリンやオーガが乱入してくるから延々と戦いが続く故、無暗に暴れる訳にもいかん!」


 マッスルさんってもっと丁寧な話し方をしていたはずなんだけど、軍人みたいな話し方になっている。よっぽどこの層が嫌いらしい。あっ、やめて、ボディビルダーみたいなポーズはとらないで。ベル達がマネしちゃうから……。


 遅かったか。野営地を興味深く観察していたベル達が、面白そうな匂いを嗅ぎつけ既にマネをしている。


 …………これはこれで悪くない気がするから不思議だ。


「ぬーん」「キュー」「……」「クー」「むん!」「……」


 人型のベル、トゥル、フレアはちゃんとポーズをとれてるな。一生懸命力んでいるけど、ベルとフレアは全然筋肉が膨らんでない感じで、両手がプルプルしているのが可愛らしい。


 無言でポーズをとるトゥルは、なんだかとても満足げだ。ノモスもそうだけどドワーフって筋肉質な感じだから、こういうのが好きなのかもしれない。


 レインとタマモはなんとかポーズをとろうとしているが、難しいようだ。骨格が違うからさすがに無理があるよね。ムーンにいたってはポーズをとっているのかすら分からない。プルプルがポヨンポヨンに変わっているから、一応マネしてるのかな?


「どうかしたのか?」


 マッスルさんが何も無い場所を見つめる俺に話しかけてくる。いかんな話の途中だった。


「いえ、何でもありません。まあ大変だと思いますが頑張ってください。では、俺はこの辺で失礼しますね」


「えっ? もうですか? だいぶ遅い時間ですし、よかったらここで野営をしていきませんか? 裕太さんの話を聞かせて頂けると嬉しいんですが」


 アレクさんが焦って俺を引き留めようとする。何となくだが、マッスルさん達の愚痴に対する生贄な気がするから、先を急ぐと言う事で撤退しよう。


「いえ、できれば今日中に七十層に到着したいので、失礼しますね」


 言いながらシルフィに目でお願いをする。俺のお願いが分かったのか風が俺を包み体が浮き上がる。さすがシルフィ。もはや以心伝心と言っても過言じゃ無いな。


「今日中に七十層ですか?」


「ええ、そう言う事ですので失礼しますね」


 手を振って野営地から飛び立つ。まだ何か言いたげだったが、マッスルマン達の愚痴に付き合うのは勘弁だ。

読んでくださってありがとうございます。

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