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二百八話 ギルマスとのお話

 酒樽を迷宮都市の至る所で仕入れて、カーテンとジーナとメルのベッドを買って、冒険者ギルドに到着した。筆頭従者がウザい事を再び確認して、話を続ける。


「それで、ガッリ子爵が行方不明って事は、冒険者ギルドから国への訴えはどうなったんですか?」


「行方不明になる前にグランドマスターから抗議は入れていますから、国には届いています。ですが国が対処する前に事件が起こったので浮いた状態ですね」


 うーん、国から罰が出てから放置した方が良かったか? いや、時間を与えると余計な事をしでかしそうだから、直ぐに動いて良かったはずだ。


 秘書さんが紅茶を運んで来てくれたので、一息ついて紅茶をすする。うーん、マリーさんのところのようなメイドさんもいいが、秘書さんもいいな。俺の場合どんな状況になればメイドさんや秘書さんが雇えるんだろう?


 ……信用ができて死の大地で働いてくれる人を探す事から始めないとな。街に家を買えば話は違うけど、迷宮都市だとトルクさんの宿屋から離れる気も起こらない。どこか住みたい場所が見つかってからの話だな。


「裕太殿、どうかされましたか?」


「いえ、何でもないです。しかし、国からの処罰は浮いた状態なんですか。子爵と侯爵の捜索はどうなってるんですか?」


「ガッリ家の者達とガッリ侯爵の派閥の者達が中心で捜索していますね。ですが、水面下では後継者争いが勃発しているようです」


 もしかしてって思ってたけど、後継者争いが起きちゃったか。後継者が定まるまでに戻って来られるのかな? そもそも生きているかが問題か。まあ正直どうでもいいな。警備隊は俺に手出しをしないようだし、お家騒動が起こっているなら、ガッリ家も俺にチョッカイを出す暇は無いだろう。筆頭従者がウザいけど、放置で問題無さそうだ。


「分かりました、ありがとうございます。それと、お願いしていた弟子の実家の護衛はどうなっていますか?」


「裕太殿が食堂の娘を攫ったとか嫁に貰ったとか噂が広がっています。その点で注目は集めていますが、侯爵が消えた事もあり、手出しは今のところありません」


 うーん、噂の広がりがハンパ無い。でも侯爵が消えた事が抑止力になるとか、思ってもないところでいい効果が出てる。


「分かりました。引き続き落ち着くまで護衛の方はお願いします」


「はい」


「ありがとうございます。ではそろそろ失礼しますね」


 なんかギルマスが言いたそうにしているが、聞きたい事は聞けたんだからもう帰ろう。


「裕太殿、ちょっと待ってください。まだ話があるんです」


 慌ててギルマスが制止する。やっぱり何かあるのか?


「グランドマスターとの契約で、依頼の場合は年に一回だけ依頼内容を聞くと言う事になっていますが、それですか?」


「…………い、いえ、依頼と言う訳では無く。裕太殿が今後どのような予定なのか聞きたいと思いまして」


 明らかに話を変えた。元々は何か依頼っぽい頼みごとをするつもりだったんだろうな。しかし今後の予定か、冒険者ギルドに教えるメリットもデメリットも無い気がする。


 あっ、ジーナ達の事は伝えておいた方がいいかな。監視がつくかもしれないけど、そこら辺は大精霊達に意識して貰えば上手にできるだろう。詠唱するフリぐらい簡単だからな。


 精霊術師だけのパーティーでしかも五人中三人は子供。それだけでも普通に目立つのに加え、今の実力なら時間を掛ければ四十層ぐらいまでは行けるだろう。先にギルマスに話を通しておけば、騒ぎも少しは抑えられるだろうし、面倒事も避けられるだろう。


 俺自身の好みで言えば、いきなりジーナ達が大活躍! 冒険者ギルドもビックリ! の方が好きだ。でもジーナとメルはともかく、サラ達は子供なんだから鬱陶しい干渉は少ない方がいいだろうな。


「俺は普通に迷宮を探索するつもりですが、今回からは弟子達は別行動で迷宮に挑ませますね」


「……それはあの子供達も含めてですか?」


「はい」


「弟子達と言う事は、全員が精霊術師なんですか?」


「はい」


「実力の方は大丈夫なんですか?」


「ええ、俺が一緒の時に三十層までの魔物は普通に倒してますから、実力は申し分ないと思います」


 そこにジーナとシバが加わって攻撃力が増したし、メルとメラルが居ればアサルトドラゴン相手でも問題無いだろうな。ただ、火山地帯は環境がシビアだから、フクちゃん達では快適な環境を持続する力が足りないらしい。


 シルフィは簡単にやってたけど、凄い事なんだよな。話を聞いた時にようやく気がついたぐらいで、自分の鈍さが切ない。


「そうですか……お弟子さん達は冒険者ギルドで依頼を受けられますか?」


「ええ、社会勉強にもなりますので受けさせるつもりです。ただ、申し訳ありませんが、俺との関係上ランクはDまでしか上げないように言ってありますので、ご容赦ください」


 ランクがCランクになれば強制依頼が出せるからな。切羽詰まったらサラ達を危険なところに放り込んで俺に手助けさせるとか、考える奴も出て来そうだ。まあ、よっぽどのバカじゃ無いとそんな事はしないだろうけど。


「それでは裕太殿のお弟子さんは、ずっとDランクのままと言う事ですか?」


「いえ、独り立ちすれば弟子達の自由です。ただ、俺と前ギルマスの確執も知っていますから、Dランクで止めると言うのは弟子達も納得済みです。あとは信頼関係が構築されれば弟子達もランクの上昇を受け入れるようになるんじゃないでしょうか?」


 さすがに俺にしたみたいに、強制依頼の撤廃みたいな力技はできないだろうしな。ギルマスが頭を抱えている。この人には何もされて無いから少し申し訳ない気もするが、一歩でも譲るとなし崩しに的に要求が過大になって行くから譲る訳にはいかない。


「ですが、わざわざ冒険者ギルドに、波風を立てようとは思ってませんから安心してください。社会勉強が目的なので、Cランクに昇格が近くなれば依頼を受けずに、魔物だけ納品する事になります。それに常に迷宮都市に居る訳でもありませんから、目立ちはするでしょうが、俺の時みたいに問題になる事は無いと思いますよ」


 本来はポルリウス商会に魔物を卸せばいいんだけど、ほぼ同時期に俺も素材を卸す事になるからな。俺の素材だけでも手一杯なのに、ジーナ達の素材まで加わったらパンクしてしまう。


「そうですか……お気遣いありがとうございます? 冒険者ギルドとしましても準備はしておきますね」


 疑問形なのがギルマスの心情を表しているな。たぶん心の中では俺達が素直に従えば、苦労が無くなるのにとか思ってるのかもしれない。従わないけど。


「そう言えば迷宮の翼とマッスルスターのみなさんはどうしてますか?」


 話を変えよう。っと言うか帰ればよかったな。まあ、少しは気になるしこの話が終わってから帰ろう。


「ああ、迷宮の翼とマッスルスターは、現在合同で五十六層から五十九層の魔物の分布を調べています。魔物の薄い個所を探してから、体制を整えて六十層に挑戦する事になるでしょう」


 なるほど、飛べないから迂闊に進むとモロに魔物の勢力と鉢合わせするからな。六十層のボスは集団戦だからできるだけ消耗を控えて挑戦したいのか。Aランクのパーティーが二つ。いくら数が多いと言っても、準備が万全ならなんとかなるんだろう。


「そうですか。いま迷宮に入ってるんですね。俺も明日から迷宮に入りますから、中で会ったら挨拶しておきますね」


「は、はい……」


 なんかギルマスが微妙な表情だ。うん、確かに挨拶しておきますって言われても困るか。よし、もう帰ろう。


「では、そろそろ失礼しますね」


 微妙な空気のままギルマスの部屋を出る。ドアを開けて、ロビーまで案内してくれた秘書さんも微妙な表情だ。シルフィだけおかしそうに笑ってくれているのが救いだな。例え笑わせたのではなく笑われたのであっても、微妙な表情よりはマシなはずだ……たぶん。……もう宿に帰ろう。


 若干速足で宿の自分の部屋に戻ってきた。ふむ、誰もいないな。サンドイッチは無くなってるし、ベル達は昼食もちゃんと食べたみたいだ。まあ、夕食前にはちゃんと戻ってくるだろう。なんか微妙に疲れたしシルフィと話しながらまったりしよう。


 *** 


「師匠、今大丈夫?」


 ベッドに寝転がりシルフィとまったり話していると、ジーナがドアをノックしながら声を掛けてきた。戻って来たんだな。


「入っていいよ」


 許可を出すとジーナ達とドリーが部屋に入ってきた。


「お帰りみんな。ちゃんと買い物と話し合いはできた?」


「ああ、メルさんも参加してくれるし、ユニスさんには持って行く物や迷宮での注意点も教えてもらったぞ」


 メルが参加してくれるなら、かなりの戦力増強になるな。ユニスのアドバイスが得られたのなら、俺が知らない冒険者の基本も教えて貰えたかもしれない。俺は今更初心者講習を受けるつもりは無いけど、ジーナ達に初心者講習を受講させるか?


 なんか変な情報収集とかされそうだし、今のギルマスとの関係が悪くないと言っても微妙なんだよな。


「ユニスは付いてくるって言わなかった?」


「ついて来るって言ってた。でもメルさんが説得してくれたから大丈夫だったよ、ちょっと大変そうだったけど……」


 なんとなく大変そうな光景が思い浮かぶ。でもちょっとって事は俺の時みたいにゴネにゴネたって事は無かったみたいだ。少しは信頼されたのかもしれない。


「いろいろ勉強になりました」「迷宮のはなしおもしろかった!」「メルちゃんとあそんだの!」


 キッカはちょっと違うが、サラもマルコも勉強になったみたいだな。


「ふふ、メラルさんも張り切ってましたよ」


 ドリーが補足を入れてくれる。メラルが張り切ってたのか。あんまりメラルが張り切るとジーナ達の訓練にならないところが難しい。メルのレベルも上げる必要はあるんだし、明日会った時に魔物はできるだけ一体ずつ倒すように言っておこう。


 ジーナ達の話を聞きながら道具の確認をし、明日からの予定を決めて行く。初めてのメンバーで迷宮に入るので、一日目は草原で連携の確認。二日目は森でゴブリンやオークを倒しながら、トロルに挑戦。


 残りはその時の戦い次第で先に進むかトロルとの連戦を繰り返すのかを判断する事になった。無理して先に進もうとしない考え方に、ちょっと安心する。若さが足りない気がするけど、大精霊に頼る事を考えずに危機管理ができているところが偉い。


 あっ、ジーナ達用の移動拠点に買ったベッドを入れて、普通の魔法の鞄に入れておかないとダメだった。宿屋の裏庭だと狭いよな。夜中にシルフィに頼んで、迷宮都市の外に出て入れ替えるか。


 迷宮の六層まで一緒に行って草原で入れ替えれば簡単なんだけど、明日は初めてジーナ達だけでの迷宮探索だからな、興醒めな行動はやめておこう。

読んでくださってありがとうございます。

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