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十九話 不安の解消

 ちょっと嫌な事を思いついてしまったが、とりあえず今は肥料を作ろう。ゴリゴリと一時間程掻き混ぜると、細かい砂のように粉々になった。


 ふう。結構大変だったな。次は土と混ぜ合わせるか。水をかけたら上から下に栄養が流れそうだから、下の部分は肥料少なめにしよう。


「終わったのね。次はどうするの?」


「ああ、シルフィ。終わったよ。次は土と肥料を掻き混ぜるんだ。土の方も塊があるから、崩した方が良いと思うしね。でも掻き混ぜるだけだからそんなに時間は掛からないよ」


「そう。頑張ってね」


 簡単な励ましでも気合が入る俺はチョロイのか? まあお手軽にいい気分になれるんだ。得な性格だと思っておこう。


 一度すり鉢の中の肥料を収納して、代わりに土をすり鉢の中に入れる。さらに作った肥料を追加投入。一番底の部分になるし、かなり少なめにしておこう。


 土と肥料を混ぜ合わせるようにすり鉢の中でハンマーを回す。ゴロッと固まった土はハンマーで軽く叩くと直ぐに粉々になる。しっかりと混ぜ合わせるとすり鉢を収納して、畑予定地の横に置き直す。


 シャベルを大きくして、すり鉢の中の土を畑予定地に投げ入れる。


「ベル。風で畑の中の土を平らに均せる?」


「できるよー」


「じゃあ、お願いね」


「わかったー」


 畑予定地にドンドン土を投げ入れると、ベルが風を操り土を平らに均す。「キュー」ん? レインどうしたんだ?


「キュキュー」


 ベルの方を向いたり、穴の中に頭を向けたりよく分からん。


「れいんもおてつだいしたいってー」


 ベルの通訳にレインが嬉しそうに頭を上下させる。ベルはレインの言葉が分かるんだな。俺は契約してても全然わからなかったよ。


「そっかー。じゃあレインには土に水を撒いてもらおうかな。ほんの少し土を湿らせるぐらいで良いんだけど、出来る?」


「キュイキュイ」


 出来るみたいだな。最後に上から沢山水を撒こうと思っていたけど、湿らす程度に水を含ませておけば、上から撒くのは少なくて済みそうだ。


「じゃあ、レインもお願いね」


「キュイーー」


 レインが鳴き声をあげると、霧がまいた上に現れて、土の中に吸い込まれていった。なんか凄いな。俺が土を何度か投げ入れると、ベルが風で土を平らにして、レインが霧で土を湿らす。なんか上手く回っているな。


 土を全部投げ入れると、再び肥料と土を混ぜ合わせる。混ぜ終わったら再びそれを建設予定地に投げ入れ

る。それを何度も繰り返す。


「これで終わりだね。レイン、上から多めに水を撒いてくれるかな。土がしっかりと濡れるぐらいにお願いね」


「キュー」


 水が雨のように畑に降りそそぎ、じっとりと畑が湿ったころ合いでレインが水を止める。


「ベル。レイン。二人ともありがとう。おかげで畑が完成したよ」


「がんばったー」


「キュー」


 二人が飛び込んできたので、しっかり感謝の言葉を掛けながら頭を撫でる。グリグリと頭を手に押し付けてくるベルとレイン。こうなったら俺が撫でているのか、二人が頭をこすりつけているのかよく分からないな。シルフィとディーネが側に来たので聞いてみる。


「シルフィ。ディーネ。この畑、どんな感じか分かる? 上手く行ってるかな?」


「ちょっと私には分からないわね」


「裕太ちゃん。お姉ちゃんは水がしっかり土を潤しているのは分かるわ」


「そう。ありがとうディーネ。土の精霊が来てくれるぐらいの土になってれば良いんだけど……どうなるかな」


 出来る事はやったつもりだけど、まったくのド素人の何となくの土壌改良だ。不安でしょうがない。


「明日の朝。土の精霊を呼んでくるから待ってなさい。考えたって分からないわよ」


 まったく自信がないテストの返却を待つ気持ちだ。せめて赤点だけは回避したい。 


「分かってるけど考えちゃうんだよね。まあ、出来るだけ他の事を考えるよ」


「そうした方が良いわ」


 干物を収納して夕食の準備だ。干物は干しが足りない感じだったので、明日もまた干しておこう。夕食は焼き魚だな。 



 ***



 夕食が終わり、今日はコーヒーを飲むつもりだったけど、難しい話があるからやめておこう。せっかくのコーヒーだ気持ち良く飲みたいよね。


「シルフィ。ディーネ。少し話があるんだけど、良いかな?」


「何よ。難しい顔して、何かあったの?」


 少し心配そうにしている。シルフィって優しいよね。契約もしていないんだから付き合う義理も無いのに、直接的な手伝いは出来ないと言いながらも、許される範囲で手を貸してくれる。


 もし今回の話で別れる事になっても感謝は忘れないようにしないとな。出来れば別れたくないけど。


「裕太ちゃん大丈夫?」


「いや。ちょっと嫌な事に気が付いちゃっただけなんだ。話はその事だから聞いてくれる?」


「いいわ。話して」


「ああ。よく分からないが俺って精霊との親和性が高いらしくて、姿が見えたり触れたりするだろ」


「ええ。私が聞いた事無いぐらい高いわね。精々が話が出来る。極めつけに珍しくて姿が見えるで、触れられるのは多分初めてよ」


「お姉ちゃんもビックリしたわー」


 なんかディーネが話すと緊張感が薄れる。


「それで、気になったのが俺の道具が、精霊を巻き込む可能性なんだ。俺の道具は威力が強いから巻き込んだら酷い事になる」


「前にも言ったけど、道具には実体のないものを攻撃する能力は無いわ。だから精霊にとって脅威にならないわよ」


「俺もそう思ってたけど、実際に俺は精霊に触れるんだ。ベルは俺の服をしっかりつかんでいたぞ。道具が絶対に当たらないとは言えないと思うんだ。確かめないで結果。ベルとレインを巻き込んだりしたら寝覚めが悪すぎる」


 言っちゃった。シルフィとディーネの顔色が変わっちゃったよ。どうなる? 


「……確かにそうね。ちょっと試してみましょう。裕太。ハンマーを出して」


 シルフィに言われた通りにハンマーを出す。


「じゃあ、魔力を出さないで素で触ろうとするわね」


「お、おう」


 シルフィがハンマーの頭の部分に手を触れるとスルっと通り抜けた。おお、当たらないのか。


「今度は裕太が私の手に当てるつもりで軽くハンマーを触れさせてみて。本当に触れるくらいでお願いね」


「わ、わかった」


 慎重にハンマーを動かし、シルフィの手に触れさせる意思を込める。ゆっくり、本当にゆっくり触れさせると何の反応も無くめり込んだ。


「大丈夫だったわね。ちょっと緊張しちゃったわ」


 シルフィとディーネ、そして俺も大きく息を吐く。


「良かったー」


 本気で安心した。


「裕太の話にもしかしてと思って焦っちゃったわ。でも裕太。精霊に通用する能力とか凄い事なのよ。通用しなくて喜ぶなんて変わってるわね」


「変わってるも何も、俺の知り合いは精霊しかいないんだ。これで警戒されて精霊に嫌われたら、寂し過ぎる」


「あら。私は通用しても、注意するだけで、離れたりしなかったわよ」


「お姉ちゃんもよ」


「まあ、二人はそうかもしれないけど、話した事も無い精霊は俺の事を警戒するだろ。危険視されるかもしれない。そんな状況になる力は無い方が面倒が無くて良いよ」


「裕太ちゃん良い子ね。お姉ちゃん感激よー」


 本気で精霊に狙われたら完全に詰むからな。敵に回したらいけない相手の弱みを持つなんて最悪だ。


「確かに警戒する精霊も居るでしょうね。そう考えると裕太の懸念も間違ってないわ。まあ、裕太は素手なら私達を捕まえられるんだけどね」


「素手の俺が戦えば、何とかなるのか?」


「……浮遊精霊なら何とかなるかしら。まあ、捕まえたとしても碌な事にはならないから止めておきなさい」


「特に精霊を捕まえたいとも思った事は無いよ。そういえば前にベルが連れてきた浮遊精霊はどこに行ったんだ?」


 あのマリモみたいな奴。忙しくて忘れてたけど、何処にもいないよな?


「ああ、あの子は風に流されて何処かを漂っているわよ。心配しなくても大丈夫よ。それより結構良い時間だけどレベル上げはどうするの?」


「ああ、今日もお願いするよ」


 ホッとした。結果的には無駄な悩みだったけどストレスも溜まったから、魔物で憂さを晴らさせてもらおう。



 ***



 目が覚めてキッチンに出ると、ベルとレインが飛び付いてきた。頭を撫でながら朝の挨拶を交わし、朝食を取る。


 外に出るとディーネが現れたので、挨拶をして、シルフィのことを聞く。


「シルフィちゃんは精霊を迎えに行ったわ。誰を連れてくるつもりなのかしら。楽しみね」


 新しい精霊か。どんな精霊なんだろうか。母なる大地とか言うし、妖艶な色気を伴った色っぽいお姉さんだと良いな。ディーネも良い物を持ってはいるが、色気の点では落第だ。土の精霊に期待しよう。


「裕太ちゃん。なんだか悪いことを考えてない?」


 ディーネが目を細めて聞いてくる。なんだ、天然なのにこういう事には鋭いのか? なんて迷惑な。


「いや。考えてないよ」

 

「ほんとにー?」


 いつになくシツコイ。


「ああ、どんな精霊が来るのかと、畑がどう判断されるのかを考えていただけ」


「そうなんだー。おかしいな。お姉ちゃんのおしおきれーだーがビシバシ反応してたんだけど」


 そんなレーダー搭載してんの? そもそもレーダーってこの世界にあるの?


「レーダーってこの世界にもあるの?」


「裕太ちゃんの世界にもあるの? 周辺に魔力を飛ばして探知する魔法なんだけど」


「似たようなのはあるかな」


 名前からして、俺と同じように地球から転移してきた奴が作った魔法か?


「そのレーダーの魔法は昔からあるのか?」


「結構新しいわね。確か五百年は経っていなかったと思うわ」


 五百年で新しいんだ。精霊を舐めてたな。そして同郷かもしれない相手も生きていないだろう。


「あっ。裕太ちゃん。戻ってきたわよ」


 ディーネが指差す方向を見つめると、シルフィと初めて見る精霊二人がこちらに向かって飛んできた……ドワーフの親子じゃん。

読んで下さってありがとうございます。

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