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二百五話 絵

 ジーナを置いて部屋に戻り、ベル達と戯れながらジーナが戻ってくるのを待つ。どんな話をしているのか、ちょっと気になるけど、ここでシルフィに話を聞いてきて貰うのは違うよな。


「師匠、入っていい?」


 三十分ほど経った頃、ジーナが俺の部屋をノックした。入って良いと許可を出すと、疲れた表情のジーナが入ってきた。


「どうだった?」


「うーん、誤解は解けたと思う。料理も宿に泊まっている間は教えて貰える事になったよ。明日、朝からサラと行ってくるよ。朝食はまかないを出してくれるそうだからいらないって」


 まかないって物凄く魅かれる言葉だよね。あとでどんなまかないが出たのか聞いておこう。


「料理を教えて貰えるのは良かったね。疲れているけど、誤解を解くのは大変だった?」


「うーん、ちゃんと否定したら直ぐに納得はしてくれたんだけど、そこから恋愛の話になって、よく分からないって答えたら、それじゃあダメだって色々と教えられた」


 マーサさん、完全に親戚のおばちゃんみたいになってるな。苦手な話って逃げられない状況だと、精神的に来るんだよな。


「大変だったね……明日、朝早いんだよね。疲れを残さないように早く寝るといい。サラの事は頼むね」


「分かった。じゃあ、先に休ませてもらうよ。師匠、おやすみ」


「ああ、おやすみ」


 迷宮都市到着初日から色々あったな。俺もそろそろ寝て明日に備えるか。


 ***


「それで、初めて料理を習ってどうだった?」


 ジーナとサラが料理を習って戻ってきたあと、絵師に絵を描いて貰うために出かける。まずはメルとメラルを誘いに行かないとな。歩きながら今朝の話を二人に聞いてみる。ジーナとサラも表情が明るいから、充実した時間だったみたいだ。


「トルクさんの料理の手際が凄かったな。今日はトルクさんの動きを見る為に、見学だけだったけど勉強になった」


「私は食材の下処理方法を習いました。基礎ができていないので、とにかく言われた通りに食材を切って感覚を身に付けるように言われました」


 ジーナとサラでは教える内容が違うんだな。まあ、経験者と素人に同じ事を教えるのは効率が悪いから当然か。


「勉強になるのなら良かったよ。これからも習いに行くんだよね?」


「うん、トルクさんが、迷宮都市にいる間はいつ来てもいいって言ってくれたから、できるだけ習いに行ってくるよ」


「私もです」


「はは、頑張ってね。でも、迷宮にも潜るんだから、詰め込み過ぎて体を壊さないようにしてね」


「わかってる」「はい、注意します」


 ジーナもサラも元気いっぱいだな。たぶん無理しそうだし、しっかりと二人が休みを取るように気を付けておこう。ジーナとサラに詳しく話を聞きながら、メルの工房に到着した。


「あっ、お師匠様!」「裕太、来たか」


 うーん、相変わらず繁盛して無さそうな雰囲気だ。メラルと契約できたからと言って離れて行ったお客さんは直ぐには戻らないよな。ちょっと心配になるが、昔からの付き合いで仕事を回して貰っているそうだし、大丈夫かな?


「メル、メラル、久しぶり。昨日はベル達がいきなりお世話になって、悪かったね」


「いえ、メラル様がお相手をして下さったので、私の方は何の問題もありませんでした」


 メルの言葉にメラルを見ると、ベル達に群がられながらもエッヘンと胸を張っている。


「メラル、ありがとね」


「気にするな。特にフレアは火の精霊だからな。俺の妹分みたいな物なんだから、面倒を見るのは当たり前だ」


「あたしはいちにんまえだ!」


 メラルの言葉にフレアが反論している。面倒を見られたってところに引っ掛かったらしい。イフを目標にしているフレアとしては、子ども扱いは嫌なんだろう。うん、うん、そうだったなって感じでメラルに頭を撫でられて落ち着いている姿は、立派な子供に見える。 


「キッカ、ちょっとゴメンね。それでメル、今日ここに来たのは、精霊の絵を描いてもらうから、メルとメラルも来ないかなって誘いに来たんだ。時間はあるかな?」


 嬉しそうにメルちゃんと話しかけるキッカに謝って、割り込ませて貰う。約束の時間が有るから先に話させて貰おう。


 本来ならメラルを連れて行くだけでもいいんだけど、精霊と離れるのも無防備だし、自分の契約精霊の絵が出来上がるのを見るのも楽しそうだよね。


「俺の絵か? メルに俺の姿が分かるようになるのか?」


 ベル達を掻き分け、メラルが凄い勢いで俺の目の前まで飛んで来る。


「ああ、口頭で特徴を伝えるから、完璧にとはいかないだろうけど、似ている絵は描いてもらえると思うよ」


「いいな、それはいいな!」


 嬉しそうだ。小躍りしているメラルに再びベル達が群がる。


「お師匠様。メラル様の姿が絵で見られるのは嬉しいんですが、私もご一緒していいんですか?」


「うん、メルも俺の弟子だからね。遠慮する必要は無いよ」


「ですが、絵師にお願いするにはお金が掛かりますし……」


 なるほど、迷宮都市だけの弟子だから遠慮しているのかと思ったら、費用も心配だったのか。


「費用は気にしなくて大丈夫だよ。それよりも俺と弟子達全員の契約精霊を描いて貰うつもりなんだから、メルとメラルが来てくれる方が助かるな」


「……それでは、よろしくお願いします」


 ペコリと頭を下げるメル。もう少し気軽な感じでいいんだけど、触れ合う時間が少ないからしょうがないか。


「うん、急だけどこれから出れる? 仕事は大丈夫?」


「はい、大丈夫です。あっ、それとお師匠様に頼まれている短剣はまだ完成していないんですが……」


「ああ、それは時間を掛けて納得がいくものを作ってくれたらいいよ」


 頷くメルを出かける準備に行かせる。ああ、出発する前にジーナ達とメルに絵を描いている時に、騒がないように伝えておかないとな。


 ***


 メルの準備も終わり、楽しそうにはしゃぐ精霊達を窘めながらマリーさんの別宅に到着した。


 しばらく滞在していたから、門番さん達は挨拶と同時に門を開けてくれる。これが顔パスってやつだな。俺が来る事が分かっていたからか、直ぐにセバスさんが現れて案内してくれる。


 相変わらず身だしなみに隙が無いな。出迎えの一礼とかこれこそが執事って感じだ。セバスさんに続いて館の中を進むと、前回の滞在時には利用しなかった部屋に通される。中にはマリーさんと男性が二人。人物画と動物画の絵師さんかな?


「マリーさん、お待たせしてすみません。絵を描く場所まで提供して頂けて助かりました。ありがとうございます」


「いえいえ、お気になさらないでください。裕太さんに頼って頂けるのはとても嬉しい事ですから。では絵師を紹介させて頂きますね」


「あっ、はい。お願いします」


「こちらはアルテロさんです。人物画では有名で、警備隊や騎士団のお仕事を手伝う事もあるんですよ。裕太さんの要望にピッタリの方だと思います」


 警備隊と騎士団のお手伝い? それって指名手配書の作成とかかな? 確かに口頭で特徴を伝えるんだからピッタリと言えばピッタリだな。


「えーっと、突然の事ですみませんが、よろしくお願いします」


「いやいや、構わないよ。絵を描くのは得意だからね」


 パチンとウインクするアルテロさん。男にウインクされたのは初めてだ。どうしたらいいのかまったく分からないが、何だか軽そうな人だ。続いて動物画の専門家だと言うカルロさんを紹介される。この人は穏やかそうで、特におかしな事も無く挨拶を終える。


「それでですね。人物画が十枚、動物画が八枚、それと描いてもらった全員を一枚の絵にまとめた絵を五枚欲しいんですが、どのぐらいで描きあがりますか?」


 ムーンとプルちゃんは俺でも書けそうな気がするが、二人だけ俺の手書きって言うのも違うよな。あと全員をまとめて一枚の絵にすれば、集合写真みたいにそれぞれの部屋に飾れるから、いつでも顔が確認できて便利だろう。聖域になったら必要なさそうだが、思い出になるから問題無い。


 俺やジーナ達も描いてもらおうかと思ったが、ただでさえ枚数が多いから今回は見送ろう。次の機会があれば、俺達と精霊達の集合絵姿を作って貰うのも楽しそうだ。


「うーん、色付けはどうする? 色の濃さまでこだわっていたら、一枚でも今日中に終わらない可能性があるよ」


 さすがにそこまで拘って描いてもらうのは大変だよな。


「色付けは今回は必要ないです」


「それならなんとかなるかな? まあ、お客さんのイメージがしっかり俺に伝わればの話だけど。カルロはどうだ?」


「私の方も枚数が少ないので、なんとかなりそうです」


「そうですか。それならよろしくお願いします」


「分かった。じゃあ枚数も多いしさっそく描き始めようか」


 絵師二人が画板の上に分厚い紙を乗せ、炭のような棒を持ってソファーに座った。デッサンとかに使うのに似てるな。あれで描くのか。


「裕太さん、申し訳ありませんが私は仕事がありますので、ここで失礼させて頂きます」


「ああ、マリーさん、本当にお世話になってしまって、ありがとうございます」


 ちょっとマリーさんの存在を忘れてた。色々骨を折って貰ったのにダメだな。マリーさんにお礼を言って見送り、ソファーに戻る。 


「じゃあ、枚数が多い俺の方から質問させて貰うね」


「はい」


 思っても見なかったほどに疲れる時間が始まった。根掘り葉掘りと言う言葉がピッタリなぐらい徹底的に特徴を質問される。年齢、輪郭、目の形、顔のパーツ全てに対して微細な質問を受ける。


 人物画では一番拘るディーネがトップを務めたが、俺はディーネを絵師の横に立たせ、左右にシルフィとドリーを置いて、質問に答えた。


 俺が言葉に詰まると、シルフィかドリーがフォローしてくれるが、思った以上に大変な作業だ。ベル達がお団子みたいに固まって、絵師の後ろから覗いている姿に癒される。ディーネが絵になっている姿が嬉しくてたまらないのか、みんな大興奮だ。


 そうやってある程度の絵を描き上げると、そこから細かい修正が入る。今の状態でも結構似ているから、それでもいい気がするが、そう言う訳にもいかないんだろう。シルフィ、ディーネ、ドリーの細かい修正を通訳し、満足いくまで描き直した後、アルテロさんが新しい紙に清書を始める。


 その間に俺はレインの特徴をカルロさんに伝える。こちらも同じように細かい質問が飛んで来るので、頑張って答える。あはは、この繰り返しが全員描くまで終わらないんだね。ちょっと泣きそうになってきた。


 楽しそうにメルと話すキッカの声が酷く羨ましい。今日は長い一日になりそうだな。

読んでくださってありがとうございます。

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