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二百三話 トルクの宿屋

 警備隊での聴取が終わり、雑貨屋に寄る。初めて迷宮都市に来た時に売り込んだ、調味料を発売した事をマリーさんに言われ、すっかり忘れていたのでちょっと焦った。


「えーっと、それでマリーさん、他にもお願いがあるんですけどいいですか?」


「はい、私共でお役に立てる事であれば、喜んでお力になります」


 物凄く綺麗な笑顔で心強い事を言ってくれるマリーさん。欲望に忠実な性格が幻だったのかと誤解してしまいそうだ。


「ありがとうございます。まずは魔法の杖を手に入れたいんです。これと同クラスの杖で、風、水、地、光、闇の杖を探して貰えませんか?」


 そう言って見本の雷の杖をマリーさんに渡す。迷宮でも探すけど、どれが見つかるか分からないし、全部頼んでおいた方がいいだろう。余ったら俺が使ってもいいし、ジーナ達に持たせるのも有りだよな。


「専門家ではないので断定はできかねますが、一級品ですね。迷宮で手に入れられたのですか?」


「はい、迷宮で見つけました。手に入りますか?」


「……心当たりは幾つかありますが、手放して貰えるかは分かりません。冒険者が持つ杖は彼らの切り札ですし、貴族でも代々受け継がれていくレベルですから……これよりも下のランクならお金を積めばなんとかなるんですが……」


「そうなんですか」


 さすが迷宮産と言ったところか。ノモスも中々の杖じゃって言ってたし、手に入れるのは大変そうだ。持っている人に譲ってもらうには、それだけの物を手放してもいいと、思わせる何かを用意しないとダメっぽいな。


 ミスリルやオリハルコンならどうだろう? うーん、なんか微妙か。ミスリルはお金を積めば何とかなるし、オリハルコンは量が少ない。精霊樹の果実ならいけそうな気もするが……ドリーに頼んで精霊樹に実を付けて貰ったとしても、何個も流通させたら騒ぎになるよね。


「とりあえず交渉はしなくて良いので、杖の所在だけ調べて貰えますか?」


 迷宮でどうしても見つからなかったら、その属性の杖だけ譲って貰えるように交渉しよう。でも、国とかなら全属性の杖を持ってそうだよね。不謹慎だけど死にかけの王様とか居ないかな? 居たら精霊樹の果実と魔法の杖を交換してもらえそうな気がする。


 迷宮での宝探しと、国との交渉ってどっちが楽なんだろう? まあ、死に掛けの王様が居なかったら弱みに付け込めなさそうだし意味は無いか。


「所在だけでしたら調べるのは問題ありません。手配しておきますね」


「よろしくお願いします。あとは、精密に人物と動物が描ける絵師を紹介して貰えませんか?」


「絵師ですか……失礼ですがどう言った目的かお聞きしても?」


「私的な目的なんですが、親しい友人達や動物の姿を、絵として残しておこうかと思いまして。俺が口頭で伝える特徴を絵にできるような人がいいんですが、居ますか?」


「そう言う事でしたら、家の絵師よりも専門の絵師を呼んだ方がいいですね。絵師に予定を確認しますが、裕太さんの希望される日時を教えて頂けますか?」


 専門家が居るのなら助かるな。


「迷宮に入る前か入った後がいいんですが、その辺は融通が利きますので、絵師の方の予定に合わせますね」


 急にマリーさんの目つきが変わった。どうしたんだ?


「裕太さんの迷宮探索を邪魔する訳にはいきませんね。分かりました、裕太さんが迷宮に入られる前に致しましょう。大丈夫です。ちゃんとした絵師を準備しておきます。人物画が得意な絵師と、動物画が得意な絵師が必要ですね。絵師の予定が空いていれば明日でも構いませんか?」


 ……なるほど。俺が迷宮探索を早めに切り上げたりしたら、ポルリウス商会に卸される素材が少なくなる可能性があるからな。実際には魔法の鞄にストックがあるから、卸す素材の量は変わらないんだけど、素直に言う訳にもいかないし、しょうがないか。


「明日でも大丈夫です」


「でしたら、決まりましたら宿の方に使いを出しますね。トルクさんの宿屋に泊られますか?」


「ええ、その予定です。違う宿に泊まる事になったら、またこちらから連絡しますね」


「分かりました。今日は店に居る予定ですから、直ぐに連絡が取れるようにしておきますね」


「よろしくお願いします。あとは丈夫なロープが大量に欲しいんですが、ありますか?」


「店にある一番丈夫なロープは、荷運び用の物ですね。重い荷物を固定する物で、耐久性はかなりの物です」


 荷運びに使って重い荷物を固定できるなら、重さにも磨耗にも強そうだ。遊具に使えそうだし買っておくか。全部頼み終わったので、軽く雑談をした後に応接室を出てサラ達と合流する。


「それだけでいいの?」


 サラ達が持っているのは木製の花瓶? 木製でも花瓶って言うのかな? 花立て?


「はい、お部屋にも花を飾れたら素敵だと思って。森の花を頂くのはダメでしょうか?」


「いや、それは構わないと思うよ。枝なんかを切る場合はドリーに聞いた方がいいかもしれないから、一応声を掛けてね」


「分かりました」


 嬉しそうに笑うサラとキッカ。部屋にお花か……俺には無い発想だな。マルコはどう思ってるんだろう? チラッとマルコに目線をやると、優しい目でキッカを見ている。妹が喜ぶのが一番だ! って感じだな。


 兄と姉と本気でおやつの取り合いをしていた俺とは物凄い違いだ。でも、しっかりしてると言うか遠慮してるんだろうな。


「裕太ちゃん、サラちゃん達ったら興味がありそうな物も買おうとしないのよ。お姉ちゃんも勧めてみたんだけどダメだったわ」


 ディーネが残念そうに言う。どうやって勧めたのか気になるところだけど、それは置いといて完全にサラ達は遠慮している。


 欲しい物を選んで良いって言ってるんだから、沢山選べばいいのに。お小遣いを渡しても余った分は返して来るし、どうしたものか。やっぱりギルドで得た報酬をなんとかサラ達に持たせるべきだな。


 全額は遠慮して受け取らないだろうから、十分の一ぐらいをお小遣いとして……今のサラ達なら相当稼ぎそうだよな。十分の一でも子供に持たせるには大金になりそうだ。


 ロープと花瓶の代金を支払いながら考える。一定の金額を渡して、使わなくても自分達で管理させるようにすればいいか。金銭感覚を身に付けるために、色々と買ってみるようにアドバイスをすれば、なんとかなるかもしれない。


 俺のイメージでは、子供の無駄遣いを窘めるのに苦労するのが普通のはずなんだが。さすが異世界、複雑怪奇だ。


「お師匠様、ありがとうございます」「師匠、ありがとう」「ありがと」


「どういたしまして。じゃあ行こうか」


 店の外まで見送ってくれたマリーさんとソニアさんに一礼して、トルクさんの宿屋に向かう。


 ***


「いらっしゃい、よく来たね! 今回は泊りかい?」


「はい、三部屋なんですけど、部屋は空いてますか?」


「ああ、空いてるよ。でも三部屋必要なのかい?」


「ええ、弟子が増えまして」


「へー、そうなのかい……そうだった。あたしも聞いたんだったよ! あんたが美人の女の子を攫って行ったって噂。付き合ってるのかい? その子はどこにいるんだい?」


 マーサさんのテンションが急上昇だ。どんな噂になってるんだよ。昼をだいぶ過ぎてるけど、結構お客さんが居るんだから、人聞きの悪い事を大声で言わないで欲しい。シルフィもディーネもニマニマしない! 真相を知ってるでしょ。マリーさんは何も言ってなかったぞ? どこで流れている噂なんだ?


「弟子に取っただけで、攫っても付き合ってもいませんよ」


「本当かい?」


「なんでサラ達に確認するんですか?」


「男は素直じゃないからね。家の旦那なんて付き合ってるのにドギマギして、外で手もつながなかったんだよ」


 ……流れ弾がトルクさんに被弾したな。ドタバタと走って来る音がする。


「おい! 余計な事を言うな」


 マーサさんの声が大きいから厨房に届いたんだな。顔を赤らめたトルクさんが現れた。うむ、ゴツイおっちゃんの羞恥の表情。珍しい気がするがダレ得なんだろう? 


「トルクさん、お久しぶりです。またよろしくお願いします」


「お、おう、よく来たな。ほらマーサ、裕太達をいつまでここに居させるつもりだ。早く部屋に案内してやれ」


 話の続きをされたら困るのか、手続きを進めさせようとするトルクさん。色々とマーサさん達にも聞きたい事があるし、なんか面白いから話の続きを聞きたい気もするが、最終的には俺に話が戻ってくるだろうからトルクさんに乗っておこう。


「そうですね、今日到着したばかりですので、休ませて貰えると助かります」


「そうかい、残念だね」


 ちょっと不満そうなマーサさん。この場は切り抜けたがジーナが来た時が心配だ。できれば忙しい時間帯に来て欲しい。まだ話足りなそうなマーサさんをトルクさんが急かし、手続きを終えて部屋に案内される。


「ふー、とりあえず夕食まで休憩だね。サラ達も色々あったから疲れただろ、フクちゃん達を呼んで部屋で休むといい」


 取り調べとかあったし疲れているはずだ。部屋の前で簡単に予定を伝え別れる。俺もさっさと休みたい気分だが、ベル達も召喚しないとダメだし、シルフィに軍人の様子も聞きたい。休むのはもう少し後だな。


「べるきたー」「キューー」「だいじょうぶ?」「ククー」「おそいぞ!」「……」


「ああ、遅くなってごめんね。ちょっと色々あったんだけど、問題は無いから大丈夫だよ」


 少し遅くなったので心配させてしまったらしい。群がってくるベル達を撫で繰り回しながら、簡単に事情を説明する。完全に理解はできていないようだが、とりあえず納得してくれた。しばらくベル達と戯れた後、俺はシルフィと話があるので、ベル達は遊びに行かせるか。


「フレアとムーンは迷宮都市は初めて?」


「はじめてだぜ!」「……」


 だろうね。フレアはさっきから外の方をチラチラ見ているもん。好奇心を頑張って抑えようとしているところに、イフに対する憧れを感じる。ムーンはよく分からないな。


「むーんもはじめてっていってるー」


 ベルが通訳してくれるのが助かる。俺にはムーンはプルプルしているだけにしか見えない。


「それならベル達と一緒に迷宮都市をお散歩してくるといいよ。ベル達も案内してあげてね。でも夕食までには帰ってくるように」


 おさんぽーっと騒ぐベル達。出発するかと思ったがベルが「めらるはー?」っと聞いてきた。メラルに会いに行ってもいいのか聞いてるのかな?


「メラルに会いたいのなら会いに行っていいよ。ちゃんとフレアとムーンも紹介してあげてね」


「わかったー、いってくるー」「キュキュー」「いってきます」「クーー」「みるぜ!」「……」


 キャイキャイと騒ぎながら、ベル達が飛び去って行く。さて一応あの軍人の話を聞いておくか。

読んでくださってありがとうございます。

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