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二百二話 雑貨屋

 迷宮都市の門をくぐろうとしたらガッリ親子の事で、警備隊の詰め所に連れて行かれた。そこに軍人が現れ、拘束すると喚いた後に帰って行った。迷惑この上ない。


「申し訳ない。できればこちらで聴取した上で、あの者にも話を通すつもりだったのですが……」


 隊長さんが頭を下げる。


「もしかして、あの軍人さんの目的とか分かってました?」


「ええ、仲は良くないですが昔からの知り合いです。ご迷惑をおかけしました」


 この人も大変そうだな。俺だったらあのタイプの相手からは距離をおくけど、損な性分なんだろう。


「まあ、実害が無いのなら構いませんよ。それで、もう帰ってもいいですか?」


「いえ、いくつか質問に答えて頂きたい」


 軍人を撃退したから帰れるかと思ったけど、ダメだったか。


「はあ、分かりました。ですがまだ宿も取っていないので、できるだけ早くお願いします」


 ガッリ子爵と会った時の話や、迷宮都市に居ない時の俺の居場所なんかも聞かれたが、一つだけ罠があった気がする。


 何気ない会話の中で、ガッリ子爵が行方不明になった時、何をしていたかと質問され、シルフィが風を吹かせてくれなかったら、普通に夜だから寝ていましたって答えるところだった。誘導尋問だったのかな?


 今日初めてガッリ親子が行方不明になった事を知ったていで演技していたのに、夜とか寝ていたとか言ったら確実におかしいよね。あの軍人の踊りっぷりに気が抜けていたのかもしれない。


 それからは気合を入れていくつかの質問を無難に熟した。シルフィに顔が引きつってるって言われたけど、概ね問題は無かったはずだ。


 聴取が終わり取調室から出ると、ジーナ達が出迎えてくれた。先に聴取が終わったらしい。とりあえず一礼して詰め所を出る。


「いきなり取り調べされたけど、ジーナ達は大丈夫だった?」


「あたしは大丈夫だったな。弟子になって日が浅いから、ほとんど何も知らないって言うだけだった。ただ、迷宮都市にいない時の師匠の居場所に興味があるのか、何度も聞かれたな。大切な場所だから秘密だって言ってるのに何度も何度も聞かれたよ」


「私達も問題ありませんでした。聞かれたのは、お師匠様が夜中に出かけなかったかとか、ジーナお姉さんと同じく、お師匠様の拠点の場所を聞かれました」


 うーん、俺の拠点が何処にあるのかがそんなに気になるのか? ああ、ガッリ親子が俺に誘拐されたとしたら、拠点に連れて帰っている可能性も考えるよな。


「無理に拠点の場所を聞き出そうとはしなかったんだ」


「何度も聞かれたぐらいだな」


「私達もです」


 軍人の方だとバカな事しそうだけど、警備隊の方はあんまり無茶な事をしないみたいだな。


「なあ師匠、警備隊に聴取されるなんて、なんか悪い事をしたのか?」


 マルコが無垢な瞳で俺を見つめる。うーん、面倒なバカ貴族を鬱陶しいから遠くの国に放置してきたとは……うん、とても言えないな。墓場まで持って行こう。


「前にマリーさんのところの館に泊ってた時に、偉そうな貴族が来たの覚えてる? 凄く太ってた人」


「ああ、覚えています。お師匠様を部下にしたがっていた貴族ですよね」


 サラの言葉に、マルコとキッカも覚えていたのか頷いている。


「あの人とその父親が行方不明になったらしくてね。その前に会ってた俺に話を聞きたかったみたいだね」


 なるほどーって感じで頷くジーナ達。なんか心が痛いが、ウソはつき通せば本当になるって誰かが言ってたし、頑張って墓場まで持って行こう。


「少し遅くなっちゃったけど、ジーナは実家に帰ってくる?」


「あっ、そうだった。うーん、今からでも十分話せるから顔を出して来るよ」


「分った、じゃあ夜にトルクさんの宿屋でね。もし部屋が取れなかったら、食堂の方に顔を出すね」


「了解、じゃあ行ってくる」


 実家に顔を出しに行くジーナと別れ、俺達はマリーさんの雑貨屋に向かう。ジーナにはドリーについて行ってもらったから、安心だな。


 ***


「いらっしゃいませ、裕太様」


 このパターンは久しぶりな気がする。雑貨屋に足を踏み入れるとソニアさんがいつの間にか目の前に居て、笑顔で出迎えてくれる。どうやって俺達が来た事を確認しているんだろうね。不思議過ぎる。


「……ソニアさん、お久しぶりです。マリーさんにお会いしたいんですがいらっしゃいますか? 無理でしたら出直してきますが……」


「問題ありません。直ぐにご案内いたしますね。サラ様方はいかがなさいますか?」


「サラ達は店内を見て回るそうなので、お気遣いなく」


 サラ達には自分の部屋に飾る小物なんかを選ぶように言ってあるから、十分に時間は潰せるだろう。ディーネもなんだか張り切ってたけど、どうやってサラ達に伝えるつもりなんだろう?


 そう言えばみんなの部屋のカーテンや、移動拠点に置くジーナのベッドも買わないとダメだった。家具屋にも行かないとな。


 俺とシルフィはソニアさんに案内されて応接室に通される。ソニアさんがマリーさんを呼びに行った後、綺麗な女性の店員さんがお茶を運んできた。……ジーナを弟子に取ったから疑惑が晴れたのかもしれない。なんか凄く嬉しい。


「裕太、喜ぶのはいいけど顔がだらしないわよ。マリーが直ぐに来るからシャンとしなさい」


 嬉しくてニマニマしていたら顔がだらしないって言われてしまった。だらしない顔ってどんな顔をしていたんだろう? 疑問に思っているとシルフィが言った通り、直ぐにマリーさんが入ってきた。


「裕太さん、お待たせしてすみません」


「いえ、こちらこそ急にお伺いしてすみません」


「いえいえ、裕太さんならいつでも大歓迎です。また別邸にお泊りになりますか?」


 ちょっと魅かれるけど、ジーナとサラがトルクさんに料理を習うのを楽しみにしているからな。あの館に泊ったらガッカリするだろう。


「いえ、今回は宿に泊まる予定ですので大丈夫です」


「それは残念です。いつでも泊まりに来てくださって大丈夫ですから、遠慮なさらないでください。別宅でも本宅でもご自由にいらしてくださいね」


 ニコニコと笑いながら言うマリーさん。なんで本宅まで含めたのかは知りたくない気分だ。


「ありがとうございます。……えーっと、実はマリーさんに幾つかお願いがあるんですけど、構いませんか?」


「はい、もちろん構いません。何でしょうか?」


「まずは俺が迷宮都市に居ない間に、何か動きがあったなら教えて頂けますか?」


「そうですね……あの……ガッリ侯爵とガッリ子爵が王都で行方不明になったそうで、結構な騒ぎになっています。犯人は裕太さんと言う噂もありますね」


 やっぱりガッリ親子の話題は出るよね。マリーさんが、裕太さん何かしましたよね? って顔をしている気がする。ガッリ子爵と会ったのはマリーさんの別宅だったし疑われるのもしょうがないか。でも、墓場まで持って行くって決めたから、何も知らないフリをしよう。


「あー、その事は大丈夫です。迷宮都市に入る時に、警備隊と軍人に聴取を受けましたから」


「……そうですか。こちらにいらしていると言う事は、問題は無かったんですね、良かったです。あと、冒険者ギルドからも裕太さんがいらしたら、話が聞きたいと伝言を頼まれています」


 冒険者ギルドにはジーナの実家の様子を聞く為に、行く予定だったし問題無いな。


「分かりました。後で冒険者ギルドに顔を出しておきます」


「はい、あと、お伝えしておく話は、裕太さんから教えて頂いた調味料の販売を開始しました。まだ周知されていませんが、冒険者や串焼きの屋台等から、少しずつ便利な事が広がっています。十分に利益が出る商品になりそうです」


 ああ、ようやく出せたんだな。俺が迷宮都市の冒険者を脅して、ターゲットを減らしちゃったから、発売を延期したって言ってたもんな。口で伝えただけで結構なお金を貰ったから、無事商品になって安心した。今まで忘れてたけど。


「色々ご迷惑を掛けてしまいましたし、無事商品になったと聞いてホッとしました」


 忘れてたけど。


「今はオーソドックスな味が売れていますが、いずれは他の商品にも火が付くと思います。店員達も商品の開発が面白いのか、自分のオリジナルを店に売り込んで来るんですよ」


 ちょっと苦笑いしながらも、嬉しそうにマリーさんが教えてくれる。色んな香辛料を粉末にして混ぜ合わせるだけだからな。美味しく作るのは大変だけど、作ろうと思えば誰にでも作れる。


「活気が出て楽しそうですね」


「ええ、揉め事も増えましたが概ね楽しくやっていますね」


「揉め事ですか?」


「ええ、たわいもない言い合いですけどね。ラフバードには自分の調味料が最強だと譲らない従業員同士の意地の張り合いや、ニンニクパウダーを神聖視する従業員と嫌がる従業員の口論等、予想もつかないところで揉めてますね」


「まあ、人の好みはそれぞれですからね」


「ええ、元々分かっていた事でしたが、ここまでその事が顕著に表れると驚きます」


 日本でもキノコ型とタケノコ型のお菓子で論争が起きてたし、好みって案外分かり合えないんだよな。因みに俺はタケノコ型推しだ。そう言えば竹が砂浜に流れ着いていたから、この世界にも竹があるんだよな。炊き込みご飯が食べたくなってきた。でも俺が知っているレシピって、顆粒出汁と醤油を使うんだよな。


 醤油は一リットルしか無いし、顆粒出汁は作り方すら分からん。醤油を使って挑戦すると、失敗した時のダメージが大きいから、悩みどころなんだよね。醤油作れないかなー。ソースも欲しいなー。


 ソースの方は意外と簡単に作れたはずなんだが……リンゴと野菜クズ、香辛料、塩と酢を混ぜて放っておけばできるんだったか? 確かイギリスかどこかの主婦が偶然作ったって何かで見た。マリーさんかトルクさんにお願いしてみようかな?


 せめて試作品ぐらいは自分で作って、実物を見せてからじゃ無いと頼み辛いな。野菜クズの種類も分からないし、無理な気がしてきた。気長にやるしか無いな。


「どうかなさいましたか?」


「いえ、何でもないです」


 ソースに意識を飛ばしている場合じゃ無いな。まだまだマリーさんには頼みごとをしないとダメなんだ。ベル達も召喚されるのを待ってるだろうし、早く済ませて宿に行かないと。

読んでくださってありがとうございます。

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[気になる点] 酒酒しか言わないクソ精霊共と違って人間はちゃんと会話してくれるからいいね
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