二百話 茶番
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氷室を作り、動物達のエサの保管場所を準備した。あとの事はここに残る大精霊達にお願いして、迷宮都市に旅立った。
「じゃあ訓練中は一緒に宿に泊まって、休みの日に食堂に戻るって事でいいの?」
「ああ、弟子入りしたのに実家から通うのってカッコ悪いからな。それに偶に顔を出すぐらいじゃ無いと、実家で生活したら迷宮都市から出る時にまた親父が大変なんだ」
面倒そうにジーナが言う。家族は大切に思っているようだが、親父さんの引き留め工作は大変らしい。
「でもまあ、心配していると思うから、到着したら顔を出しておいた方がいいね。俺も一緒に行った方がいいかな?」
「んー悪いけど、親父は師匠が一緒に居る時に話した事は信じないような気がするな。とりあえずシバと一緒に行ってくるよ」
「分った」
ジーナって親父さんの事よく理解しているんだな。まだ何があるか分からないし、過保護だと言われそうだけど、ドリーにもついて行ってもらうか。その事をジーナに言うと子供じゃないぞっと笑われた。まあ、納得してくれたからいいか。
到着したら、いつも通り雑貨屋に行ってマリーさんに会って情報を貰おう。サラ達にはディーネについていてもらえば安心だよな。それからトルクさんのところに行って部屋を取ろう。今回は冒険者ギルドにも顔を出して、ジーナの実家に余計なチョッカイが無かったかも確認した方がいいから、結構忙しいな。
ジーナ達と迷宮都市でどんな事がしたいのかを話しながら、のんびりとした空の旅を楽しむ。因みにシルフィ達は、酒さえ補給すれば問題無いらしい。
いつもの森に降り立ち迷宮都市に向かう。俺が飛べるのは知っている人は知ってるから、門の前に降りようかとも思ったが、わざわざ迷宮都市に来た事を知らせる必要も無いよな。
***
「ん? おまえは……」
迷宮都市の門番が俺の顔を見て、動きが止まった。確かに色々やったけど、門番に顔を覚えられるほど有名になったか。なんだかちょっと感慨深い。
「身分証を」
言われた通りギルドカードを見せる。
「間違い無いな。すまないが、少し話を聞かせて欲しい」
「話ですか?」
「ああ、こっちに来てくれ」
あれ? いつの間にか門番の数が増えてるし、なんか捕まる感じ? ものすごく緊張しているのは俺が暴れるのを恐れてるのか?
「子供達は? それと、理由ぐらい聞かせて欲しいんですが」
「その子達も一緒に来て貰う。話を聞きたい理由はガッリ侯爵、ガッリ子爵についてだ。拒否する場合はそれなりの覚悟をして欲しい」
ガッリ親子の事はいずれ聞かれると思ってたけど、まさか門で止められるとは思わなかったな。証拠は残してないけど、王侯貴族が居る封建制度の世界なんだし、印象が怪しいってだけで指名手配されてるとかか?
でも俺、一応Aランクの冒険者なんだけど、冒険者ギルドとの関係とか考慮しないのか? ……考慮したから話を聞くって事になってるのかもな。低ランクとかだと拷問一直線だったりして。ありえない話では無いところがとても怖い。
「裕太、どうするの?」
シルフィが聞いてくるけど、無表情の中に少し楽しそうな感情が見えるのは、気のせいなんだろうか? そんな事よりどうするかだな。でも俺が犯人って確定してたら、門番もう少し大慌てしそうな気もするし、疑われている段階かな?
……何かあったら面倒だし、とりあえずディーネとドリーを召喚しておくか。ノモスも呼んでおくか? ……うーん、イフとヴィータはいろんな理由で止めておこう。特にイフは直ぐに喧嘩を買いそうで怖い。シルフィとディーネとドリーが居れば十分過ぎるって事にしておこう。
(捕まるのが確定するまでは大人しくしているよ。ディーネとドリーを召喚するから、事情を説明しておいて)
門番さんに見られながら小声で呟くのって、なんか恥ずかしい。
「ガッリ子爵は知っていますが、どう言う事ですか?」
自分で言っていて白々しいな。
「それも中で説明する。少し急いでくれると助かる」
口調は丁寧だが門番はちょっと焦っているようだ。しょうがないさっさと行くか。ディーネとドリーを手早く召喚して歩き出す。
「お姉ちゃんの出番ねー。あれ? 裕太ちゃん?」「裕太さん、どうしたんですか?」
召喚したのに直ぐ隣を無言で通り抜けたので、キョトンとしているディーネとドリー。背後でシルフィが説明してくれているから大丈夫だろう。門番に囲まれながら、門の脇の警備隊の詰め所らしき場所に連れて行かれる。
「裕太殿はこの部屋に入ってくれ。心配せずとも乱暴な事はしない」
どうやら俺達は別々の部屋に入るらしい。ディーネがジーナ、ドリーがサラ達を護衛してくれるみたいだし問題無いな。サラ達までバラバラになったら、他の大精霊達も呼び出さないとダメだから、ちょっとホッとした。部屋数の問題かな?
サラ達は近くにドリーが居るのが分かっているからか、全然慌てて無いな。ジーナはちょっと不安そうだ。
小さな部屋に入ると、中には粗末な木のテーブルと椅子。窓には鉄格子がハマっている。完全に取り調べ部屋の雰囲気だな。カツ丼が出ないか聞いてみたいけど、百パーセント通じないから我慢しよう。
俺が椅子に座ると対面に、ちょっと鎧の装飾が豪華な兵士が座った。隊長って呼ばれてたし責任者自ら取り調べのようだ。
「まずはガッリ子爵について話を聞かせて欲しい」
「一度会っただけなので、特に答えられるような事は無いのですが、無茶を言われたので最終的には険悪な雰囲気になりました」
本当は大体の居場所も知ってるけど、正直に言う訳にもいかない。そう言えば俺に対する交渉事は冒険者ギルドが壁になってくれる約束なんだけど、この場合はどうなんだ? 事情聴取も壁になってくれるのか? ……さすがに事情聴取は干渉できないだろうし自分で頑張るか。
「そうか……実はガッリ子爵と親のガッリ侯爵の二人が行方不明になった」
「行方不明? ガッリ子爵がですか?」
「そうだ、噂では裕太殿がガッリ侯爵と子爵を消した事になっている」
噂ってバカにできないな。ドンピシャで正解している。
「ガッリ子爵と会った時に少し険悪な雰囲気になったのが原因ですかね? でも犯人は俺じゃありませんよ」
ウソだけど。
「ああ、こちらで調べた結果でも、二人が消えた日の前日も翌日も裕太殿が迷宮都市で目撃されているのは確認している」
アリバイの裏は取ってあるのか、俺が容疑者って確定している訳じゃ無いみたいだな。そうなるとなんで連れて来られたんだ? 飛べるって事で容疑は晴れてはいないだろうが、そこはどちらにとっても証明は難しいはずだ。
「では、俺の疑いは晴れたんですか?」
「いや、それは……」
隊長さんが話を始めた時、扉の外から大勢の人間が動く足音と、怒号が聞こえた。何かあったのかとシルフィを見ると、教えてくれた。
「軍服を着た男達が裕太の取り調べをするといって、無理やり中に入ろうとしているわね」
軍? たしかガッリ家は軍部の重鎮だったよな。そっちの関係の人間か。隊長さんを見ると、頭を抱えている。門番が焦ってたのって、軍の横やりを防ぐ為だったっぽいな。
「ここだな!」
バン! っと音を立てて扉を開き、派手な軍服を着た男達が部屋に入ってきた。どうやら門番さん達は止められなかったようだ。ジロジロと俺を見る軍人達の視線はなんか濁って嫌な感じだ。
「貴様が裕太だな、貴様を拘束する!」
おうふ、いきなり拘束とか言い出した。
「待て! ここは警備隊の詰め所だ。勝手な真似は止めて貰おうか!」
動き出そうとした軍人達を、隊長さんが大声で制止した。
「ふん、その者はガッリ将軍の行方不明に対する重要な容疑者だ。警備隊が出しゃばってくるな」
「二人が行方不明になった時にこの者が、迷宮都市に居た事は確認が取れている。Aランクの冒険者をそのような不確かな状態で拘束して、ただで済む訳ないだろう。国に危機を招くぞ!」
「例えAランクの冒険者であろうとも、一国の将軍に危害を加えたのだ。それを冒険者ギルドが庇えば、各国で冒険者ギルドが非難される事になる。お前はそんな事も理解できんのか?」
軍人が隊長さんに対して、心の底からバカにしたような表情で言う。
「彼が犯人であればな! 疑惑でしかない現状で、身柄の拘束などしたらどうなると思っているんだ。それとも彼が犯人だと確定する証拠を、軍は握っているとでも言うのか?」
隊長さんも負けじと反論。隊長さん頑張れ!
「ガッリ子爵の筆頭従者殿が、その男がガッリ子爵に無礼を働き、誘拐をほのめかしておったと言っておったわ。不敬罪で拘束し口を割らせる事等たわいもない」
うわー、別件逮捕して、拷問して自白を引き出す事を普通に宣言してるよ。異世界って怖い。そもそも、将軍に危害を加えた容疑者って言ってたよね。なんで突然不敬罪って話になるんだよ。あとあの筆頭従者様は実にウザい。ある事無い事吹き込んでるぞ。この軍人、たぶん役に立たない人だから、あの筆頭従者のウサ晴らしに送り込まれたな。
「ただの一般人じゃ無いんだぞ。そんな事できる訳無いだろうが!」
警備隊の隊長さんも何気に怖い事を言っている。ただの一般人ならそう言う事もできるらしい。
しかし、実際に俺がガッリ親子の誘拐犯だからな。冤罪じゃ無いところが微妙に困る。まあ、だからと言って捕まるつもりも無い。やっぱり自分が一番大事だからな。でも、魔法の杖を探したいし、迷宮に入れなくなるのも困る。
「ちょっと質問なんですが、俺を捕まえると言うのはこの国の意向なんですか?」
「そうだ」っと軍人が言い、「違う」と隊長さんが言う。噛み合わなさがハンパ無い。
「そもそも、俺に手出ししないように王様から命令が出てますよね。無視していいんですか? ガッリ子爵の事は冒険者ギルドから、王様に抗議をするって冒険者ギルドのマスターが言ってましたよ?」
国が手を出すなって言っている人間の所に行って、無茶を言いまくったのはガッリ子爵だ。不敬罪うんぬん以前の問題な気がする。
「不敬罪は不敬罪だ!」
軍人が吠える。話が通じないぞ。ガッリ子爵と同類の匂いがする。筆頭従者にたやすく利用される訳だ。
「軍人さんはガッリ侯爵の関係者なんですか?」
筆頭従者って言葉が度々出ているし、間違いはないだろうが一応確認しておこう。
「そうだ! 私はガッリ将軍の直属、エリートなのだ! ここで貴様を拘束し、手柄を上げればいずれは将官の位も夢では無いわ。そう言う訳で貴様を拘束する」
どう言う訳だよ。胸を張る軍人、隣で頭を抱える隊長さん。この二人、なんか知り合いっぽいな。
「えーっと、不敬罪の人間を捕まえるのは軍の役目なんですか?」
「いや、軍は戦地でも無ければ逮捕権は無い。軽微な犯罪は守備隊。重大な犯罪は騎士団が担当する」
隊長さんがナイスなフォローをしてくれる。ある意味犯罪者を庇わせてしまって、なんか申し訳ない。あと軍と騎士ってそんな分け方になってたんだね。戦争が頻繁に起こるから、役割をしっかり分けたのかもしれない。
「ついでに言いますと、さすがに身に覚えの無い罪で拘束すると言うのなら、俺も抵抗しますよ」
本当はバッチリ身に覚えがある。
「貴様がいくら強かろうとも人の身だ。ここを逃れたとしても、常に軍に追われ続けて生き延びられると思ってるのか? 例え貴様が敵国に逃げたとしても、必ず追跡する。一生何かに怯えながら暮らすか? そんな生活に弟子達を巻き込むつもりか? 大人しく捕まり、全てを話すのだ」
勝ち誇ったように言う軍人。微妙にまともな事を言ってる事に、ちょっと感心する。
「言いたい事は分かりましたけど、証拠も無いのに俺を逮捕すると、たぶんですが大変な事になりますよ」
「ふん、くだらぬ言い逃れを。筆頭従者殿が言った通り目上の者を敬う心すら知らぬ、往生際の悪い小悪党だな」
なんかガッリ親子を放置するより、あの筆頭従者をどこかに放置するべきだった気がしてきた。
「自分で言うのもなんですが、俺って国にも軍にも貴重な素材を卸している結構な重要人物ですよ。そんなあやふやな理由で捕まえたりしたら、色んなところから抗議がきて、出世どころかあなたが罰せられるのでは?」
国や軍に卸しているのはポルリウス商会だけど、その大元は俺だ。迷宮の翼とマッスルスターが居るとは言え、まだまだ俺の素材も必要だろう。騒ぎになるのは間違いない。出世したいから此処に来たんだろうけど、出世が遠のくって事になったらどうするんだろう?
「事実だぞ。国が裕太殿に手を出すなと命令を出したのはその為だ」
隊長さんの言葉に、恐る恐る俺を見る軍人。俺が頷くと、顔を青ざめさせた。たいして調べもせずに、筆頭従者に踊らされて迷宮都市に来たんだろうな。
「ひ、ひ、引き揚げるぞ」
少し考えた後、俺にペコペコと頭を下げて、軍人は逃げるように帰って行った。物凄い茶番劇を見せられたな。シルフィがあの軍人を監視しておいてくれるらしいから、あとで詳しく聞いておこう。しかし、ガッリ親子は生きているのかな?
二百話になりましたと報告したばかりなのですが、色々とありまして、更新ペースを二日に一度に変更させて頂きます。誠に申し訳ありません。引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
読んでくださってありがとうございます。