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百九十六話 再びの岩山解体

 ヴィータに森の動物達の話を聞いて、ムーンに命の精霊の能力を教えて貰った。結構怖い能力もあるみたいだし、制限も結構あるけど居てくれるだけで安心できるな。


「ありがとうムーン、よく分かったよ。シルフィも通訳ありがとう」


 プルプルしているムーンをモニュモニュしながら二人にお礼を言う。色々質問していると何となくプルプル具合に差があるのは分かった。楽しかったり興奮するとプルプルが早くなり、難しい質問だとプルプルが遅くなる。結構単純だが、わずかなプルプル具合の違いで意味合いが大きく違うらしく、俺には全然見分けがつかない。


 質問が終わったのでムーンを案内がてら、訓練しているベル達とジーナ達の元に向かう。あそこがプールで、あれが精霊樹、あっちに公園があって……っと説明する度にムーンがプルンっと大きく揺れるのが、ちょっと可愛い。


 訓練場に到着するとわらわらと子供達が寄ってくる。とりあえずムーンをベルに預けて、みんなに飲み物を出しながら話を聞く。どうやら今回はフレアとシバを中心に訓練していたようだ。まだ仲間になってそんなに時間が経ってないから大事な事だな。


「サラはプルちゃんと仲良くなれた?」


「はい、色々質問して仲良くなれたと思います。それでお師匠様、プルちゃんは戦う事があまり好きでは無いようなのですが、どうしたらいいんでしょう?」


 もう、そこまで聞き出してるのか。俺は声を発しないスライム型って事で戸惑ったけど、サラにとっては元々見えないし声も聞こえないんだから、今までと変わらないんだな。


「命の精霊自体が魔物と言えど命を奪うのが苦手みたいなんだ。プルちゃんはもしもの時の回復要員、それと偵察なんかは手伝ってくれるから、そう言う方向で協力してもらうといいよ。怪我をしてなくても、体力を回復する事もできるから、迷宮に入った時なんかは、こまめに回復をお願いすれば、今まで以上に活動できるかもね」


「なるほど。補助的な役割を担ってもらう訳ですね。分かりました、お師匠様のお言葉を踏まえて色々と考えてみます」


「うん、攻撃ができなくてもやれる事は沢山あるから、頑張ってね」


 少し考えた後、満面の笑みで返事をするサラ。肉付きが良くなり笑顔は子供っぽくなったが、話す内容が更に大人っぽくなっている気がする。言葉遣いだけ比べるとサラの方がジーナより遙かに大人だ。


 まあ、ジーナの言葉遣いはマルコと同レベルだからな。ジーナとマルコとキッカが話していると子供同士の会話にしか聞こえない。やっぱりサラはそれなりの教育を受けているな、なんでスラムに居たのかは、いまだに話して貰え無いけど、いずれは話して貰えるんだろうか? あの笑顔の奥に復讐とか、物騒な感情が眠っていない事を願いたい。


 ちょっと怖い事を考えてしまったが、それは心の奥にしまって目の前の課題をクリアして行こう。とりあえずジーナ達やベル達は訓練に戻そう。


「裕太、これからどうするの?」


「ああ、聖域の条件の土地の拡張について、ノモスに話を聞きたいから蒸留所に行くね」


「了解、あとは精霊王様の条件を満たすだけなんだから頑張ってね」


「魔法の杖以外は何とかなるんだけど……まあ、頑張るよ」


 今からでも分かる。絶対に最後の一本で苦労するパターンだよね。被りのショックに心が折れないようにメンタルを鍛えておこう。歩きながら聖域の条件達成の道筋を考えておくか。


 条件一 土地を五周分の開拓と水路。

 これは今からノモスに相談だな。まあ、どんな結果になっても達成する事はできるだろう。


 条件二 命の精霊との契約と動物を百匹以上に増やす。

 命の精霊とは契約した。動物は……ミミズとかを入れれば既に超えてるんだけど、ダメなんだろうな。今は野生動物が増えたばかりだから、様子見だな。ヴィータの許可が出たら次で集めきれるだろう。問題は無い。


 条件三 風 水 土 光 闇 の杖を手に入れて台座を作る。

 これが一番の難関だな。迷宮での宝箱と、マリーさんの情報網に期待だ。


 ……うん、三つ目以外は何とかなるな。聖域まであと一歩だ。ジーナ達もベル達も大喜びだろう。簡単に条件を頭の中で整理していると蒸留所に到着した。


「おう裕太、退屈だからちょっとアンデッドでも燃やしに行こうぜ」


 蒸留所に入るといきなりグイグイ来る赤髪の傭兵風美女。退屈らしい。


「いや、アンデッドはジーナ達の訓練相手だし、イフだとオーバキルだよね。それに今日は開拓の予定だからダメ」


「なんだよー、せっかく契約したのに、俺は酒の温度管理しかしてねえぞ」


 ブーブーと文句を言うイフ。退屈だから戦いたいと言い出す大精霊は初めてだ。シルフィ達はどちらかと言うと開拓の方が楽しそうにしてたし、大精霊って戦いに興味が無いんだと思ってたよ。


「ぶはは、最高の仕事じゃろう。お前が暴れたら裕太達の訓練にならんから、大人しく酒を温めておけ。酒の熟成が終われば飲み放題なんじゃからな」


「飲み放題とは言って無いよ」


 ノモスがせっかくフォローしてやったのにって目で見てくる。でもここで否定しなかったら既成事実にされてしまう気がするから、ちゃんと否定しておかないとな。ノモスは意外と油断できない。


「えー、飲み放題じゃ無いのかよ」


 とりあえず、イフの興味が酒に移った。


「寝かせれば寝かせるほど美味しくなるお酒らしいからね。イフが頑張れば頑張るほど飲める量が増えるのは間違って無いよ」


「ちっ、しょうがねえ、気合を入れるか」


「バカモン、お前は気合を入れんでいいんじゃ。一定の温度を保つんじゃからな。この前みたいにガラスを溶かしたら酒は飲まさんぞ!」


 ノモスが慌ててイフを止める。ガラスが溶ける温度って、確実に水も蒸発してるよね。火の精霊が加わると蒸留もスムーズになるのかと思っていたが、意外と苦労をしていたようだ。


「イフちゃん。お姉ちゃんは信じているけど、無茶はダメだからね!」


「そうです、蒸留は重要な工程なんですから慎重にですよ」


 黙って状況を眺めていたディーネとドリーも慌てて止めに入る。イフはやらかすタイプなのか。大精霊がやらかすタイプとか洒落にならんな。


「シルフィ。イフは大丈夫なのか?」


「……そうね……ちょっと気が短いところはあるけど、下の子達の面倒見もいいし、とってもいい子よ」


 一言も大丈夫と口に出さないシルフィ。


「ストレスを溜めないように、アンデッドの巣を燃やしに行った方がいいか?」


「そうね、偶にでいいから付き合ってあげて」


「了解」


 今はドリーがイフにお説教と言うか、優しく諭しているから口は出し辛い。イフは次の休みあたりに誘ってみるか。とりあえず今は、いつの間にか一人で蒸留器に向き合っているノモスを呼び話を聞こう。蒸留器はシルフィが見ていてくれるから安心だ。


「どうしたんじゃ?」


「ああ、ちょっと土地の開拓に関して話があってね。五周増やすのは問題無いんだけど、こういう場合精霊に力を借りて良いの? ノモスに頼めば直ぐに終わるよね?」


「別に裕太自身の力でやれとは言われておらんから、儂がやっても構わんぞ」


「そうなんだ、ちょっと予想外だな。精霊王様の条件って台座の事もあるし、自分でできる事は自分でやれって言われてる気がしてたんだけど、ノモスに頼ってもいいんだ」


「ふむ……そんな一面はあるかもしれんが、言われてないから文句は言われんと思うぞ?」


 何その微妙な感じ。精霊王様の空気読めよって、心の言葉が聞こえてくる気がする。楽な方向に逃げるのか試されてる?


 うーん、精霊王様にそんな思惑は無いかもしれないけど、ノモスもそんな一面があるかもって言ってるし……。


「裕太、悩まないで好きなようにやりなさい。自分でやってもノモスに頼んでも、あなたの力である事は変わらないわ」


 うむ、シルフィの言う通りだな。好きにやろう。ノモスに頼んだら、あとで自分でやっておけばって思いそうだし、開拓ツールも出番が欲しいって訴えている気がする。


「じゃあ、できるだけ自分でやるよ。トゥルやウリには手伝ってもらうけどね。あと岩山まではシルフィ、送ってね」


「ふふ、了解。頑張りなさい」


「ああ、頑張るよ」


 ちょっとカッコつけちゃった気がするけど、できるだけ自分でやった方が気分がいいよね。そうなってくると土はあるし、次は五周分の石材が必要って事だな。今度は幾つの岩山が消えるんだろう?


 今日は訓練日にしているから、問題無いけどシルフィにはジーナ達を運んでアンデッドの巣も回って貰わないといけないからな。できれば今日の内に石材集めは完了させたい。


「あっノモス、五周するのは問題無いんだけど、岩の区切りはどうする? 百メートル四方で区切った方がいいの?」


「そうじゃな、五周としか言われておらんから、岩の区切りも作っておいた方が良いじゃろうな」


「……了解」


 無理だった。一番外側の区切りだけだったらずいぶん楽になったんだけど、そう上手くはいかないようだ。残念!


 ***


 子供達に簡単な昼食を残してシルフィと石材回収に飛び立った。スープとか冷めちゃうだろうけど、シバがいれば簡単に温められるから問題は無いだろう。ジーナの腕の見せ所だな。


 そんな事を考えている間に岩山に到着する。相変わらずシルフィがいれば直ぐに到着する。さて頑張るか。


 スパスパと岩山を解体しながら収納する。身体能力も上がったし、道具の扱いにも慣れたので器用に区切り用の岩と、穴の底に敷き詰める岩を切り分けながら作業ができるようになった。さすがに水路用の岩は後で加工しないと無理だけど、だいぶ時間短縮ができているな。


「シルフィは聖域になったら何かしてみたい事はあるの?」


 慣れによる惰性と退屈でシルフィに話しかける。


「聖域になったら? ……そうね、特に決まっては無いんだけど、裕太が部屋をくれるのなら、普通の人間みたいに生活してみるのも楽しそうね」


「普通の人間か……俺、この世界の普通の人間の生活って知らないんだよね。どんな感じなの?」


「そうね、朝起きてご飯を食べて、働いてご飯を食べて寝る……かしら? あんまり楽しそうじゃ無いわね」


 首を傾げるシルフィ。確かに楽しそうに聞こえないな。それだけじゃ無くて色々な楽しみもあるはずなんだけど、印象に残って無いようだ。


「……まあ、何か面白い事を探して生活するわ。裕太はどうするの?」


「俺も決まって無いな。たぶん子供達が遊びまわるだろうから、その面倒をみてる気がする。俺も何か楽しめるような事を考えておくね」


「ふふ、面白い事を考えてね」


 俺もシルフィも聖域になった後のビジョンがまったく無かったらしい。岩山を解体しながら色々と考えておこう。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
あなたは何度もそのフラグを立てたので、彼女は少なくとも王女か王族の親戚ではないかと疑い始めています
[良い点] シルフィ以外は酒の話ばっかりでウザいな
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