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百九十四話 命の精霊と契約

 動物達を捕獲し泉の家に帰ってきた後、シルフィが命の精霊を連れて来てくれた。美形なのに普通のおじさんっぽい雰囲気だから、なんとなく親近感が湧く。でも、サラもそろそろ寝かせないといけないし、そろそろヴィータの頭と肩に乗っている物体にツッコミを入れるか。


「それでヴィータ、気になってたんだけど、頭と肩に乗っているのが下級精霊と浮遊精霊なの?」


「ああ、そうだった。うん、この子達がシルフィに言われて連れてきた下級精霊と浮遊精霊だよ。ほら、ご挨拶して」


 ヴィータに促されると丸い物体がポヨンっと体を動かし、俺の目の前に浮かんだ。うん、あれだな。物凄くプルプルしている。これが挨拶なのか? 声を出せないタイプの精霊なのかな?


「よろしくねって言ってるよ」


 ヴィータが通訳してくれた。そうなのか。精霊は位が上がれば話せるようになるらしいから、進化した時には声を聴く事もできるだろう。


 しかし何と言えばいいのか……スライム型だけど核は無いし、魔物と違うのは分かる。淡い金色の光を薄っすらと纏っているが、体自体は綺麗な半透明の青色だ。


「こちらこそよろしくね。小さい子が浮遊精霊でいいのかな?」


 プルプルが増えたので、質問に答えてくれているようだが分からない。そこで下級精霊が上下に、浮遊精霊は左右に揺れるように頼む。


 うむ、ボーリングの玉ぐらいの大きさの方が下級精霊で、ソフトボールのボールぐらいの大きさの方が浮遊精霊で間違い無いな。俺は姿が見えているけど、このやり取りを気配だけでやっているのがジーナ達なんだな。勉強になる。


「分かったよ、ありがとう。しかしこの子達はスライムだよね? 魔物型の精霊も居るんだ」


 そう言えばドラゴン型の精霊の話を前に聞いたから、それも魔物と言えば魔物だな。


「ふふ、どんな精霊がいるのかは私でも全部は把握できてないけど、魔物にそっくりな精霊もいるわね」


 シルフィにも把握できないほどの種類がいるのか。ゴブリンやゾンビの精霊とかだと、俺は愛せるんだろうか? ちっちゃいドラゴンの精霊は可愛い気がするから見てみたいかも。どんな精霊がいるのか聞きたい気もするが、早めにサラと契約して休ませないとな。


「シルフィ、あとで詳しく聞かせてくれ。まずはサラと浮遊精霊の契約をしようか」


 サラと浮遊精霊を対面させて、サラに浮遊精霊の外見を説明する。俺の説明の中で一番分かりやすかったのは、小さくて綺麗なスライムって言葉だったようだ。サラはスライムが苦手と言う訳でも無いようで、サラも浮遊精霊も契約にする事になった。


「うーんと、それではプルちゃんにします。よろしくねプルちゃん」


 ……もしかして俺がプルプルしてるって言ったからプルちゃんになったのか? フクちゃんやマメちゃんの時も思ったが、精霊って長く生きるんだよな? 寿命が存在するのかも分からない存在が、気の遠くなるような時間をプルちゃんとして生活するのか?


 今はまだいい、ちっちゃくてプルプルしているからプルちゃん。間違ってはいない。実際にプルちゃんも名前が嬉しいのか、契約を受け入れサラの頭の上に乗ってプルプルしている。


 でもこの子が大精霊に成った時に、プルちゃんってのはどうなんだ? ……あれだ、仮の名って言ってたからな。大きくなって嫌だと思ったら、自分で変えるなりなんなりするだろう。そう言う事にしておいた方が、気持ちが楽だ。


「……うん、契約完了だね。もっと話したいだろうけど、今日はもう遅いから明日にしてもう休んだ方がいいよ」


「プルちゃんも一緒でいいですか?」


 プルちゃんを見ると、サラの頭の上から動く気配が無い。一緒でいいって事なんだろう。


「いいみたいだよ。おやすみサラ、プルちゃん」


「お師匠様、おやすみなさい」


 サラとプルちゃんを見送り、顔の位置を元に戻すとプルプルした精霊が目の前に浮かんでいた。


「えーっと、次は自分の番って事かな?」


 俺が聞くと、わずかにプルプルが早くなったように感じた。シルフィとヴィータも何も言わないし、たぶん間違っていないだろう。


「分かった、名前を考えるからちょっと待ってね」


 たぶん頷いたので、真剣に名前を考える。えーっと、プニ、マル、モチ……いかん、思考が完全にサラに引っ張られてる。別の考え方をしないと。


 命って言ったらライフだよな。でもイフがいるから何となく紛らわしい。うーん……目の前に浮かんでいる下級精霊を見ると、何となくだけど物凄く期待されているように見える。プレッシャーが凄い。


 回復って考えるとヒールか? 名前としては違和感がある。また頭を切り替えて考えよう。見た目だと綺麗な半透明の青色で、淡く金色に光っている。……あっ、閃いた!


「決まったよ。君の名前はブルームーン。呼び名はムーンだ。月が青く光るとっても綺麗な現象から取ったんだけどどう?」


 ネットでしか見た事無いけど、何となくイメージにピッタリだ。名前を告げると、少しプルプルが増した後に、俺の胸に飛び込んできた。契約は完了したらしい。


 ふむ……スライム型も中々……モチッとしてプルンとして癖になりそうだ。タマモ達のモフモフにムーンのモチモチプルプルか、このままハマると小動物やスライムに人生を捧げる事になりそうだ。注意しよう。


「ムーン、これからよろしくね」


 うーん、何となく震え方で、意思表示しているように感じるが、何となくしか分からないな。


「ふふ、よろしく! って言ってるわね」


「ブルームーンかなかなか綺麗な名前だね」


 シルフィが通訳してくれた。ヴィータは家の中なのに、ブルームーンを思い出すように上を向いている。


「この世界にもブルームーンがあるのか。みんなでお月見をしたら楽しそうだし、シルフィもヴィータもブルームーンになったら教えてくれ」


「あら、いいわね。ゆっくり飲みながら月を眺めるのも楽しそうだわ」


 月見で一杯ってやつですか。まあ、俺も風流を味わいたいから、子供達が寝た後なら問題無いだろう。


「青い月が出たらね」


「ふふ、決まりね」


「分かった。でもとりあえず今は、ヴィータと契約したいんだけど構わないか?」


 一瞬、大精霊との契約って見応えがあるから、子供達が起きてから契約しようかと思ったけど、野生動物を捕まえたばかりだからな。何かが起こる前に契約してヴィータに確認してもらった方がいいだろう。


「ああ、そうだった。元々そのつもりだったから構わないよ。さっそく契約しようか」


 トントン拍子で話が進む。いい感じだ。


「ありがとう。じゃあ外に出ようか」


「なんで外に出るの?」

 

「家の中だと部屋がメチャクチャになるだろ?」


「なんで?」


 俺とヴィータの話が噛み合っていない。ちょっと話し合いが必要なようだ。


「えっ? 演出とかしないとダメなの? 僕そう言うの苦手なんだけど……」


 そう言って困ったように頭を掻くヴィータ。そう言えばいつの間にか大精霊との契約は演出がつきものだと思い込んでいた。ノモスはわりとあっさりしていたけど、他は全部派手だったからな。ドリーとか精霊樹を生やしちゃったし……。


「いや、別に演出は強制じゃ無いし、部屋が荒れないのならここでも何の問題も無いよ」


 元々、俺が精霊との契約ってあっさりだよねって言ったのが原因だからな。見応えがあった方が楽しいのは確かだが、無ければ無いで問題無い。


「助かるよ。僕の場合は派手な事も無いし、ここで契約しちゃおうか」


「了解」


 俺が返事をすると、ヴィータがコホンっと咳払いをした後、真面目な表情をして姿勢を正した。


 ヴィータが両手で水をすくうように前に出すと、家の外から光の玉がふよふよと集まってきた。何が起こってるんだ? 大小の光の玉がドンドン集まってくる。小さいのは目で見るのがやっとで、大きいのは野球のボールぐらいだ。いったい何なんだ?


「心配しないで、この光は生命の輝き。周辺に存在する生命体の、余裕がある生命力を分けて貰っているんだ。ほらこの大きいのは精霊樹だね」


 バランスボールみたいな光の玉がふよふよ壁を通り抜けて入ってくる。さすが精霊樹、凄い生命力だ。ムーンをモニュモニュしながら感心する。


 ……いや、違うだろ。命の精霊って、命を吸うのもありなの? それ以前にムーンを抱っこしていたらダメな気がする。ムーンを放し、ヴィータに質問する。


「えーっとヴィータ、生命力って分けて貰って大丈夫なの?」


「うん、余剰分だから大丈夫だよ。何もしなくても発散されて消えていくものだから、なんの影響も無いんだ」


「……そうなんだ。分かった邪魔してごめん、続けてくれ」


 発散される物なら大丈夫だろう。物凄く小さいのは虫とか芝生の余剰分っぽいな。まるで野菜の星の人が皆から力を借りるような技にそっくりだ。でも、ツッコミを入れてもシルフィもヴィータも分からないんだろうな。そう考えるとちょっと寂しい。


 余剰の生命力が集まり、ヴィータの手の上で凝縮されていく。派手なのは苦手って言ってたけど、十分に派手だと思うな。ベル達やジーナ達を呼べば良かった。


「僕は命の大精霊ヴィータ。契約を望むのであれば命玉を取り、胸に当てなさい」


 生命力が集まり眩しい程に輝く光の玉が、ヴィータの両手の上に浮かんでいる。いい加減もう慣れたけど、俺の体の中にドンドン器が増えて行くな。命玉を手に取り胸に押し当てると、命の玉が解け俺の心臓に吸い込まれていく。


「終わったよ。これからよろしくね」


「ああ、よろしく頼む。さっそくで悪いんだけど、今日、野生動物を捕まえてきたから様子を見て欲しいんだけど、頼めるかな?」


「ああ、シルフィに聞いてるよ。他にもグァバードと池にも生き物が居るんだよね。まとめて様子を見て来るね」


「案内は?」


「大丈夫、大丈夫。生物の場所は分かるから、勝手に見回ってくるよ。ゆっくり見て回ってくるから、寝てていいよ」


 ヒラヒラと手を振りながら出て行ったヴィータ。


「いきなり頼み事しちゃったけど、大丈夫かな?」


「大丈夫よ。ここに戻ってくる途中で動物の事を話しておいたから、裕太が頼まなくても見に行ってるわ。たぶん蒸留所にも顔を出すでしょうから、裕太はもう寝た方がいいわね」


 戻って来ないなら、先に休ませてもらうか。でもせっかく来て貰ったのに、何もしないのもアレだな。単純で悪いけど、酒を出しておくか。一応聞くまでも無いだろうけど、確認はしておこう。


「シルフィ。ヴィータってお酒は好きなの?」


「大好きよ」


 だよね!


「じゃあ、エールとワインの赤と白を出しておくから、みんなでヴィータを歓迎してあげて」


 酒樽とツマミを出しながら言う。


「了解。お休み裕太」


 スキップするような足取りで、酒樽とツマミを風で浮かべて出て行くシルフィ。表情は変わって無いけど、ご機嫌だな。さて俺は寝るか。


「ムーン、今日は一緒に寝る?」


 ふよふよと俺の頭の上に乗るムーン。一緒に寝るって事でいいんだろうな。

読んでくださってありがとうございます。

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[良い点] また酒、蒸留所 裕太も放置で飲んでろだし雑で嫌だわ
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