百九十二話 森で採取
子供達に公園をお披露目し、ワインの蒸留も確認した。次は聖域に向けて行動するべきだな。聖域に指定される為の条件は、拠点を五周分増やして、風、水、土、光、闇の台座を作る事だ。
台座に使う魔法の杖は、迷宮の宝箱を探すのと、マリーさんに情報を集めて貰うって感じだな。あとは森で大量の土を手に入れる事と、岩の大量確保が必要だから、また岩山が幾つも消える事になる。
うーん、森に行くなら動物の確保もするか。俺は動物探しに向いてないから、サラ達やジーナ達に任せてその間にひたすら土を回収しよう。虫も持って帰るか。
「っと言う訳で今日は森に行きます」
朝食が終わり、みんなに今日の予定を伝える。
「どう言う訳なんだ?」
ジーナがキョトンとした顔で聞いてくる。うん、この会話の流れ、この前もやった気がするな。とりあえず俺が土の確保、ジーナ達が動物の確保をしに行く事を伝える。サラ達は前回小動物を捕まえに行ったから理解しているようだ。
ベル達は理解しているか分からないが「おでかけー」っと楽しそうだから問題無いだろう。森に着いたら沢山の動物を見つけてくれるはずだ。
***
「じゃあ、この森の探索を始めるよ。今回は肉食獣でも構わないけど、大きくならない動物を捕まえて来てね。ここに戻ってくればシルフィが眠らせてくれるから、場所を忘れないように。魔物も出るから注意する事。分かった?」
「いえっさー」「キュキュッキュー」「イエッサー」「ククックー」「いえっさー」「「ホホッホー」」「プップギュー」「ワフワフーン」
「分かりました、注意します」「沢山捕まえてくる」「キッカはかわいいこをさがすの」
精霊達とサラ達はやる気満々だな。
「なあ師匠、森って出る魔物が迷宮みたいに決まって無いから、逆に危険だって聞いた事があるんだけど、大丈夫なのか?」
ああ、だから不安そうだったのか。食堂でそんな事を話していた冒険者が居たんだろうな。
「シルフィがある程度安全な森を選んでくれているから平気だよ。それにもしもの為にディーネもついて行くから、何があっても心配いらないから安心して」
ジーナ達で勝てない魔物が出ても、ディーネがいればただの獲物でしかない。ファイアードラゴンでも大精霊なら楽勝なのに、この森にそのクラスの魔物が出る事は無いだろう。
ディーネがついて来る事を聞いてホッとしているジーナ。大精霊の力は聞いているから安心したみたいだな。
「じゃあお昼にはここに集合って事で、気を付けて行って来てね」
ジーナ達と浮遊精霊達は固まってディーネと共に、ベル達はバラバラに森の中に入って行く。どんな動物が集まるかちょっと楽しみだ。玉兎みたいに変わった動物がいれば面白いな。
「シルフィ、動物が来たらお願いね」
シルフィに手を振って俺もドリーと一緒に森に入る。
「裕太さん、間伐する木はどうしますか?」
木か……今のところ魔法の鞄に沢山残っているし、必要無いと言えば必要ないが、ドリーが聞いてくるって事は、間伐して森を整えておきたいんだろうな。何かに木を使う事もあるだろうし、魔法の鞄に確保しておくか。
「無理に集める必要はないけど、間伐しておいた方がいい木があれば確保しておくから言ってくれ」
「分かりました」
うん、たぶんだけど少しドリーの機嫌が上昇した気がする。普段から笑みを絶やさないから、シルフィと違った意味で表情が読み辛いんだよね。お世話になっているんだから、こういう時に少しでも恩を返しておこう。
「裕太さんこの辺りなら大丈夫ですよ」
「了解」
ドリーが大丈夫だと言った場所を魔法のシャベルで掘り、土を収納する。残った虫は選別して布袋の中に入れる。選別が面倒だが、死の大地には虫を食べる生き物がほとんどいないからな、Gみたいなのが大量発生したら、俺の心が折れる。しっかり選別しておこう。
***
「あー、疲れた。当分虫は見たくないよ」
午前中のほとんどが虫の選別で潰れた気がする。魔法のシャベルだと一瞬で土をすくって収納できるから、虫の量がハンパない。最後の方はかなりの益虫だと言われている、ミミズ以外は土に戻した。でもこの森のミミズってデッカイんだよね。山ミミズみたいなのが布袋にいっぱいで、正直怖い。
益虫だって言ってもこんなに沢山居て大丈夫なのか? ドリーは大丈夫だって言ってたけど、ミミズの大量発生も勘弁して欲しい。
「ふふ、あれだけの土を収納したんですから、しょうがないですよ。よく頑張りましたね」
こう、見た目は年下の美少女に労われると、どう答えたらいいのか困るところがあるな。だが、悪い気分ではない。
「ありがとう、まあこれであのモグラが無害だったら完璧だったんだけどね」
「隔離するなら問題は無いんですが、それは嫌なんですよね?」
「うん、さすがにそこまでするのはどうかと思って諦めたんだけど、可愛かったからやっぱり残念だよ」
シャベルですくった土を収納したら、モグラがボテっとシャベルの上に残った。小鼻をヒクヒクと動かし、パタパタと手足を動かす姿がとても可愛い。連れて帰るか悩みに悩んだが、涙を呑んで断念した。
ドリーに聞いたところ土の中を縦横無尽に移動し、農作物を食い荒らし退治も難しいそうだ。ある意味魔物以上に農家に嫌われている存在だそうだ。
俺の中でモグラって土に穴を掘ってミミズとかを食べていると思ってたけど、異世界のモグラは随分とアグレッシブなようだ。農作物を食い荒らすなら、さすがに連れて帰れないよね。
「今頃みんなが可愛い動物を沢山捕まえているでしょうから、その子達で癒されてください。それとこの森から無理やり移動させる形になるんですから、大切にしてあげてくださいね」
「ああ、しっかり大切にするよ」
元々、俺は可愛いものにそれ程興味が無かった。でも異世界に来てベル達と戯れている間に、すっかり可愛いものに癒されるように、体質が改善されてしまったみたいなんだよな。ワチャワチャと騒いでいる下級精霊と浮遊精霊達は、破壊力抜群の可愛さだからしょうがないか。
「ねえ、今更なんだけどドリーは森の大精霊として、森の一部である動物を捕まえて行くのは嫌だったりしない?」
必要だから捕まえてたけど、よく考えたらドリーにとって気分の悪い事をしていたんじゃなかろうか? ちょっと肝が冷えたぞ。
「んー、森は弱肉強食の世界ですが、乱獲や無意味な殺戮は確かに気分が悪いです。でも捕まったら命が無い世界で、捕まったのに魔物がいない豊かな森に移動できるんです。動物達がどう思うかは分かりませんが、チャンスがあるだけ幸運な事だと思ってますよ」
んー、まあ、問題無いって思ってるみたいだな。ちょっとホッとした。それなら早くシルフィのところに戻って、眠っている小動物達で癒されよう。起きてる時は多分相手にしてくれないからな。一瞬で走り去っていくモフモフキングダムの動物達が思い出される。
***
「ゆーたー、べるたくさんつかまえたー」「キュキューー」「モフモフ」「クーー」「ゆーた、すごいのをつかまえたのに、しるふぃがにがしちゃったわ」
シルフィの元に戻ると、ベル達が口々に成果を報告をしながら出迎えてくれた。ジーナ達はまだ戻って来てないみたいだな。
しかし、フレアが言った事がちょっと気になる。シルフィが動物を逃がしたって、何を捕まえてきたんだ?
「ゆーた、べるがつかまえたの!」
シルフィに話を聞く前に、ベルの成果を確認しないとダメなようだ。ベルのちっちゃな指が指した場所には、数匹のタヌキっぽい動物が舌をだして横たわっている。死んでないよね? かすかにお腹が上下してるし生きているか、ちょっとビビった。
しかし……ダラっとしてちょっと怖いが、シッポのモコモコは魅惑的だな。でも、暑い時のタヌキって毛が抜けてて痩せて見えなかったっけ? ……まあ、異世界だからな。とりあえず洗浄を掛けてモフっておこう。
「いい子を捕まえたね。ベル、ありがとう」
シッポをモフりながらベルを褒める。やったーっと喜び飛び回るベル。次はレインが俺を引っ張る。レインがキュキュー言いながら、ヒレで指した先には綺麗に横たわっているキツネが……キツネとタヌキって異世界ではどうなんだろう。仲が悪いのかな?
そもそも日本のキツネとタヌキは本当に仲が悪いのか? ……なんか昔話とか化かし合いとかのイメージで勝手に仲が悪いと思っていただけで、実際はそんな事が無い気がしてきた。とりあえずレインを褒めまくって、キツネのシッポもモフっておこう。
次はトゥルかな? ……トゥルの方を向くと、一心不乱にキツネとタヌキのシッポのモフり比べをしている。ソッとしておこう。
タマモが胸に飛び込んできたので、抱きかかえてモフりながら捕まえてきた獲物を教えてもらう。これは……なんだ? サラサラ感はハンパ無いけど謎の生物だな。色は茶色で四つ足っぽい事しか分からない。ヨークシャーテリアの毛量を三倍ぐらいにした感じ……か?
とりあえず……洗浄を掛けてモフってみるか。……これはこれでありだな。サラサラ感がハンパない。モフモフとは言えないが絹糸のような手触りが癖になりそうだ。
「ねえシルフィ、この動物って初めて見るんだけど何なの?」
「その動物はシルキィね。昔は沢山居たんだけど、のんびりした性格とそのサラサラな毛が目的で人間達に狙われたから、随分数を減らしてしまった動物よ。見つけたタマモはお手柄ね」
シルキィって微妙にシルフィと一文字違いか。結構紛らわしい。でも、その貴重な動物が五匹も……安全な場所で繁殖させろって事なのかな? 繁殖とか難しそうだし、とりあえずシルキィ専用ブロックを作って安全対策をしておくか。
「ほんとはもっとつかまえてたのに……」
フレアが悔しそうだ。それでフレアが捕まえたのは……シカが三頭いるな。……あれ? シカって大繁殖して問題になってなかったっけ? でも繁殖してヤバそうだからって、シカを逃がしたらフレアがグレてしまいそうだ。
「ありがとう、フレア。いくつか放しちゃったみたいだけど、それでも三頭もシカを捕まえてきたのは凄いよ」
俺が褒めると、フレアがちょっと得意げに胸を張った。直ぐに機嫌が直るところが、イフのマネをしていても、まだまだ子供っぽくて微笑ましい。
(それでシルフィ、フレアは何を捕まえてきたの?)
(オオカミとコグマよ)
(なるほど……シルフィ、ありがとう。それで放したオオカミとコグマは大丈夫なの?)
(ええ、ちゃんと群れと親元まで誘導したわ)
深々とシルフィに頭を下げておく。レベルが上がって開拓ツールもあるから、今更クマやオオカミに負けるとは思わないけど、直ぐ近くでクマやオオカミが繁殖してたら落ち着かない。
とりあえず今のところ集まった動物はタヌキが六匹、キツネが八匹、シルキィが五匹、シカが三頭、ネズミが十匹以上……命の精霊を連れて来るには問題は無さそうだ。
ネズミの繁殖が怖いけど、キツネのエサになるし確保はしておかないとな。後は、ジーナ達が戻って来てからだ。あと今更だけどフレアってどうやって動物を捕まえたんだろう? 毛が焦げたりしてないよね?
読んでくださってありがとうございます。