百九十一話 土管の迷路とボール遊び
子供達に公園のお披露目をした。子供達は楽しそうにはしゃぎ回り、その光景を見ながらジーナと真面目な話もできた。なかなかいい感じだな。
「みんなー、休憩するよーー。飲み物を出すから戻っておいでーー」
大声で呼びかけると、わらわらと集まってくる子供達。サラ達は普通だ。でも、幼女が二人と少年が一人イルカに子狐、二羽のマメフクロウとウリ坊に子犬が、はしゃぎながら飛んで来ている。うーん、改めて見ると凄い光景だな。
「ゆーた、べる、りんごのじゅーす!」
一番に飛んできたベルが、元気に手を挙げてリンゴジュースをご所望だ。これは出さねばなるまい。っと言うか、全員のリクエストにバッチリ答えるんだけどね。
「師匠、てつぼうっておもしろい!」
ブドウジュースを一気飲みしたあと、マルコがスポーツ少年のように爽やかに言う。よっぽど気に入ったのかシッポがパタパタと動いている。
「他にも色んな技があるから後で教えるよ」
「師匠、どんなわざ? すごいの?」
「はは、後でだよ。後で教えてあげるから、今はちゃんと休憩するように」
ジュースのお代わりを注ぎ、テンションの高いマルコを落ち着かせる。精霊術師に関する質問よりも食いつきがいいのが気になるところだ。
……そう言えば精霊術師関連で教える事ってほとんど無いな。魔物と戦う時のアドバイスぐらいか。やっぱり次に迷宮都市に行った時には、俺無しで迷宮を攻略させよう。ジーナが少し心配だけど、ここでアンデッド相手に実戦を積めば、なんとかなるだろう。
ベル達やサラ達の遊具の感想を聞きながら、のんびりと芝生に寝っ転がる。なんか俺が想像していた異世界生活とは違うけど、これはこれで幸せな家庭を築いた父親みたいで、幸せなのかもしれない。
***
「じゃあ、次はこの土管の迷路で遊んでみようか。入口がここで、反対側に出口がある。中は入り組んでいるからよく考えて進むんだよ。あと、魔法でゴールを探したり、土管を乗り越えるのはルール違反だからね。わかった?」
子供達がウズウズした表情で頷く。よし! って言ったら一気に走り出しそうだな。
「怪我をしないように、注意する事。じゃあ行っていいよ」
予想通り土管の入り口に殺到する子供達。大半は精霊だから問題は無いが、全員が実体を持っていたら入り口で渋滞が起こっていただろうな。さすがにジーナは突入しなかったが、全員が入った後で土管の迷路にイソイソと入って行った。
結構分岐も作ったし、土管を縦に設置している部分はともかく、横にして土管の中を通る部分は方向感覚も狂うだろう。さて、どのぐらいで出てくるかな? 出口に行って出迎えるか。
「おにいちゃんここ、さっきとおったよ」
「でもこっちは行き止まりだったぞ。サラ姉ちゃん、どっちかわかる?」
「こっちは通って無いですね。行ってみましょう」
サラ達は協力して進んでいるが苦戦しているみたいだな。
「きゃはは、べる、こっちにいくーー」「キューー」「クーー」「こっち」「こっちにきまってるぜ」「「ホーー」」「プギャー」「ワフーン」
ベル達は思い思いに飛び回っているようだ。ジーナの声が聞こえないけど、どうしてるんだろう?
声を聞きながらのんびり待っていると、十五分ほどで出口から飛び出して来たのは……「プギューーー」ウリだった。ちょっと予想外だな。飛び出してきた勢いのまま俺の目の前に走り寄ってくる。宙に浮いているから飛んでいるはずなんだけど、短い脚を一生懸命に動かしているから、走っているように見えるんだよね。
「ウリが一番だよ。凄いね」
「プギュプギュプギャーーー」
頭をブンブンと上下し、短い尻尾もピコピコと振れている。相当嬉しいようだ。あまりにも可愛いので、とりあえずモフっておこう。興奮しているウリを抱っこしてモフモフする。イノシシの毛ってゴワゴワしているイメージだけど、ウリの毛はサラフワなんだよな。精霊だからか?
プギャプギャとご満悦なウリを褒めながら待っていると「クーー」っと言ってタマモが出てきた。うーん、迷路だと野生の勘的な物で動物型が強いのかな? タマモが俺を見つけて、尻尾を振りながら突撃してきた。
「タマモは二番だね。凄いよ」
飛び付いてきたタマモをウリと一緒に抱えて、褒めながらモフる。俺の腕の中でクークー、プギャプギャとタマモとウリが話している。
話の内容は分からないが「なかなかやるな」「おまえもな」的な会話がなされているのかもしれない。想像したらちょっと面白い。
「いちばん!」っと出てきて三番目だった事に軽くショックを受けるフレアや、三人で協力して出口にたどり着いて喜ぶサラ達。屈む姿勢が多かったせいか疲れ切ったジーナなど、続々と出口から出てきた。
「……ベルとレインが出て来ないね」
他の全員が出てきたが、そこからしばらく待ってもベルとレインが出て来ない。
「怪我とか、迷子になってるんじゃないか?」
ジーナが少し心配そうに言う。
「うーん、精霊が怪我をする要素はないから大丈夫だと思うけど、迷子になっちゃったかな?」
難しくし過ぎって事もないはずなんだけど……中の様子を探ってみると「きゃはは、れいんまてーー」「キューー」っといった声が聞こえてきた。……あれだな、追いかけっこが楽しくなって、迷路から脱出する事を忘れているな。その可能性は考えてなかったよ。
「中で楽しくなって、出て来るのを忘れているだけみたいだね」
「なんだ、そうなのか」
ジーナがちょっとホッとしている。サラ達は落ち着いているから、この辺は付き合いの長さの違いだろう。とりあえずベルとレインを召喚するか。
「うっ?」「キュー?」
召喚するときょとんとしているベルとレイン。
「ベル、レイン、迷路から出て来ないとダメだよ」
「わすれてたー」「キューー」
ハッとした表情のベルとレイン。分かってたけど、見事なぐらいに完全に忘れていたな。まあ、それだけ楽しかったって事か。驚いた表情が可愛いので、思わず両手でベルとレインをナデナデしてしまう。
「じゃあ、最後にボール遊びをしようか」
ミニサッカー場に移動して一応サッカーのルールを教えてみようとしてみた。一瞬、タマモ、ウリ、シバの前足はハンドになるのか? っと考えたが前足なんだから問題無いだろう。
そして、ルールを教える事も諦めた。だって飛んでるし動物型もいるんだもん。人間専用のルールは合わないよね。スローインとかタマモ達動物型には難し過ぎる。
結局、チームを二つに分けて、手と魔法を使わないで相手のゴールにボールを入れればいいってルールにした。ゴールネットが無いから分かり辛いけど、枠だけでも何とかなるだろう。
…………とてもサッカーとは言えないボール遊び。みんながボールに集まりお団子状態だが、元気にボールを追いかけている。飛び回っているベル達に比べてジーナ達、人間が不利かと思ったが、魔法禁止でボールが地面に落ちるので、問題無いようだ。
レベルが低いジーナが体力面でだいぶ不利な感じだな。これはいずれレベルが上がれば解消される問題だろう。ジーナも全力でボールを追いかけてるし、もう直ぐダウンするだろうな。
***
昼食後、ベル達とジーナ達は自由行動にした。全員再び公園に遊びに行ったので、俺はちょっと満足だ。公園を作って良かったな。
さて、俺はシルフィ達の様子を見に行くか。すでに白ワインの蒸留を試しているだろう。暴走してないかが少し心配だ。
「ふむ、ブドウの香りが残っておるんじゃな。ウイスキーとは雰囲気が違うが、こちらも寝かせて美味くなるのなら、先が楽しみじゃ」
中に入ると丁度蒸留したお酒の味を見ていたようだ。ノモスがふむふむと頷いて、味を語っている。
「お姉ちゃんはこっちも好きだわー。ある程度蒸留できたら裕太ちゃんに少し分けてもらうわね!」
ディーネは荒いお酒が好みなのかな? ワインを蒸留したのも好きらしい。
「ディーネ、あんまり飲み過ぎると、完成した時の量が減るんだから、本当に少しにするのよ」
シルフィがディーネに注意している。なんかディーネに注意する時は、あきらめ気味な事が多いのに、お酒の時はしっかり注意するんだな。それに俺が近づいても気づかない事が珍しい。
完全に意識がお酒に向いているようだ。魔物が来たら危険なんじゃないか? ちょっと心配になるが、ノモスが一人の時でも魔物は完全に撃退されているようだし、大精霊が五人いれば少しぐらい油断しても大丈夫なんだろう。そもそも連れてきた動物以外は全員、死の大地をウロつく魔物ぐらいなら自分の身は自分で守れるか。
「分かってるわ。シルフィちゃんが心配しなくても、裕太ちゃんがしっかりとお酒を管理しているもの。そんなに手に入らないわ」
「ふふ、たぶん裕太さんは止めないと、私達が際限なくお酒を飲むと思っているんでしょうね」
確かにドリーの言う通り、好きなだけお酒を出したら、酷い事になる気がして警戒しています。
「くはは、その心配は間違ってねえな。俺なら毎日酒を出してもらうぞ」
イフが豪快に笑いながら怖い事を言う。毎日飲ませてもそれ以上に稼がせて貰っているから、大丈夫なんだけど、大精霊がへべれけになるまで飲んだらどうなるか怖いから制限してしまう。
精霊がへべれけになるまで酔うかどうか分からないけど、酔った勢いって怖いからな……。とりあえずこの話が続いて、もっと酒を多く出すように交渉しようぜって話になったら面倒だから、割り込ませて貰おう。
「みんな、白ワインの蒸留はどうなった?」
「あら裕太、来てたのね。蒸留は上手く行ってるわ」
特に何も表情が変わらずに答えてくれるシルフィ。今の話って特に聞かれたら不味いって感じでも無いんだな。本気でお酒の量を増やそうと考えているなら、ちょっとは動揺する……よね?
まあ、シルフィ達が本気なら、いくらでも俺にお酒を出させる方法はあるからな。お酒を出さなければ契約を解除するとか言われたら一発だ。そう言う事を言わないところが、精霊達の民度の高さが伺える。
「順調なら良かったよ。エールは残り少ないから当分は白ワインの蒸留だね。両方飲んでみて、次からどっちを中心に蒸留したいとかある?」
好みがあるなら仕入れる樽の割合を考えておきたい。
「うーむ、ウイスキーは飲んでおるから想像はつくが、ブランデーじゃったか? こちらは完成品を飲んでおらんから判断はできんな。せめて最初の熟成が終わるまでは、両方を同じペースで蒸留するべきじゃろう」
さすがに蒸留したばかりのお酒で、飲んだ事の無いお酒の完成品を想像するのは無理か。ブランデーは買ってなかったし、どうしようもないよな。
「了解、当分はエールと白ワインを同量仕入れて来るよ」
「うむ、それと蒸留のペースも上がったからな、次からは仕入れてくる酒の量を増やしてくれると助かるぞ」
「ああ、まあ……買う量を増やしてみるよ」
酒屋のおじさんから商売していると思われる量を、仕入れてきたんだけどな。自分でお酒を造るのは手が回りそうにないからやってなかったけど、死の大地での醸造も始めるべきか?
……やる事が沢山でパンクしそうだ。聖域に指定されたら、勝手に精霊達でお酒を造ってもらう方向で調整しよう。酒造りなんて専門でやるものだよな。
丸投げする事を決めたら気持ちが楽になった。とりあえず、当分はこれ以上蒸留ペースを上げないように話し合っておこう。
読んでくださってありがとうございます。




