表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/754

百九十話 聖域の話と遊具と子供達

 ノモスに手伝ってもらい、とりあえずロープを使わない遊具を作った。ロープを使った遊具は次の機会だな。


「それで、精霊王様との話はどうなったの?」


 夕食を済ませ大精霊達と集まり、ノモスの話を聞く。先にワインの蒸留について聞きたそうだったが、説明したら気もそぞろになるのは確定だからダメだ。


「うむ、緑が増え、死の大地にある程度自給自足できる体制が出来た事に喜んでおられた。じゃから、これからも開拓を続ける事に加え、条件が出された」


 条件が出たって、聖域に指定される条件? かなり重要な話だよね。遊具を作ったり、ワインの蒸留方法を聞いている場合じゃ無かったんじゃ……。聖域にしようって言い出したのはノモスじゃなかったっけ?


 しかし新しいお酒を持って行ったら、いきなり条件が出て来るところに虚しさを感じるんだけど。


「なんじゃその目は。嬉しくないのか?」


「いやまあ、条件が出るって言うのは分かりやすくて助かるけど、お酒を持って行ったら速攻で条件が出るってどうなの? なんか俺、心配なんだけど」


「バカを言うな。精霊王様方が酒に釣られて聖域の選定を行う訳無いじゃろ。もともと条件を出す予定じゃった所に、儂が酒を持って行っただけじゃ。偶々じゃ偶々」


 ……本当にそうなんだろうか? 激しく疑問なんだが、酒好きは数人って言ってたし、一応ノモスの事を信じるべきか?


「……それで、条件って?」


「うむ、裕太も言っておったが精霊が自由に使える場所が欲しい。今開拓している土地を五周ほど増やせばええそうじゃ。上物は聖域に指定された後で精霊達が作るから必要無い。生きている土と水路があれば十分じゃな。それと、命の精霊と契約し拠点に動物を増やすんじゃ。百匹以上は欲しいのう。それとあの火の台座があるじゃろ。あれと同じ物を他の基本属性、風、水、土、光、闇で作る事が条件じゃ」


 開拓はコツコツ続けるつもりだし、土地の拡張は今までの事を繰り返せばいいんだから問題無い。動物は捕まえてくれば何とかなるよな? 最初に命の精霊と契約できる数だけ動物を捕まえて、落ち着いたら百匹越えを目指そう。問題は火の台座と同じ物を作るって事だな。何の意味があるんだ?


「光と闇の台座はともかく、他の属性は本物があるよね。そもそもどうして台座が必要なんだ?」 


「うむ、その属性の台座を起点に結界を精霊王様方全員で作った玉を支え、聖域の中核とするっと仰っていたな。まあ要するに聖域の要の役割をはたす場所を作れと言う事じゃ」


「要って、そんな重要な場所を俺に作らせるのか?」


「元々、裕太が開拓した場所じゃからな。今までの聖域の場合は、精霊王様方がそれぞれの属性で作った玉で支えておるんじゃが、裕太が開拓した場所なら、要も裕太が作った方が良いと言う事じゃろう」


 要するに自分でできる事は自分でやりなさいって事か。うーん、台座を作るには、魔法の杖が必要なんだけど……今のペースなら迷宮に潜れば幾つかの魔法の杖は手に入るだろう。でもそんなに上手く全種類が揃うのか? 被りに涙する事になりそうで嫌なんだけど。


「ねえ、魔法の杖は買ってもいいの? 自分で手に入れないとダメって言われると、運に左右されるんだけど」


「買う分には問題無かろう。じゃが、最低限の品質は必要じゃぞ。今、火の台座に使われておるクラスの杖が必要じゃな」


 魔法の杖って高そうだよな。しかも迷宮で五十層以降で手に入れた杖クラスが必要なのか……とりあえずマリーさんに聞いてみるか。お金で解決できるのであれば、ある意味単純で助かる。


 俺がどうすればいいのか考えていると、話は終わったとばかりにノモスにワインの蒸留方法を質問された。思い出せた事を伝えると、大精霊達は蒸留所に旅だって行った。優先順位が間違っている気がする。……明日から忙しくなりそうだし、寝てしまおう。


 ***


 聖域に指定する条件が分かったけど、とりあえず今日は公園の紹介だな。たぶん楽しんでくれると思うが、評価が気になってドキドキする。昨日はシルフィも協力してくれたから、ジーナ達は何も気づいていない。


 大精霊達は昨晩からワインを蒸留をする為に蒸留所に籠ったから、フォローは期待できない。サプライズの成功は完全に俺の手腕に掛かっているな。


「っと言う訳で、今日の訓練はお休みです」


 朝食が終わり、まったりした空気のみんなに話しかける。


「師匠、どういう訳なんだ?」


 ジーナがキョトンとした顔で質問してくる。訳はサプライズがしたいからなんだけど、素直に言ったらサプライズにならない。


「まあ、ジーナもこっちに来てからずっと頑張ってたし、偶にはのんびりしないとね」


 実際に毎日何かしらのイベントがあったからな。昨日と一昨日もゾンビの巣を潰しに行ってるし、そろそろお休みは必要だろう。


「そうなのか……」


 あんまり話を飲み込めて無いようだ。


「まあ、とりあえず今日は一緒に行動してみようか」


「う、うん、分かった」


「じゃあ、見せたい場所があるから、みんな一緒に行こう」


 俺の言葉にゾロゾロと移動を開始する。ジーナと話していたからか、ベル達やサラ達から質問が飛んで来なくて助かった。


「この中に面白い物を作ったんだ。じゃあ岩をどかすね」


 公園の境に移動し全員の注目を集めながら、もったいぶった仕草で封鎖していた岩を取り外す。…………あれ? 歓声が聞こえてこないぞ? ドヤ顔を引っ込めてみんなの様子を見る。ベル達は上から偶に覗いていたから驚かないにしても、ジーナ達は初見のはずだぞ?


「……お師匠様、何か変わった物が沢山ありますが、何をする場所なんですか?」


 サラが少し困ったように質問してきた。……そうだよねー、初見だもんねー。見せられただけで遊具って分かるはずも無いよね。あはは、隠していきなり見せればサプライズは成功だと思っていたよ。なんて言うか穴があったら入りたい気分だ。


「うん、あのね、あれは遊び道具なんだ。とりあえず一通り一緒に見て回ろうか」


 さあ遊べ! って言ってもダメっぽいからちゃんと説明した後に楽しんでもらおう。


「あの大きいのが遊び道具なんですか?」「あそび?」「あそぶの?」


「そうだよ、楽しいから期待してて」


 遊びと聞いて突撃してきたベル達をなだめながら、サラ達の質問に答える。ここで話していても先に進めないので、実際に遊具を使いながら公園を一周する。


 丸太飛び、平均台、雲梯、シーソー、登り棒、鉄棒、ジャングルジム、土管の迷路、実際に一緒に遊びながら説明する。


 新しい遊具で遊ぶたびに子供達の顔が輝く。結構手ごたえを感じる事ができる表情だ。土管の迷路とミニサッカー場以外は全部遊んでみた。土管の迷路とミニサッカー場は時間が掛かりそうなので、後回しにして遊具で自由に遊ばせよう。


「じゃあ、好きな遊具で遊んでみて」


 俺の言葉に、わーいって感じで散らばる子供達+ジーナ。ベル達もわざわざ魔力を使って遊具に触れて遊んでいる。シーソーに乗る幼女とイルカ……ベルは違和感が無いけど、レインはちょっとプルプルしている。でも、とっても可愛い。「キャッキャ」「キューキュー」ギッコンバッタン、上下に動いてとっても楽しそうだ。飛べるのにシーソーも楽しめるんだな。


 タマモとフレアはジャングルジムのテッペンで雄々しく立っている。なんかカッコ可愛いが、後ろでトゥルが手をワキワキしているので、何となく不穏だ。トゥルはブレないな。凛々しいタマモをモフりたいらしい。


 サラとキッカは雲梯にぶら下がり遊んでいる。体力と力があるからか、サラもキッカも問題は無いようだ。サラは一段とばしで、キッカは一つ一つバーを掴み、楽しそうに進んでいる。


 マルコは俺が教えた片足かけ回りを体得し、鉄棒に片足を掛けてグルグルと回っている。軽くトリップしているのか、あははははっと笑いながら回り続けるマルコ。


 大丈夫なのかとも思うが、子供らしく全力で遊んでいるんだ、良い事だと思おう。普段はお兄ちゃんらしくキッカを守りながら頑張っているからな。次は飛行機飛びでも教えてみようかな? 俺が小学生の頃では考えられない飛距離を出しそうだ。


そう言えば飛行機飛びって小学校で禁止されたとか何かで聞いた覚えが……まあ、異世界だしマルコはレベルアップで体も丈夫になってるからいいよね?


 フクちゃん達はジャングルジムの中で追いかけっこか、登り棒は今のところ人気が無い。俺が子供の頃は、達成感があって結構好きだったんだけどな。


 そしてジーナが思った以上に遊具に食い付いている。丸太飛びを飛び回り平均台を器用に走り抜けて、楽しそうに笑っている。あの子は年齢的に言えば女子高生か女子大生なんだけど、物凄くはしゃいでいる。


 外見は素晴らしいスタイルの美女なんだけど、中身はどちらかと言うとマルコに近い。もったいないと思う俺と、あれはあれで有りなのかとも思う俺が居る。どちらが正解なのか分からないから、なかなか難しい。


 芝生に座り少し休憩をする。公園内を思いのままに駆け回りながら、思い思いに好きな遊具で遊ぶ子供達を見て、ちょっと、いや、かなり嬉しい。公園を作る事を思いついて良かった。これからは時間ができれば子供達がここで遊ぶだろう。


「師匠! 遊具って面白いな! でもちょっと疲れた」


 ジーナが息を切らしながら俺の隣に座る。満面の笑顔だし楽しかったのは間違いなさそうだ。でも、まだレベルが低いから疲れたんだろう。


「走って喉が渇いただろ、飲み物を出すけど、何がいい?」


「えーっと、じゃあ冷たいお茶をお願い」


 ジーナにお茶を手渡しながら話を振ってみる。 


「はい、お茶。でも気に入ったようで良かったよ。休日ならここで遊ぶのも自由だし、なにか好きな事をするのも自由だよ」


「ここで遊ぶのは楽しいからいいな。でも、何か好きな事か……食堂に休みなんて無かったし、何をしたらいいか分からないな」


 異世界のブラックさもヤバいな。労働基準法とか無さそうだし、働けるだけ働くって事なんだろう。チートが無ければ俺もそんな生活をしていたのかもしれない。……いや、そもそもが死の大地を脱出できずに死んでるな。本気でチートがあって助かった。


「休みなんだから、したい事をすればいいんだよ。何もする事が無かったら部屋に籠ってボーっとしててもいい」


「ボーっとするのか?」


 ジーナが何でそんな事をするの? って顔をしている。ボーっとする時間の貴重さが分からんとは、これがジェネレーションギャップって事なのか?


「何もしない事が贅沢だって考え方もあるんだけど、ジーナはそう思わない?」


「うん、何だかもったいない気がする」


 なるほど、ジーナはアクティブなタイプなんだな。俺はどちらかと言うと、暇があれば引き籠って居たいタイプだから、気持ちを理解するのが難しい。


「そっか、泉の家は発展中だし、物が少ないんだよね。ジーナが楽しめる物を考えてみるよ。あとは迷宮都市での休日に色々と楽しみを探してみるのもいいかもね。食堂のお手伝いもするんだろうけど、自分が住んでいた都市を見て回るのも楽しいと思うよ」


 休日も無かったのなら、そこまで迷宮都市の中に詳しいって訳じゃ無いだろう。新しい発見もあるはずだ。


「迷宮都市を見て回るのか、それも楽しそうだな」


 何かを想像して楽しそうに笑うジーナ。やっぱりあんまり外出していなかったみたいだ。ジーナの為にも早めに室内遊具も作ってみるか。とりあえず王道のリバーシとトランプからかな?


 でもトランプって意外と難しい気が、木だと木目で何を持っているか分かりそうだし、迷宮都市で買った紙は、一ミリほどの厚みがあるのに柔らかい。プラスチックや厚紙は無いよな。


 あっ……物凄くもったいない事を思いついてしまった。アサルトドラゴンの牙って丈夫だし、魔法のサバイバルナイフで薄く切ればトランプに……ドラゴン素材をそんな事に使ってもいいのか?


 せめて麻雀牌ぐらいを作らないともったいない気がする。象牙の麻雀牌とかあったらしいし、麻雀牌なら芸術的な……俺に芸術のセンスが無い。でも麻雀牌は欲しいな。今の状態だとメンツが足りないけど、いずれは楽しめるようになりたい。


「ねえジーナ、今更だけど、寂しくなったり後悔したりしてない?」


 数日死の大地で過したんだし、不満があるかもしれない。っと言うか俺なら、ゾンビと戦わせられた時点で不満を覚える。


「うーん、アンデッドと戦うのは大変だけど、皆が助けてくれるから問題無いぞ。それ以外はなんか実感が湧かないんだ。空を飛んで死の大地に来て、そこには泉や噴水、森や畑、極めつけには精霊樹があって、シバって言う相棒ができて……毎日夢を見ているみたいだ。昨日までは何も無かったのに、気がついたら遊ぶ場所ができてるしな」


 あははっと笑うジーナ。まだ気持ちが浮ついていて、現実感が無いのか。俺の場合は異世界に来て、浮つく暇も無く、大自然の脅威にさらされたからな。現実逃避していると死ぬって強制的に理解させられたところがだいぶ違うな。


「そうか、環境が変わったし落ち着くまで時間が掛かるよね。でも、何か思う事があったら無理をしないで、俺に相談してくれ。どうしても無理なら、迷宮都市だけの弟子って方法もあるからな」


 できれば直弟子みたいな今の形がいいんだけど、メルみたいに迷宮都市限定の弟子って形もありだと思う。最悪なのは耐えきれなくなって、精霊術師を辞めるって言い出す事だ。


 性格が良くてサラ達と仲良くできて、精霊術師の才能があって、死の大地について来てくれる。そんな貴重な弟子を失うのは避けたい。


「ありがとう、師匠。でもたぶん大丈夫だよ。根性はあるってよく兄貴に言われてたからな。しっかり訓練して立派な精霊術師になるから師匠も期待してくれ!」


 根性があるのか、でもまあ、無いより有った方が良いよな、根性。頑張り過ぎる可能性があるから、そこら辺は注意が必要だけど、立派な精霊術師になれそうだ。


「うん、期待してるよ。よろしくね」


「おう!」


 ジーナとしっかり話せたのはいい機会だった。今の様子なら、よっぽどな事が起こらなければ大丈夫だろう。あっ、そろそろ走り回っているサラ達に飲み物を飲ませて休ませないと、熱中症が怖い。


 ベル達にも飲み物を出して、少し休憩してから、土管の迷路とミニサッカーと言うかボール遊びをしよう。これはこれで楽しんでくれるはずだ。

読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まーた蒸留所 シルフィまで出てこず偉そうに上から目線で条件を付けるくせに酒を優先とか吐き気がする
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ