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百八十九話 公園

 コーヒーの森を作り、他に足りないものは何だろうと考えていると、公園を作る事を思いついた。自画自賛だけどいい思いつきだと思う。


 だが、公園の予定地に芝生を植えて、アンデッドの巣を潰しに行っていたシルフィとジーナ達が戻り、夕飯を済ませてのんびりした時間を過ごしても、ノモスは帰って来なかった……絶対に飲んでるな。明日の昼まで待って、帰って来なかったらノモスを召喚してみよう。


 ノモスの帰還を待ちながら、考えつく限りの遊具を紙に書き設計図を作る。単純な構造な物が多いから形は何とかなる。問題はサイズと材料だな。


 木と金属はなんとかなるけど、丈夫なロープが無い。考えていると意外と使うんだよねロープ。ドリーに頼んで丈夫な蔓を用意してもらう事もできるけど、劣化が怖い。蔓を切らないで地面に生えたまま利用する事もできるかもしれないけど、ドリーの手前、植物を傷めつける遊具は気まずい。


 今回はロープを使わない遊具を中心に作ろう。ブランコが作れないのは痛いが、他にも楽しい遊具は沢山ある。バージョンアップの余地を残しておいた方が、子供達が飽きた時に助かるよね。土台だけは作っておくか。


 幾つか設計図を書き上げてもノモスが戻って来ない。今日はもう諦めて寝よう。


 ***


「じゃあ師匠、いってくるよ」「お師匠様、いってきます」「師匠、いってくる!」「いってきます」


「いってらっしゃい、怪我しないように注意して頑張ってね。シルフィも悪いけどよろしく頼むね」


「ふふ、ええ分かったわ。裕太も頑張ってね」


 シルフィ楽しんでるな。俺が内緒で公園を作って、子供達を驚かせたいって言ってから、生温かい目が止まらない。でも協力を約束してくれたから心強い。今日の帰りは公園予定地の反対側から、低空飛行で拠点に戻って来てくれるそうだ。空から見られてバレたら悲しいからとても助かる。


「ああ、頑張るよ。まあ、ノモスがいつ帰ってくるかが問題なんだけどね」


「そんなにお酒の量は無いはずよ。直ぐに戻ってくるから安心しなさい。じゃあ行ってくるわね」


 シルフィの予想でもノモスは飲んでいるのか。まあ、酒瓶を持って行ったんだ、間違って無いだろう。手を振ってアンデッドの巣を潰しに飛び立っていく、シルフィとジーナ達を見送る。さて、ノモスがいつ戻ってくるか分からないんだ、自分でできる事は先にやっておこう。


「ディーネ達は今日も蒸留所に居るの?」


「ええ、そのつもりよー。……あれ? 裕太ちゃん、もしかしてお姉ちゃんが最近一緒に居ないのが寂しいの?」


 ふふーんと得意げなディーネ。なんか答え辛い質問だな。ディーネが側に居るのは眼福だから嬉しいんだが、そう言うとドヤ顔が炸裂する。それは何だか嫌だ。まったく寂しくないって言ったら、それはそれで面倒な事になる。……なんか小学生のような悩みだな。


「あはは、そうかもしれないね。それでなんだけど、ノモスが戻って来たら俺のところに来るように言っておいて。ドリーもイフも頼むね」


 どう答えても面倒そうなので、適当に言葉を濁して伝えたい事だけを伝え話を先に進める。ディーネがちょっと不満そうな顔をしているが、気にしたらダメだ。


「ゆーた、べるたちはー?」


 コテンと首を傾げるベル。うーん、どうしよう? ベル達にもいきなり遊具を見せて驚かせたい気もするが、拠点の中を飛び回って遊んでいるから、隠すのは無理っぽいよな。でも手伝ってもらう事があまり無い。


「うーん、今日はみんなで遊んでおいで」


「おてつだいない?」


 ちょっと残念そうに言うベル。後ろでレイン達もちょっと残念そうだ。お手伝いがあると喜んでくれるんだが、無理やりお手伝いをひねり出すのは違うだろう。遊具の位置決めと、俺が作れる道具の加工だけだからな。


「うん、何かお手伝いがあったら呼ぶから、よろしくね」


 わかったーっと遊びに行くベル達。ちょっと残念そうだが、遊具ができればベル達も楽しめるだろう。頑張らないとな。


芝生を植えた公園予定地に移動する。噴水の泉のブロックの一つ西側にしたけど、外側の方が良かったかな? でも芝生と水路しか無いブロック。これはこれで良い感じだな。


 さて、まずは遊具の設置場所を考えよう。単独で遊べるものは一ヶ所に固めて、アスレチック要素がある遊具はコースを決めて設置しよう。


 フラフラと歩き回り、何となくのイメージを固める。あんまり壁に近いと危ないが、体力は十分ある。ある程度大きめに作っても大丈夫だよな。


 後は材料を加工して設置場所に置いておくか。遊具の加工をする事が、開拓ツールの本来の使い方と言えるかどうか分からないが、魔物の首を切り落とすよりは本来の使い方に近いはずだ。


 まずは丸太を幾つも高さを変えて立てて、その上を落ちないように移動する奴を作ろう。遊具の名前はメジャーなのしか知らないから、何と言えばいいのか分からないのが辛い。とりあえず丸太飛びって呼ぶか。


 土に埋まる部分を考えると、二メートルぐらいは必要だろう。魔法の鞄から出した丸太をサクサクと魔法のノコギリで切断する。二十本用意して互い違いに埋めれば、形になるな。


 次は丸太の平均台だな。ただの直線だと面白くないので、丸太を三本使って微妙に角度を変えた、長い平均台を作ろう。これは単純だから材料の用意も簡単だな。


 次は……ロープがあれば色々と作れるんだが、木材だけで作るのは、もう思いつかない。ロープさえあれば、丸太の壁越えやターザンロープ、丸太わたり等、色々思いつくんだけどな。ノモス、早く帰って来て。


 ただ待っていてもしょうがないので、丸太飛びの木を立てる為の穴をハンドオーガーで掘る事にする。丸太の大きさで地面に穴を開ける。穴の深さを変えれば、丸太の高さも変わる。丸太を入れたら後はノモスに土を固めて貰えば安全だろう。


 コツコツと配置を考えながら丸太を設置する。……見ていると遊びたくなってくるから不思議だ。ただ丸太を立てて並べただけなんだけどな。ピョンっと丸太に飛び乗る。多少グラグラするが今のところ問題無い。


 レベルが上がった影響で、体が思った以上に動くので楽しい。ピョンピョンと丸太の上を飛び回る。自然に笑い声が洩れる。これだけ動けるのなら、スタントマンにもなれそうだ。


「何をしておるんじゃ?」


「……帰って来たんだ」


 子供の為に作った遊具で笑いながら遊んでいる姿を見られてしまった。顔が赤くなるぐらいには恥ずかしいな。


「うむ、先ほど帰ったが、ディーネに裕太が待っておると言われてな。それで何をしておったんじゃ?」


「あー、うん、子供達が遊べる場所を作ろうと思ってね。遊具を作るには丈夫な金属を加工して貰わないといけないから、作った遊具の確認をしながらノモスを待ってたんだ」


「そうなのか。まあ、子供が遊べる場所があるのは良い事じゃろ。遊具とやらはどんな物なんじゃ?」


 ノモスが俺の微妙な空気を察してくれたのか、話を変えてくれた。ありがとうございます。とりあえず昨晩考えた遊具をノモスに説明する。


「この雲梯うんていとやらは鉄の横棒にぶら下がって進むんじゃな? 鉄の棒の間隔はキッカに合わせるか?」


「ああ、その方がいいな。頼むよ」


 キッカの手の幅に合わせても、サラやマルコなら一段とばしとかで対応できるだろう。しかしノモスって子供が苦手な割に気遣いが細やかだよな。空気が読めて優しいし、ズングリムックリの髭面だけど実は物凄くモテるタイプなんじゃないのか? なんか悔しい。


「うむ、それでこの土管の迷路とやらは、どのぐらいの広さになるんじゃ?」


 ノモスが遊具について細かく質問してくる。もともと物を作るのが好きなのか楽しそうだ。あとは水路に蓋をした方が良いかな? 子供達は夢中になると周りが見えなくなるから蓋をしておくか。一瞬、水路を広げて、水に落ちるアスレチックを作るのもいいかもしれないって思ったけど、心配だから俺の都合で止めておこう。

 

「ただただ子供が楽しく遊ぶ為の道具か……裕太の世界は面白い物を作るな。それだけ余裕があると言う事じゃな」


 魔物とか居なかったしね。まあ、野生動物に襲われる事もあるけど、魔物よりは随分マシだろう。


「確かに余裕はあったのかもね」


 日本政府には借金があった気もするが、庶民としては実感が湧かず平和だった。普通に生活していると命の危機もほぼ無い。極まれに車関連でひやってする事があったぐらいだ。


「うむ、平和なのは良い事じゃな」


 うむうむと頷くノモス。よく分からんが機嫌がいいのはいい事だ。


「じゃあ、説明したとおりに頼むね」


「分かっておる。くだらぬ怪我をせぬようにしっかり作ってやるから安心しろ」


 自信満々でノモスが動き出した。フイっと手を振ると芝生が土ごと移動して、小さな地面がむき出しになり、そこから金属がウニョウニョと蛇のように出てきた。話を聞いてみると地中深くから金属を集めているらしい。


 そのままウネウネと雲梯の形に変わり、ピタっと固まった。簡単に作るんだな。この調子だとあっさり頼んだものが完成しそうだ。


 俺の想像通り、簡単に遊具が作られていく。完成品では登り棒、鉄棒、ジャングルジム、土管の迷路等々。未完成品ではシーソーの土台、ブランコのフレーム、サッカーのミニゴール等々と芝生と水路しか無かったスペースに遊具が設置されていく。


 鉄棒は俺がワガママを言って大人用の大きな物も作ってもらった。身体能力が上がった今なら大車輪も出来そうな気がする。一度は挑戦してみたいよね、大車輪。


 無論落ちた時の安全面を考え鉄棒の周辺は芝生を移動させ、枠を作って砂浜の砂を敷き詰めた。これで大怪我をする事は無いだろう。砂場としても使えるし、完璧な計画だ。


 ブランコに使う紐は金属の鎖にする事も考えたが、あれは手の肉が挟まったりして何気に危険だから、普通にロープが手に入ってからにしよう。


 サッカーのミニゴールは単純に俺の趣味だ。芝生を見て野球かサッカーかテニスが思いついたが、道具を考えるとボールもあるしサッカーがいいよね。


 ノモスに協力してもらいながら、シーソーを土台に取り付け、地面と板が当たる部分には、タイヤが無いので魔物素材のボールを埋める……このボールって今気づいたけど、ジャイアントトードの皮じゃないか? 買った水着と質感がそっくりだ。こんなところまで魔物の素材が使われてるんだな。さすが迷宮都市。


「これで今のところやれる事は終わったね。ノモス、ありがとう」


「うむ、なかなか面白かったぞ。完成していない遊具はどうするんじゃ?」


「迷宮都市でロープを買ってから完成させるよ。その時も手伝ってくれたら助かる」


 ブランコとターザンロープ、丸太の壁登り、丸太渡と楽しそうな遊具がまだまだ残っているからな。それは次回のお楽しみだ。


「分かった。じゃが先にワインの蒸留じゃぞ」


「あ、ああ。じゃあ、今晩やり方を説明するよ」


 と言ってもあんまりやる事は変わらないんだけどね。満足げに頷くノモス。精霊王様と話してきたはずなんだが、その話は聞けるのかな? ワインの蒸留の話をする前に話を聞いておこう。


 大事な事だと頭に刻み込み、公園を見る。ノモスの力を借りたとは言え結構頑張ったよな。百メートル四方のスペースにぐるりと遊具が囲み、中心にはサッカーのミニコートと土管の迷路を作った。


 まあ、三人しかいないからボール遊びぐらいしかできないけど、精霊達もボールは動かせるし、結構楽しく遊べるんじゃなかろうか?


 公園のお披露目は明日にするか。ベル達も偶に様子を見に来て興味深々だったし、土管の迷路ならサラ達と一緒に楽しめるだろう。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
最近俺たちの思い出の遊具がなんでも危ないという理由で撤去されて悲しいんだな〜 子供はやんちゃして育っていくんだから楽しみを奪うなってんだ!
ベル達がゆーたさんをとっても大好きな姿が好きです。 思ったのですが、自由なのも過保護なのも分かりますが、契約している者同士はやっぱり繋がりが強いと思うので、一緒にいられるだけ、そばにいてお手伝いもい…
最近この作品に出会いました、なので大分昔の話しで恐縮ですが、ロープと言うと今は科学繊維が主流で自然素材のロープは減っていますが、割とありますよ。 材料は麻がメインです、メンテではロープグリースを塗布し…
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