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百八十八話 コーヒーの木

 のんびりしようかと思っていたが、思いがけずノモスと深い話をしてしまった。精霊と人類の関係があんまりよろしくない理由が垣間見えた。完全に信用を失っている。まあ、過去の人類の悪行を、異世界から来た俺がいちいち気にしてもしょうがない。


 俺は俺で楽しく精霊と付き合って、ちゃんとした精霊術師を育てることで、精霊術師の評判を上げる事を目標に頑張ろう。


 ……と言う訳で、これからどうしよう。シルフィとジーナ達はアンデッドの巣を潰しに、ベル達は精霊樹で遊んでいるし、ディーネ達は蒸留をしていて、ノモスは精霊王様に会いに行った。拠点の中も見て回ったし、一人だとやる事が思いつかない。でも、真面目な話をした直ぐ後に、プールでだらけるのも違う気がする。


 ……そうだ! ドリーにコーヒーの事を聞いてみよう。俺の理想の異世界生活には、コーヒーの香りと苦みが必要だからな。砂糖とミルクも入れるけど。


 蒸留所に向かい中を覗くと、ディーネ、ドリー、イフが楽しそうにおしゃべりしている。ノモスってこの空気に負けて逃げ出してきたって事は無いよね?


「あら、裕太ちゃんどうしたの?」


 ディーネに気づかれてしまった。こうなったら中に入るしか無いな。なんとなく気後れしながら蒸留所に入る。普段なら気にもしないんだけど、女性が数人で話しているところに割り込むのは度胸が要るよね。


「邪魔してごめんね、ちょっとドリーに聞きたい事があるんだけど、今大丈夫?」


「あら、私にですか? なんでしょう?」


 キョトンとした顔のドリー、話が振られるとは思ってなかったようだ。


「ちょっとこれを見て貰っていい?」


 コーヒーのパッケージの絵をドリーに見せる。


「この絵の実が欲しいんだけど、分かる?」


 うーん、と考え込むドリー。紅茶があるんだからコーヒーがあってもいいはずだ。インスタントとまでは言わないけど、焙煎してあるコーヒーが売ってたらいいな。他国でも買いに行くよ。


「これは……絵なので確定はできませんが、山村などで子供達がおやつにしている実に似ていますね。食べられる部分が少ないので、流通はしていませんが比較的簡単に見つかると思いますよ」


 ……コーヒーの実って美味しいのか? 


「えーっとドリー、こっちの絵を見てくれ、これは実の中に入っている種なんだけど、この種が必要なんだ。煎って焦がしてあるから黒くなっているけど、ドリーが言っていた実にも入ってる?」


「ええ、入ってますね。この種が大きいので果肉が少ないんです」


 コーヒーの実の可能性は高そうだ。でも、流通はしていないのか……集めるのが大変そうだ。買い取るって言えば集まるか? ドリーに頼んで育てて貰った方が、早いし確実な気がする。種を生み出して貰ってそのままコーヒーにしたいが、無理なのが残念だ。


「ドリー、とりあえずこの種を一粒出してくれ」


 ドリーが出してくれた種を観察する。うーん、色は白に近いクリーム色だけど形はそっくりだな。乾燥して焙煎すれば、俺が知っているコーヒー豆になりそうだ。どうする? スペースも余っているし、コーヒーの栽培にも手を出すか?


「裕太さんは果肉ではなく、この種を利用するんですか?」


 俺が悩んでいると興味深そうにドリーが質問してきた。


「ああ、この種で作った飲み物が、俺が居た世界では人気でね。俺も大好きなんだ」


 俺の中ではコーヒー牛乳を含めれば、日本人の七割はコーヒーが好きだと勝手に思っている。


「へー、どんな味なの?」


 ディーネが話に加わってきた。飲み物って事が琴線に触れたのかな?


「いい香りがして、苦みと酸味がある飲み物だね」


 ……あれ? 自分で言っていて美味しそうに聞こえないぞ。コーヒーの味ってどう表現すればいいんだ?


「裕太ちゃん、あんまり美味しそうに聞こえないわ。それって美味しいの?」


 ディーネが口に手を当て首を傾げている。ごめんね表現力が無くて。インスタントコーヒーを出せば簡単なんだけど、シルフィもノモスも居ないのに、異世界の物を出すのはちょっと違う気がする。


「砂糖やミルクを入れて、味を調整したりするんだけど、そのままが一番美味しいって言う人もいるよ。まあ、この世界の人達が好む味かどうかは分からないけど……」


 俺もブラックは苦手だしね。苦いから確実にベル達は嫌がるだろう。コーヒー牛乳なら喜ぶかな? チーズがあるんだし、ミルクも手に入るんだから買って来れば良かった。


 まあ、実が生るのも加工にも時間が掛かるだろうから、次に迷宮都市に行ってからでいいか。卵も手に入ったし、ミルクが手に入ればシルフィとの約束通り、カルボナーラを作る事もできるだろう。


 本場ではチーズと卵で作るって聞いた事があるけど、作った事が無いし大人しくミルクが手に入るのを待とう。


「俺もちょっと飲んでみてえな。苦みってエールみたいな感じか?」


 イフが難しい事を聞いてきた。エールとコーヒー……どうなんだ? コーヒーって焙煎しているから苦いんだっけ? エールの苦みの理由は分からん。けど焦げたって訳じゃ無いから、ちょっと違う気がする。


「エールとは違う苦みだと思う。まあ、頑張って作るから飲んでみたら分かるよ」


「違う苦みか。面白そうだ、期待してるぞ」


 期待されてしまった。周りにコーヒーが溢れてたら別だけど、何も知らない人が、あの黒い飲み物を飲んで納得してくれるんだろうか? 不安しか無いな。


「はは……頑張るよ」


 ***


「じゃあこの種をタマモの指示に従って植えてね」


「はーい」「キュキュー」「りょうかい」「ククククーーー」「まかせろ」


 ベル達が元気に返事をしてくれる。どうせならジーナ達が帰って来るまで待とうかとも思ったが、暇だし農作業の機会は幾らでもあるだろうから、やってしまおう。


「じゃあ、作業開始!」


「いえっさー」「キュキュッキュー」「いえっさー」「ククックー」「いえっさー」


 俺の号令にベル達がピシッっと敬礼し、タマモに殺到した。タマモも慣れたもので、素早く種を植える場所を指示していく。


「クー、ククー」


 ベル達に指示を出し終えたタマモが、俺を見ながらタシタシと地面を叩いている。俺はそこに種を植えろって事なんだろうな。タマモの頭をグリグリ撫でて、種を植える。


 結構こういった農作業にも慣れてきたな。成長させるのはほとんどドリーに任せているから、植えるのと収穫しかしてないけど。


 一粒一粒気持ちを込めてコーヒーの種を植える。フレアは小さな爆発を地面に起こし、穴を開けて種を入れている。埋め戻すのは自分の手でだけど、収穫じゃ無ければ意外と方法があるんだな。ちょっと感心してしまう。サクサクと種を植え終わり、レインにたっぷりと水を撒いてもらう。


「これで終わりだね。みんなありがとう」


 がんばったーと群がってくるベル達を撫で繰り回しお礼を言う。みんな慣れたのか、回数を重ねるごとに農作業が早くなるな。時間を潰す目的もあったんだけど、あっさり終わってしまった。


「ドリー、種の成長をお願いね」


 一瞬コーヒーの木が高くならないように調整して貰おうかと思ったが、止めておいた。サラ達は肉付きが良くなったけど、身長はまだまだ小さいから収穫し辛いかもしれないが、精霊の力を借りれば楽勝だよね。いい訓練になると思う。


「分かりました」


 ドリーが一歩前に出て軽く手を振ると、ピョコンと地面から芽が出て、ニョキニョキと成長しだす。何度見てもジ〇リを思い出す。


 ……コーヒーの木ってこんなのなんだ。意外とヒョロッとしていて幹の太さが頼りない。葉っぱは緑が濃くてワックスを塗ったような光沢がある。


 公園で見るような木とは随分違うな。……よく考えてみたらコーヒーの木って注目した事が無かった。日本では毎日コーヒーを飲んでいたのに、木の事なんて全然気にした事が無かったよ。


「終わりました」


「ありがとうドリー、実を生らせるのは少し時間を置いた方がいいんだよね?」


「はい、後は新しい土を入れて馴染ませておいた方が良いですね」


「了解。トゥル、土を出すから混ぜてくれる?」


 コクンと頷くトゥル。いいらしいので、魔法の鞄から森で取って来た土を取り出す。トゥルが手を振ると、モコモコと土が動き、土と混じり合っていく。


 ノモスなら一気に混ぜちゃうだろうけど、トゥルにはまだ無理なのか区分けして土を混ぜている。それでもずいぶん早いよな。開拓ツールでも技術が無いから、綺麗に土を混ぜられないだろう。さすが土の精霊だ。


 ***


 しかし……うん、凄いな。俺の拠点にコーヒーの畑? 森? ができた。これで加工が上手くいけばコーヒーが飲み放題だ。ドンドン拠点が充実していく。


 畑に田んぼもあるし果実が実る木もある。グァバードも飼い始めたから卵は手に入る。あとは肉か……こればっかりは命の精霊次第だな。


 牛とか豚って居るのかな? 俺、異世界に来て魔物の肉しか食ってないような気がする。……オークやラフバードの飼育は勘弁して欲しい。死の大地でなければ狩りとかで肉は手に入るんだけど、食べられる魔物が居ないとどうしようもないよね。


 海が近いから海産物は手に入る。肉が手に入れば食の面ではかなり充実した生活ができそうだよな。食以外でここに足りないものって何だろう?


 衣と住は買って来た物だけど、十分に満足できてるし……やっぱり娯楽だな。プールとボールはあるけど、それ以外に遊ぶ物が無い。サラ達も退屈だろうし娯楽が必要だよね。


 室内で遊ぶ物を作るのもいいけど、折角だし外で元気に遊んで欲しい。スペースも余っているし、一ブロック使って公園でも作っちゃうか? フィールドアスレチック的な要素を加えれば更に楽しそうだ。


 ……うーん、思いつきだけど良いアイデアな気がしてきた。レベルが上がって子供とは思えないほど体力はあるが、精霊術師だから激しいアクションがある訳でも無い。普段の生活だと、歩くか走るかぐらいだもんな。


 スペースの有効活用もできるし、楽しく遊びまわった方が運動神経も良くなる。公園を作ってしまおう。完全に思いつきで見切り発車だけど、思い立ったが吉日って言うもんな。


 さて、公園を作るとなると、地面は土のままよりも芝生にした方がいいかな? ……転んでも怪我をし辛いし土埃も出ないだろうから、贅沢に芝生の公園にしてしまおう。


 さっそく作りたいところだけど、ノモスが居ないし直ぐには無理だな。芝生を植えてどんな遊具を置くか考えるか。単純に思いつくので滑り台にジャングルジムにブランコ……色々作れそうだ。うん、やる気が出てきた。まずはベル達に手伝ってもらいながら、芝生を植えて下準備だな。

読んでくださってありがとうございます。

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