十七話 土壌改良作戦
完成した泉で遊ぶベルとレインを見守りながらこれからの事を考える。レベル上げは確定として、余った時間は何をしよう。
「裕太。泉が完成したのに、難しい顔をしてどうしたの?」
「いやー。これからどうしようかと思って。水と食料は確保出来たし、レベル上げは夜の方が効率がいい。朝起きる時間を遅くして、レベル上げの時間を長くとるのも良いけど、昼間に何をやるかなって思って」
「生活環境を整えるって言ってたから、不満がある部分を手直ししていけば?」
不満かー。一番の不満は食事のバリエーションなんだけど、こればっかりは解決方法が見いだせない。風呂も欲しいけど、お湯を沸かすのに貴重な木材をガンガン消費してしまう。洗浄が使えるんだから、いずれは欲しいと言っても急務ではない。
「うーん、ねえシルフィ。水が潤沢にあるんだから、地面に水をまきながら畑を耕して、森の精霊に来てもらえれば、一気に植物を育てられたりしない?」
「……それは難しいと思う。確かに森の精霊なら、植物を一気に成長させる事は出来るんだけど、地面に栄養が無いと駄目って聞いた事があるわ。死の大地だとかなり土壌改善しないと、普通に植物を育てる事すら出来ないわ」
「そっかー。土壌改善って簡単に出来ないよな」
「土の精霊ではないから、詳しくは分からないけど、豊かな土は自然の様々な要因が積み重なって出来上がるものなの。水と土だけあっても難しいでしょうね」
豊かな土壌かー。農作業は畑の土を作る事から始まるって聞いた事がある。まずはそこからなのか。
「土の精霊に大地を豊かにしてもらうとか出来ないかな?」
「ふふ。そんな事が出来たら、死の大地なんて出来ていないわよ。精霊はあくまで自然の補助が仕事。神様ではないの」
精霊パワーで万々歳とはいかないみたいだな。土の栄養不足かー。スケルトンの骨を砕いてカルシウムとか……さすがに人骨まみれの畑は嫌だな。
理由は分からないけど畑に灰をまくって聞いた事があるな。燃料の木材を燃やした灰を畑にまけば良いか? それに昔は小魚を肥料にして綿花を育てたって聞いた事があるな。海産物を肥料にするか?
……そのままだと腐るだろうし、乾燥させて細かく砕くとかかな? やる事無いし、試してみるのも良いかもしれない。ついでに海藻も洗ってよく干せば植物なんだし、良いかもしれない。
「シルフィ。俺の世界で畑に乾燥させた小魚をまいて肥料にしていたんだけど、ここでやったら少しは栄養になるかな? 上手く行きそうだったら土の精霊を呼んできてくれる?」
「小魚を肥料にして畑にまくの? 聞いた事が無いから分からないけど、ある程度形になれば呼んでくるのは構わないわ」
それだったら試してみるか。小魚。海藻。灰。こまかくしてまけば、何かが変わるかもしれない。
「よし。試してみるよ。実験だから五メートル四方ぐらいの小さな畑を作るね」
「ふふ。頑張ってね。でも今日はもう暗くなるから明日にしたら?」
空を見上げると、既に日が暮れかけている。泉を作っていたからな。かなり時間が過ぎていたみたいだ。魚介を食べてレベル上げだな。
ベルとレインは美味しそうに食べてくれるけど、シルフィはもう良いわって見てるだけだからな。早くメニューを増やして皆で美味しくご飯が食べられるようにしよう。
最近のレベル上げの結果。
名前 森園 裕太
レベル 18
体力 C
魔力 D
力 D
知力 C
器用 B
運 B
ユニークスキル
言語理解
開拓ツール
スキル
生活魔法
この数日でレベルは六上がった。レベルの上昇ペースは緩やかになっているな。シルフィに聞いたら、上がり辛くなったら、ゾンビやスケルトンの巣に突っ込めば良いそうだ。強い魔物がいてレベルも上がるらしい。怖いです。
レベルが六上がって体力はランクアップした。魔力も伸びていると信じたいけど……どうなんだろう?
***
……朝か? 目が覚めても光が入らないと時間が読めないのが不便だな。体を起こすと、おお、体の痛みがかなり少ない。
背中の砂がパラパラと落ちる。でも砂のベッドは岩の上に寝るのに比べたら最高だ。砂が落ちるぐらいのデメリットは許容範囲だな。
起き上がり体中に洗浄を掛けるとパラパラと砂が下に落ちる。寝室を塞いでいる岩を収納してキッチンに出ると、窓から明るい光が射しこんでいる。
今朝は蒸し魚にするかな。岩のベンチに座り皿の上に蒸し魚をだす。
「ゆーたー。おはよー」
「キュー」
「ああ、ベル。レイン。おはよう。朝ごはんを食べるか?」
「たべるー」
「キュー」
ベルとレインの前にも蒸し魚を出して三人で朝食を取る。ベルはフォークを突き刺して不器用に噛り付いている。レインはパクリと丸のみだ。
レインはともかく、ベルは俺が食べ方を教えるべきなのか? 他の誰からも見えないんだから、好きに食べさせても良い気がするがどうしたものか。
食事が終わり、外に出るとシルフィとディーネが近づいてきた。
「裕太。おはよう」
「裕太ちゃん。おはよう」
美人二人との朝の挨拶。幸せだな。
「シルフィ。ディーネ。おはよう」
「裕太。さっそく畑を作るの?」
「うん、そのつもり」
「あらー。裕太ちゃん、畑を作るの?」
「そうなんだ、水をある程度使うと思うけど大丈夫だよね?」
「ええ。水脈は豊富だから大丈夫よ。畑を作るのなら、お姉ちゃんからアドバイスがあるけどいるー?」
ディーネはお姉ちゃんってフレーズが気に入ったのか? 微妙に対応に困る。
「俺は全くの素人だから、アドバイスがもらえるなら助かるな」
「むふー。しょうがないなー。お姉ちゃんからのアドバイスは、死の大地は水を際限なく吸い込むから、深く穴を掘って岩で囲んでおくといいよー。あと完全に水を溜めるのも良くないから、岩には穴をいくつか開けておくことー」
ちょっとイラっとするが、何気に役に立つアドバイスがもらえた。驚きだな。
「考えてなかったよ。ありがとうディーネ」
「どういたしましてー」
さて、魚をまくんだから、臭いが怖い。泉と住居から出来るだけ離れた場所が良いな。じゃれついてくるベルとレインには遊んでくるように言って、作業を始める。
とりあえず五メートル四方で良いな。穴の深さも、深い方が良いって言ってたから、五メートル掘っておくか。岩を置く部分が必要だから五十センチ余分に掘っておこう。
魔法のシャベルでサクサクと簡単に穴を掘る。普通のシャベルで穴を掘れば、何日掛かるか分からない作業。魔法のシャベルと魔法の鞄があれば二十分も掛からない。地味だけど、まさしくチートだな。
掘り終わった穴に、岩を敷き詰める。後はハンドオーガーを三センチ幅に変えて、岩にちょこちょこと穴を開ける。これで十分かな?
土を戻そうと思ったが、どうせなら底の方から肥料を混ぜた方が良さそうだ。肥料を作ってからにしよう。
穴から出ようと思ったら、高い壁が立ちはだかっている。階段を作るのは簡単だけど、ベルに出してもらうのも楽しそうだ。
「シルフィ。ベルは近くにいる?」
「泉で遊んでいるわ」
「ちょっと呼んできてもらえる? この穴からベルに出してもらいたいんだ。このぐらいならそんなに負担は掛からないよね?」
「それなら、裕太がベルにここに来るように、気持ちを込めて召喚すれば大丈夫よ。長時間でなければ負担も掛からないわ」
負担が掛からないのならよかった。召喚を試してみるか。
「ベル、こっちに来て」
ぽんっと擬音がつきそうな感じでベルが目の前に現れた。
「なにー」
急に呼ばれる事は驚くべき事ではないのか、平常運転だ。
「ベル。ここから出たいんだけど、上まで運んでくれる?」
「はーい」
何故か俺の腕の中に納まるベル。おっ。ふわりと体が浮き上がり、ゆっくりと上昇していく。なかなか楽しい。五メートルの穴からゆるりと脱出。
「ベル。ありがとう。おかげで助かったよ」
お礼の気持ちを込めて頭を撫でる。
「ふきゃー」
あっ、飛んでいってしまった。撫で繰り回し過ぎたか? いまから海に行くんだけどな。海に行く事を伝えると、ディーネはお留守番をしていてくれるそうだ。シルフィ、ベル、レインと共に海に向かう。
***
「ベルとレインには今回は小魚を沢山取ってきてほしいんだけど、出来る?」
コテンと首を傾げるベルとレイン。どうしたんだ?
「にんむー?」
何かを期待する表情でこちらを見るベルとレイン。前回の事を覚えていたか……。どうしよう。くっ……無垢な視線が痛い。
「あー、ゴホン。ベル隊員! レイン隊員! 重大任務を与える。海で小魚を取ってくるのだ、出来るな?」
「いえっさー」
「キュッキュー」
「必ず任務を達成せよ。出撃ー」
わーっと海に突撃するベルとレイン。
「裕太。その設定まだ続けるんだ」
「ちょっと後悔しているけど、ベルとレインが気に入っちゃったんだもん。やるしか無いよ」
「意外と子煩悩なのね。まあ、あの子達も喜んでいるから問題無いのかしら?」
父性が芽生えかけている事は否定できない。この設定はシルフィとしても良いのか悪いのか、判断がつかないらしい。どうせなら敬礼も教えてしまうか? 忘れる可能性もあるから、もう少し様子を見よう。
「俺は海藻を集めてくるよ」
ざっと砂浜を見てみると、流木は流れてきていないようだ。海が荒れないとここまで流木は流れてこないのかもしれない。トランクス一丁になり海に入る。また日焼けでヒリヒリするんだろうな。
海で泳ぐのは楽しいんだが、日焼けは困る。どうにかして命の精霊はきてもらいたいな。
肥料にするんだから、食べる食べられないは関係ないだろう。生えている海藻を片っ端から採取しよう。ん? 海藻も乾燥させたら燃料になるかな? 後で試してみよう。
沢山海藻を集めて、栄養満点の土を作るぞ!
読んで下さってありがとうございます。