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百八十四話 収穫

簡単な物ですが登場人物のページを、目次の一番上にを追加しました。よろしければご確認ください。


 ジーナの初めての実戦を終えて、次の日にはジーナとサラ達で小さなアンデッドの巣を五つほど潰した。うごめくアンデッド達を直視して気分は悪くなっていたが、サラ達と話し合いながらちゃんと役割を熟していた。


 一度ゾンビの群れのボロボロの衣服に火が燃え移り、煙が充満した事もあったが直ぐにシバが火を消し、フクちゃんとマメちゃんの活躍で事なきを得た。


 ちゃんと延焼には注意していたんだけど、密集していると予想もしていないところで燃えるんだな。火と煙は狭い場所だとガチで怖い。そこら辺の対策も考えながら戦いを重ねたので、今後はなんとかなるだろう。


 因みにシルフィの休日は、想像通り蒸留所で過ごしたらしい。クールビューティーなシルフィが、久しぶりの休日を、お酒の蒸留をしながら過ごすのはどうかと思うが、本人が楽しければいいんだろう。そう言えばそろそろ蒸留したお酒を海に沈めないとな。収穫が終わったらディーネに頼むか。


 蒸留器二台をフル稼働して蒸留しているから、十五樽のエールが蒸留された。睡眠が必要無い精霊な上にイフが合流したので、効率がかなり上がったらしい。酒がいくらあっても足りない気がする。エールが少なくなっているのでそろそろ白ワインの蒸留に移行しないとな。


 ***


「じゃあ、朝食の時に言ったと思うけど、今日は畑の作物の収穫だよ。みんなよろしくね」


 俺の言葉に楽しそうに騒ぐベル達とジーナ達。俺もなんだかウキウキするんだよね。野菜が不足していた状況から、自由に迷宮都市で買い物ができるようになって状況は変わった。でも、やっぱり収穫は嬉しい事だな。


「あはは、マジか。精霊が野菜の収穫とか笑えるな」


 イフが面白そうに声を掛けてきた。言葉はキツく感じるが、楽しそうだし怒っている訳じゃ無いんだよな。


「楽しそうだろ。イフも参加するか?」


 シルフィ達は子供達に任せると不参加だけど、イフは初めてだから参加するかも。そうなったらベル達も喜ぶだろう。


「ん? 俺が野菜の収穫か。それはそれで面白そうだが止めておく。それより収穫した野菜で美味い料理を作るんだろ。期待してる。あと酒もな」


 ……うーん、素人の天ぷらで満足させられるのか? ちょっと不安だけど新しい料理だし、他と比較される事が無いから大丈夫……か? でも酒は……昨日は飲んでないけど、その前の二日で八樽も消費しているから、ペースが速すぎるぞ。


 でもメニューが天ぷらなんだよな。俺の中で天ぷらはお酒にとっても合う料理だ。食事と一緒に味わって欲しい。ベル達に大精霊達がカパカパと酒を飲む姿を見せるのは問題だが、エール一樽ぐらいなら大丈夫か?


「新しい料理だから期待しててね。お酒は……今日はエールだけって事で勘弁してくれ。その代わり食事の席で飲んで良いからね」


 イフは初日の宴会の時は居なかったから、飲み足りないかもしれないけど勘弁して欲しい。シルフィ達も最近飲んでるからか、ちょっと残念そうだけど、納得はしてくれているようだ。


 食事中のお酒もエールだけならポコポコと酒樽が空になる訳じゃないし、大丈夫だと……まあ「くはー」とか言うだろうから、ベル達は興味を持つよな。絶対にベル達には飲ませないようにしっかりと監視しておかないと。


「じゃあ収穫を始めるよ。まずはカボチャをお願いね」


「かぼちゃとるー」「キュキューー」「しゅうかく」「クククーーー」「やさいをとるのね!」「「ホーーー」」「プップギャ」「ワフーン」


「食堂では買って来た野菜を使ってたから、野菜の収穫は初めてだ。精霊術師になったのに野菜の収穫とか不思議な気分だな」


「ジーナお姉さん、収穫は楽しいですよ」「いねかりも楽しかったな」「あとでおいしいごはんになるの」


 やる気満々の精霊達と、不思議な気分になっているジーナと、楽しそうなサラ達。なかなかの混沌具合だ。楽しそうにカボチャの収穫に向かうみんなの後ろに付いていく。


 大きくなったカボチャをみると、成長する途中はなんか可愛いかったのに、収穫するタイミングだとヘタがボロってなって表面もデコボコしている。この状態が美味しいんだろうか? まあいい、収穫だ!


 ヘタを魔法のサバイバルナイフでサクっと切断。魔法の鞄の中に収納する。うむ、感慨深い。


「ゆーた、とったー」


 カボチャを見ながら少し感動していると、ベルに声を掛けられた。顔を上げると満面の笑みのベルが、両手でカボチャを抱えて浮かんでいる。その後ろには他の子供達もしっかりと並んでいる。収穫の時の毎回の光景だな。


 でも、後ろの方に並んでいるジーナ達はどう思っているのかな? 気配は感じていても、見た目はカボチャが浮かんで並んでいる、不思議な光景なんだし。


「ありがとうベル」


「ふひー」


 お礼を言って頭を撫でまくる。当然後ろに並んでいるレイン達もサラ達も頭を撫でてお礼を言うんだが……。


「えーっと、ジーナも頭を撫でる?」


 ……ジーナの番になったので一応聞いてみる。流れにのって十八歳の女の子の頭を撫でるのはさすがに違う気がする。でも一応儀式みたいになってるからな。


「はは、師匠、さすがに頭を撫でられるのは恥ずかしいよ」


「だよね」


 ジーナにはお礼だけ言っておく。


 …………あっという間にカボチャの収穫が終わった。人数が多いと早く終わるな。次はゴボウだ。


 ゴボウの収穫もあっという間に終わったが、少し予想外の事もあった。フレアとシバが収穫に苦戦した事だ。考えてみれば火だと収穫には向かないよね。


 カボチャの蔓は焼き切っていたけど、ゴボウは土から引き抜かないとダメだ。風や水でも土は掘れるが、火だと土の中の野菜が焼けてしまう。でも、そこで諦めないのがフレアとシバの偉いところだ。


 一人でゴボウを引き抜くのは諦めたが、フレアが浮かびながら茎を掴み引っ張る。シバがそのゴボウの周りを、可愛い前足でワフワフ言いながら土を掘る。


 初めてお使いに行く子供を見守るテレビ番組のような気分で見ていたが、シバの体が土の中に隠れるようになった頃、スポンっとゴボウが抜けた。


 フレアがその勢いでクルンと回転したが、その後はシバと一緒に喜んでいた。手に汗握る展開だったな。何度も手を出しそうになったよ。誇らしくゴボウを持ってきたフレアとシバを、物凄く褒めまくってしまった。


 全ての野菜を収穫しレインに洗って貰う。ピカピカっと言いたいところだが、ゴボウとか洗っても木の根っこみたいだよね。


「これで全部収穫できたね。みんなありがとう。夜は収穫した野菜で新しい料理を作るから、楽しみにしてね」


 新しい料理を作る事を言う。……あれ? ベル達があまり嬉しそうじゃないな。キャイキャイ騒ぐと思ってたんだけど……。ジーナとサラは料理を手伝うと言ってくれた。こっちは予想通りだな。


「ベル。新しい料理は嬉しく無いかな?」


 俺が聞くと、ベルは眉毛をへの字にして「おやさい、にがいー」っと答えた。ああ、なるほど。トルクさんの料理にも野菜が入っていて、いつの間にか食べていたから気にしなかったが、一番最初に此処の畑で収穫した小松菜は嫌ってたな。


 どうやらその事を思い出したらしい。大根はお魚がメインだったからか普通に食べていたし、すっかり忘れてたよ。ベル達が畑で楽しそうにしていたのは、収穫する行為が面白かっただけなんだね。


「うーん、たぶん苦くないから大丈夫だよ。それに食べられなくても、お魚でも作るから期待していていいよ」


「わかったー」


 お魚も出ると聞いたからか、不安そうなベルの表情が晴れた。これは頑張らねばなるまい。どう料理をすればいいのか考えていると、ドリーが話しかけてきた。


「裕太さん、カボチャは収穫してすぐ食べるより、陰干ししてからの方が美味しいですよ」


「……えっ? そうなの?」


 驚いて詳しく話を聞いてみると、収穫して直ぐでも食べられるが、陰干しする事で甘みが強くなるそうだ。日本でもそうだったのかな? じゃあ、今晩はゴボウだけの方がいいのか?


「裕太さん、私が熟成させましょうか?」


 俺が新事実にショックを受けていると、ドリーが救いの手を差し伸べてくれた。


「でも収穫した後でも植物に干渉できるの?」


「はい。タマモも植物の葉等を自由に飛ばしてますよね。私も干渉できますよ」


 ニコっと笑顔で教えてくれるドリー。……なるほど。そう言えばタマモも葉っぱとかを操って、魔物を倒してたな。でもそれならお米もなんとかできたんじゃ? 俺が色々と考えていたから、言わなかったのか? 次にお米を収穫した時に聞いてみるか。今聞くと、なんか情けない気持ちになりそうだ。


「じゃあ、頼むよドリー」


 魔法の鞄からカボチャを取り出して並べる。


「…………はい、終わりました。これで美味しく食べられますよ。ふふ、裕太さんの新しいお料理、期待していますね」


 あっさり美味しく食べられるようになったらしい。さすが大精霊。頼りになりまくりだな。でも収穫までは普通に育てたんだから、最後の最後でドリーに頼ってしまった事はちょっとショックかも。いや、普段の野菜の世話も普通に頼っていたんだから今更か。


「全力で頑張るよ」


 ベル達にも約束したし、ドリーにも期待してると言われてしまった。本気で頑張ろう。ただ……本気で頑張っても、料理が急に上達する訳じゃ無いってところが辛い。でも頑張ろう。


 さて、収穫も終わったし、夕飯までにやる事をやっておくか。とりあえずやっておきたい事は、畑の移動と芝生。蒸留したお酒を海底に眠らせる事だな。蒸留所に籠って出て来ないノモスを召喚する。


「何の用じゃ? 蒸留中じゃぞ」


「いや、ノモスって最近ずっと蒸留中だよね」


 忙しいのに何の用じゃって感じのノモスに、思わずツッコミを入れる。最近、俺と契約してるって忘れてない?


「……そう言えばそうじゃの。で、何用じゃ?」


 少し考えた後、俺の言葉に納得したらしいノモスが話を進めた。


「とりあえず、畑を隣のブロックに移動させて欲しいのと、蒸留酒を海で寝かせるから樽をガラスでコーティングして欲しいんだ」


「おお、そうじゃの。大事な事じゃ。今のところ五樽ほど溜まっておるが、どうするんじゃ?」


 明らかにノモスの表情が明るくなったが、まあ当然の事なんだろうな。


「ウイスキーを寝かせるには樽が大事らしいから、ビンは数本で残りは樽でいいと思うよ」


「ふむ、樽の種類はどうする? 今のところ二種類あるぞ」


 樽の木と言われても分からないよ。


「両方とも試してみようか。あとは理由は知らないけど、樽の内側を火であぶって焦がしていたから、それも試してみよう。イフに頼めば簡単だよね」


「おう、任せろ!」


 いつの間にかイフ……だけではなく大精霊達が側に居る。収穫の時は離れて微笑ましそうに見守っていたのに素早い。


「ああ、お願いね。焦がすのと焦がさないのと、焦がし具合を変えたので実験してみよう。ノモス、そこら辺は頼むね」


「うむ、そうじゃな。本格的にやるのは、色々試して味を見てからじゃな」


 うむうむと頷くノモスと大精霊達。息ピッタリだ。 


 エール、赤、白ワインの空樽をサッとイフが炎で焦がす。あの一瞬なのに焦げ具合がちゃんと段階別になっているところが凄い。


 洗浄を掛け樽を綺麗にした後、魔法の鞄から砂を出すと、直ぐに樽を分厚いガラスでコーティングし、ビンを作ってくれた。仕事が早いな。あと完全に畑の事が頭の中から抜けている。飛び出して行く前に畑をしっかりと移動させて貰わないと。

読んでくださってありがとうございます。

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