百八十二話 ジーナの訓練
火の精霊達と契約して、二日連続のお食事会と飲み会をした。軽く大精霊達とお酒を飲んで引き揚げたが、当然のごとくイフもお酒が大好きだった。あとどのぐらいシルフィの飲み仲間が居るのか少し興味があるな。もしかして全属性の酒飲みを揃えているとか言わないよね?
「うん、ホッコリだ」
撃沈する前に引き揚げて、子供部屋のベル達の様子を見る。可愛らしい幼女と少年、動物達がベッドで丸まって寝ている姿は、思った通りホッコリだ。
この光景を見ただけで元気が出てくる。日本のお父さん達もこんな気持ちだったのかもしれない。お嫁さんも居ないのに完全に父性に目覚めてしまった。いや、せめて子供達を優しく見守る兄ぐらいにしておこう。しかしサラ達も居るし、もしかして婚活が難しい事になってないか?
職種は人気が無いが……一応資金は豊富で、死の大地にだけど土地はある。結婚相手の条件として俺はどのぐらいのランクにいるんだろう? 政略結婚的な事なら意外と簡単に結婚できそうな気もするが……そのせいで忙しくなるのは嫌だ。
うーん、今のところ俺の異世界生活でのヒロイン候補は……大精霊達とジーナとマリーさんか? そもそも大精霊達って恋愛対象になるんだろうか?
みんな美人だし、最初は意識していた気がするけど、色々と凄い場面や力を見ちゃったからな。まあ、向こうが認めてくれるのかも問題だ。……あれだな、盗賊に襲われている馬車を助けたら絶世の美女が出て来て、恋に落ちる的な分かりやすい出会いが欲しい。
シルフィに頼んで、大陸中を飛び回って、襲われている馬車を助けまくれば上手くいくだろうか? ……さすがにそれは必死過ぎて、実行したら泣いてしまいそうだ。
……おかしな思考にハマってる気がする。あんまり飲んでないつもりでも、酒が回ったのか? 今の状況で考え事をしていると黒歴史を生み出しそうだ。さっさと寝てしまおう。
***
目が覚めてコーヒーを飲みたい気持ちを抑えてリビングに向かう。部屋を出るとベル達の突撃を受けて朝の挨拶だ。話を聞いているとフレアもシバも子供部屋を気に入ったようでニコニコしている。自分達の部屋と言うのがポイントが高いらしい。
リビングに下りて、シルフィ達とジーナ達と朝の挨拶を交わして朝食にする。最近大精霊達も新しいメニューを気に入ったのか、結構食事を共にしてくれるようになった。
いずれは飽きも来るだろうけど、まだまだ食べたい料理も沢山あるしメニューも増えるだろうから、当分は大丈夫だろう。まあ、ノモスは現れないけど。
「お師匠様、今日はどうするんですか?」
「んー、どうしようか。ちょっと考えてみるね」
朝食を食べているとサラが質問してきた。色々とやりたい事はあるけど……ああ、そうだった。そろそろ畑の作物が食べ頃だって聞いて収穫しようと思ってたんだ。
「ねえドリー、畑の作物ってそろそろ食べ頃なのかな?」
「食べる分には問題ありませんが、一番美味しくなるのは二日後ですね」
……どうせなら一番いい状態で収穫したいな。そうなると契約したフレアとシバの能力の確認と、ジーナの訓練だな。収穫と畑の移動はまとめて二日後だ。
イフの場合は能力を確認したら、死の大地を更に殺しそうだから止めておこう。どちらにせよ死んでるのなら変わらないのかもしれないが、土とか溶けてガラス状になったら大変だ。
「収穫は二日後にして、サラ達は精霊術の訓練。俺とジーナはフレアとシバとの訓練だね。ベル達は拠点の見回りとグァバードのお世話をお願い。水の交換とエサは鳥小屋の中の箱に入っているからそれを入れてあげて。終わったら遊んで良いからね」
サラ達はいつも通りだし、ベル達はピシッと敬礼して答えてくれたから問題無いな。イフは昨日の飲み会中に、蒸留所に強い興味を示していたから、放っておいても蒸留所に行くだろう。そう言えば、シルフィも蒸留所に興味があるのに、俺に付き合ってもらってるから、あんまり行けて無いよな。
「シルフィ、今日は拠点の中でのんびりするから、シルフィも自由に行動してね」
「あらいいの?」
意外そうなシルフィ。起きてる間は基本的に側に居て貰ったからな。偶には自由な時間も必要だろう。……あれ? そう言えばシルフィってお休みが無かったような。……もしかして俺って超絶ブラックな契約者なんじゃ。他の大精霊達は、ある程度自由にやってるから問題は無いよな。たぶん。
「うん、よく考えたら今までシルフィの自由な時間って、ほとんど無かったよね。ごめんね気が付かなくて」
「ふふ、じゃあ久しぶりに自由に行動しましょうか。でも私も楽しんでいるんだから、あんまり気にしなくてもいいのよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど、さすがに休みはあった方がいいよ。街に居る時は側に居て欲しいけど、ここなら安全だし偶に休みを作るね」
「分かったわ。ふふ、お休みを貰う事になるなんて、まるで人間みたいで面白いわ。じゃあお言葉に甘えて休日をたっぷりと楽しませてもらうわ」
どうやらお休みを貰う事自体が面白いらしい。精霊にとってある意味珍しい事なのかもしれないな。契約している時以外は基本的に自由みたいだし、自然の調整が仕事とは言ってたけど、何をしているのかは分からない。時間が有る時に聞いてみるのも楽しそうだな。
***
「さて、まずはフレアとシバにコミュニケーションの取り方を説明するね」
「べるととぅるにきいたからしってるわ」「ワフー」
もう知ってるらしい。フレアは両腕を組んで得意満面な表情だ。どうやら子供部屋で色々と話していたらしい。予習をしてくるとは侮れない幼女と子犬だな。
「そうなんだ。フレアもシバも偉いね」
俺が褒めるとフレアはムフーっと喜んでいる。シバは褒められて尻尾をパタパタと振っている。同じ幼女でもベルとフレアはだいぶ性格が違うようだ。
まあ、一人一人性格が違うのは当たり前なんだけど、天真爛漫のベルと、少し見栄っ張りで頑張り屋さんっぽいフレア。仲良くなったみたいだけど、どんな会話をしているのかがちょっと気になるな。
「じゃあ、さっそく練習してみようか。ジーナもベル達と練習したように、シバとコミュニケーションを取って仲良くなってね」
「分かった。シバ、こっちにおいで、おっ、走り回ってるのか。えーっと目の前で止まってくれ」
呼ばれたシバが嬉しそうにジーナの周りを駆け回る。実際には飛び回ってるんだけど、足を動かしているし子犬だと駆け回っているように見える。
「フレアは俺と色々お話しよう」
「おう!」
任せろ的な雰囲気で応えるフレア。これは確実にイフのマネだな。まずはイフとの関係を聞いてみるか。
………………イフとフレアとシバは同じ火山を住居にしていたらしい。イフは思った通り姉御肌のようで、周辺に居る火の精霊をまとめて面倒を見ていたようだ。
そんなイフをフレアは尊敬していて、頑張ってマネをしているそうだ。とてもカッコいいとキラキラした瞳で語ってくれた。さすが火の精霊、思いも火のように熱いんだな。
大半はイフについてだったが、好きな物や気に入った料理、使えそうな魔法なんかも聞き出した。火の精霊だけあって、俺が考えた事は大抵できるらしい。
ただ火を集めて熱量を上げるのは、わずかに青みがかった炎までが限界だそうだ。しかも青い炎まで練り上げるのは時間が掛かるらしく、実践では白い炎が基本らしい。まあ、それでも相当な熱量だし大抵の魔物は黒焦げだそうだ。
シバはどうやら普通の炎が限界らしい。時間を掛ければこちらも温度を上げられるらしいけど、まだまだだそうだ。
「じゃあ次は基本的な魔法を見せて貰おうか」
「いいぜ、みせてやるよ」
得意げに言うフレア。イフの事を色々聞いたせいか、現在モノマネが絶好調だ。全力で背伸びしてますって感じが可愛い。とりあえず的になる岩を魔法の鞄から取り出し設置する。
「じゃあまずは炎弾をあの岩に向かってお願い」
「おう、くらえっ!」
フレアがちっちゃな両手を前に出すと、その手の前に白い炎の弾が生まれ、猛スピードで的の岩にあたり……ん? 消えた? 不思議に思い岩に近づくと、炎弾と同じぐらいの大きさの穴が岩に開いており、反対側が見えている。
さすが下級精霊、岩ぐらいだと無いも同じか。火で岩に穴が空くとか意味が分からんが、ベル達も岩ぐらい楽勝で粉々にするからな。同じランクのフレアの力を、岩で計ろうとするのは無理があったようだ。単なる的にしかならないな。
「岩を貫通しているね。凄いよフレア」
俺が褒めると当然よって感じで、鼻高々なフレア。その後ろではジーナがシバと一緒にワクワクした目で見ている。楽しそうだ。
炎刃、炎の竜巻、炎の壁と基本的な魔法を見せて貰う。うん、とりあえず強いって事は分かった。特に攻撃系はかなりの威力と迫力がある。攻撃で考えるとやっぱり一番火が向いてるんだろうな。的の岩が粉みじんになったのでもう一つ取り出し設置しておく。
「ありがとうフレア。火の攻撃魔法は威力が高いね」
褒めながら頭を撫でると「あたりまえよ」っと言いながらも顔が満面の笑顔だ。フレアも俺と同じでポーカーフェイスができないタイプだな。
「ジーナ、威力は違うだろうけど、シバも同じような事ができるはずだから試してみて」
「うん! さっそく試してみる。シバ、頑張ろうな」
ジーナが興奮している。ずっとフレアの魔法をワクワクした表情で見ていたからな。自分の出番がきてテンションマックスだ。
「シバ、炎弾!」
設置した岩を指差し、ジーナが半身に構えながら炎弾と唱える。ポーズが厨二っぽい。なんかジーナって少年と言うか、マルコに近い物を感じるんだよな。変身ヒーローとか大好きなタイプだ。
ジーナの声に反応したシバが、炎の玉を顔の前に生み出し、的に向かって飛ばす。着弾すると轟音が響き岩が砕ける。
「すごい! すごいよシバ! 魔法だ! 精霊術だ!」
シバの気配に向かってはしゃぐジーナ。生活魔法を覚えた時の俺も、あんなテンションだった気がする。……美女があのテンションだと微笑ましい物があるが、俺の時はどうだったんだろう? 映像に残ってたら悶絶しそうだ。
「なあ師匠、シバの炎弾は爆発したけどどうして?」
心の中で反省していると、冷静になったジーナが質問してきた。爆発? そう言えば岩が派手に砕けてたな。
「たぶん、熱量の違いだよ。フレアの炎弾は高熱だったから貫通して、シバの炎弾は貫通する前に爆発したんだと思うよ」
炎弾の色も違うし、たぶん間違って無いと……思う? 岩を貫通する炎とかもう意味が分かんないし、俺、文系だもん。細かい考察は無理だ。
「へー、そうなのか」
ジーナもなんとなく納得しているみたいだし問題無い。このまま押し切ろう。
「ほら、まだまだ試す事は沢山あるだろ。練習、練習!」
「そうだな、シバ、やるぞ!」
とりあえず師匠の威厳は守られた。……シルフィがいないと質問ができないから結構大変だ。
読んでくださってありがとうございます。