百七十九話 火の精霊
火の精霊を迎え入れる為の台座を完成させて、シルフィに火の精霊のところに行って貰った。どんな精霊が来るのか少しドキドキする。
ジッとしていてもしょうがないので、ジーナの精霊に対する理解を深める為に訓練をする。と言ってもいつも通り、ベル達やフクちゃん達とのコミュニケーションだ。楽しそうに会話をしたり、楽しそうに移動する光景を見ていると、お遊戯会を見ているようで微笑ましい。
ジーナも気配に対して話しかける事に慣れたようだし、火の精霊と契約したら魔法の確認をしてアンデッドと戦ってみるか。アンデッドに火は効果がありそうだし、ある程度レベルが上がればサラ達と合流して大き目の巣を潰しに行けそうだな。
***
「しるふぃ、かえってきたー」
一番にベルがシルフィの帰還に気づき、ちっちゃな指を空に指して教えてくれた。風の精霊だからか、こう言う時に見つけるのが早いのはベルだ。
ベルの指先を追うと、遠くに人影が見える……気がする。正直よく分からん。でも、俺を運んでいる時と比べると、戻ってくるのがかなり早いな。お酒の蒸留が気になったからぶっ飛ばしたって事は無いと信じたい。
ベルの指さした方向を見ながら考えていると、豆粒のような点がドンドン大きくなり、あっという間に目の前に到着した。
「裕太、ただいま。連れてきたわよ」
「お帰りシルフィ。連れてきてくれてありがとう」
シルフィにお礼を言って、来てくれた火の精霊に挨拶をしようと顔を向けると、目の前に輝くような赤い髪を持つ美女の顔があった。なんか近い。
「うおい、お前か、俺と契約したがってる異世界人ってのは」「てのは!」「ワフ」
……ヤンキーと幼女ヤンキー? と子犬が現れた。なんか思ってなかったタイプが来たな。俺って言ってるし、ジーナと同タイプか?
いや、雰囲気がちょっと違うな。ジーナは女性言葉が苦手でファッションに興味が無い感じだけど、火の精霊の方は雰囲気が戦士とでも言えばいいのか、とても荒っぽい感じだ。褐色の肌に真紅の髪が良く映える美女で、服装はタンクトップに、ズボン……傭兵っぽいかも。
同じく輝くような赤い髪の幼女精霊は、赤髪の美女のマネをしているっぽい活発系幼女だ。キョロキョロと周りを見渡した後、ベル達を見つけ遊びたそうにウズウズしている。騒がしくなりそうな予感がするな。
子犬は……明るい茶色の毛の柴犬っぽい子犬だ。とっても可愛いが瞳の色が赤い所が柴犬と違う。タマモもそうだけど、毛の色は動物型だと変わらないのかな? タマモの場合の髪の毛で言えば、毛色はライトグリーンになるはずで、子犬の場合は赤い毛になるはずだけど、どう言う理屈なんだろう?
尻尾をパタパタと振りながら空中でお座りの体勢だ。モフりたい。たぶんトゥルも内心ではそう思ってるだろうな。チラッとトゥルを見ると、立ち位置が微妙に子犬に近づいている。間違い無くモフりたいんだろう。しかし、今のところ人型の浮遊精霊が来てないな。人型って希少だったりするんだろうか?
勝手に幼女の方が下級精霊だと思ってるけど、子犬の方が下級精霊って可能性もあるのかな? ……うーん気配では見分けられないけど、やっぱり幼女の方が下級精霊っぽいな。子犬の方は物凄く幼く見える。
今回シルフィが連れて来てくれた火の精霊も凄い美人で、ある意味ハーレムっぽいはずなんだけど、なんか思ってたのと違う方向に進んでいる気がする。
「おい、なんで遠くを見つめてんだよ。聞いてんのか?」
「ん? ああ聞いてます。俺は裕太っていいます。よろしくお願いします」
「おう、俺はイフ、火の大精霊だ。シルフィから面白い事になってるって聞いてるぜ。死の大地を開拓してここまでにするなんて、やるじゃねえか」
褒められた。ガラは悪いけど良い人……精霊なのかもしれない。ガラが悪いけど。まあ、シルフィが連れて来たんだし、悪い精霊なはずは無いか。あと、やっぱり大精霊なんだね。
「ありがとうございます。イフさんですね、よろしくお願いします」
「ああ、そんなに畏まらなくていいぞ。他の奴らも敬語は嫌がってただろ、俺も面倒だから普通に話せ、名前も呼び捨てでいいからな」
俺の背中をバシバシと叩きながら言うイフ。ただ、これだけは言いたい。シルフィ達には礼儀として敬語で話したけど、イフに敬語で話したのは何となく身の危険を感じたからだ。結果は同じでもそこに至るまでの過程がかなり違う。言いたくても言わないけどね。
「ああ、イフ、よろしく頼む……っと言うか俺と契約してくれると考えていいのか?」
「ああ、俺達が暮らしやすいように、魔道具で火を準備してるんだろ? 暮らしにくければ文句ぐらいは言うかもしれねえが、とりあえず契約はしてやる。頑張って俺を楽しませろよ」
要求がストレートだ。
「あー、俺は別に楽しませようとかあんまり考えて無いんだよね。シルフィ達が何となく自分で楽しみを見つけてると言えばいいのか……正直イフを楽しませる自信は無いよ」
日本でも女性を楽しませる為にネットに依存していたのに、ネットが無い異世界で、ましてや相手が精霊とか無理ゲーだと思う。まあ、楽しませろって言うのは恋愛とかデートでは無いんだろうけど、開拓でどうやって楽しませればいいんだろうね。
「裕太、イフの言葉は気にしなくていいわ。色々と巻き込まれているし、普通に生活していれば勝手に面白い事が起こるわよ」
俺が困惑しているとシルフィがフォローしてくれた。内容としてはフォローされているのか疑問だけど、フォローしてくれていると信じよう。
「……そういう事だから、努力はしてみるけどあんまり期待しないでね」
「んー、まあいいか。どうなるのか楽しみにしてる。次は、そうだな俺との契約は後でいいから、先にそこの二人を何とかしてやってくれ」
イフが指さす方向には、待ちくたびれた幼女と子犬がいた。なるほど、家のベル達も一緒に遊びたそうにしているし、この子達との契約を先に済ませた方がいいな。
「了解。ジーナ、こっちに来て」
ジーナを隣に呼び二人の精霊に話しかける。
「俺と隣のジーナが君達と契約するつもりなんだけど問題無いかな?」
俺が話しかけると退屈していた表情がパッと明るくなる。出番が来た! って感じだな。幼女が腕を組んでうんうんと頷きながら、可愛らしい声で宣った。
「まかせな」「ワフ」
幼女の頑張って背伸びしている感が微笑ましい。確実にイフの影響を受けてるんだろう。イフって姉御肌と言うか、面倒見が良さそうだし幼女精霊にも結構構ってそうだよな。子犬の方はシッポを全開でフリまくってるし、契約をしてくれると考えてよさそうだ。
「じゃあよろしくね。俺とジーナが名前を決めればいいんだよね」
「うん、かっこいいのがいい」「ワフ」
この子はまだ性格が固まっていないな。頑張ってイフのマネをしている段階なのかもしれない。他に興味が移ると素顔なのか、天真爛漫な表情が覗く。しかしカッコいい名前か。そんなリクエストをされたのは初めてだな。
「うーん、頑張って考えるからちょっと待ってね。ジーナ、ジーナの目の前に居る気配がジーナと契約する精霊だよ。とても可愛い子犬で、目が綺麗な宝石のような赤い色。毛の色は明るい茶色だね。名前を考えてあげて」
詳しく子犬の外見を説明すると、ジーナが名前を真剣に考え始めた。なんとか上手に姿を伝えられたらいいんだけど。ん? 俺は絵を描けないけど、似顔絵とか肖像画を描いている人が居ないのかな?
警察が目撃者から犯人の特徴を聞きながら絵にする方式なら、完璧とは言えなくてもある程度似通った絵ができるかも。うーん、ある程度似た絵でもいいものなのか?
ジッと俺を見る幼女精霊の視線に気づく。いかんいかん、今はカッコいい名前を考える時間だ。火、炎……ファイアー、フレイム………………うーん、火に関する言葉って意外と思いつかないな。火の神様で知っているのはプロメテウス……男神だよね。
ファイアーエムブ〇ムは名前とは違うよな。ああ太陽関連で、コロナとかフレアが良いかも。カッコ良い名前って言ってたしフレアかな。コロナは何だか可愛らしいし、フレアの方が響きがカッコいい気がする。
「太陽に関する炎の現象の名前なんだけど、フレアって言う名前はどうかな?」
「たいよう! う、うん、なかなかだ」
幼女精霊は、俺が名前を伝えるとニパッと満面の笑顔になり、その後ハッとしたように表情を引き締め直した。たぶんこの子はベル達と行動を共にしたら、イフのマネを忘れちゃいそうだな。背伸びしている姿がちょっと可愛いから、もったいない気がする。
「じゃあ君の名前はフレアだ。これからよろしくね」
「うん!」
元気に返事をするフレア。いい返事だ。ジーナの方を向くとブツブツと呟きながら、まだ名前を考えている。名前を考えるのって難しいよね。柴犬はジーナをみつめたままパタパタと尻尾を振っている。ブツブツ言っていたジーナが、突然俺の方を向いて聞いてきた。微妙に必死な表情だ。
「師匠、師匠の所ではその子犬の名前は何なの? サラ達も師匠の所の名前を参考にしたんだよね? 教えてください」
一部苦手な敬語が混ざっているところに、追い詰められているのが分かる。
「えーっと、柴犬って犬に似ているね」
「ありがとう師匠! うん、じゃあシバ、名前はシバにするよ」
俺にお礼を言った後、子犬に向かって名前を告げる。俺は単純すぎないかと思ったか、シバは名前を受け入れたのか嬉しそうにクルクル回っている。その動きにジーナが戸惑ったように俺を見る。
「シバって名前を貰って嬉しそうにはしゃいでいるよ。これで契約成立だね」
ジーナがポカンとしている。契約が完了しても特に何も起こらないって伝えておいたけど、それでも予想以上に何も起こらなくて戸惑ったようだ。とりあえず俺の背後でうずうずしているベル達とサラ達を紹介しておくか。
「フレア、シバ、此処に居るのが俺と俺の弟子で、この子達が俺達と契約している精霊だよ。これから一緒だから仲良くしてね。ベル達もフレアとシバがここに慣れるまで、色々教えてあげてね」
俺が声を掛けると待ちかねていたベル達とフクちゃん達が、フレアとシバに突撃する。お団子になるように固まり自己紹介をしている。サラ達は乗り遅れてしまったな。落ち着いたらゆっくり話ができるだろう。
少し経つとキャッキャと笑いながら、お話する精霊達。一瞬で仲良くなったな。それと予想通りトゥルがシバをモフっている。羨ましい。
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