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百七十七話 改造

 拠点を見て回ったが順調に進んでいるように感じる。シミュレーションゲームって訳じゃ無いけど、徐々に拠点が形になっていくのを見ると楽しくなる。


 すこしニマニマしながら蒸留所に入ると、ノモスと共にディーネがいた。どうやら液体から気体、気体から液体に変わる過程を、水の精霊としてノモスにアドバイスをしているようだ。


 大精霊なんだし、それに見合う見識を持っているのは間違いないんだろうけど、こういう知的な面を見ると不思議に感じる。


「おう、裕太。これが新しい蒸留器じゃ。どうじゃ」


 ノモスが俺に気づいて、蒸留器を指差しながら話しかけてきた。最初の蒸留器と比べると三倍ぐらいの大きさになっている。良かった……大精霊達の行動を見ていると、蒸留所の限界サイズの蒸留器がある事も覚悟していたからな。


 このぐらいの大きさなら問題はないだろう。まあ、これからも徐々に大型化していくのは間違いないと思うけど、段階を踏んでくれるのなら対応もできるはずだ。たぶん……。


「うん、凄いけど強度とか問題無いの?」


「ああ、ガラスの厚みは増したが強度的には問題無いぞ。これで海洋熟成とやらを試す酒をいっきに蒸留できるぞ」


「ふふー、お姉ちゃんがバッチリな場所を探しておくから安心してね」


 上機嫌なノモスとディーネ。もう既に海洋熟成は決定事項になっているようだ。うろ覚えの知識だけど何の効果が無かったとしても、時間経過の熟成効果はあるんだし、日本酒やワインでも海洋熟成は行われているらしいから大丈夫だろう。


「強度が問題無いのなら、あとで買って来たお酒を出しておくね。あとディーネ、お酒を寝かせる場所は深さを変えて何ヶ所か探してくれると助かる」


「うむ、別に蒸留を今から始めても構わんぞ」


「分かったわ。お姉ちゃんに任せなさい。しっかり良い場所を探しておくわ」


 うーん、なんかディーネがお酒を寝かせた場所を忘れる未来が見えた……さすがにお酒の場所は忘れないよね? リスと同じ扱いをしているとさすがに怒られそうだが、一応注意しておこう。


「ディーネ、お酒を寝かせる場所が複数だし、分からなくなったら困るからそこら辺は注意してね」


「お酒の場所はわすれないわーー」


 自信満々なディーネ。確固たる自信があるようだ。


「それなら問題無いね。それとノモス、蒸留の前に頼みがあるんだけどいい?」


「何じゃ?」


「火の精霊との契約の為に、この魔法の杖が使えないかと思うんだけど、この杖の先端から常に炎が噴き出すように改造できないかな?」


 ノモスに魔法の杖を渡しながら聞いてみる。杖を手に取り何かを調べ始めるノモス。隅々まで杖を観察した後、おもむろに顔を上げた。


「ふむ、質の良い杖じゃな。これなら魔法陣と回路に手を加えて、質の良い魔石があれば可能じゃ。じゃが魔石の力が無くなれば魔石を交換せねばならんぞ。あと戦闘にも使えぬようになる。構わんのか?」


 迷宮の奥で出た杖だし、やっぱり質がいいのか。確かに魔法の杖を振って魔法を出して戦いたい願望はあるが、雷の杖も残っているから問題は無い。それに今のペースで宝箱が発見できるのなら、新しい魔法の杖も迷宮で見つける事ができるだろう。


「戦闘に使えなくなるのは問題無いけど、質の良い魔石ってどんなの? あと交換するペースは?」


「魔石はそうじゃなアサルトドラゴンの魔石であれば十分じゃ。交換するまでの時間は、魔法の杖に灯す火の大きさで変わるが、無意味なほどに炎を大きくせねば十年以上は持つじゃろう」


 ふむ、アサルトドラゴンは沢山魔法の鞄の中に入っているし、十年以上持つのであれば大丈夫か。ただAランクの魔物の魔石ってかなり高額なんだよな……うーん、まあ沢山あるしいいか。それよりもちゃんとした施設で精霊を出迎える方が大事なはずだ。


 蒸留所で出迎えてもシルフィが呼んでくる火の精霊は喜ぶらしいけど、ジーナと契約する浮遊精霊なんかは、幼い頃からお酒の匂いの中で生活する事になるからそれは避けたい。


 そう言えば俺も火の下級精霊と契約するんだろうか? シルフィの友達なら大精霊クラスだろうし、普通の戦いの時にお願いすると、あっさり終わって経験にならない気がする。これは後でシルフィと相談しておかないといけないな。


「うん、問題無いよ。どのぐらいで改造できる?」


「そうじゃの、一時間も掛からんじゃろう。ああ、それと回路に手を加える為に、小粒程度のミスリルも必要じゃ」


「それなら頼むよ。火の大きさは火の精霊達が快適だと思う大きさで頼む」


 アサルトドラゴンの魔石とミスリルを渡しながらお願いする。ついでにエールの樽を五つほど出しておこう。そうすれば勝手に蒸留を始めるだろう。……飲まなければ。


「分かった」


 これで火の精霊を迎え入れる目途が立ったな。後はその魔法の杖を設置する場所を考えるだけだ。ノモスにどんな形で炎が出るのかを聞きながら、建物を考える。


 最初は岩を積み重ね灯台でも作ろうかと思ったが、岩山ぐらいしか遮蔽物が無い死の大地。遠目から炎が目撃されて誰かの好奇心を刺激しても無意味なので止める。


 大陸側はさすがに見えないとは思うけど、海側なら難破したり死の大地を回るルートを選択するもの好きが出たら、見られる可能性があるからな。まあ、昼間なら精霊樹が見つかる可能性もあるんだから今更だけど、用心に越した事はないだろう。


 とは言え灯台以外に炎を使う外の施設が思いつかない。メルのところみたいに鍛冶の炉を作ろうかとも考えたが、ノモスは火が無くても金属が加工できるらしい。お風呂のお湯を沸かすのは魔道具があるし、最終的に炎を何かに利用するのであれば蒸留所が一番だと言う事になり、炎を利用するという形を諦めた。


「よし、決めた。見栄え優先と言う事で、家と泉の間にそれっぽい台を作って杖を設置するね」


 シルフィとディーネとノモスが、何とも言えない表情で俺を見ている。今までの話し合いは何だったのかって顔だな。思いつかなかったんだからしょうがないじゃん。話し合ったっていつもいつも素晴らしい案が出る訳じゃ無いと、声を大にして言いたい。


「じゃあ、さっそく作ってくるね。ノモスは杖の改造をお願い」


 何かを言われる前にさっさと蒸留所を出る。


「それで、それっぽい台ってどんな台なの?」


「ん? うん、あんまり凝った物は作れないから、シンプルに石畳を作ってその上に石の台を置いて、杖をさしこむ形にするよ。シルフィが呼んできてくれる精霊って、派手なのが好きだったりしないよね?」


 最初に思い浮かべたのは洞窟っぽい洞を作って、岩に差し込む方法を考えた。勇者しか抜けない聖剣が刺さっている岩のイメージだけど、杖だし炎が出てるから洞は止めておこう。


「んー、あんまり身の回りに拘るタイプじゃないから、火がついていれば問題無いわね。あとお酒を蒸留している間は蒸留所に居付くと思うわ」


「……了解。まあ、ジーナが契約する浮遊精霊も居るし、蒸留してない時もあるだろうから作っておくよ」


 あんまり気合入れなくても済みそうなのは助かるよね。ならちゃちゃと作ってしまうか。どのぐらいの大きさの石畳にしよう。二メートルは小さいし四メートルぐらいにするか。


 魔法の鞄から岩を取り出し、魔法のノコギリで一メートル四方の正方形に岩を切り出す。厚みは三十センチあればいいだろう。


「そう言えば、俺も火の下級精霊と契約するの?」


 岩を切り出しながらシルフィに聞いてみる。今までは大精霊と契約できなかったから下級精霊も連れて来てくれたけど、契約できるようになった今はどうなるんだ?


「裕太しだいね。裕太が火の下級精霊とも契約したいのなら連れて来るわよ」


 ……ふむ、難しいところだ。戦いで大精霊に頼るのは少ない方がいいから、火の下級精霊が居てくれるのは助かる。問題は俺のキャパをオーバーしないかだな。


 命の精霊とも契約するつもりだし大変な気がする。特に下級精霊の子達はいい子で可愛いけど、とっても元気だからな……幼稚園みたいになったら俺は面倒を見る事ができるんだろうか?


「……シルフィに火の精霊を迎えに行って貰うまでに、ベル達にも聞いてみるよ。あの子達が友達が増えた方が嬉しいって言うのなら、お願いしようかな」


「ふふ、分かったわ」


 何となく聞く前から答えは分かってる気がするけど、踏ん切りをつけるにはいい後押しだろう。


「今更だけど魔力は大丈夫かな? 沢山契約すると常に沢山魔力が精霊達に流れ込んでるだろ? 人数が増えて干からびたりしない?」


「契約する時はともかく、裕太は普段から魔力をほとんど使わないから大丈夫よ。流れ込む量も余裕がある時は多く、余裕が無い時は少なくっていうふうに調整しているわ。レベルも上がってるし体に違和感を覚えた事は無いでしょ? もっとも裕太の場合は本当に魔力を使わないから、十分に魔力を貰っても余裕があるわね」


 ……確かに魔力を使うような機会は無いなって言うか、ちゃんと魔力を使うのって生活魔法だけな気がする。いずれ魔法の杖を使えるようになれば、少しは魔力を使う機会が増えるだろう。そしてゴーストとレイスを倒すんだ。


「了解、まあ、危なくなったら教えてくれると嬉しい。あと寝る前なら、体に異常が出ない程度に余分な魔力を持って行ってもいいからね」 


 自分で戦う時もハンマーかノコギリを振り回す程度だからな。魔力の有る無しはほとんど関係ない。


「ええ、貰っておくわ。ありがとう裕太」


 微笑むシルフィ。魔力を渡すのはいい事みたいだな。話しているとサックリと十六枚の岩を切り出した。あとは並べる前に地面を固めて貰わないとな。トゥルを思い浮かべながら召喚するとポンっと俺の前にトゥルが現れた。


「トゥル、案内の途中にごめんね。ここから四メートル四方の土を固めて平らにして欲しいんだ。お願いできる?」


「できる」


 コクコクと頷くトゥル。あっという間に地面を固めて整地してくれた。


「ありがとうトゥル。もう戻っていいけど、もう少ししたらお昼だよってベル達に伝えておいてね」


 再びコクコクと頷くトゥル。頭を撫で繰り回して送り返す。トゥルが整地してくれた土の上に石畳を並べる。あとは中心部分に長方形に切り出した岩を縦に置き、ハンドオーガーで杖を設置する穴を開ける。


 これでまあ、形になったな。石像を職人さんに頼んで、杖を手に持たせるようにしたら厨二っぽくてカッコいいかもな。美人の女神様的な像を頼むのもありかもしれない。

読んでくださってありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
リスは貯食した餌を忘れるってイメージがあるけど、そんなに忘れていたら越冬出来ない、食べ残しが発芽していると思ってもらえない、ちょっと不憫。
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